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【百名山から学ぶベンチャー経営論】 第三部「戦略・戦術・戦闘」

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2026.08.12

ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。

アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げて以来、全国の山々を登り続け、執筆時点で48座まで登りました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、判断や学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。

第一部では、目指す頂き(ビジョン)を定めることの大切さと、その実現に向けた準備について、第二部では、計画は綿密に、実行段階では地道な歩みに集中することについて記しました。

今回第三部は、事業における戦略・戦術・戦闘のそれぞれの意味と重要性を、百名山への挑戦と照らして考察してみます。

7. まず、戦略を立てよ
~事業戦略無き起業は無謀~

昨年の夏、「アラカンで日本百名山を踏破する」という目標(ビジョン)を立てましたが、同時にその実現方法を深く考えました。アラカン、すなわち還暦前後で達成するには、今後3年から4年、62歳前後までに完了する計画を立てれば良い。しかし、低山しか登っていない素人が、そのような短期間で、非常に困難な山も含む日本中の100座の山に登り切れるのだろうか?と思いました。

そこでまず、全ての山について、様々な書籍やメディアから情報を収集しました。
・標高および難易度は?(コース定数という参考数字が公開されている)
・各山に適した季節は?(冬期は登頂不可または危険という山が多い)
・連続で登れる山は?(縦走したり車で移動して連日で登れる山々もある)
・早めに登っておきたい山は?(経験としてや山の魅力を知る目的で)

その調査が終わった後に、私が考えた戦略はこうです。
①コース定数の低い山から順次挑戦し、徐々に知識・技術・体力を付けていく
②分散する地方の名山をまず攻め、難易度の高いアルプス山脈は後半にアタックする
③移動に時間を要する東北や九州では、一度の遠征で複数の山を登る
④季節が制限される山は優先的に予定を決め、早めに宿と移動手段を予約する
⑤経験を積みながら、体を鍛え、課題を発見し、必要装備などを学んでいく

この戦略に基づいて、全ての山に関して、今後3~4年の間でいつ頃登るのか、どれとどれをセットで登るのか、どんな移動手段を使うべきか、などを地図帳やメモアプリに記録しました。そして、まず2025年中に登る山に関して、登山口までの移動手段と必要時間、登山にかかる時間や難易度を考慮して、前章で記述したように個々の計画を立てたのでした。

これまでに48座まで登ることができ、今ではコース定数と等高線地図を読めば大体どれくらいの難易度なのかが予想できるようになりました。また、疲労蓄積のパターンや自分なりの回復の方法なども学んできました。

既に約半数の山を登れた訳ですが、困難な山は後半に取ってあるので、これからが正念場、それこそ山場だと思っています。しかし、今ではこの戦略の正しさに自信を持っており、今後待ち構えている難攻な山々に挑戦する準備が整ってきたと思えます。


(全ての山について難易度と標高を調べ、3~4年での登頂計画を立ててから実行した)

このように、十分な情報収集をし、熟考した上で戦略を立てること、そしてその戦略に基づいて計画を立てることは、ベンチャー企業の経営においても最も重要な活動です。

ベンチャー企業では、「良い製品を作れば売れる」と考えがちです。しかし実際には、「誰に」「どの市場で」「どのような販売方法で」勝負するかという戦略が結果を大きく左右します。価格設定もその戦略の重要な要素です。

成長市場や解決されていない社会課題が明確である市場(機会)においては、既に先行する会社(脅威)があるか、またはいずれは必ず競合事業者が現れます。その上で自社の強みや弱みを整理して、それに基づいて戦略を立てる。また、会社のメンバ―全員が同じ方向に向かって努力していけるよう、一定期間後の売上や顧客数などの明確なマイルストーンを立てる。

創業者とその経営メンバーは、寝ても覚めても戦略を考えることが、創業初期における最も重要なアクションの一つです。

もちろん、いざ実行段階に入ったら、外部環境や内部環境の変化により戦略の立て直しを余儀なくされることもあります。が、だからといって、戦略無きまま、感覚で事業を立ち上げ、進めていくという起業は、無謀と言えます。

