COLUMN

ベンチャーエコシステムとは?成長と永続のためのプラットフォームの実現について

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2024.11.26

ディ・ポップスグループでは、ベンチャーエコシステムを、「共通のアイデンティティと理念の元に集まり、革新性の高い事業モデルにより、社会課題解決に挑戦し続ける企業群の集合体を支える、成長と永続のためのプラットフォームのこと」、と捉えて、その理想の形の実現に向けて日々挑戦と努力を続けています。

以下、ベンチャーエコシステムについて、因数分解して解説してみます。

 

1. ベンチャー企業とは

コトバンクによれば、以下のように定義されています。

”産業構造の転換期には、産業の主役が交代し、最先端の分野でそれまでなかった新しいビジネスが生まれ、そして新しい市場が作り出される。そんな時代のニーズを背景に、独自の技術や製品で急成長していく企業を「ベンチャー企業」と呼んでいる。”

もう少し広く捉えると、その会社のトップを始め、社員にも挑戦する文化が浸透しており、独自のアイデアや事業モデルで、新しい領域に取り組む企業であれば、起業したてのスタートアップはもちろんのこと、大きく成長しようともそのスピリッツがあればベンチャー企業と言えるのではないでしょうか。

その視点で見れば、例えば国内では、Go Boldをバリューに掲げ、次々と新サービスをリリースしてきたメルカリや、大きく成長した後でも、全く新しい技術による基地局で楽天モバイルを立ち上げた楽天グループなども、ベンチャーと言えます。

また、海外では、アルファベット社にしても、メタ社にしても、未だにベンチャー(ちなみにベンチャーは和製英語と言われています)魂に溢れているのではないでしょうか。

 

2. センミツとは

不動産業界においては、「商談が成立するのは1000件にせいぜい3つ程しかない」と言われており、そのことを指して”センミツ”と呼ぶそうです。また食品メーカーの業界においては、「1000件企画してもそのうちヒットして生き残るのはせいぜい3商品しかない」と言われており、この業界でも”センミツ”という言葉が使われます。

そして、ベンチャーキャピタル(VC)の業界では、「1000件面談して投資を検討したケースが3%、実際に投資したケースが1/3、無事exitしたケースが3割」という、あるファンドの事例データがあります。1000 x 0.03 x 1/3 x 0.3 = 0.3%、すなわち”センミツ”です。

このように、ベンチャー企業が成功する確率は極めて低いと言えます。

しかし、以下の心掛け次第で、その成功の確率を上げることはできます。

①誰にも負けない努力を継続する。
②同じ立場の仲間との学び合いや助け合いをする。
③相談できる先輩経営者やメンターによる支援を受ける。
④起業や新規事業の成功体験や失敗からの学びを活かす。

 

3. エコシステム(生態系)とは

ウィキペディアによれば、エコシステムとは生態系の訳で、それは、

”生態系(英: ecosystem)とは、生態学においての、生物群集やそれらをとりまく環境をある程度閉じた系であると見なしたときの呼称である。ある一定の区域に存在する生物と、それを取り巻く非生物的環境をまとめ、ある程度閉じた一つの系と見なすとき、これを生態系と呼ぶ。”

と定義されています。

これをビジネスの世界に反映して捉えるならば、物理的に一定の地域に集まる必要はないものの、一定の共通のアイデンティティと理念を持つ、企業群集と言えます。

ある森を想像した時、そこには種々な植物、その種子を運ぶ昆虫や小動物、それらを捕食する大型の動物らで構成されています。それらが相互に依存し合いながら、そして動物や植物はやがて朽ちて土になり、他者の栄養となるなどして、循環することにより、森は永続し、そして成長します。

この森を企業の集合体に置き換えた時、そして相互に影響し合いながら、成長し、そして永続するグループになることを目指したとき、それらは、ビジネスにおけるエコシステムを表わすのだと思います。

では、ビジネスのエコシステムとは具体的にはどのようなことでしょうか?

