
【このパートについて】
全3回にわたるインタビューの第2回となるPart2では、他ジャンルの食を食べ歩くことの大切さ、行列店ならではの経営の裏側、多店舗経営とブランドの育て方、そして麻布台ヒルズでのポップアップストアや希少な高坂鶏との出会いについてお聞きしました。(このインタビューは2026年7月に実施しました。)
Part1はこちらからご覧ください。
◆ 一流から学ぶ姿勢 — ラーメン以外の食を巡る理由
—杉原—
近藤社長はラーメン以外の食も、日本全国を飛び回って研究されているそうですね。ラーメン職人がラーメンだけを食べていてはいい味は作れない、美味しいと言われるお店はフレンチでも鮨でも天ぷらでも、津々浦々食べ歩いているというお話を以前伺ったことがあります。このあたりの想いや考えを改めて教えていただけますか?
—近藤—
結局、知っているのにやらないことと、知らなくてやらないことは全く違うと思っています。
日本食の中で洋食の1番、蕎麦の1番、和食の1番、天ぷらの1番と言われるお店が、なぜ1番と言われているのかを知りたくて、勉強させてもらうことが多いです。そういう場所に行くと、学びしかないんです。
味というのは変数的な部分が多くて、素晴らしい味を作っていらっしゃる方はたくさんいますが、絶対的にみんなが評価できるかというと、そうではなく相対的なものでしかない。では、それ以外の部分でどうやって絶対的な1番を決めているのかを考えたときに、そこにたくさんのヒントが隠れているんです。
実際に足を運ばせていただいて、その道のトップランナーの考えを聞かせてもらい、勉強させてもらっています。「これはどうやって作るんですか」と聞くと、本物の一流の方はたいてい簡単に教えてくれます。真似をしたところで再現できないという自信があるからだと思います。
だからこそ、その話を聞いて、実際に自分で作ってみて、違うなと思って、また違うことがわかって、なぜだろうと考える。それを繰り返す中で、自分の料理に落とし込める何かが見えてきます。かといってテクニカルなことに重きを置くのではなく、最終的には、雰囲気や空間、そして人。結局は「この人のものを食べたい」というところに行き着くのだと思います。
—杉原—
これもスタートアップあるあるで、「いいものを作っていれば売れるはずだ」と思い込んでしまう経営者の方もいらっしゃいますが、それをどう届けるか、アフターケアやサポート、商品のパッケージまで考えることが最後には重要になってきますよね。
—近藤—
まさにその通りで、ラーメン業界でも、ほんの10年、20年前まではレシピサイトから流行が生まれる時代がありました。醤油やスープのレシピが出回っていて、それを真似すれば味を再現できるという時代です。
ただ、今はスピード感がまるで違うので、レシピだけを真似したところで流行らないんです。プロダクトだけでは難しい時代になっている。よく言われるのが「ストーリーをつける」ということで、その人の人柄や魅力の部分を添加していかないと、ただ一元的に美味しいラーメンというだけでは難しい時代になっていると感じます。

◆ 利益を求めない旗艦店 — グループ経営という発想
—杉原—
素晴らしいですね。他ジャンル、他業界から学びながら味を作り上げてこられたわけですね。
先ほど行列のお話を伺いましたが、「麦と麺助」を拝見していると、回転数自体は悪くないものの、営業時間の制約もあり、仕込みにもかなり手間がかかっているだろうと感じます。そうすると1日に提供できるラーメンの数には限りがあり、コストもかなり高いはずです。それでいて価格は2,000円弱ですよね。経営的に成り立つのでしょうか?