成功する事業の裏には、経営陣全員が頭がパンクするくらいに考えに考え抜かれた戦略があるものです。

百名山は、勢いだけでは登り切れません。事業もまた、情熱だけでは成長しません。高く険しい頂を目指すのであれば、まず戦略を立てること。挑戦は、その一歩を踏み出す前から始まっています。

8. 弱みを補うギアを持て
〜己を理解した戦術が勝率を上げる〜

私は、登山にハマる前まではジム通いが趣味で、主に上半身を中心に筋トレをしてきました。そのため、筋肉量が多い上半身に重心が偏っています。また、幼少期にやせ型だったために骨格が細く、下半身、特に膝や足首が細くて痛めやすいという、登山には向いていない体付きをしています。

前章で記した戦略に基づき、百名山の中でも難易度の低い山から順次登り始めた当初、下山時に膝痛が起きることがよくありました。

そこで考えた”戦術”は、「登山用のストックと上半身の力に頼る」ということと、「どんな山でも必ず膝と足首をテーピングで保護する」ということ。

登山を始めた頃の私は、「ストックを使わない方が格好いい」と思っていました。しかし、それは私にとっての正解ではありませんでした。見栄を張らず、膝が弱いという自分の弱点を認め、自分に合った戦術を選んだことが、結果的には正解でした。

今では常にストックを使い、上半身の力にも頼りながら登っています。また、様々なテーピングの製品や巻き方を研究して、今の形に辿り着きました。この戦術により、ほぼ、膝痛を起こすことなく、3日連続で三座の百名山に登る挑戦もできるようになりました。


(いつも頼りにするストック、怪我予防の膝テーピング、急な下りには膝サポーター)

では、振り返って、経営における戦術とは?

ベンチャー企業も、素人登山愛好家だった私のように、創業当初からすべてを備えているわけではありません。営業が弱い会社もあれば、資金力に乏しい会社もあります。だからこそ、自社の弱点を理解し、それを補う戦術を考えることが重要になります。

戦術とは、自社の弱みを補い、強みを最大限に生かすための具体的な工夫です。

・社長はエンジニアで、開発チーム作りには自信があるが、営業力が弱い
→経験豊富な営業責任者を採用する
・チーム全体が若くて経験が浅いため、信用を得られ難い
→各界で実績と人脈が豊富な著名な顧問を迎え入れる
・資金力と人材の豊富さで先行する競合企業に劣る
→大手企業と提携する

現実的には、製品群毎に、企業のステージが変わる毎に、また市場におけるポジションにより、様々な戦術が考えられます。大きな方針とも言える戦略と異なり、戦術とは、事業を進めていく中で適宜組み立てていくべきもので、その時々でベストな戦術を編み出していかねばなりません。そのためには、自社の弱点から目を背けず、それを補う方法を考え続けること。そして、その判断を下せる創業者の覚悟が求められます。

登山では、ストックやテーピングは決して「弱さの象徴」ではありません。自分を知り、その弱点を補うための戦術です。

事業も同じです。強い会社とは、弱点がない会社ではありません。弱点を理解し、それを補う戦術を持っている会社です。

9. 道具には使い慣れておけ
〜戦闘には使い慣れた武器・ツールが欠かせない〜

十分に練った戦略の上で、己を理解した戦術を定め、いざ登山をする訳ですが、登山においては、その山のタイプや季節、天候によって、様々な道具を使います。

雨具やヘッドライトはもちろん、岩場ではハイカットシューズやグローブ、落石の恐れがある山ではヘルメット、雪山ではチェーンスパイクやアイゼン、ピッケルなどを適切に選ばなければなりません。私自身も、山に応じて4〜5足の登山靴を履き分けています。

しかし、これらの必要な道具を用意するだけでは戦闘準備ができているとは言えません。

戦闘では、「持っていること」よりも、「使いこなせること」の方が重要です。

新しい靴、初めて使うアイゼン、初めて使うストック。いずれの道具も、十分に使いこなせるようになってから、本番の山に挑むようにすべきです。

そういう私も、購入してまだ慣れていない登山靴でハードな雪山に登り、滑落して足を捻挫してしまいました。いつもの靴だったらまた違ったのでは、と深く反省しています。「新しい道具なのだから、きっと以前より安全だろう。」そう考えましたが、間違っていました。性能よりも、身体が覚えていることの方が重要でした。