 

4. コラボレーション

エコシステム内の企業同士は、お互いを食い合う敵でも、競合でもありません。良い関係性を持ちながら、お互いにプラスに影響し合う仲間です。

その間では、次のような取り組みが、自然に発生します。

① 顧客開拓
お互いにとっての新規となる法人顧客や消費者顧客を紹介し合ったり、共同で新たな領域を開拓して新規顧客増を図る。(※単にお互いに仕事を発注し合うのではない)

② 協業
企業Aの新規商品やサービスを起業Bの既存の販売チャネルに乗せるなどして、販売の支援をする。その業務提携は、腹のさぐりあいではなく、双方が誠意をもって話し合い、理に適った条件で契約します。

③ 人材交流
CxOやエンジニア、マーケターなど、異なる企業の同じ立場や職種の者同士で人材の交流や情報交換を行い、刺激し合う。グループ内他企業への短期留学や出向、そして、人材の転籍なども含まれます。

④ 新規事業創出
グループ内の事業会社同士での協業や人材交流をしていく中で、様々な刺激を受けた結果、業務の効率化のアイデアや、新規事業創出のアイデア、新商品やサービスが生まれるなど、利益率の向上や、将来の成長の種が撒かれることがあります。

 

5. 学び合いと助け合い

企業経営は常に順調、順風満帆ということはありません。競合環境や市場の急激な変化などにより、大変厳しい状況に追い込まれることも多々あります。
荒波を乗り越えるには、お互いに学び合い、助け合う必要があります。

① 勉強会
専門性が求められる分野においては、関係会社で集まってお互いに教え合う勉強会を開いたり、グループ各社が集まって外部講師による学びの会を開いたりします。定期または不定期に懇親会を開き、その雑談の中から素晴らしいアイデアが出ることもあります。

② レンタル移籍
経理部門や営業部門など、ノウハウの伝授と吸収目的、また、新ルートや新システムの立ち上げ期など、一時的に企業Aで人員が不足する時に、その時期に人員に余裕がある企業Bから人材を送り、レスキューをすることもあります。企業Bが同じ状況になった時には、企業Aがヘルプ要員を送り込む、”お互い様”な関係が、エコシステム内では成り立ちます。

③ 共同採用活動
多数あるグループ内企業で合同説明会、といった形で、多くの人材を適材適所で採用するといった協業が考えられます。ただし、グループ内各社のアイデンティティと理念が一致している場合にのみ、その理念に共感した候補者が集まり、結果この活動が成り立ちます。

 

6. エコシステム内の循環

エコシステムの中は同じ規模、同じ業種の会社ばかりが集まっているのではありません。起業したばかりのスタートアップから、歴史ありながらも挑戦を続ける先輩起業まで多岐に渡ります。また前述したように、企業経営は常に順調、順風満帆ということはありません。残念ながら事業を畳まなければならない企業もゼロではありません。

そこで、エコシステムの特徴として、”循環”はとても重要です。

① ベンチャー企業
エコシステムにおける最も重要な役割を担うのが、新たな事業を起こすベンチャー企業です。森における種や卵に例えられます。社内起業や独立により、グループ内で資本関係を持ちつつ、独立することを奨励したり、理念が一致する優秀なベンチャーと出会ったら、出資を行い、グループとの資本関係を持ち、エコシステムに加わってもらいます。

② メンター
エコシステム内には、豊富な知識や経験を持つアドバイザーや顧問団の存在が欠かせません。森に例えれば、豊富な栄養を蓄え、水を供給するような樹齢何百年の大木のようです。長い年月により築かれた人脈のネットワークから顧客候補を紹介したり、事業戦略立案のための壁打ちに付き合ったり、グループ内各社の経営幹部向けに組織論や文化浸透の研修を行ったりします。

起業家にとって、例え誰にも負けない努力をするとしても、誰にも相談せずに単独で経営に取り組むのと、いつでも相談ができるメンターや先輩経営者がいるのとでは、その成功の確度は何倍にも違ってきます。

③ OBの存在
このように切磋琢磨し学び合い、そして支援を受けながら成長するにつれて、やがてグループ内には、上場や前向きな事業譲渡によりexitに成功する経営者も現われます。中には一旦その会社を離れるOBもいます。

しかし、理念が一致していますので、卒業してもOBは共通の仲間です。先ほどの勉強会に講師として登壇してもらったり、一時的な代打経営者として、成績が振るわない企業の再建に取り組んでもらうなどができます。

④ 再生と復活
残念ながら清算を避けられなくなった会社があったとします。しかし、その会社で働いていた社員の中には、どこでも通用する優秀な人もたくさんいます。また、倒産した会社の経営者も、経営には向かないが、リードエンジニアとしては物凄い能力がある人だったのかもしれません。

