COLUMN

D-POPS GROUPが考える「のれん」とは?「のれん償却」見直しの考察

  • MEDIA
2025.06.25

ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。また、このベンチャーエコシステムの成長のために、既存事業のオーガニック成長、新規事業・新会社の設立、M&A、CVC、資本業務提携の5つの基本戦略を推進しております。

今回は、この5つの基本戦略の1つである「M&A」と関わりの深い会計における「のれん」について、その会計処理についてニュースとなっていることもあり、取り扱いたいと思います。特に、「のれん」の「非償却」の可能性についても、言及できればと思います。

「のれん」に関しては、2025年5月30日に「のれんの非償却の導入およびのれん償却費計上区分の変更」に関する要望が、日本の会計基準の設定主体であるASBJ(会計基準委員会)にテーマ受付表として提出されました。この要望は、経済同友会、スタートアップ関連13団体、スタートアップ有志35社、企業経営者有志138名の連名で提出され、首相の諮問機関である規制改革推進会議もこれをフォローし、さらにASBJの議論においても、スタートアップ関係者の問題意識が十分くみ取られ、適切な議論が行われるよう、検討プロセスも含めフォローする旨を公表しています。このことは、日経新聞にも「のれん償却の見直し、民間13団体など会計基準機構に提案」という見出しでニュースになりました。

1.「のれんの非償却の導入およびのれん償却費計上区分の変更」の要旨

なお、今回提出された要望の要旨は、以下のとおりです。

①のれんの非償却を導入(選択制)
のれんの償却と併せてのれんの非償却も認める選択制を適用する。
(遅くともスタートアップ育成5か年計画の終期である2027年度までに結論・措置に至るよう検討を要望)

②のれん償却費の計上区分変更
現在、販売費及び一般管理費として営業費用に計上しているのれんの償却費を営業外費用もしくは特別損失に計上する。
(2026年度の結論・措置の可能性も含めて検討を要望)

2.現在の日本の会計基準における「のれん」の定義と取り扱い

現在の日本の会計基準において、M&Aの代金のうち、対象企業の純資産額を上回る金額については、「のれん」として無形固定資産に計上したうえで、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、規則的に償却するとしています。例えば、純資産3億円の対象企業を10億円の代金でM&Aする場合、7億円が「のれん」として無形固定資産となります。またその際に、投資回収期間を7年と想定していたならば、この7億円の「のれん」を毎年1億円づつの定額、7年間で費用化(償却)することになります。

一方で、IFRS(国際会計基準)、米国会計基準においては、「のれん」について規則的な償却は行わず、「のれん」の価値が損なわれた時に減損処理を行う方法が採用されています。これが、今回提出された要望における「のれんの非償却」です。なお、減損処理とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、将来において確実に回収可能な額を除き、資産を費用化することをいいます。先ほどの例でいうと、7億円の無形固定資産が計上されていたが、対象企業が赤字決算続きとなり回復が見込めない場合には、価値が損なわれた、つまり投資額の回収が見込めなくなったとして、7億円の全額を一時に費用化することになります。

これまで、日本の会計基準は、企業の財務報告の透明性と比較可能性の向上を目的として、IFRSとの整合性を目指し基準の改訂を行ってきましたが、このように「のれん」の会計処理についてはIFRSと相違しています。そのため、M&Aを積極的に行っている上場企業では、この相違を理由として、IFRSに移行している企業も多くあると考えられます。IFRSへの移行には、会計コンサルティングの導入、会計監査報酬の増加といった追加コストはあるものの、それを上回るメリットがあると経営判断した上場企業もあるのではないでしょうか。

3.今回提出された要望の背景

政府は2022年に「スタートアップ5カ年計画」を策定していますが、この計画において、M&Aは、スタートアップのエグジット戦略(出口戦略)のみとしてだけではなく、既存の大企業とのオープンイノベーションの推進策として、その重要性について触れられています。(スタートアップを成長させるM&A)

今回提出された要望は、このスタートアップを成長させるM&Aの促進において、日本の会計基準における「のれん」の償却が、阻害要因になっているということを背景としています。すなわち、「のれん」が償却される場合には、営業費用(販売費及び一般管理費)に計上されるため営業利益がのれん償却による費用額の分、減少することとなりますが、これがM&A検討の障害や、M&Aを断念する理由となっているということを背景としています。

特にスタートアップについては、企業価値(M&A代金)に占める純資産額の割合が小さいことが多く、「のれん」は比較的多額となるケースがあります。また、日本の多くの成長企業において、企業価値の源泉であるコアコンピタンスが、人的資本(従業員の知識やスキル、経験)、知識資本(特許、商標、企業ノウハウ)で構成されていることが多いと考えられますが、スタートアップにおいては、その傾向はさらに強いと考えられます。今後ますますAI領域におけるスタートアップの増加が加速すれば、その傾向も加速的に強まっていくと考えられます。

このように人的資本、知識資本は、企業価値の源泉として極めて重要ですが、現在の会計基準では、これらの「自社で生み出された」無形資産は、原則として資産計上することが認められていません。これは、その価値を客観的に測定することが困難であること、また将来の収益の獲得への貢献が不確実であることなどが理由とされています。

このこともあり、非常に価値の高い人的資本、知識資本を有する企業は、企業価値(M&A代金)は高く評価されるものの、会計上の純資産額は小さいというケースが増加していくと考えられます。この結果、これらを対象企業とするM&Aにおいては、「のれん」は多額となっていく可能性は極めて高いと考えられますし、M&Aを行う企業は、その「のれん」の償却により、営業利益も圧迫される可能性も極めて高いと考えられます。

