COLUMN

客船のプロフェッショナルが語る、乗る人も働く人も心地よい船づくり|飛鳥Ⅱ第14代船長・田口稔氏インタビュー ~Part3~

  • INTERVIEW
2026.10.27

【このパートについて】
全3回にわたるインタビューの第3回となるPart3では、外国人クルーが支えるおもてなしの継承、ヨットとクルーズ船から見えた大企業とベンチャーの違い、コミュニケーションの秘訣、「飛鳥Ⅱ」の今後と田口船長が描く次のキャリア、そしてD-POPS GROUPのベンチャーエコシステムへの共感についてお聞きしました。(このインタビューは2026年8月に実施しました。)

◆ 外国人クルーが支える日本のおもてなし

—杉原—
私の義理の両親が「飛鳥Ⅱ」によく乗っているようで、決まったお部屋があるみたいです。妻は何度か乗ったことがあるそうで、一つ感じたこととして、サービスは全く問題ないけれど、外国の方が多かったと話していました。これは、お客様は日本人が多いので、英語対応というよりも、コスト面や人手不足、日本全体の働き手不足の問題なのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

—田口—
おっしゃる通りで、海外のクルーズ船も来ていますので、コスト面が大きく影響しています。日本人だけで採用しようとしてもなかなか集まらないという事情もあると思います。

本船に乗っていただくお客様はほぼ日本人の方で、外国人の方も少しずつ増えてきていますが、コスト面でフィリピン人の方など給料が比較的抑えられる人材を採用しています。日本で走っている船なのにと思われるかもしれませんが、条件をクリアすれば外国人も働けることになっていますので、その条件をクリアしながら採用し、日本人のお客様に対応できるよう、ネイティブレベルの会話は難しくても必要な日本語教育をしっかり行った上で乗せています。

—杉原—
言葉だけでなく、おもてなしのマナーのような部分も、先輩から受け継がれているものなのでしょうか?会社としての公式な教育があるのでしょうか?

—田口—
基礎の部分についてはこうしなければいけないという教育もありますが、特にフィリピン出身のクルーは、「飛鳥Ⅱ」の乗組員として繰り返し乗ってくることが多いんです。働いて休暇に入り、また乗ってくるという形です。
その中で、先輩後輩の人間関係の中で、背中を見て学びながら、おもてなしの部分が培われているのだと思います。

—杉原—
そうやって日本的なサービスがきちんと継承されているんですね。飲食業界も同じだと思います。働き手として日本人だけでは充足できない中で、海外の方が働いてくれていて、それでも日本での食の体験をしっかり提供できているお店はたくさんあります。外国の方の献身的な働きに支えられている業界は多いと思うんですよね。それが飛鳥の中でも起きているということですね。

◆ ヨットとクルーズ船――大企業とベンチャーの本質

—杉原—
続いて、実はヨットクラブを通じて私たちは友人関係なのですが、豪華客船と小さなヨットでは、乗っている時の景色や楽しさが全く違うとおっしゃっていましたよね。それを聞くと、クルーズ船が大企業で、ヨットがベンチャー企業に例えられるのかなと思ったのですが、大企業であるクルーズ船にずっと乗っていたのに、ヨットが楽しいと感じたのは、船乗りとしての心が燃えたということだったのでしょうか?

—田口—
そうですね。大きな船になると、物理的にも大きいですし、たくさんの人が乗っていますので、皆さんそれぞれ専門分野を持って各自が担当し、一つのものを作り上げていく形になります。自分の専門を一生懸命やる一方で、他の人が何をやっているかは大まかにしか分からない状態になります。

ヨットになると、いわゆる全部自分でやらなければならなくて、大きな船であれば部門としては20くらいあるようなことを、一人で4つ5つ担当しなければならなくなります。専門性というよりはジェネラルにいろいろなところを見なければならないので、それは逆に新鮮でした。

