
ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。
アドバイザーとして従事する杉原は、昨年の夏に立山へ登ったことをきっかけに、「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げ、仕事の合間を縫って全国の山々を登り続けています。
本連載では、「共に学び、共に成長する」というバリューを体現する取り組みとして、その挑戦の中で経験した成功や失敗、計画や準備、判断や撤退の大切さなどを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察していきます。
登山も経営も、目指す頂を定め、計画(戦略)と準備を整え、一歩ずつ前進していく営みです。この連載が、皆様自身の仕事や挑戦を考えるきっかけになれば幸いです。
今回は第一部として、ベンチャー経営を登山に例えながら、ビジョンの重要性と、その実現に向けて必要な準備について考えてみたいと思います。
1. 登るべき頂(ビジョン)を決める
~ ビジョンなき挑戦は続かない ~
ダイエットのために何となくウォーキングを始める。観光で訪れた街で、旅先で小高い山に登って市内を展望する。健康や観光のためにはもちろんいい運動にはなります。しかし、それだけでは「挑戦」と呼ぶには少し物足りません。目指す頂や、一連の山を明確に設定した挑戦の方が、達成した時の喜びは大きく、学びも多く、経験としても深く残ります。
ベンチャー経営も似ているのではないでしょうか?何となく「社長をやりたい」「お金持ちになりたい」という動機だけでは、社会に価値を生む大きな事業を育てることは難しいでしょう。
事業を興すには、明確なビジョンと具体的な目標を描く必要があります。
経営者だけでなく、ビジネスパーソンや職人も同じ。将来こういうキャリアを歩みたい、◯◯のプロになりたい。そうした目標を明確に持つことで、人は必要な学びや経験を自ら取りに行くようになります。
私事ですが、一年前までは体脂肪燃焼のためくらいの気持ちで高尾山や大山などに登る、軽いハイカーでした。しかし、昨年の夏、初めて訪れた富山県で、その険しさを知らないまま立山の最高峰に登った時に、人生が変わりました。
薄い酸素でふらふらになりながら辿り着いた山頂で、360度に広がる山々を見た時、「もっと難しい山にも挑戦したい」という感情が一気に湧き上がりました。
そしてある日、「日本百名山」という書籍に出会い、一気に読み終えた頃には、私の中のベンチャー魂に再び火が付いていました。
「アラカンで日本百名山を完登する」
という、明確な目標を持つに至ったのです。

(立山の雄岳頂上からの眺めと目指すきっかけとなった日本百名山の本)
昨年8月のその日以来、コツコツ登り続けて、執筆現在で41座(山の数え方)に登頂しました。当時は全くの素人でしたので、低い山でもクタクタになっていましたが、徐々に体力が付いて、高い山、険しい山にも登れるようになりました。
今でもまだまだ体力にも登山技術にも課題はありますが、登頂を重ねるに連れ、登山への情熱は高まるばかりです。百名山という目標を持たなければ、私はここまで登れなかったと思います。
ベンチャー経営も同じ。創業時のビジョンが明確であるほど、必要な準備をする原動力になりますし、困難に立ち向かう力になります。
また、ビジョンは、ただ掲げるだけでは不十分です。「創業◯年までに売上◯◯億円」「◯年までに会員数◯百万人」といった、具体的で挑戦的、かつ現実的な目標に落とし込むことで、人も組織も初めて動き出します。
2. 目指す山に必要な体力と技術を備える
〜資本と差別化要素が肝となる〜
山に登り慣れていない素人が、最難関の奥穂高岳や剱岳、何日もかかる幌尻岳などにいきなり挑戦しても、登頂できないどころか命に関わる危険を招き、結果として周囲にも大きな負担をかけてしまいます。
目指す頂に立つには、相応の体力を備える必要があります。そして、岩場の歩き方、鎖場の登り方などの登山技術も必要です。それらを準備せず挑戦するのは、勇気や大胆さとして称賛されることではなく、未熟さや無謀さの表れです。
ビジネスパーソンにも体力や気力が必要です。しかしここでは起業という視点で例えたいと思います。事業会社、特に立ち上げ間もない会社にとっての体力とは、運転資金に例えられます。
小さな個人事業主ならば自己資金だけで起業できるでしょう。しかし、社会課題を解決する大きな事業やプラットフォーム事業を興すには、巨額の運転資金を集めなければなりません。優れた技術やサービスを持っていても、資金が尽きれば事業は継続できません。
高い山に挑むには強い体力が必要なように、大きな事業に挑むには大きな資金が必要となるのです。資本政策を計画し、必要なタイミングで必要な資金を確保すること。それは創業期の経営者にとって極めて重要な仕事です。