ところで、営業利益は、企業の本業における収益力を示す重要な指標であり、企業価値に大きな影響を与えるものではありますが、「のれん」の償却、非償却による営業利益の増減は、理論的には企業価値に直接的な影響を与えるものではありません。これは、理論的には企業が将来生み出すキャッシュ・フローにより企業価値は評価されますが、「のれん」の償却は現金支出を伴わない営業費用の計上であり、実際の事業活動から生じるキャッシュ・フローには影響しないためです。

それでもなお、「のれん」の償却による営業利益の圧迫が、M&A検討の障害や、M&Aを断念する理由となるのは、営業利益が企業の本業における収益力を示す重要な指標であり、実務においては理論を超えて企業価値評価に大きな影響を与えているということだと思います。

IFRSではこれまで、営業利益の明確な定義がなく、表示も義務付けされていなかったのですが、今後はその定義を明確化して、表示を義務付けすることを検討しています。このことも、営業利益という指標が、実務においては投資家にとって重要な情報であるということを示唆していると思われます。また、日本においては、IFRS適用企業の多くが、「営業利益」あるいはそれに類する項目を損益計算書に表示しています。

4.ベンチャーエコシステムの実現を目指すディ・ポップスグループが考える「のれん」とは

ディ・ポップスグループも、財務状況や経営状況をステークホルダーに説明する義務を果たすうえで、「のれん」の償却、非償却の双方にメリット、デメリットがあることを十分に理解したうえで、「のれん」の非償却、もしくは、その選択制に賛同いたします。ディ・ポップスグループは、ベンチャーエコシステムの実現、成長の戦略の1つとして、M&Aも積極的に行ってきましたが、やはり「のれん」の償却による営業利益の圧迫が、ディ・ポップスグループが実現している企業成長を含めた経営状況の実態を適切に説明する阻害要因になっていると感じているからです。

また、「のれん」を償却する場合には、決算期ごとに「のれん」の額は償却により減少していきますが、一方で営業利益が圧迫されることにより純資産額の積み上げは少額となります。一方で、「のれん」を非償却とする場合には、減損処理を行うような経営状況にさえならなければ、「のれん」は多額のままとなり総資産額も多額となりますが、営業利益は圧迫されないため純資産額の積み上げも早くなります。

財務状況を表す貸借対照表における資産の本質は、平易にいうと、「企業が現在持っている、将来の稼ぐ力のもとになるもの」であり、そして、純資産額は、株主からの出資を除くと、「企業が獲得した利益の蓄積」を表していると考えます。

ディ・ポップスグループにおいては、M&Aでグループ企業としてベンチャーエコシステムに参画してもらう際には、投資額よりも多く将来の稼ぎ、つまり投資回収としてのキャッシュ・フローをもたらすことに確信をもっています。それは、戦略の1つであるコングロマリット・プレミアムによるグループシナジーがあるからであり、そして、ベンチャーエコシステムという共存共栄関係のなかでの事業成長により、このキャッシュ・フローが年々増加していくことを目指しています。

そのため、「のれん」が多額となったとしても、それは、M&A投資による将来の稼ぐ力を適切に表し、そのM&Aの投資回収が純資産の積み上げとなることは、獲得した利益の蓄積を適切に表すと考えるため、財務状況のステークホルダーへの説明においても適切であると考えます。

最後に、ディ・ポップスグループでは、M&Aを行う際に優れたビジネスモデルに着目する場合もありますが、多くの場合には優れた経営戦略を着実に実行する経営者の能力、ノウハウにより重点をおいています。これはディ・ポップスグループが目指すベンチャーエコシステムが、自立支援を重視し、独立した経営者集団であることを目指していることと関連しています。

つまり、コングロマリットプレミアムなビジネス環境を提供し、グループシナジーのなかで更なる自社の成長を望む経営者のためのエコシステムであり、そのため、基本的にはグループジョイン後も継続して自社の経営、成長にリードしていただきたいと考えています。

このような経営者が創ってきた企業は、ディ・ポップスグループにジョインする段階で、研究開発費、人材育成費、マーケティング投資など、将来の収益拡大や競争優位性の構築を目指すための戦略的な投資により、非常に価値の高い人的資本、知識資本が構築されています。

資産の本質は、「企業が現在持っている、将来の稼ぐ力のもとになるもの」であり、画期的な技術を開発するための研究開発費や、優秀な人材を育成するための研修費も、将来の収益増加に貢献するはずであるのに、前述のように、これらの「自社で生み出された」無形資産は、原則として資産計上することが認められていません。このことは、特に無形資産が企業価値の大部分を占める現代の知識集約型社会において、企業の財務諸表がその企業の真の価値や投資の実態を十分に反映していないという課題を生んでいると考えます。

このような状況下で、M&Aによってグループ参画した企業の「のれん」を償却することは、ある種の二重費用計上のような側面を持つ可能性があると考えています。なぜならば、「のれん」の大部分は、グループ企業が過去に人的資本や知識資本に投じた費用、「将来の企業成長のための投資となる費用」であり、資産として計上されなかったものが、M&Aによってようやく「のれん」という形で資産計上されたものと考えられるからです。つまり、過去に一度費用として処理された投資が、「のれん」の償却で再度費用となりかねないという問題があります。

