スタートアップからスケールアップへ! 共に成長し、進化し続けるエコシステムの実現【Part 1】
D-POPS GROUPでは、日本のベンチャーエコシステムの発展を支援するため、多角的な活動を展開しています。2026年1月、その志を同じくする一般社団法人スタートアップエコシステム協会の代表理事、藤本あゆみさんへのインタビューを実施しました。
全3回にわたるインタビューのPart1では、協会の設立秘話や、現場の調査から見えてきた「資金調達よりも切実なスタートアップの課題」について深く掘り下げます。
(このインタビューは2026年1月に実施いたしました。)
◆協会の設立経緯:3年越しの構想と「宣言」
-杉原-
今回は、当社が目指す「ベンチャーエコシステムの実現」と非常に近い活動をしておられる、一般社団法人スタートアップエコシステム協会を4年前の2022年3月に設立した、代表理事の藤本あゆみさんにインタビューいたします。
まず初めに、この一般社団法人スタートアップエコシステム協会(以下、協会)を設立された経緯を教えていただけますか?CMOとしてPlug and Play Japan社に在籍中に設立されたのですよね。
-藤本-
はい。設立したのは2022年ですが、実は構想自体は2019年、私がPlug and Play Japanに入ってすぐの頃から持っていました。
当時はアクセラレーターというカテゴリーが認知され始め、様々なプレイヤーが登場していた時期です。「1社でできることは限られているけれど、もっと横が繋がって広く連携すれば、スタートアップが成長する土壌(エコシステム)ができるのではないか」と考え、当時はまだ協会という名前ではありませんでしたが、ネットワーク化の企画書を書いていました。
ただ、当時は社内でも「意義はわかるけれど、今は難しいよね」という話になり、一度その案は寝かせることにしたんです。
それが再び動き出したのは、CIC Tokyoの1周年記念イベントに呼んでいただいたことがきっかけでした。そこで東京都副知事の宮坂さんや、CICの名倉さんたちとパネルディスカッションを行ったんです。
そのパネルの最中、何の文脈だったか「もっとスタートアップが育つ土壌として、こういう横の繋がりがあった方がいいですよね」と団体の構想があったという話をした際に、宮坂副知事「それはやったほうがいいよ」とコメントをもらい、セッションの最後に「というわけで、私がやることになると思うんですが」と、半分冗談、半分本気のような勢いで宣言してしまったんです(笑)。
その夜すぐに企画書を掘り起こして修正し、その日のうちにセッションの参加者の皆さんに送りました。特に名倉さんが「一緒にやりましょう」と強く背中を押してくださったので、「やります」と決断することができました。
それが2021年の後半。コロナ禍で先行きが見えない時期でしたが、だからこそ支援者同士が繋がって、日本のエコシステムを強くしようという目的が固まりました。
◆支援側のネットワーク化
-杉原-
横の繋がりというのは、スタートアップ同士というより、支援側のネットワークを指しているのでしょうか?
-藤本-
私たちは後者ですね。政府や自治体、事業会社、そして個人に至るまで、皆が動いているのになぜかバラバラで、連携しにくいという課題がありました。そこを繋ぎ合わせるのが私たちの役割です。
同時期に砂川さん(一般社団法人スタートアップ協会 代表理事)に声をかけたら、「実は僕たちも同じことを考えていた」と仰っていて。結果としてスタートアップ協会を含めて、4つほどの支援団体がほぼ同時期に誕生しました。それぞれ目的は違えど、スタートアップが育ち、日本経済に貢献する環境を作るというゴールは共通しており、今でも連携を続けています。
-杉原-
Plug and Play社としては、最終的には別組織として活動することに合意されたのですね。
-藤本-
はい。あらためて経営陣に話をしたら「今はやはり(業界全体のために)必要だよね」と理解してくれました。ただし、自社の事業としてではなく、中立な立場の一般社団法人としてやるべきだということで合意形成がなされました。
-杉原-
名倉さんや宮坂さんとは、そのパネルディスカッションの前から深いお知り合いだったのですか?
-藤本-
数回お会いしたことがある程度でした。ただ、名倉さんとは以前テレビ番組でご一緒した縁があり、その時に「CIC Tokyoの1周年イベントに来てください」と声をかけてくださったんです。あのお誘いがなければ協会はできていなかったので、本当に感謝しています。
◆協力体制の構築
-杉原-
協会の公式サイトを拝見すると、東京都をはじめとする自治体、著名な連続起業家、投資家、さらには政治家の方々まで、そうそうたる顔ぶれが名を連ねています。これほどのコネクションを、どのようにして築き上げられたのでしょうか?
-藤本-
実を言うと、2019年の構想時点ではこれほどの方々を巻き込むことは難しかったと思います。2022年というタイミングだからこそ実現できたことですね。
活動を続ける中で、エコシステムに関わる多くのプレイヤーが連携や意見交換の必要性を感じ始めていました。そこで、名倉さんと私の二人で、このエコシステムに必要だと思う方々を知りうる限り全員書き出したんです。
そこから「こういう仕組みを作りたいので、ぜひ後押ししてください」と一人ひとりにお話ししました。当時はまだ具体的な活動内容まで決まっていなかったのですが、皆さん「それはぜひやるべきだ」と快諾してくださり、サポーターとして加わっていただけることになりました。
サポーターの皆さんは、政治家、経済団体、事業会社など、それぞれが異なる角度からスタートアップを支援している方々です。そうした方々の知見やネットワークが一箇所に集まるだけでも、エコシステム全体にとって大きな価値があると考えています。
-杉原-
サポーターの方々には、具体的にどのような役割を期待されているのですか? 例えば総会でのスピーチや、特定の課題へのアドバイスなど、名前が載っている以上の具体的な活動についても伺いたいです。
-藤本-
もちろん、イベントに登壇いただくこともありますが、あえて関わりを重くしすぎないことも大切にしています。
「サポーターになったからには、これをしなければならない」という義務を課すのではなく、必要な時にお互いに情報交換ができ、助言をいただけるような、フラットで風通しの良い関係を目指しました。
皆さん、深いコミットメントを強要しなくても、エコシステムの発展に対して非常にポジティブです。ここが必要な場所だと信じてくださっているからこそ、緩やかでありながらも強い協力体制が築けているのだと感じています。
◆活動の3つの柱:情報共有・格差是正・海外連携
-杉原-
スタートアップエコシステム協会が具体的にどのような活動をされているのか、その内容を教えていただけますか?