それらの人材は、役割を変えてグループ内の他企業に転籍したら、凄く貢献してくれるかもしれません。再出発や敗者復活により、エコシステム内の人材がなるべく輝き続ける仕組み、プラットフォームがエコシステムらしさ、と言えるでしょう。

 

7. ベンチャーエコシステムとは

以上、いくつかに分解して記述したことをまとめると、ベンチャーエコシステムとは、以下のように定義できます。

①挑戦し続けるスピリットがある企業の集合体
②学び合いと助け合いのネットワークが形成されている
③共通の理念の元に集まり同じ方向を向いた人材で構成される
④個々の成長や再生を繰り返しながら全体として成長を続ける
⑤内部から新たなベンチャーが産まれ、外部からも参画し増殖する
⑥環境の変化に対しては、グループ全体で団結して立ち向かう
⑦その集合体の成長を支えるプラットフォームである

「ベンチャーエコシステムとは、共通のアイデンティティと理念の元に集まり、革新性の高い事業モデルにより、社会課題解決に挑戦し続ける企業群の集合体を支える、成長と永続のためのプラットフォームのこと」
と定義できます。

(株)ディ・ポップスグループとそのエコシステムに参加する企業は共に学び合い、助け合いながら、社会になくてはならないプラットフォームとなるべく、日々努力を続けて参ります。

これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。

 