これまで述べてきたように、ベンチャーエコシステムの実現を目指すディ・ポップスグループにとって、「のれん」の大部分の本質は、人的資本、知識資本であり、コングロマリットプレミアムのコアとなる重要な資産であると考えています。そして、これがグループシナジーに拍車をかけ、エコシステム内により多くのキャッシュ・フローが創出され、それがまた将来のエコシステムの成長のために投資されていくという好循環を生み出すことでイノベーションを加速し、日本の未来に貢献したいと考えています。

東京証券取引所のグロース市場の見直しにより、M&Aは、成長戦略の重要な柱として、エグジット戦略の1つとして、その重要性はますます高まっていくと考えられます。「M&A」と関わりの深い「のれん」の会計処理について、これから行われるASBJの検討内容に注目していきたいと思います。

これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。

D-POPS GROUP 執行役員 公認会計士 米谷好弘

関連記事

【The Salons Japan】美容師の新しいカタチの独立開業支援サービス『THE SALONS』の心斎橋店・梅田茶屋町店を訪問!
2026年7月30日に資本業務提携企業のThe Salons Japan株式会社が運営する完全個室美容モール『THE SALONS』の心斎橋店と梅田茶屋町店にお邪魔してきました! 『THE SALONS』とは? 『THE SALONS』は、美容師やビューティシャンが月額賃料のみで自分だけの完全個室サロンをオープンできる、全く新しいカタチの独立開業支援サービス(モール型サロン)です。大きな特徴として、以下のポイントが挙げられます。 ・   低リスクで“自分のサロン”を持てる:初期費用0円から開業可能であり、資金に縛られず自身のタイミングで独立の夢を叶えることができます。 ・   あなたらしいサロンを叶える:内装から働き方まで全て自由となっており、美容室をはじめ、エステやネイルなど幅広い業種に対応しています。 ・   充実の設備と独立を支えるサポート体制:各区画にはフルフラットバックシャンプー台やシンク、照明、Wi-Fiが完備されており、光熱費や月300枚までのレンタルタオルも料金に含まれています。また、融資相談から将来の路面店出店までトータルで支援する体制が整っています。 一般的な半個室のシェアサロン(利用者契約)とは異なり、完全個室の独立店舗として「店舗出店契約」を結ぶため、1人のサロンオーナーとしての社会的信用が得られるのも大きな魅力となっています。 【THE SALONS 心斎橋店】 THE SALONS心斎橋店は、四ツ橋駅から徒歩1分、心斎橋駅から徒歩4分ととても通いやすい場所にあります。心斎橋駅からはクリスタ長堀の地下街を通って、北12番出口を出るとすぐの場所にあります。地下街にはいろいろなお店が並んでいるので、予約の時間まで少し余裕があるときでも楽しく過ごせそうだなと思いました! 訪れたのは平日だったこともあり、お休みの店舗も多く見られましたが、7月末時点で満室となっていました! 完全個室の独立型サロンで、美容師さんお一人で営業されている店舗も多いからか、お子様連れのお客様の姿もちらほら見かけました。気心の知れた美容師さんのもとであれば、安心してお子さんを連れて行けますよね。これもTHE SALONSならではの魅力だなと感じました。 【THE SALONS 梅田茶屋町店】 THE SALONS梅田茶屋町店は、大阪梅田駅から徒歩2分ととても通いやすい場所にあります! カラーやパーマは施術時間が長くなりがちで、待っている間についお腹が空いてしまうこともありますよね。そんなときに同じビル内にバーガーキングがあるのは心強いポイント。施術帰りはもちろん、待ち時間にサッと小腹を満たせるのも嬉しいところです。 梅田茶屋町店は、個室の広さや窓の角度などが部屋ごとに違っていて、同じ店舗の中でもサロンごとの雰囲気がまったく異なっているのが印象的でした。個室の形がそれぞれ違うからこそ、光の入り方や開放感など、自分にとってぴったりの空間を探すことができます! THE SALONSの各店舗には、あらかじめシンクとシャンプー台が備え付けられています。それ以外の家具などは自分の好みで自由に選べるので、水道まわりの心配をせずに、自分らしい店舗づくりが楽しめるのは嬉しいポイントだなと思いました。 今回心斎橋店と梅田茶屋町店を紹介してくださった、The Salons Japanの秋山さんには、店舗について詳しく教えて頂きました。ありがとうございました! 同社の取締役も務める、ディ・ポップスグループのアドバイザーの杉原と共に写真を撮らせていただきました。 ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。 The Salons Japanもベンチャーエコシステムの仲間として精一杯応援してまいります。 ディ・ポップスグループ ブランド戦略室 川口
  • MEDIA
2026.09.09
【百名山から学ぶベンチャー経営論】 第四部「アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませ」
ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。 アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げて以来、全国の山々を登り続け、執筆時点で53座まで登りました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、判断や学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。 山では、計画や装備が万全でも事故は起こります。その多くは、変化の兆候を見逃し、判断が遅れた時に起こります。第四部では、ベンチャー企業経営にも通じる、外部と内部の変化を察知し、適切な判断につなげることの重要性について考えてみます。 10. アンテナを張り巡らせよ ~外部環境の変化に敏感になれ~ バスケットボールや卓球などの屋内スポーツと登山の決定的な違いは、天候の影響を大きく受けること、そして自然が相手だということです。 登山の計画段階で、台風はもちろんのこと、暴風や雷の予報があれば登山を延期すべきことは明白です。しかし、予報段階をクリアして、いざ実行段階に入ってからも、山の天候は変わりやすく油断はできません。また、森深い山では最近特に話題の熊のみならず、猪や蜂やヒルなどに遭遇することもあります。岩山では突然の落石に見舞われることもあります。 それらに適切に対処することはもちろんですが、できるだけ事前に察知できることが理想です。 肌で感じる気温の急激な変化、ザワザワという笹の音、怪しい木の動き、小石が上から転がってくる音…。これらはその後の大きな危機が襲いかかる前兆かもしれません。 私自身も、晴れ予報の日の登山だったにも関わらず、突如としてガスが湧いて視界が真っ白になったために、道を誤り30分ほど道なき道を歩いてしまったことがあります。あの時は、視界が悪くなった段階で早めにGPSで現在地を確認すべきだったと反省しました。 また、笹の濃い山道を歩いている時、突然、笹がざわざわと揺れました。「ついに熊か」と身構え、一度立ち止まり、万が一熊だった場合にどう対処するかを頭の中で整理しました。結局、茂みから現れたのは大きな鹿でしたが、あの時も外部の小さな変化を見逃さないことの大切さを実感しました。 (左:ガスで視界不良となった岩道、中:後を付けられた猿、右:突如現れた鹿) このように、登山中は常に外部にアンテナを張り巡らせ続けなければならないのです。このアンテナの感度を高く保ち、そこで捉えた変化を素直に受け止め、適切に判断できるかどうか。それが、登山中の事故を未然に防げるかどうかを左右するのです。 このことは、ベンチャー経営にも例えられます。屋内スポーツをビジネススクールで学ぶ座学に例えるとすると、外部環境の影響を受ける屋外スポーツは実際の事業運営に、そして自然環境に左右される登山はベンチャー企業の経営に、より近いものだと思います。 企業が受ける外部環境、すなわち市況の変化、新技術の登場、法律の改正などからの影響は計り知れません。あらゆる企業は、外部環境の変化の中で事業を営んでいると言っても過言ではありません。顧客の反応が少し鈍くなった、利用率が減少に転じた、営業現場から同じ質問が増えてきた。こうした小さな変化は、大きな市場変化よりも早く現れることがあります。大企業でも影響を受けるくらいですので、ましてやベンチャー企業にとっては、存続が危ぶまれるほどの激しい変化もあるのです。最近では、AIエージェントの急速な普及、グローバルプラットフォーマーの勢力拡大、少子化、金利上昇による投資家の投資方針の変化などが挙げられます。 ベンチャーの経営チームは、これらの変化を敏感に察知すると共に、先手先手で戦略や計画を練り直し、適切に対処する。場合によっては、ピンチをチャンスに変えるほどの大胆な一手を打つ。その覚悟と行動力が求められるのです。 危機は、突然現れるように見えて、その多くは小さなサインを出しています。そのサインに気付けるかどうかが、登山でも経営でも、生き残る者とそうでない者を分けるのです。 11. センサーを研ぎ澄ませよ ~内部環境の変化に気が付け~ 外部環境の変化に目を向けることと同じくらい重要なのが、内部環境の変化に気付くことです。 登山における内部環境とは、ソロ登山であれば自分自身の、グループで登る場合には自分だけでなく、メンバー一人ひとりの調子やバイオデータの変化を指します。登山中は、自分の体が発するさまざまな情報を受け取るセンサーを持つ必要があります。 バイオデータの取得に関しては、最近、登山用アプリやスマートウォッチなどで、歩行ペースを確認したり、歩きながら心拍数を確認したり、休憩中に血中酸素濃度を測定したりできるようになりました。また、そういったデバイスでは測れない、膝や足腰の関節の調子、筋肉の疲労度、発汗量などの変化にも敏感である必要があります。 デジタル機器では測れない変化こそ、自分自身の感覚で捉えなければなりません。 私の場合、登山を始めたばかりで膝が今よりも弱かった頃は、山を登っている間に、「この調子で登り続けたら、下山できなくなる」と感じた日は、途中で勇気を持って下山に切り替えたことがあります。あのまま登り続けて、下山できなくなるよりも、はるかに正しい判断だったと思います。 (左:通常の登山中、中:異常な心拍数、右:2700m下での血中酸素濃度) 一方、ベンチャー経営においては、社長の体調を整えることはもちろん重要ですが、会社の内部環境の微妙な変化を察知することも重要です。 何気ない会話や挨拶が減った、オフィス内の整理整頓が乱れ始めた、ボトムアップで情報が上がってこなくなった、無断欠勤者や理由が不明確な退職者が増えてきた…。これらはいずれも会社が傾く前の予兆です。 経営者は、ビジネスのセンスだけでなく、こういった内部環境の変化に敏感に気付けるセンサーも持ち合わせていなければなりません。 そのセンサーが鈍いと、社長自身はエネルギーにあふれ、やる気に満ち、前を向いて邁進しているにもかかわらず、ふと立ち止まると、メンバーは誰一人ついてきていなかったとか、皆疲弊してパフォーマンスを発揮できなくなっていた、ということが起きがちです。 リーダーは前を見るだけでなく、社内全体を見渡し、小さな異変を見逃さない余裕を持たなければなりません。組織は突然崩れるのではなく、小さなほころびが積み重なった結果として崩れていくからです。 12. 