戦略、戦術が正しくとも、戦闘準備ができていなければ、勝てる戦いも負けてしまいます。

野球選手にとってのグローブ、サッカー選手にとってのシューズ、登山家にとっての各種道具。使い慣れた道具を使いこなしてこそ、困難な戦いに挑む準備ができるというものです。


(履きなれた登山靴、手放せないストック、使い慣れていないアイゼン)

そして、道具を用意すること、それ以上にその道具に使い慣れておくことの重要さは、ベンチャー経営でも同様です。

・ロールプレイを繰り返して、提案を身体で覚える。
・AIツールは、十分に検証してから、自分達の武器として使いこなす。
・新しい営業手法は、小さく試してから全社、全顧客に展開する。
・新しい制度は、運用を想定したリハーサルを経て導入する。

例えば上記に挙げたように、机上だけで考えた提案をそのまま顧客にぶつける、十分に使いこなせていないAIツールで重要なレポートを作成する、流行の制度を十分な準備なく導入するといった、行き当たりばったりなことをしていては、戦略が正しくとも、戦術が自社に相応しくとも、戦闘力は上がりません。

AIを使いこなすこと自体は戦略ではありません。
営業の勝ちパターンを身につけることも戦術そのものではありません。
それらは、戦略と戦術を現場で実現するための戦闘能力です。

これらは事業を前に進めるための効率化や成功確率アップの手段の一つに過ぎません。しかし、その道具を使いこなせれば、一人一人の能力が決して高くはないチームでも、大きな成果を出すことができるのです。

まだ小さくて、信用も弱く、リソースも足りないベンチャー企業にとって重要なことは、まず、戦略を土台におき、己を理解した上で適宜戦術を考え、その上で、個々の戦闘能力を高めて、事業活動を推進していくということではないでしょうか。

ベンチャー企業における戦略・戦術・戦闘は、次のように捉えることができると思います。

戦略とは、目指す頂へたどり着くための全体設計。

戦術とは、自分や自社の強み・弱みを踏まえ、最善の戦い方を選ぶこと。

戦闘とは、その戦略と戦術を、現場で確実に実行する力。

この三つが噛み合って初めて、困難な頂にも、険しい市場にも挑むことができるのです。

————————
以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第三部でした。

この挑戦も約半数となり、これからは更に険しい山に挑戦していきます。また怪我をせぬように、細心の注意を払いながら、諦めない心で、一座一座最終ゴールに向けて積み重ねていきながら、リアルタイムにこの連載を続けていきたいと思います。