D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太

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2026.03.04
クロスセルとは?売上総利益を劇的に改善する具体策と成功事例を解説
今回は、企業の基本的な収益力を示す売上総利益に着目し、売上総利益の上げ方 その①として「クロスセル」について解説して参ります。 「クロスセル」とは、顧客が購入した商品やサービスに対し、関連する商品やサービスを追加で提案し顧客単価を上げ、売上を上げる手法です。牛丼屋で卵とサラダを、ハンバーガーショップでポテトとドリンクを勧められたりすることが最も一般的なクロスセルの事例と言えます。今回は小売業の事例を元に「クロスセル」を解説していきたいと思います。 1.経費も時間もかからずに絶大な効果が得られる手法 前回までに「在庫回転率」「一人当たり売上高」「坪効率」を取り上げ、会社経営をしていく上で利益を上げる手法として企業の収益力を示す売上総利益ではなく、あえてCFや経費(人件費、家賃)を取り上げました。同じような売上規模、同じような商品を扱う競争環境の中で同業他社と大きな差別化を図るためには売上総利益よりCFや経費に目を向けることが肝要であるからで、前回までに具体的事例をご説明いたしました。今回はCFや経費の重要性を理解いただいた上で、会社経営の本丸である売上総利益に着目して参ります。 売上総利益は非常に単純な指標で、売上高から原価を差し引いた利益のことで、粗利と言ったりもします。商品やサービスそのものが、独自性があり差別化されていれば、高い売上総利益を上げることができます。今回は独自性があり差別化された商品やサービスの作り方で売上総利益を上げる方法ではなく、同じような商品を扱う状況の中で、如何に売上総利益を上げるか?ということを取り上げて参ります。 今回取り上げる「クロスセル」は経費も時間もかからずに売上総利益に対し絶大な効果が得られる手法です。ではなぜ「クロスセル」が重要か、以下順を追ってご説明いたします。 2.クロスセルとは まず、クロスセルとは、顧客が購入した商品やサービスに対し、関連する商品やサービスを追加で提案したり品揃えをしたりすることで、顧客単価を上げたりリピート購入を増やすことで売上を上げる手法です。 例えば ・スーツを購入すれば、スーツに合ったネクタイを勧められる ・スマホを買えば、フィルム、ACアダプタ、保険、ウイルスソフトを勧められる ・カメラを買えば、レンズ、フィルター、メモリーカードを勧められる ・車を買えば、タイヤ、シート、ドラレコ、カーナビ、保険を勧められる といった様なことが代表的で、このほかにもクロスセルの事例は枚挙にいとまがありません。 上記の様に直接的に勧められなくても、パソコンやカメラの周辺機器の様に沢山の品揃えをすることで後から購入してもらえる状況を作るということも、広義の意味ではクロスセルと言えます。クロスセルは、リアル店であれば店員のトークで、WEBであれば商品リコメンドとして、商品やサービスを販売する業態や業種であればどの企業でも大なり小なり実践していると思います。 クロスセルは一見非常に地味ですが、売上総利益に対し絶大な効果を及ぼします。次項ではどのくらいの効果があるかを見ていきたいと思います。 3.なぜクロスセルが重要か? クロスセルの及ぼす効果とは いくつかの事例をもとにクロスセルの及ぼす効果を解説していきたいと思います。最初は、ある会社のある時期でのパソコンの利益をモデルケースに解説します。(モデルケースは架空の事例としていますが、実際の事例がベースとなっております。) モデルケース PC本体 売上総利益28億円 利益率20% 売上140億円 PC周辺/アクセサリー/関連商品 売上総利益 44億 利益率40% 売上110億円 (PC周辺/アクセサリー/関連商品とは、プリンター/ルーター/記録装置等の周辺機器、マウス/キーボート/バック等のアクセサリー、インク/紙等の消耗品、ブロードバンドの加入手数料、関連ソフト/関連書籍等を全て合算したものです。) この事例で見ていただきたいポイントは、利益額、売上高です。 顧客が最初に目的として購入するパソコンの利益は28億円。パソコンを購入と同時、もしくは購入した後に必要となるクロスセル対象商品であるPC関連商品合計の利益は44億円。実に16億円、比率にして157%も利益が違います。売上はPC本体が140億円、PC関連合計は110億円で、クロスセル対象商品であるPC関連商品合計の方が30億円も少ないにも関わらずです。 PCだけではありませんが、顧客が最初に目的として購入する商品の多くは、商品での競合や店舗での競合があり、それほど儲かりません。PC関連商品合計の様なクロスセル対象商品はすべてではありませんが、利益率の高い商品が多く、クロスセル対象商品を顧客が最初に目的として購入する商品の販売時やその後のリピートで一生懸命売ることが利益額的にも、効率を見た利益率の面でも、売上総利益を上げることに対し絶大な効果を発揮していることがお分かりいただけるかと思います。 