重要な局面では特に冷静になれ ~状況を見極め、最善の一手を打て~ さて、張り巡らせたアンテナから情報を受け取り、研ぎ澄ませたセンサーが危険な信号を捉えたら、その時、どう対処すればよいのでしょうか。 登山においても経営においても、特に悪い情報、危険な信号を検知した時ほど、冷静になることが大事です。登山では、濃霧の中での道間違い、突然の土砂降り、岩場での捻挫や打撲、疲労による筋肉の痙攣など、さまざまな外部環境・内部環境の変化から生じる危機に直面します。 ベンチャー経営においても、AIの普及による顧客ニーズの劇的な変化、競合企業同士の合併発表、関連法規の変更、経営幹部の突然の退職、顧客情報の漏洩事故など、同じく様々な危険信号を受信します。 そんな時こそ、決してパニックに陥らず、冷静さを保ち、慎重かつ適切に判断し、その判断に基づいて迅速に行動することが求められます。パニックになり右往左往すれば、間違った方向にさらに進んだり、無駄な体力を消耗したり、怪我を悪化させたりすることにもなりかねません。 事が起きたら、まず一旦落ち着いて情報を集め、状況を把握し、分析する。次に、最悪の事態を想定しながら、それでも生き残る方法、登山であれば無事に下山する方法を考える。 そして、取るべき行動を決めたら、迅速に実行する。熟考は必要です。しかし、決めた後まで迷い続けていては、対応が遅れます。 私自身も、月山で雪渓を下山中に滑落したことがあります。その瞬間は頭が真っ白になりました。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、這って安定した場所まで移動し、靴下を脱いで患部をチェックしました。パニックになって慌てて歩き出すのではなく、まず体の状態を確認し、山頂を目指すべきではないと冷静に判断し、しっかりと休みを取ってから下山を開始しました。 また久住山では、登頂に成功した後の下山中ということで疲労が溜まっていたとに加え、ガスによる視界不良、そして晴れていても間違えやすいという藪道が重なって、数度の道間違いを起こしました。いずれも立ち止まって現在位置を確認し、間違えたポイントまで引き返す、という鉄則を守ったことで事なきを得ました。 いずれも、焦って無理な行動を取っていたら、状態をさらに悪化させていたかもしれません。 (二度も道に迷った久住山の藪の道) これらは登山でもベンチャー経営でも同じです。重要な岐路を迎えた時、危険を察知した時ほど、冷静に対処し、最善のアクションを考え、行動に移すことが求められるのです。 日本百名山には様々なタイプの山があり、それぞれに様々な危険が潜んでいます。そしてその自然環境は季節により、日により変化するし、自分の体調も日々変わります。ベンチャー経営の現場においても、市場も、競合も、顧客も、そして社内のメンバーも日々変化しています。 アンテナを張り巡らせる。センサーを研ぎ澄ます。危険を察知した時ほど、慌てず冷静に状況を見極める。熟考した上で取るべき行動を決めたら、迅速に最善の一手を打つ。 これらの習慣が、ベンチャー企業が生き残り、飛躍的な成長を遂げるための土台となるのです。 ———————— 以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第四部でした。 この挑戦も一年が過ぎました。当初は恐る恐る始めた本格的な登山ですが、今や全ての行程や景色を楽しめる余裕が出てきました。と同時に、挑戦する山も徐々に険しくなり、怪我や事故のリスクが高まってきました。 アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませて細心の注意を払いながら、諦めない心で、一座一座挑戦しながら、この連載を続けていきたいと思います。 次回は「不撓不屈と慎重さの両立」 をテーマに、「もう無理」と「あと一歩」が紙一重であること、大胆さと慎重さの両立、恐怖心を乗り越えることなどについて考えてみたいと思います。 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
  • MEDIA
2026.08.26
【エコシステム事例】Payke × Location AI、データ連携がひらく新しい共創のかたち|「何を買ったか」と「どこへ行ったか」がつながる未来とは?
2026年4月14日、一つのプレスリリースが公開されました。 訪日外国人向けショッピングアプリ「Payke」を運営する株式会社Payke。位置情報ビッグデータを活用した人流分析プラットフォームを提供するLocation AI株式会社。この二社が、データ連携を軸とした業務提携を開始したという発表です。 プレスリリース:「訪日外国人向けショッピングアプリ『Payke』と連携。」 今回の提携の核心は、Location AIが持つ「人がどこへ移動したか」という人流データと、Paykeが持つ「何に興味を持ち、何を買ったか」という購買・関心データを掛け合わせること。これまで「点」として捉えられてきた旅行者の行動が、「どこへ行き、何に興味を持ち、何を買ったのか」という一つのストーリーとして見えてくるようになります。 では、なぜこの二社は出会い、わずか半年ほどで業務提携に至ったのでしょうか。そして、この掛け合わせは日本のインバウンドや観光の未来をどう変えていくのでしょうか。両社のサービスの特徴から提携に至った背景、そしてこれから描く未来まで、お話を伺いました。 まず、両社のサービスについて教えてください Paykeは、どのようなサービスを提供しているのでしょうか? Payke: Paykeは、訪日外国人旅行者の買い物における「分からない」を解消する、ショッピングサポートサービスです。日本を訪れた外国人旅行者が商品を手に取っても、パッケージが日本語だけでは、用途や使い方、特徴、成分などを十分に理解できないことがあります。 そこでPaykeのアプリでは、商品のバーコードをスマートフォンで読み取るだけで、基本情報や使い方、特徴などを多言語で確認できるようにしています。