海との距離もヨットの方がずっと近いので、海の表情を本当に肌で感じられます。風が変わるとか、地形の影響で風が強くなるといったことに気づくのですが、同じ相模湾を走っていても、この船だと風速計を見て「風が動いているな」というくらいで、そこまで体で感じるということはありません。

—杉原—
ブリッジ内部からは本船極至近の海が見えないともおっしゃっていましたよね。何百メートル先までは見えるけれど、客船の周辺の海面は見えない。ヨットだと目の前の海面がすぐそこにある。

これも大企業とベンチャー企業の違いなのかなと思いました。市場というマーケットも、直に、良くも悪くも危険を伴いながらすれすれの感覚を肌で感じられる。ベンチャー企業あるあるだと思うんですよね。最先端のAIの会社を立ち上げたら、一番先端のところにビシビシとぶつかっていく。大企業の一部門でやっていると、ただ使うだけの人がたくさんいるという状況になりますが、大企業には大きなことができるというメリットもある一方で、ベンチャーの方がヨットで海を感じるように、市場を肌で感じられるということですね。

—田口—
そうですね、その両方を経験させていただいています。

「飛鳥Ⅱ」の屋上から見えた景色

◆ 挨拶ひとつから始まる信頼関係

—杉原—
ホームページで田口船長のコメントを拝見したのですが、クルーとお客様とのコミュニケーションが大事だとおっしゃっていますね。とはいえ、お客様も乗組員の方も色々なタイプの方がいらっしゃると思いますし、個人的に相性が良い方、苦手な方もいらっしゃるのではないかと思います。そうした中で、色々な方とのコミュニケーションのコツ、親密になるコツを教えていただけますか?

—田口—
気をつけている部分としては、ほぼ日本人のお客様に乗っていただいているので、乗組員が外国人であったとしても、日本語に慣れている人間には極力挨拶という声掛けを誰にでもしています。
乗組員エリアを通り過ぎるだけでも、色々な立場の乗組員に遭遇するのですが、向こうが挨拶してこないからではなく、こちらから「こんにちは」「おはようございます」と声をかけていると、だんだん向こうも馴染んでくるというか、懐いてくるんです。

最初は挨拶だけだったのが、少しずつ会話をするようになってきて、そういう積み重ねがいい関係につながっていくと感じています。

見知らぬ人でも、挨拶であれば怪しまれませんし、輪の中に入っていく時にも挨拶はとても便利です。いきなり挨拶されてびっくりする人はまずいません。繰り返しているうちに、相手にとっても挨拶は決まり文句なので返しやすいということもあって、そこが糸口になって色々なプラスアルファの情報をもらえることもあります。

—杉原—
本当に素晴らしい人ほど、皆さんに挨拶や声掛けをしてくれる。そういう人物と言われる方は、皆さん挨拶を徹底されていますよね。

◆ 「飛鳥Ⅱ」の今後と、田口船長が描く次の航路

—杉原—
「飛鳥Ⅱ」の後継となる新造客船に関するニュースを拝見しました。これは今後どうなっていくのでしょうか?大型クルーズ船の船長を長年務められましたが、今後のキャリアはどのように描かれていますか?

—田口—
まず、いただいたニュースについてですが、今はまだ検討中というところだと思います。日本ではこれくらいの規模の客船を作れる造船所がほとんどなくなっていて、海外で建造しようとすると円安の影響で価格が非常に高騰しています。

今の「飛鳥Ⅱ」はもともとアメリカで使われていた「クリスタル・ハーモニー」という船で、実は今年で船齢36年になります。船の年齢というのは車と同じようなイメージで捉えていただければと思うのですが、20年を超えてくると、クラシックカーのような感覚に近づいてきます。2030年前後になると本船は船齢40年という節目を迎えます。
お客様を乗せてしっかりクルーズのスケジュールを回していくとなると、40年を超えて使い続けるには、相当の検討が必要だと思います。

ただ、詳細についてはまだ新しい情報がなく、ずっとこの船に乗ってきた人間としては、なくなるというのは寿命と言えば寿命なのですが、寂しいのは寂しいです。実際、こういう船はなかなかないねとお客様からも言っていただくことがあります。少し骨董品のような方向に来ているのだと思います。

—杉原—
内装や壁紙、ライトなどはピカピカにリニューアルされていても、エンジン周りなどはそのまま、ということでしょうか?