上記事例はPCの事例だったので、次はスマホの事例を見てみましょう。 以下の事例はある会社のスマホ販売における1ヶ月の利益内訳です。(モデルケースは架空の事例としていますが、実際の事例がベースとなっております。) モデルケース スマホ販売総利益 9,000万円 スマホ本体の販売による利益 5,000万円 スマホ関連商品利益 4,000万円 (スマホ本体の販売による利益とは、スマホ本体を販売することにより得られる利益の合計、スマホ関連商品利益とはスマホ本体のクロスセルによりスマホ本体以外から得られる利益の合計です。) スマホ本体は、スマホの新規加入がPCに比べ利益があるので、顧客が目的として購入するスマホ本体の利益よりクロスセル対象商品であるスマホ関連商品の利益の方が多くなる、というところまでにはなっていませんが、全体の比率の45%が、スマホ関連商品の利益で占めています。顧客が目的として購入する商品の販売時に、クロスセル対象商品を一生懸命売ることで、売上総利益を上げることに対し、絶大な効果を発揮していることがこの事例でもお分かりいただけるかと思います。 上記2つの例からも分かる様に、クロスセルは売上総利益に対し絶大な効果を発揮するわけですが、クロスセルの最大のメリットは、追加の経費がほぼ掛からず、売上総利益の増加分=営業利益の増加につながるということです。 例えば店舗なら、売上を上げるために出店をしますが、家賃や人件費等の経費が追加でかかります。法人営業なら売上を上げるために営業マンを増強したり、広告費を追加したり、営業所を追加したりしますが、この分の経費が追加でかかります。店舗を増やしたり、営業マンを増強したり、広告費を増やしたりすることで、当然売上も売上総利益もいくらかは上がるでしょうが、この経費をかけた分を回収できる売上や売上総利益が上がる保証はありません。経費分が回収できず、営業利益ベースでは赤字だったという事例はたくさんあるのではないかと思います。 これがクロスセルだと追加の経費がほぼ掛かりません。クロスセルにより売上が上がり、売上総利益が上がると、追加の経費がほぼ無いので、上がった売上総利益がそのまま営業利益になるという、利益貢献度が抜群な手法であるわけです。 今回のモデルケースだけでなく、商品やサービスを販売するビジネスであれば、飲食でもアパレルでも、クロスセルを活用することで、顧客が目的として購入する商品やサービスで出す利益と同等か、それ以上の利益を上げることも可能で、全体の売上総利益の10%程度を底上げする程度なら、ハードルの低い取り組みで実現可能です。 さらに前述したように、追加の経費がほぼないので、売上総利益の底上げ分がそのまま営業利益になります。売上総利益や営業利益を上げたいと思うなら、出店や営業マンの増強、広告費の増加で新しい顧客を探すのではなく、最初にクロスセルで顧客単価を上げることをおススメいたします。クロスセルでの売上増加が営業利益まで直結して増加するためです。 同じような商品を扱う競合状況の中では、競合他社を大きく上回るクロスセルを実現すれば、売上総利益だけでなく、営業利益の面でも競合他社に大きなアドバンテージを持つことになります。クロスセルが経営に及ぼす効果が如何に大きいかおわかりいただけたのではないかと思います。 4.クロスセルで売上を上げるポイント クロスセルの重要性はご認識いただけたかと思いますので、クロスセルで売上を上げるポイントをいくつか紹介させていただきます。 クロスセルで売上を上げるポイント① クロスセルが成り立ちやすい商品を扱うということと、関連商品の品揃えをしっかりすることです。 分かり易い例でいえば、冷蔵庫や洗濯機は延長保証くらいしかクロスセルが成り立ちませんが、例に出したPCやスマホ、カメラ、車、スーツあたりはクロスセルの宝庫といえます。スーツを例にとると、ワイヤシャツ、ネクタイはもちろんのこと、スーツに合うカバンやベルト、靴等を品揃えすればクロスセルが成り立ちますし、ネクタイピンやシャツずれの防止グッズあたりもクロスセルにつながります。上記は例ですが、クロスセルが成り立つ商品を扱うことと、その関連商品の品揃えをしっかり行うことで、クロスセルによる売上は上がります。 クロスセルで売上を上げるポイント② クロスセルの重要性の教育が従業員になされており、常に会社と従業員がクロスセルを高めるために商品知識や接客トーク、接客技術を磨き、接客や展示、仕入れ等に対し創意工夫をし続ける血の通った経営をし続けることです。 なぜクロスセルの提案商品が必要なのか?を顧客の目線で説明できるトークを身に着け、提案商品が複数あれば提案の順番とどのタイミングで提案するかを考え、提案商品をどこに置くと効果的かを考え展示をしていく。このような創意工夫ができる会社とできない会社では、圧倒的な差が生まれてきます。 また、クロスセルで提案する商品は利益があればなんでもいいというわけではありません。