次回は「アンテナを張り巡らせよ」をテーマに、外部環境、内部環境に目を配ること、重要な局面での判断などについて考えてみたいと思います。

D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太

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2026.08.26
【エコシステム事例】Payke × Location AI、データ連携がひらく新しい共創のかたち|「何を買ったか」と「どこへ行ったか」がつながる未来とは?
2026年4月14日、一つのプレスリリースが公開されました。 訪日外国人向けショッピングアプリ「Payke」を運営する株式会社Payke。位置情報ビッグデータを活用した人流分析プラットフォームを提供するLocation AI株式会社。この二社が、データ連携を軸とした業務提携を開始したという発表です。 プレスリリース:「訪日外国人向けショッピングアプリ『Payke』と連携。」 今回の提携の核心は、Location AIが持つ「人がどこへ移動したか」という人流データと、Paykeが持つ「何に興味を持ち、何を買ったか」という購買・関心データを掛け合わせること。これまで「点」として捉えられてきた旅行者の行動が、「どこへ行き、何に興味を持ち、何を買ったのか」という一つのストーリーとして見えてくるようになります。 では、なぜこの二社は出会い、わずか半年ほどで業務提携に至ったのでしょうか。そして、この掛け合わせは日本のインバウンドや観光の未来をどう変えていくのでしょうか。両社のサービスの特徴から提携に至った背景、そしてこれから描く未来まで、お話を伺いました。 まず、両社のサービスについて教えてください Paykeは、どのようなサービスを提供しているのでしょうか? Payke: Paykeは、訪日外国人旅行者の買い物における「分からない」を解消する、ショッピングサポートサービスです。日本を訪れた外国人旅行者が商品を手に取っても、パッケージが日本語だけでは、用途や使い方、特徴、成分などを十分に理解できないことがあります。 そこでPaykeのアプリでは、商品のバーコードをスマートフォンで読み取るだけで、基本情報や使い方、特徴などを多言語で確認できるようにしています。単にパッケージの文字を翻訳するのではなく、当社が保有する商品データベースから、旅行者が商品を選ぶ際に必要な情報を届けていることが特徴です。 アプリだけでなく、店頭に設置する「Payke Tablet」も提供しています。旅行者自身が端末で商品のバーコードを読み取り、母国語で商品情報を確認できるため、多言語を話せるスタッフが常にいなくても、商品の魅力を伝えることができます。 Paykeは、翻訳や商品案内だけではなく、データの面でも強みを持っているのでしょうか? Payke: はい。私たちが蓄積しているのは、最終的に何が売れたかという販売データだけではありません。アプリやタブレットを通じて、 どの商品がスキャンされたのか どの商品と比較されたのか どの国籍や年代の人が関心を持ったのか といった、購入前の関心や検討行動も捉えることができます。 一般的な販売データに表れるのは、最終的に購入された商品です。一方、スキャンデータには、関心を持ったものの購入されなかった商品や、店頭で比較された商品も表れます。つまり、売上だけでは分からない、旅行者の心の動きに近づくことができるのです。 私たちは「何が売れたか」だけでなく、「なぜ関心を持ち、なぜ選ばれたのか」まで理解し、メーカーや小売企業の次の施策につなげたいと考えています。 価値は、伝わって初めて価値になる Paykeは、単に外国語を表示するサービスではありません。本来であれば選ばれていた可能性のある商品が、情報不足によって棚へ戻されてしまう。その見えない機会損失を減らし、日本の商品が持つ価値を、正しく旅行者へ届けています。どれほど優れた商品やサービスも、その価値が相手に理解されなければ選ばれることはありません。Paykeの事業は、経営における「価値をつくること」と「価値が伝わる状態をつくること」、その両方の重要性を示しています。 Location AIは、どのようなサービスを提供しているのでしょうか? Location AI: 私たちは、位置情報ビッグデータをAIで解析し、現実世界における人の流れを可視化・分析するサービスを提供しています。「Location AI Platform®」では、人がどこから訪れ、どこに滞在し、その後どこへ移動したのかを分析できます。商圏分析、出店計画、観光地分析、イベント分析、広告配信など、幅広い分野で活用されています。 たとえば、ある観光地にどの国から旅行者が訪れているのか、訪問前後にどの場所へ立ち寄ったのか、曜日や時間帯で人の流れがどう変化するのか。こうしたことを、実際の人流に基づいて捉えられます。これまで経験や感覚で判断されることが多かった領域を位置情報に基づくファクトへ変え、企業や自治体の意思決定を支援しています。 