単にパッケージの文字を翻訳するのではなく、当社が保有する商品データベースから、旅行者が商品を選ぶ際に必要な情報を届けていることが特徴です。 アプリだけでなく、店頭に設置する「Payke Tablet」も提供しています。旅行者自身が端末で商品のバーコードを読み取り、母国語で商品情報を確認できるため、多言語を話せるスタッフが常にいなくても、商品の魅力を伝えることができます。 Paykeは、翻訳や商品案内だけではなく、データの面でも強みを持っているのでしょうか? Payke: はい。私たちが蓄積しているのは、最終的に何が売れたかという販売データだけではありません。アプリやタブレットを通じて、 どの商品がスキャンされたのか どの商品と比較されたのか どの国籍や年代の人が関心を持ったのか といった、購入前の関心や検討行動も捉えることができます。 一般的な販売データに表れるのは、最終的に購入された商品です。一方、スキャンデータには、関心を持ったものの購入されなかった商品や、店頭で比較された商品も表れます。つまり、売上だけでは分からない、旅行者の心の動きに近づくことができるのです。 私たちは「何が売れたか」だけでなく、「なぜ関心を持ち、なぜ選ばれたのか」まで理解し、メーカーや小売企業の次の施策につなげたいと考えています。 価値は、伝わって初めて価値になる Paykeは、単に外国語を表示するサービスではありません。本来であれば選ばれていた可能性のある商品が、情報不足によって棚へ戻されてしまう。その見えない機会損失を減らし、日本の商品が持つ価値を、正しく旅行者へ届けています。どれほど優れた商品やサービスも、その価値が相手に理解されなければ選ばれることはありません。Paykeの事業は、経営における「価値をつくること」と「価値が伝わる状態をつくること」、その両方の重要性を示しています。 Location AIは、どのようなサービスを提供しているのでしょうか? Location AI: 私たちは、位置情報ビッグデータをAIで解析し、現実世界における人の流れを可視化・分析するサービスを提供しています。「Location AI Platform®」では、人がどこから訪れ、どこに滞在し、その後どこへ移動したのかを分析できます。商圏分析、出店計画、観光地分析、イベント分析、広告配信など、幅広い分野で活用されています。 たとえば、ある観光地にどの国から旅行者が訪れているのか、訪問前後にどの場所へ立ち寄ったのか、曜日や時間帯で人の流れがどう変化するのか。こうしたことを、実際の人流に基づいて捉えられます。これまで経験や感覚で判断されることが多かった領域を位置情報に基づくファクトへ変え、企業や自治体の意思決定を支援しています。 人流データがあることで、企業や自治体の判断はどのように変わるのでしょうか? Location AI: たとえば新しい店舗を出店する場合、従来は周辺人口や駅の乗降者数、担当者の経験などを基に候補地を選ぶことが多かったと思います。しかし、人口規模が同じエリアでも、実際にどのような人が、どの時間帯に、どの方向から訪れているかは異なります。 観光地も同様です。来訪者数だけを見ても、その旅行者がどこから来て、観光地の前後にどの場所を訪れたかまでは分かりません。実際の移動を捉えられることで、旅行者の誘致、広告の効果測定、店舗の出店、観光地の周遊促進などを、勘ではなく事実に基づいて計画できるようになります。私たちは、データを保有するだけでなく、現場の方が分析や意思決定に使える状態で提供することを大切にしています。 Paykeは、Location AIのサービスを初めて見たとき、どのような印象を持ちましたか? Payke: 打ち合わせの中で、実際に管理画面を見せていただいた瞬間が強く印象に残っています。地図上に人流データが可視化され、エリアや期間を切り替えると、訪日外国人のお客様の動きがその場で浮かび上がりました。 「データを持っていること」と「データを誰もが使える形にしていること」の間には、大きな距離があります。Location AIは、それをプロダクトとして高いレベルで完成させていました。さらに、技術者同士の打ち合わせでは、データ連携の方式が非常に速いスピードで決まっていきました。プロダクトの完成度だけでなく、意思決定と実行の速さにも驚かされました。 データの価値は、量ではなく行動で決まる 経営者が必要としているのは、膨大な数字そのものではありません。数字を見た結果として「では、何をするべきか」が分かることです。専門家しか扱えなかった位置情報ビッグデータを、経営者や現場担当者が意思決定に使える形へ変える。Location AIの強みは、データを「情報」で終わらせず「行動」へ変えていることにあります。 二社は、どのように出会ったのでしょうか? 今回の業務提携は、どちらから声を掛けたのでしょうか? Payke: 正直に申し上げると、「どちらから」という感覚があまりありません。きっかけは、2025年10月に開催されたD-POPS GROUPの「ベンチャーエコシステムサミット」でした。 会場でご挨拶したのが最初の接点です。Location AIさんは、D-POPS GROUPから事前に当社の事業について聞いてくださっていて、その場で「多面的な協業があり得るのではないか」と話が弾みました。翌日にはディスカッションのお誘いをいただき、最初の打ち合わせでお互いに「これは一緒にやるべきだ」と感じました。声を掛けた、掛けられたというよりも、D-POPS GROUPとの縁によって出会うべくして出会った、という表現が近いと思います。 Location AI: インバウンド旅行者の分析や広告配信を強化したいという考えがあり、当社からも積極的にお声掛けしました。D-POPS GROUPからPaykeさんのお話を伺ったときから、協業の可能性は感じていました。