—田口—
改良や整備は適切に実施されておりますが、エンジンプラント全体の換装をしていないという意味では、そのままと言えます。

—杉原—
田口船長のこの後のキャリアは、どのようなものになりそうですか?

—田口—
ずっと船を動かす、船長として動かすという仕事をしてきましたので、これも国家資格が必要で、かつ大きな船を動かした経験がないとなれない分野があります。水先案内人、英語だとパイロットと言います。

水先案内人という仕事は、海外から来る船が東京湾のような、太平洋などと比べると浅く狭い海域に入ってくる際に、走り方を間違えると座礁したり事故が起きたりするリスクがあるエリアの専門家として、沖合で海外から来た大きな船に乗り込み、こちらは浅いですよ、ここは潮の流れが強いですよ、といったアドバイスをしながら操船をサポートする仕事です。そちらの方向に進むことも選択肢の一つとして出ていまして、まだ思案中というところです。

—杉原—
それは船長を経験した人でないとなれない仕事なのでしょうか?

—田口—
要件としてはそうですね。客船とは言わなくても、貨物船でも実際に乗った年数、ある一定の大きさ以上で海外に行くような船で2年以上船長の経験がある人でないとなれない、という要件のある資格です。別のルートもあるのですが、そちらに進むかどうか、まだどうしようか考えているところです。

—杉原—
企業経験が豊富な方が第二のキャリアとして就く仕事という意味では、顧問のような立ち位置に近いのかもしれませんね。ある港、ある業界を熟知しているということで。

—田口—
そうですね。今まで色々な場所を回ってきた経験が、水先案内人になるとそのエリアのエキスパートかつ船のエキスパートになるという、そういう形のキャリアパスになるのかなと思います。

◆ D-POPS GROUPが目指すベンチャーエコシステムへの共感

—杉原—
D-POPS GROUPは、リアル×テクノロジー×グループシナジーを掛け合わせた事業展開をしている会社で、グループ会社26社、投資会社を含めると35社ほどになります。グループ内外の企業に対してワンストップソリューションを提供し、ベンチャーエコシステムの実現を目指しています。こうした取り組みや考え方について、田口船長のお考えをお伺いできればと思います。

—田口—
まず、そのリアル×テクノロジー×グループシナジーという中で、その26社、32社という会社の業態は、どういったものが多いのでしょうか?

—杉原—
概ね情報通信系の会社が多いです。ただ、それぞれ得意分野が異なっていて、祖業であるスマートフォンショップを運営する会社群、そのスマホショップや量販店で接客をする人材を派遣する会社群があります。また派遣スタッフを他社の店舗も含めてトレーニングする教育系の会社があったり、テクノロジーの会社としてスマートフォンを活用したDXの専門会社があったり、中小企業や小売店向けにスマートフォンのホームページを制作する会社もあります。また、もう一つの目的として経営者を育てるという思想があります。自分でやりたいという人もいれば、関連する事業でスピンアウトを応援するということもしています。

—田口—
そういうグループとしてやるというのは、すごくいいことだなと思いますし、羨ましいなと思います。おそらく、色々な業態の方がいらっしゃる中で、どこかに需要があって、「こんなことができないか」という部分を、得意分野を持つ方々がいる場で叶えていくということですよね。

—杉原—
そうですね、夢を形にするということです。お客様を紹介し合うこともありますし、一緒に営業することもあります。

—田口—
それはとてもいいことだと思います。羨ましいですね。昔からこういう企業体があったのか分からないのですが、以前はこの手のつながりというのは人脈やコネクションといった人との関係で何とかしなければならなかった部分だと思います。そのコアになる人にカリスマ性がないと難しかったのかもしれませんが、このように集合体として取り組むと、ビジネスチャンスだけでなく、困りごとや叶えたいことがたくさん実現するグループ企業体になるのだろうと思いますし、いいなと思います。