関連性があり顧客メリットが無ければ、単なる無理やり販売になってしまい、購入体験における顧客満足を落とす結果になり、経営としてマイナスの結果になってしまいます。どの商品のどの部分に関連性があり顧客にメリットがあるのかを顧客の目線でストーリー化する必要があります。このようなことの実現にも、深い商品知識と創意工夫が不可欠であることは言うまでもありません。 クロスセルで売上を上げるポイント③ テクノロジーの活用です。 WEBで買い物をすれば過去の購買状況からレコメンドが出ますし、通信業界では接客中にシステムでレコメンド商品が上がってくるといった取り組みが始まっています。当然、誰がどのくらいクロスセルができているのかを可視化することも、テクノロジーの領域です。テクノロジーの例はこれだけではありませんが、テクノロジーを使いこなすことはクロスセルによる売上アップに欠かせない要素の一つであることは明確です。 以上、クロスセルで売上を上げるための代表的な例を3つほど紹介いたしました。 もちろんクロスセルで売上を上げるためのポイントは他にもございますが、最大のポイントは、クロスセルの重要性の教育がなされたヒトがテクノロジーを使いこなすことです。結果的には、クロスセルで売上を上げ経営効率を飛躍的に向上させることは、ヒト×テクノロジーの掛け算の上に成り立つということになると思います。 5.まとめ 今回は、クロスセルのお話をさせていただきました。クロスセルは経費も時間もかからずに売上総利益だけでなく、営業利益に対しても絶大な効果が得られる手法で、このクロスセルにより、顧客が目的として購入する商品やサービスの売上を最大化することこそが、売上総利益と営業利益の最大化につながり、競合他社との大きなアドバンテージポイントになることをご説明いたしました。 今回のクロスセルは、前回までにお話しした「在庫回転率」、「一人当たり売上高」、「坪効率」として取り上げた、在庫、人件費、家賃のCFや経費の後にあえて取り上げております。1番最初の「在庫回転率」から一連の流れとしてご一読いただきますと、経営のポイントがより見えてくると思います。まだお読みでない方は、是非ご一読いただけますと幸いです。 今回のクロスセルを通してディ・ポップスグループとしてお伝えしたいことは、前回までと同様ビジネスは、ヒトにより成り立っているということです。商品を購入いただくお客様もヒトであり、商品を販売する販売員も、テクノロジーを使うのも、すべてはヒトであります。AIをはじめとするテクノロジーを使いこなさなければビジネス上で競争に勝ち生き残ることはできないと思いますが、テクノロジーだけでは生き残ることはできないと思います。テクノロジーが良いから、経営戦略が良いから、ビジネスが成功するのではなく、ヒト×テクノロジー×経営戦略の掛け算が大切であるとディ・ポップスグループは考えます。 この考えの元、ディ・ポップスグループはヒトが輝くために、また社会課題解決のために、ベンチャー企業に対して、出資を通じた支援と、効率という数字だけではない価値を通じた、グループエコシステムの実現を目指しています。 これからもご支援、応援の程、よろしくお願いします。 D-POPS GROUP 常務執行役員 渡辺哲也
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2026.02.12
創業社長にも求められる営業スキル ーベンチャー成長の壁を突破する「経営思考の営業」
ディ・ポップスグループでアドバイザーとしてベンチャー支援に携わる中で、多くの創業者が直面する壁があります。それは『営業』です。 本稿では、伴走支援する中で有用性を実感した、経営者こそ持つべき営業スキルについて解説します。 営業は創業後の成長を支える基盤 企業の成長過程において、営業活動は避けて通れない機能です。法人向け事業はもちろん、消費者向け事業においても、販路開拓、業務提携、アライアンス構築といった局面では必ず「営業活動」が発生します。市場に優れたプロダクトを投入しただけで自然に売上が立つ時代は終わり、顧客との対話設計そのものが競争優位を生む時代に入っています。 特に創業期・成長初期のベンチャー企業では、営業専門部隊を持つ以前に、創業者自身が最前線に立つことが少なくありません。資金調達、パートナー獲得、大口顧客の開拓など、重要局面ほど創業者が商談の中心に立つ現実があります。 豊富な営業経験のある創業者であれば、その経験値が武器になります。一方で、技術者やプロダクト開発出身の創業者にとって、営業は「不得意領域」と捉えられがちです。しかし現実には、事業の初期成長を決定付けるのは、プロダクトの完成度以上に「顧客との対話の質」であることが多いのです。 本稿では、営業責任者のみならず、創業者自身にも参考にしていただける、三つの「経営思考の営業スキル」をご紹介します。 1.「傾聴の姿勢」と「売ろうとしない勇気」 先日、珍しくスマホに一本の電話が入りました。出資及び事業推進の伴走をしている、B2B向けのソリューションベンチャーの創業社長からの、嬉しい報告でした。 