(阿蘇山の岩場・木曽駒ケ岳 宝剣岳の岩場・西日本最高峰 石鎚山の鎖場)
一方、登山技術は、経営者個人で言えば「経営能力」、企業全体で見れば「競争優位性」にあたります。
市場ニーズがあるとしても、他社が簡単に模倣できるような製品やサービスでは生き残れません。ましてや新しい価値を提供するサービスを立ち上げる(険しい山に登る)となれば、これまでにない、そして他社が容易に追随できないような特別な何かを持っていなければなりません。
「その特別な何か」は事業領域や製品カテゴリ毎、企業毎に異なりますが、創業期のベンチャーは、自社にしかない強みを見極め、磨き、守り続けること。それが、高い山に挑むための「技術」を身につけることに相当するのです。
3. 目指す山に必要十分な装備を備える
〜経営に必要十分なリソースを揃える〜
登山において重要なのは、目指す山に応じた装備を用意することです。冬山には冬山に、岩山には岩山に必要な装備がありますし、万が一に備えて救急セットや常備薬、防寒具、雨具、行動食、非常食…とたくさんあります。また山では水はとても貴重です。
ところが、装備は多ければ多い程良いというものでもありません。
何でもかんでも積んで何十キロにもなっては、それを背負う自分の体力が持ちません。目指す山のレベルに十分以上の装備を背負う必要はないのです。

(三連座登山に向けての装備品)
ベンチャー経営にとっても経営リソースの確保は最重要課題の一つです。そして、経営リソースに大きく占めるのが人員です。また、モノ作りの事業であれば工場や製造機械などもそれにあたります。人材や設備だけでなく、制度や仕組みもまた、事業を支える重要なリソースです。
開発、営業、財務、法務、カスタマーサクセス、セキュリティ。事業が成長すればするほど、必要な機能は増えていきます。製造業であれば設備投資も必要になりますし、制度設計のために外部専門家の力を借りたくなる場面もあるでしょう。
ところが、欲しいだけ、どんどんと採用したり購入したり外注したら、運転資金が尽きてしまいます。それは、重すぎる装備を背負って体力を消耗する登山にも似ています。
回している事業の規模、目指す目標に”必要かつ十分な”リソースの確保、というバランス感覚が重要です。
創業間もないベンチャーに必要なのは、何でも抱え込むことではありません。同じ船に乗る信頼できる人材を集め、それぞれが得意分野を持つ少数精鋭のチームをつくることなのです。
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以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第一部でした。
私自身、「日本百名山100座踏破」という目標に向かって、まだ道半ばです。
だからこそ、この連載では完成された成功談ではなく、挑戦の途中で感じた迷いや失敗、判断や学びを、できるだけ率直にお伝えしていきたいと思います。
また、日本百名山への挑戦を題材に、ベンチャー経営や組織運営に通じる考え方や判断のあり方について考察していきたいと思います。
次回は「計画は緻密に、実行は地道に」をテーマに、目標達成のための戦略と計画の必要性と、一方で日々の地道な仕事の重要性について考えてみたいと思います。
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
注:以前執筆した「登山と経営」はダイジェスト版で、本連載では、百名山挑戦の進捗に合わせてより詳しく書いていきます。また登頂した山々の写真も順次掲載していきます。