—近藤—
それはグロスで考えている部分が正直あります。例えばいまの中津のような店舗をひたすら増やせば、10店舗になっても利益率としてはかなり薄くなってしまいます。
ただ、それぞれの店舗にはテーマを持たせています。「麦と麺助」は本物というテーマで、僕が勉強させてもらってきた一流の方々の技術の10分の1でもいいから落とし込んで、「食は楽しいんだ」というところにつなげたいと思っています。1食5万円のお店に誰もが行けるわけではないですが、その10分の1だけを体験してもらうことで、「食ってこんなに楽しいんだ」「日本の食ってこんなにすごいんだ」ということを発信できたらいいなと思っていて、このお店ではあまり利益を追求していません。
—杉原—
その1店舗では深く利益を求めない、いわばフラッグシップ店舗のような位置づけなんですね。
—近藤—
そうです。麦と麺助で利益を求めてしまうと違う方向に行ってしまいますし、当初のテーマからもぶれてしまいます。その値段で本物を出してあげるというのは、僕自身が客だったら行きたいと思えるお店になっているのではないかと思っています。
また、いろいろな方と出会い、話をさせていただく中で吸収していった結果、経営理念というものが本当に必要なんだと気づいていきました。美味しいものを作るというところから入って、そこから学んでいって、最終的に「こういう思いを持っていないとだめなんだ」というところにたどり着いた感覚です。
—杉原—
「麦と麺助」がフラッグシップとしてあり、「なにわ麺次郎」が2店舗、それぞれしっかりと利益を追求していく役割を持っている。事業会社で言うところの多角化やグループ経営のような形ですね。
—近藤—
そうですね。うちの場合、「なにわ麺次郎」の社長は僕の弟に任せていて、それぞれが1つの共同組織体になるようにしています。各店舗の店長にローテーションも含めて任せていて、その地域、その分野をしっかり背負ってもらうようにしています。あまり店長を頻繁に入れ替えてしまうと、目新しさは出るかもしれませんが、その店に対する責任感や思いが薄れてしまうと僕は思っています。
—杉原—
D-POPS GROUPと同じ発想ですね。私たちのグループも分社化していて、各グループ会社に社長として入ってもらっていますが、みんな独立して自立した運営を続けていて、社長交代はほぼありません。
—近藤—
やはり、その「思い」というものが、人の行動の基盤であり、すべてのスタートだと思っています。そこをコロコロ変えてしまうと、気持ちが薄れてしまう。だからこそ、僕はあまり変えない方がいいと考えています。
◆ ブランドは「狙って作る」ものではなく「育ててもらう」もの
—杉原—
お話を伺っていると、「麦と麺助」を中心に、それぞれの店舗が強烈なブランドになっていると感じます。ブランドというのは、どの企業にとっても、作ること、育てること、そして守ることがとても大事だと思うのですが、近藤社長が考えるブランドの育て方、守り方について聞かせていただけますか?
—近藤—
これは本当にお客様に育ててもらった、という感覚が強いです。僕はどちらかというとすぐに振り切るタイプなのですが、あえて自分から意識したというよりは、お客様からのヒアリングに近い形でブランドが育っていった気がします。今でこそ大阪で1番と言っていただけるようになりましたが、それまでは「麺助」の名前だけでは通じなかったこともありましたし、逆にラーメングランプリのようなイベントに出て、評価が割れてしまい、1位を他店に譲るということもありました。
それが良かったのか悪かったのか、正直今でもわからないままここまで来ましたが、明確に「この店舗の目的は何か」ということを意識し始めてからは、しっかりとブランド作りの一環になっていったのかなと思います。
ただ、正直に言うと運の要素もかなり大きいと思っていて、狙ったからといってブランディングができるかというと、必ずしもそうではありません。インフルエンサーを使えばできるかというと、そういうものでもない。
やはり「共感」というキーワードが重要で、ブランドというのは実はとてもあやふやなものだと思っています。原価率が高い商品でも、それがいいものだと信じてもらえなければ、100円の価値になりますし、逆に1万円の価値があると思っていただければ原材料費が10パーセント以下でも超高級ブランドになる事もある。それくらいあやふやなものだからこそ、理解してもらい共感してもらい、思いをきちんと広げていく、つなげていくということが一番大切な事なのだと思い努力しつづけます。
—杉原—
最初からブランド戦略ありきでこの店を作ったのではなく、だんだんと醸成されていったということですね。味の話でもありましたが、最初から完成していたのではなく、じわじわとフィードバックを取り入れながら、お客様と一緒に作り上げてきたと。
—近藤—
もちろん最初から緻密に設計できる方もいらっしゃるとは思いますが、僕の場合は、お客様に合わせて合わせていった結果、今の形になったという感覚が強いです。似た店名のお店やコンセプトがやたら似ているお店が出てきたりもしていて、これだけ順調にやらせていただいている分、他店舗のランドマークのような存在にもなりやすいのだと思います。だからこそ、より明確に、より他が追いつけないところにたどり着かなければならないと思って、この数年やってきました。その結果として、思いがけない方々に応援していただけたりするのですが、それは結局のところ、もがき苦しんでいた間に沢山の方々に可愛がっていただいた結果でしかないと思っています。
◆ 麻布台ヒルズポップアップと”幻の鶏”高坂鶏との出会い
—杉原—
続いて、麻布台ヒルズで6月に特別ポップアップストアを開催されましたね。私も伺わせていただいて、高坂鶏を使った究極のスープを使ったラーメンを提供していただきました。まずお伺いしたいのですが、こうしたスペシャルなポップアップストアの活動は、大阪以外では初めてだったのでしょうか。また、こうした挑戦は今後も続けていかれるのでしょうか?