-藤本-
はい。主に3つの柱があります。
1つ目は、国内の情報を集めて共有することです。 いわばGoogleのエコシステム版のように、情報を集めて整理し、使いやすくすることを目指しています。(注:Googleのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」)
具体的な活動としては、『スタートアップエコシステムサミット』を毎年1回開催しています。 通常、スタートアップ関連のイベントといえばスタートアップが登壇するものですが、このサミットではスタートアップは一切登壇せず、支援者側が全員登壇するのが特徴です。 企業や政府、自治体などの機関が、「私たちはスタートアップに対して、今このような支援プログラムを提供しています」という内容を話します。
これはスタートアップ向けでもありますが、どちらかというとエコシステム内の情報共有を強化する狙いがあります。 意外と「隣の組織が何をやっているか知らない」ということが多いので、年に一度こうした場を持つことで、「あそこは今こんな風に進化したんだ」「この間はやっていなかったのに」といった気づきや、「ここが連携すると面白いよね」という機会を作る活動をしています。 これが国内向けの1つ目の柱です。
2つ目は、特にスタートアップに向けた情報の格差をなくすための活動です。
スタートアップの成長過程では様々なことが起こりますが、一番足りていないのは情報の格差だと感じています。 「本当は知っていれば、その障害につまずかずに済んだ」というものがたくさんあるので、それをなくしたい。 そのために、サミットに登壇する方々以外も含めたあらゆる支援情報を網羅したデータベースを作成しています。
また、スタートアップが非常に困っている採用の支援も企画しました。 採用のためのキャリアフェアなどは最初にお金がかかりますよね。 良い人が採れるかどうかもわからない段階で、スタートアップが40万円、50万円という費用を払うのは難しい。 そこで東京都と連携してキャリアフェアを開催し、採用イベントを行っています。
その中でも、例えば「学生がインターンをしたいけれど、大人が話しているブースに割り込んで『インターンやってますか?』と聞きに行くのは怖い」という声がありました。 そこから派生して、学生しか参加できないインターンシップフェスというイベントも生まれました。 こうしたスタートアップのための情報共有と活動が2つ目です。
3つ目がグローバルとの連携です。
エコシステムは日本国内だけで完結するものではありません。 海外のあらゆるエコシステムと繋がりたいと思っています。 日本に海外のスタートアップを連れてきたいというニーズもあれば、日本のスタートアップを海外に呼んでほしいというニーズもあります。 そうしたニーズの架け橋になるような活動をしています。
主にこれら3つの軸で活動を展開しています。
◆現場の課題解決:資金よりも「採用と営業」
-杉原-
確かにスタートアップ関連のイベントというと、スタートアップがピッチをして投資家が審査するような関係性のものが多いですよね。 VCファンドや金融機関などが主催するイベントも、そうした形が一般的だと思います。 スタートアップを応援する側の人たちをすべて可視化して、支援者が主役になるという取り組みは、他ではあまり見かけません。
-藤本-
そうですね。他ではやっていないと思います。 一般社団法人として非営利でしかできない活動だとも感じています。 ビジネスにはなりづらいけれど、みんなが必要だと思っていたことの一つなのかな、と思っています。
また、もう一つの活動として、政府への政策提言も行っています。 政府側にはなかなかスタートアップの現場の声が届きにくいという現状があるため、私たちがメインとなって調査を行い、スタートアップが今何に困っているのかという声を直接政府に届けるようにしています。
-杉原-
先ほどのお話にもあった、情報の格差や採用に関する課題などは、まさにそうですよね。 スタートアップにとって、採用は最も難しいことの一つだと思います。
-藤本-
はい。実はそれも調査から導き出された答えなんです。 資金調達に関する支援は世の中にたくさんありますが、実際に調査をしてみると、資金面で困っているのは全体の30%ほどでした。 残りの多くが何に困っているかというと、採用と営業の2つなんです。
ここに関しては、支援プログラムが全然ありませんでした。 「具体的に何をすればいいのか」という場所もなかなかなかったので、東京都と一緒にキャリアフェアを作り上げてきました。
実は今年からは、私たちの手を少し離れて、独自に東京都の事業として自走してもらう形に移行しています。 私たちはそのきっかけとなる初めの仕組みを作った、という形ですね。
~Part2へ続く~
☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太
【一般社団法人スタートアップエコシステム協会】
代表理事:藤本 あゆみ
所在地:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階
設 立:2022年3月30日
U R L:https://startupecosystem.org/
次回Part2のインタビューでは、
・スタートアップエコシステムサミットについて
・海外との連携
・世界の潮流:スタートアップからスケールアップへ
・新会社設立の背景
などについてお伺いしています。
Part2もぜひご覧ください!