初回の打ち合わせで、当社の人流データとPaykeさんのデータを掛け合わせることで、より付加価値の高いサービスを提供できると確信しました。 初めて話したとき、「絶対に一緒にやるべきだ」と感じたのはなぜでしょうか? Payke: 両社のデータが、ちょうど「鏡合わせ」の関係になっていると気づいたからです。Paykeは、訪日外国人のお客様が「何に興味を持ち、何を買ったのか」という購買・関心のデータを持っています。しかし、その方がお店に来る前にどこを訪れ、購入後にどこへ移動したのかという「動き」は見えていませんでした。 一方、Location AIさんは「人がどのように動いたのか」という人流データを持っていますが、その人が移動先で「何を買ったのか」までは見えません。お互いに見えていなかった部分が、パズルのピースのように重なりました。この構図が見えた瞬間、議論は「やるか、やらないか」ではなく「何から始めるか」に変わりました。 Location AI: 私たちも同じ感覚でした。Paykeさんは、購買行動と結び付いたデータに加えて、旅行者の国籍や年代に関する信頼性の高いデータを持っています。人流だけでは分からなかった旅行者の興味や購買行動を理解できる。当社にとっても、サービスの精度と価値を大きく高められる組み合わせでした。 なぜ、他社ではなくこの二社だったのでしょうか? Payke: 大きく二つあります。一つ目は、同じD-POPS GROUPの出資先同士であるという、信頼の基盤です。データ連携は、お互いのユーザーやクライアントに対する責任を伴う、非常にセンシティブな取り組みです。だからこそ「信頼できる相手であること」が何よりも重要でした。同じ株主の下で経営に対する考え方や成長への姿勢を共有できていたことは、交渉のスピードにも議論の質にも大きく影響しています。 二つ目は、技術力とデータの規模です。位置情報ビッグデータをAIで解析し、誰もが利用できる形へ可視化したプラットフォームの完成度。そして、世界規模の人流データ。この二つがそろっている相手は、ほかにはいませんでした。 Location AI: Paykeさんが、購買行動と結び付いたデータと、正確な国籍・年代情報を持っていたことです。また、サービスを開発するだけでなく多くの流通・小売事業者に導入され、実際に旅行者から利用されている点も大きな魅力でした。データの量だけではなく、実際の購買行動に基づく信頼できるデータであることを高く評価しています。 強い企業は、自社に「見えていないもの」を認められる 企業は、自社の強みを語ることには慣れています。一方で、本当に大きな変化が始まるのは、自社だけでは見えない領域を認めたときなのかもしれません。すべてを自社でつくろうとするのではなく、異なる強みを持つ企業とつながる。弱みを隠すのではなく、他社の強みによって可能性へ変える。イノベーションとは、必ずしも何もないところから新しい技術を生み出すことだけではありません。すでに存在する優れた価値同士を、新しい意味でつなぐことでもあります。 購買データと人流データがつながると、どのような変化が生まれますか? Payke: 購買は、旅の中の「ワンシーン」です。旅行者の一日は、移動、観光、食事、買い物、宿泊の連続です。これまでの購買データが切り取っていたのは、その中の一瞬でした。そこに人流データが重なることで、“点”だった購買が“線”のストーリーとして見えるようになります。 たとえば、台湾から来た旅行者がドラッグストアで化粧品を購入したとします。その前にどのエリアを観光し、その後どの街へ移動したのか。「何が買われたか」だけではなく、「なぜ、その商品が、その場所で買われたのか」という文脈まで理解できるようになります。これは、購買データだけではたどり着けなかった世界です。 Location AI: 購買行動と訪問先を一緒に分析することで、旅行者の趣味嗜好や興味関心を、より深く理解できるようになります。さらに、その理解に基づいた広告配信も可能になります。人がどこを訪れたのかだけでなく、何に興味を持ち、何を購入したのかまで分かることで、旅行者により適した情報や体験を届けられるようになります。 分析するだけでなく、次の行動を促すこともできるのでしょうか? Payke: はい。私たちは、行動を「見えるようにする」だけで終わらせたくありません。Paykeのアンケートを通じて、行動の背景にある「なぜ」を直接聞くことができます。さらに、位置情報と連動した情報配信によって、お客様の次の行動を後押しすることもできます。理解した行動に対して、その場で働きかける。「見る」と「動かす」を一気通貫で行えることが、今回の提携の面白いところです。 この提携は、日本の観光をどう変えるのでしょうか?メーカーや小売以外では、どのような企業や組織が活用できますか? Payke: 自治体、DMO、観光事業者は、明確に対象になると考えています。訪日客がどこから来て、どこを回り、どこで何を消費したのかが分かれば、地域内の周遊促進や、観光地への集中を防ぐオーバーツーリズム対策にも活用できます。観光コンテンツの磨き上げなど、地域の意思決定にもそのまま使えるデータになります。ほかにも、空港、鉄道、交通事業者、商業施設、デベロッパーなど、インバウンドの移動と消費を知りたいあらゆる企業が対象になり得ます。 Location AI: 自治体や旅行会社、コンサルティング会社、広告代理店などにも活用いただけます。実際の人の動きを基に旅行者の誘致を計画できるようになるため、より根拠のある観光マーケティングが可能になります。 地方創生には、どのような可能性がありますか? Location AI: あまり予定を決めずに長期滞在する旅行者に対して、京都などの著名な観光地だけではなく、別の地域への訪問を提案できるようになります。旅行者の興味関心や行動を理解したうえで、本人に合う新しい行き先を届けることで、地方への周遊につなげられると考えています。 