—近藤—
僕が面白いと思えるかどうかが、活動の軸になっています。面白いと思わせてくれる場所であれば、積極的にやっていきたいと思っています。
高坂鶏という食材自体が今、非常に注目されている食材なので、それを使わせていただけているということ自体が本当にありがたいです。高坂さんという生産者の方が、僕のことを認めてくださって「メインで使っていい」と言ってくださっているのは、本当にありがたい話だと思っています。


—杉原—
その高坂鶏は、焼き鳥店でもなかなか仕入れさせてもらえないほど貴重だと伺っています。近藤社長は、なぜ仕入れることができたのでしょうか?
—近藤—
本当にたまたま、知り合いの焼き鳥店に紹介していただいたのがきっかけです。僕はもともと何にでも興味を持つ性格で、高坂鶏のガラがあるなら使ってみたいと思って、骨だけ分けていただいて使い始めました。
ところが最初は全然美味しくならなくて。焼き鳥でいただいた時は間違いなく美味しいとわかっていたのに、スープにすると全く違う結果になってしまって、なぜだろうとずっと考えていました。素材が良ければすぐに美味しくなるだろうと思っていたのですが、実際は全然そうではありませんでした。そのことを周囲に話していたら、それがたまたま高坂さんの耳にも入ったようで。
そこから1か月、2か月、3か月と、かなり長い期間、試行錯誤を重ねました。最終的には、見た目は出汁を取っているような色をしているのに、すっと体に入っていってもたれないスープが完成しました。シンプルに考えると、肉と油のバランスをしっかり整えてあげることが、美味しさの本質だったんです。そこを高坂さんに理解してもらい、認めてもらう結果となりました。
—杉原—
その分解の作業を経て、今では高坂さんとの仕入れの関係もしっかり築かれているわけですね。ベンチャー企業あるあるで、「あの人に助けられた」「あの方との出会いが転機だった」という話をよく伺いますが、人との出会いというのは本当に大きいですね。
—近藤—
本当にそうだと思います。人間が変わるタイミングというのは、人と出会った時にしかないと、僕は師匠から教わりました。自分1人で「明日から変わろう」と思っても、なかなか変われないものです。それくらい人間は弱いものですが、変わる瞬間というのは、強烈な人との出会いがターニングポイントになることが多くて、僕自身の人生も、いくつもの交差点でそういうターニングポイントがありました。
☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太
【麦と麺助】
オーナー:近藤佑介
所在地:大阪府大阪市北区豊崎3-4-12
開業:2018年5月19日(2016年4月、姉妹店「燃えよ麺助」を大阪・福島にオープン)
姉妹店:燃えよ麺助(大阪・福島)、なにわ麺次郎各店舗(大阪・難波&梅田)
Part3では、
・ラーメンという日本食の国際展開の可能性
・ブランドを活かした他業界とのコラボレーション
・飲食店経営で1番大切にすべきこと
・D-POPS GROUPが目指すベンチャーエコシステムへの共感
・読者の皆様へのメッセージ
などについて伺っています。Part3もお楽しみに!