人流データがあることで、企業や自治体の判断はどのように変わるのでしょうか? Location AI: たとえば新しい店舗を出店する場合、従来は周辺人口や駅の乗降者数、担当者の経験などを基に候補地を選ぶことが多かったと思います。しかし、人口規模が同じエリアでも、実際にどのような人が、どの時間帯に、どの方向から訪れているかは異なります。 観光地も同様です。来訪者数だけを見ても、その旅行者がどこから来て、観光地の前後にどの場所を訪れたかまでは分かりません。実際の移動を捉えられることで、旅行者の誘致、広告の効果測定、店舗の出店、観光地の周遊促進などを、勘ではなく事実に基づいて計画できるようになります。私たちは、データを保有するだけでなく、現場の方が分析や意思決定に使える状態で提供することを大切にしています。 Paykeは、Location AIのサービスを初めて見たとき、どのような印象を持ちましたか? Payke: 打ち合わせの中で、実際に管理画面を見せていただいた瞬間が強く印象に残っています。地図上に人流データが可視化され、エリアや期間を切り替えると、訪日外国人のお客様の動きがその場で浮かび上がりました。 「データを持っていること」と「データを誰もが使える形にしていること」の間には、大きな距離があります。Location AIは、それをプロダクトとして高いレベルで完成させていました。さらに、技術者同士の打ち合わせでは、データ連携の方式が非常に速いスピードで決まっていきました。プロダクトの完成度だけでなく、意思決定と実行の速さにも驚かされました。 データの価値は、量ではなく行動で決まる 経営者が必要としているのは、膨大な数字そのものではありません。数字を見た結果として「では、何をするべきか」が分かることです。専門家しか扱えなかった位置情報ビッグデータを、経営者や現場担当者が意思決定に使える形へ変える。Location AIの強みは、データを「情報」で終わらせず「行動」へ変えていることにあります。 二社は、どのように出会ったのでしょうか? 今回の業務提携は、どちらから声を掛けたのでしょうか? Payke: 正直に申し上げると、「どちらから」という感覚があまりありません。きっかけは、2025年10月に開催されたD-POPS GROUPの「ベンチャーエコシステムサミット」でした。 会場でご挨拶したのが最初の接点です。Location AIさんは、D-POPS GROUPから事前に当社の事業について聞いてくださっていて、その場で「多面的な協業があり得るのではないか」と話が弾みました。翌日にはディスカッションのお誘いをいただき、最初の打ち合わせでお互いに「これは一緒にやるべきだ」と感じました。声を掛けた、掛けられたというよりも、D-POPS GROUPとの縁によって出会うべくして出会った、という表現が近いと思います。 Location AI: インバウンド旅行者の分析や広告配信を強化したいという考えがあり、当社からも積極的にお声掛けしました。D-POPS GROUPからPaykeさんのお話を伺ったときから、協業の可能性は感じていました。初回の打ち合わせで、当社の人流データとPaykeさんのデータを掛け合わせることで、より付加価値の高いサービスを提供できると確信しました。 初めて話したとき、「絶対に一緒にやるべきだ」と感じたのはなぜでしょうか? Payke: 両社のデータが、ちょうど「鏡合わせ」の関係になっていると気づいたからです。Paykeは、訪日外国人のお客様が「何に興味を持ち、何を買ったのか」という購買・関心のデータを持っています。しかし、その方がお店に来る前にどこを訪れ、購入後にどこへ移動したのかという「動き」は見えていませんでした。 一方、Location AIさんは「人がどのように動いたのか」という人流データを持っていますが、その人が移動先で「何を買ったのか」までは見えません。お互いに見えていなかった部分が、パズルのピースのように重なりました。この構図が見えた瞬間、議論は「やるか、やらないか」ではなく「何から始めるか」に変わりました。 Location AI: 私たちも同じ感覚でした。Paykeさんは、購買行動と結び付いたデータに加えて、旅行者の国籍や年代に関する信頼性の高いデータを持っています。人流だけでは分からなかった旅行者の興味や購買行動を理解できる。当社にとっても、サービスの精度と価値を大きく高められる組み合わせでした。 なぜ、他社ではなくこの二社だったのでしょうか? Payke: 大きく二つあります。一つ目は、同じD-POPS GROUPの出資先同士であるという、信頼の基盤です。データ連携は、お互いのユーザーやクライアントに対する責任を伴う、非常にセンシティブな取り組みです。だからこそ「信頼できる相手であること」が何よりも重要でした。同じ株主の下で経営に対する考え方や成長への姿勢を共有できていたことは、交渉のスピードにも議論の質にも大きく影響しています。 二つ目は、技術力とデータの規模です。位置情報ビッグデータをAIで解析し、誰もが利用できる形へ可視化したプラットフォームの完成度。