Payke: 地方に魅力がないのではなく、旅行者にその魅力が届いていないケースは少なくありません。購買と人流を一緒に捉えることで、その人がどのような体験や商品に関心を持っているのかが分かります。その関心に合った地域の商品、文化、食、自然、体験を、適切なタイミングで届けられるようになります。 データが、地域の未来をつくる 今回の提携によって生まれるのは、広告の精度向上だけではありません。旅行者を有名観光地から無理に移動させるのではなく、一人ひとりの興味に合う新しい行き先を提案する。その結果として旅行者の体験が豊かになり、地方にも新たな人と消費が流れていく。企業の売上を増やすためのデータが、地域の未来をつくるデータへ変わる。そこに、この提携の社会的な価値があります。 提携の成果と、これからの目標を教えてください 提携発表後、社内や市場からはどのような反応がありましたか? Location AI: データ量が増え、ファーストパーティデータに基づいた分析や広告配信ができるようになったことで、サービスの魅力が高まったという反応がありました。既存のお客様からも、分析や配信の信頼度が増したというお言葉をいただいています。新しいお問い合わせの増加にもつながっています。 Payke: 社内では、データチーム、広告チーム、営業チームが、それぞれ「この案件に活用できそうだ」と、具体的な提案へ結び付けて考え始めています。発表後は、既存クライアントから「人流と掛け合わせた分析はできないか」という相談や、広告会社・代理店からの問い合わせが増えました。特に、自治体、空港、交通関連など、Payke単体では接点をつくりにくかった領域からの引き合いが生まれています。 この提携が成功したと判断する指標は何でしょうか? Payke: 三つの段階で考えています。第一に、メーカー、小売、自治体などへの共同提案や共同案件の数。第二に、連携データを活用した分析・広告メニューを継続的に利用いただく企業の数。そして最終的には、両社のデータを統合した「インバウンドの消費×人流」という指標が、業界のスタンダードとして参照される存在になることです。単発のキャンペーン成功ではなく、この提携から生まれる案件が増え続けているかを、最も大切な物差しにしています。 Location AI: 当社としては、インバウンド関連の問い合わせが増えること、連携を活用した新しいサービスが生まれること、そして最終的に収益の向上へつながることを重要な指標としています。 D-POPS GROUPに、今後期待することはありますか? Payke: 今回の提携は、サミットの会場で交わした一つの挨拶から始まりました。出資先同士が実際に出会い、化学反応を起こせる「場」をつくっていただいたことに、まず感謝しています。D-POPS GROUPのエコシステムには、私たちがまだ出会えていない技術やアセットを持つ企業が、数多く存在していると思います。これからも、第2、第3の「Payke × Location AI」が生まれる掛け算の起点であり続けてほしいです。私たちも、成功事例の一号として、エコシステム全体に貢献していきたいと考えています。 Location AI: 今後も、今回のようにシナジーが生まれる投資先企業とのアライアンスを、積極的に推進していただきたいです。当社も、人流データの分析や広告などの領域で、さまざまな企業との柔軟な協業を進めていきたいと考えています。 最後に、この記事を読む企業へメッセージをお願いします Payke: 今回の提携によって、インバウンドの捉え方は「点」から「線と面」へ変わります。これまでは「商品が売れた瞬間」のデータが中心でした。これからは、その前後の動きとして、どこから来て、どこを回り、その後どこへ向かったのかまで含めて捉えられます。訪日外国人市場に向き合うメーカー、小売企業、自治体、観光事業者の皆様は、勘や断片的なデータだけでなく「購買×人流」の統合されたファクトを基に意思決定できるようになります。 大がかりなプロジェクトから始める必要はありません。一つの商品、一つのエリアの分析から、スモールスタートできます。インバウンドの実像を知りたいと感じたら、ぜひ一度ご相談ください。 Location AI: 私たちは、人流データの解析を基に、分析や広告などの分野で柔軟なアライアンスを進めていきたいと考えています。購買データ、人流データ、顧客データなど、異なるデータを組み合わせることで、これまで見えなかった新しい価値を生み出せます。協業に関心をお持ちの企業は、ぜひお問い合わせください。 編集後記 PaykeとLocation AIは、互いに足りないものを単純に補い合ったわけではありません。それぞれが長い時間をかけて磨いてきた強みを持ち寄り、一社では生み出せなかった価値に変えました。 今回の提携は、インバウンドマーケティングを進化させる取り組みであると同時に、企業がどのようにつながり、社会に新しい価値を生み出すべきかを示す、経営の事例でもあります。 自社だけですべてを抱え込む時代は、もう終わったのかもしれません。自分たちに見えていない領域があることを素直に認め、違う強みを持つ企業と手を組む。顧客も、技術も、データも、知見も、お互いに持ち寄る。そうやって生まれるものは、単純な足し算ではなく、掛け算に近い広がり方をするのだと思います。 これが、当社が「ベンチャーエコシステム」という言葉に込めている意味です。 D-POPS GROUPが目指すベンチャーエコシステムとは?  正直なところ、大きな変化のきっかけは、綿密な事業計画よりも、ちょっとした出会いだったりすることの方が多い気がしています。この人と組んだら面白そうだ、そう感じた瞬間にまず動いてみる。 そんな小さな一歩の積み重ねが、数年後には業界の当たり前になっている。そういうものを、これからも見ていきたいと思います。 D-POPS GROUP アドバイザー 佐藤壮
  • MEDIA
2026.08.25
一覧を見る