それは、大手企業から契約の内示を獲得できたという知らせでした。数ヶ月前まで契約が思うように進まず、悔しさを滲ませていた彼の声には、明らかな達成感が宿っていました。私は祝福の言葉を伝えると共に、これは単なる幸運の産物ではない、営業における「姿勢」を変えた結果であり、今後の活動に向けての大きな一歩だと伝えました。 彼は、今回の商談を振り返った際、以前は無料トライアル後に早期の本契約を迫り、相手の懸念が十分に解消されないまま、自社都合で前進しようとしていたことが、失注の要因だったと自己分析していました。 今回はそのアプローチを改め、導入判断を急がせず、商談相手が検討すべき論点を共に整理し、次回までの「宿題」を設定することで自然に次回の対話へとつなげました。その結果、商談が一歩一歩前に進み、今回の内示獲得へと至りました。 注目すべきは、特別なクロージング技術を用いたわけではない点です。 むしろ、過剰に売り込もうとする前のめりな姿勢を意識的に控えた点でした。 実は、4ヶ月前、私は彼に見込み顧客となり得る企業を紹介すると共に、その商談に同席しました。しかし、その商談での彼のふるまいに思うところがあり、その終了後にやや強い口調で助言を行いました。「営業で最も重要なのは、契約を取ることではなく、破断させないことです」と。 彼の商談に決定的に欠けていたのが、「傾聴の姿勢」でした。 単に相手の話を黙って聞く事ではありません。 ・どこで言葉を選んでいるか ・言外の含みはないか ・少し首をかしげた このような微妙な反応を読み取りながら、”対話”を進める姿勢のことです。 多くの営業担当者は契約に向けて商談を前進させることを目的とします。しかし、実際には相手が安心して検討を継続できる状態を維持することこそが、本質的な役割です。判断を急かされると人は思考を止めるか拒絶反応を示し、結果として静かなフェードアウトが起こります。「持ち帰って検討します」で終わる商談は、概ね失注に終わります。 従って、相手の疑問を即座に潰そうとせず、次に何を考えるべきかを共に整理し、十分な検討時間を提供しながら、相手のゴールを念頭に対話を続けることが求められます。 一般に「できる営業」は知識が豊富で、反応が早く、即答できる人物像として語られがちです。しかし、顧客から信頼を得るのは、話を遮らず、思考の間を許容し、不明点を認め、次回までに調べてくる、といった、誠実な姿勢を持つ人物です。 冒頭の彼は、この失敗した商談以降、明らかに顧客への向き合い方が変わったのです。数ヶ月後、彼が得たのは単なる契約ではなく、相手の話を聴けるようになった実感、急がなくても前進できる成功体験、そして再現性ある営業感覚でした。 傾聴の姿勢があるからこそ、「今は売り込みをしない」という判断が可能になります。 営業に課題を感じる起業家ほど、自身が相手の話を聴こうとしているのか、それとも自分の話を聞かせようとしているのかを問い直す必要があります。その違いに気づいたとき、営業の質が確実に変わり始めることでしょう。 2.「課題起点」の質問力 営業で成果を分けるのは話術の巧拙ではありません。かつて事業開発およびB2B営業を長く務めていた私が常にゴールに置いていたのは、「相手の経営課題を言語化していただく」という一点でした。 シンプルに言うならば、「御社の経営課題は何ですか?」というキラー質問です。 経営者には企業の経営課題を、マーケティング責任者にはブランド戦略上の課題を、人事責任者には人材育成の課題を、情報システム責任者には社内ITの課題を問いかける。この問いに辿り着くことが、特に初回商談のゴールでした。 もちろん、初対面で唐突に課題を尋ねても容易には答えていただけません。信頼関係を築き、安心して話せる空気を醸成し、自然な対話の流れの中で最終的にこの問いへ至ることが重要です。 その関係構築ができた上で、適切なタイミングで適切な質問を行った結果、相手の課題が言語化された瞬間、営業は「一方的な売り込み」から「共同検討」へと質的転換を遂げます。自社の商品やサービスは、解決手段の候補として自然に議題に上がるのです。 成果が出ない営業の多くは、課題を聴かぬまま説明を開始します。会社紹介と自己紹介、商品説明、市場優位性、同一業界での導入事例、導入に必要なコストと時間、などを型通りに語り、「だから弊社の商品は御社でも役立つはずです」と結ぶ。 しかし、その時相手の頭に浮かぶのは「本当に今必要か」「誇張はないか」「データに誤りはないか」といった検証思考です。そして最悪の場合「断る理由」 を探すスイッチが入ります。経営にも事業にもゴールがあり、それに無関係な商品を導入する理由はありません。 だからこそ、営業が最初に行うべきは相手のゴールと課題を理解することです。 また、現実には、初回から決裁権限者に会えるとは限りません。その場合は担当者の業務目標や達成上の課題を尋ねます。担当者は経営課題全体を語れなくとも、自身の業務上の悩みや課題は語れます。その課題解決を共に考え、自社の提供価値がどこで貢献できるかを探索する。この積み重ねが、やがて決裁者との対話へとつながります。 