そして、世界規模の人流データ。この二つがそろっている相手は、ほかにはいませんでした。 Location AI: Paykeさんが、購買行動と結び付いたデータと、正確な国籍・年代情報を持っていたことです。また、サービスを開発するだけでなく多くの流通・小売事業者に導入され、実際に旅行者から利用されている点も大きな魅力でした。データの量だけではなく、実際の購買行動に基づく信頼できるデータであることを高く評価しています。 強い企業は、自社に「見えていないもの」を認められる 企業は、自社の強みを語ることには慣れています。一方で、本当に大きな変化が始まるのは、自社だけでは見えない領域を認めたときなのかもしれません。すべてを自社でつくろうとするのではなく、異なる強みを持つ企業とつながる。弱みを隠すのではなく、他社の強みによって可能性へ変える。イノベーションとは、必ずしも何もないところから新しい技術を生み出すことだけではありません。すでに存在する優れた価値同士を、新しい意味でつなぐことでもあります。 購買データと人流データがつながると、どのような変化が生まれますか? Payke: 購買は、旅の中の「ワンシーン」です。旅行者の一日は、移動、観光、食事、買い物、宿泊の連続です。これまでの購買データが切り取っていたのは、その中の一瞬でした。そこに人流データが重なることで、“点”だった購買が“線”のストーリーとして見えるようになります。 たとえば、台湾から来た旅行者がドラッグストアで化粧品を購入したとします。その前にどのエリアを観光し、その後どの街へ移動したのか。「何が買われたか」だけではなく、「なぜ、その商品が、その場所で買われたのか」という文脈まで理解できるようになります。これは、購買データだけではたどり着けなかった世界です。 Location AI: 購買行動と訪問先を一緒に分析することで、旅行者の趣味嗜好や興味関心を、より深く理解できるようになります。さらに、その理解に基づいた広告配信も可能になります。人がどこを訪れたのかだけでなく、何に興味を持ち、何を購入したのかまで分かることで、旅行者により適した情報や体験を届けられるようになります。 分析するだけでなく、次の行動を促すこともできるのでしょうか? Payke: はい。私たちは、行動を「見えるようにする」だけで終わらせたくありません。Paykeのアンケートを通じて、行動の背景にある「なぜ」を直接聞くことができます。さらに、位置情報と連動した情報配信によって、お客様の次の行動を後押しすることもできます。理解した行動に対して、その場で働きかける。「見る」と「動かす」を一気通貫で行えることが、今回の提携の面白いところです。 この提携は、日本の観光をどう変えるのでしょうか?メーカーや小売以外では、どのような企業や組織が活用できますか? Payke: 自治体、DMO、観光事業者は、明確に対象になると考えています。訪日客がどこから来て、どこを回り、どこで何を消費したのかが分かれば、地域内の周遊促進や、観光地への集中を防ぐオーバーツーリズム対策にも活用できます。観光コンテンツの磨き上げなど、地域の意思決定にもそのまま使えるデータになります。ほかにも、空港、鉄道、交通事業者、商業施設、デベロッパーなど、インバウンドの移動と消費を知りたいあらゆる企業が対象になり得ます。 Location AI: 自治体や旅行会社、コンサルティング会社、広告代理店などにも活用いただけます。実際の人の動きを基に旅行者の誘致を計画できるようになるため、より根拠のある観光マーケティングが可能になります。 地方創生には、どのような可能性がありますか? Location AI: あまり予定を決めずに長期滞在する旅行者に対して、京都などの著名な観光地だけではなく、別の地域への訪問を提案できるようになります。旅行者の興味関心や行動を理解したうえで、本人に合う新しい行き先を届けることで、地方への周遊につなげられると考えています。 Payke: 地方に魅力がないのではなく、旅行者にその魅力が届いていないケースは少なくありません。購買と人流を一緒に捉えることで、その人がどのような体験や商品に関心を持っているのかが分かります。その関心に合った地域の商品、文化、食、自然、体験を、適切なタイミングで届けられるようになります。 データが、地域の未来をつくる 今回の提携によって生まれるのは、広告の精度向上だけではありません。旅行者を有名観光地から無理に移動させるのではなく、一人ひとりの興味に合う新しい行き先を提案する。その結果として旅行者の体験が豊かになり、地方にも新たな人と消費が流れていく。企業の売上を増やすためのデータが、地域の未来をつくるデータへ変わる。そこに、この提携の社会的な価値があります。 提携の成果と、これからの目標を教えてください 提携発表後、社内や市場からはどのような反応がありましたか? Location AI: データ量が増え、ファーストパーティデータに基づいた分析や広告配信ができるようになったことで、サービスの魅力が高まったという反応がありました。