—杉原—
会社の方向性としては、世の中がどんどんデジタル化してAIが進んでいく中でも、人が人に接客するという実体のある場を大切にしていきたいと考えています。私たちで言えばスマートフォンショップという店舗であったり、投資先の美容サロンに行くのが楽しいという方を大事にお迎えしていきたいという思いです。何でもデジタルで完結する世界観ではなく、あの人に会いたい、ここに泊まっていれば私は幸せだ、というリアルな体験を大切にしたいんです。例えば、バーチャルリアリティのゴーグルで「飛鳥Ⅱ」を体験できるようになったとしても、本当に飛鳥が好きな方は満足しないと思うんです。

—田口—
そうですね、確かに。これは逆に質問になってしまうのですが、D-POPS GROUPのような活動を見て、小さな企業も含めてこのグループに入りたいということもあったりするんですか?

—杉原—
はい。先ほど申し上げた26社、スピンアウトも含めた会社のうち、10社強は、自分で創業した社長が「グループ入りしたい」と、株式を売却しながらも社長として引き続き事業運営を続けるというスタイルでジョインされています。持ち株はグループに入るけれど、社長は変わらず、その中で事業を続けるというスタイルの会社が10社ほどあります。それはまさにベンチャーエコシステムを実現したいという思いに通じるものです。誰でもというわけではなく、自主自立経営がされており、そして理念が一致した企業様が対象です。出資先の中には、このエコシステムの考え方やD-POPS GROUPの話を聞いて申し込んでこられた会社もあります。

—田口—
いいですね、本当に。このグループのお話を伺っていると、プラットフォーム的な役割を果たしているのだなと感じます。

—杉原—
そうなんです。ベンチャーの起業家が活き活きと、なるべく成功確率高く、志すものが実現に近づくためのプラットフォーム作りをしています。

—田口—
それをされているのですね。やっている方々は、業態としてはITや通信といったデジタル系のことをされていますが、もちろん私もそうですけれども、皆さん人間ですから、得意分野を持った色々な方と出会えるというところに、ここに書いてある通りシナジーが生まれるかもしれないという、面白そうだなと思います。

—杉原—
いつか飛鳥クルーズと提携を、なんてこともあるかもしれませんね。(笑)

—田口—
リアルはたくさんありますからね。ぜひ見ていただきたいです。

◆ 読者へのメッセージ――「リアルな感動」を届けたい

—杉原—
最後に、読者の方に、一言お願いできますでしょうか?

—田口—
私たちの会社、郵船クルーズでは、企業を象徴するキーワードとして、「伝えたい感動がある」というメッセージを掲げています。船に乗って、リアルな綺麗な夕焼けを見ていただいたり、綺麗な景色、色々な寄港地での体験をしていただく。すべてリアルなんです。先ほどバーチャルの話も出ましたが、デジタルの部分とは相容れないかもしれませんが、私たちはそうしたリアルな体験を一生懸命提供しています。

デジタルにお疲れの方、リアルな何かを感じたいと思っていただける方であれば、ぜひ船に乗っていただきたいと思いますし、実際に実物を見て何かを感じるということは、とてもいいことだと思っています。

これは、私たちの会社で以前役員をされていた方が、ディズニーの方とお話しする機会があった際に伺った話なのですが、ディズニーはリアルではなくアニメーションなどで感動をさせられるけれども、実物で感動を届けられるというのはとてもいいことだと褒めていただいたことがある、と聞いたことがあります。いずれにしても、伝えたい感動があると言いながら、リアルな部分で色々な体験や感覚を提供できるところが、私たちの強みだと思っています。

☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太

【郵船クルーズ株式会社】
代表者:代表取締役社長 西島 裕司
所在地:神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー47F
設 立:1989年1月
コーポレートサイト:https://www.asukacruise.co.jp/

Part1はこちらからご覧ください。
Part2はこちらからご覧ください。

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