課題が共有されていない段階で、機能一覧や価格表を提示しても意味はありません。 どの課題に、どの程度効くのかが腹落ちした後に初めて具体的なサービス内容を語ればよいのです。順序を誤らないだけで、商談の進行は大きく変わります。相手が関心を持つ機能に絞れば説明時間は短縮され、空いた時間を建設的な共同検討に充てられます。また、有効な導入事例は必ずしも同業界とは限らず、類似課題を解決した他業界事例の方が響く場合も少なくありません。 結局のところ、すべては傾聴の姿勢に帰着します。 相手の立場に立ち、真剣に話を聴く姿勢があれば、適切な問いは自然に生まれます。「話が上手い営業」ではなく「聴き上手な営業」が選ばれる理由はここにあります。 3.「断る勇気」と「撤退する勇気」 B2B営業において、すべての案件を受注できる営業こそ理想だと考える人は少なくありません。しかし現実には、それは必ずしも優れた営業とは言えません。長期的に企業と組織を守る営業とは、取らない案件を見極め、必要であれば断る判断ができる営業です。 営業現場では、「取りたいが、取ってはいけない」と感じる瞬間が確かに存在します。 過度な個別カスタマイズを当然視する相手、一方的な要求を押し通そうとする姿勢、企業文化として浸透する尊大な態度、価値を理解せず価格のみを追求する責任者。こうした案件を取り続けると、高コスト体質を生み、開発・サポート・経営層を巻き込む間接コストと精神的消耗を招きます。結果として受注が企業負担となることすらあります。 営業には忍耐が必要ですが、すべてのストレスを受け入れる必要はありません。理不尽な要求、通じない交渉、人としての敬意を欠く応対、単なる価格比較のための交渉。これらを無理に前進させることは、組織全体の損失につながります。 不健全なディールを途中で堰き止めることもまた営業スキルの一つです。 「弊社の方針とは合わないため今回は辞退します」。こうした意思表示は失礼でも敵対でもなく、境界線を示す誠実さの表現です。何でも引き受ける企業より、できることとできないことを明確に示す企業の方が、長期的には信頼を獲得します。 撤退の意思決定はリーダーの責務でもあります。 私自身、価格競争が過熱し利益が見込めない大型案件から意図的に降りる決断を本社経営陣と合意のうえで行った経験があります。それは「負けを認める」のではなく、「勝っても損をする勝負から自ら降りる」経営判断でした。また、基本的なビジネスマナーを著しく欠く企業には営業活動を停止する決断を下したこともあります。企業文化は必ず業績に現れます。取引先を選ぶことは、自社の文化を守る行為でもあります。 この考え方は新規営業に限りません。 既存顧客にも撤退すべき相手は存在します。 手間ばかりかかり収益性の低い顧客、合意したはずの事項の実行努力をしない顧客、傾く事業の立て直しの意思を欠く顧客、常に否定から入る顧客。こうした関係を「お客様は神様」とばかりに抱え続けることは、企業の未来を削る選択です。 契約更新時に更新を辞退する判断も、健全な経営には必要です。 興味深いことに、断る勇気を持つ企業ほど結果として良い顧客が集まります。自社文化に合い、対等な敬意を持ち、価値を理解し、成長努力を続ける顧客との関係は単なる取引を超えた信頼関係になります。そしてその顧客は、価格ではなく価値で選び、長期的なファンとなります。 営業は選ばれる仕事であると同時に、付き合う相手を選ぶ仕事でもあります。断る勇気と撤退する勇気は冷酷さではなく、会社と社員と未来を守るための責任ある判断です。本当に価値ある関係に資源を集中することこそが、次の成長を生む営業の姿であり、「経営思考」ではないでしょうか。 結び:営業スキルは経営スキルの一部である 本稿で紹介した三つのスキル、 傾聴の姿勢と売ろうとしない勇気 課題起点の質問力 断る勇気と撤退の勇気 これらはいずれも、単なる営業テクニックではありません。経営者や営業責任者が市場に真摯に向き合いながら、限られた経営資源を正しく配分するための経営思考です。 優れたプロダクトがあっても、優れた対話設計がなければ市場には届きません。 営業活動とは、事業成長の最前線に立つ経営活動そのものです。 ディ・ポップスグループでは、「ベンチャーエコシステム作りを目指す」をビジョンに掲げ、エコシステム内の企業群が持続的に成長できる仕組みづくりと、アドバイザー陣による伴走支援に取り組んでいます。 ※詳しくはこちらをお読みください。「ベンチャーエコシステムとは?」 エコシステム内の企業がこの「経営思考の営業」を実践できるよう、引き続き支援を続けてまいります。本稿が、ベンチャー創業者および事業責任者の皆様の実践的な一助となれば幸いです。 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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2026.02.05
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