既存のお客様からも、分析や配信の信頼度が増したというお言葉をいただいています。新しいお問い合わせの増加にもつながっています。 Payke: 社内では、データチーム、広告チーム、営業チームが、それぞれ「この案件に活用できそうだ」と、具体的な提案へ結び付けて考え始めています。発表後は、既存クライアントから「人流と掛け合わせた分析はできないか」という相談や、広告会社・代理店からの問い合わせが増えました。特に、自治体、空港、交通関連など、Payke単体では接点をつくりにくかった領域からの引き合いが生まれています。 この提携が成功したと判断する指標は何でしょうか? Payke: 三つの段階で考えています。第一に、メーカー、小売、自治体などへの共同提案や共同案件の数。第二に、連携データを活用した分析・広告メニューを継続的に利用いただく企業の数。そして最終的には、両社のデータを統合した「インバウンドの消費×人流」という指標が、業界のスタンダードとして参照される存在になることです。単発のキャンペーン成功ではなく、この提携から生まれる案件が増え続けているかを、最も大切な物差しにしています。 Location AI: 当社としては、インバウンド関連の問い合わせが増えること、連携を活用した新しいサービスが生まれること、そして最終的に収益の向上へつながることを重要な指標としています。 D-POPS GROUPに、今後期待することはありますか? Payke: 今回の提携は、サミットの会場で交わした一つの挨拶から始まりました。出資先同士が実際に出会い、化学反応を起こせる「場」をつくっていただいたことに、まず感謝しています。D-POPS GROUPのエコシステムには、私たちがまだ出会えていない技術やアセットを持つ企業が、数多く存在していると思います。これからも、第2、第3の「Payke × Location AI」が生まれる掛け算の起点であり続けてほしいです。私たちも、成功事例の一号として、エコシステム全体に貢献していきたいと考えています。 Location AI: 今後も、今回のようにシナジーが生まれる投資先企業とのアライアンスを、積極的に推進していただきたいです。当社も、人流データの分析や広告などの領域で、さまざまな企業との柔軟な協業を進めていきたいと考えています。 最後に、この記事を読む企業へメッセージをお願いします Payke: 今回の提携によって、インバウンドの捉え方は「点」から「線と面」へ変わります。これまでは「商品が売れた瞬間」のデータが中心でした。これからは、その前後の動きとして、どこから来て、どこを回り、その後どこへ向かったのかまで含めて捉えられます。訪日外国人市場に向き合うメーカー、小売企業、自治体、観光事業者の皆様は、勘や断片的なデータだけでなく「購買×人流」の統合されたファクトを基に意思決定できるようになります。 大がかりなプロジェクトから始める必要はありません。一つの商品、一つのエリアの分析から、スモールスタートできます。インバウンドの実像を知りたいと感じたら、ぜひ一度ご相談ください。 Location AI: 私たちは、人流データの解析を基に、分析や広告などの分野で柔軟なアライアンスを進めていきたいと考えています。購買データ、人流データ、顧客データなど、異なるデータを組み合わせることで、これまで見えなかった新しい価値を生み出せます。協業に関心をお持ちの企業は、ぜひお問い合わせください。 編集後記 PaykeとLocation AIは、互いに足りないものを単純に補い合ったわけではありません。それぞれが長い時間をかけて磨いてきた強みを持ち寄り、一社では生み出せなかった価値に変えました。 今回の提携は、インバウンドマーケティングを進化させる取り組みであると同時に、企業がどのようにつながり、社会に新しい価値を生み出すべきかを示す、経営の事例でもあります。 自社だけですべてを抱え込む時代は、もう終わったのかもしれません。自分たちに見えていない領域があることを素直に認め、違う強みを持つ企業と手を組む。顧客も、技術も、データも、知見も、お互いに持ち寄る。そうやって生まれるものは、単純な足し算ではなく、掛け算に近い広がり方をするのだと思います。 これが、当社が「ベンチャーエコシステム」という言葉に込めている意味です。 D-POPS GROUPが目指すベンチャーエコシステムとは?  正直なところ、大きな変化のきっかけは、綿密な事業計画よりも、ちょっとした出会いだったりすることの方が多い気がしています。この人と組んだら面白そうだ、そう感じた瞬間にまず動いてみる。 そんな小さな一歩の積み重ねが、数年後には業界の当たり前になっている。そういうものを、これからも見ていきたいと思います。 D-POPS GROUP アドバイザー 佐藤壮
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2026.08.25
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