
ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。
アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げて以来、全国の山々を登り続け、執筆時点で48座まで登りました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、判断や学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。
第一部では、目指す頂き(ビジョン)を定めることの大切さと、その実現に向けた準備について、第二部では、計画は綿密に、実行段階では地道な歩みに集中することについて記しました。
今回第三部は、事業における戦略・戦術・戦闘のそれぞれの意味と重要性を、百名山への挑戦と照らして考察してみます。
7. まず、戦略を立てよ
~事業戦略無き起業は無謀~
昨年の夏、「アラカンで日本百名山を踏破する」という目標(ビジョン)を立てましたが、同時にその実現方法を深く考えました。アラカン、すなわち還暦前後で達成するには、今後3年から4年、62歳前後までに完了する計画を立てれば良い。しかし、低山しか登っていない素人が、そのような短期間で、非常に困難な山も含む日本中の100座の山に登り切れるのだろうか?と思いました。
そこでまず、全ての山について、様々な書籍やメディアから情報を収集しました。
・標高および難易度は?(コース定数という参考数字が公開されている)
・各山に適した季節は?(冬期は登頂不可または危険という山が多い)
・連続で登れる山は?(縦走したり車で移動して連日で登れる山々もある)
・早めに登っておきたい山は?(経験としてや山の魅力を知る目的で)
その調査が終わった後に、私が考えた戦略はこうです。
①コース定数の低い山から順次挑戦し、徐々に知識・技術・体力を付けていく
②分散する地方の名山をまず攻め、難易度の高いアルプス山脈は後半にアタックする
③移動に時間を要する東北や九州では、一度の遠征で複数の山を登る
④季節が制限される山は優先的に予定を決め、早めに宿と移動手段を予約する
⑤経験を積みながら、体を鍛え、課題を発見し、必要装備などを学んでいく
この戦略に基づいて、全ての山に関して、今後3~4年の間でいつ頃登るのか、どれとどれをセットで登るのか、どんな移動手段を使うべきか、などを地図帳やメモアプリに記録しました。そして、まず2025年中に登る山に関して、登山口までの移動手段と必要時間、登山にかかる時間や難易度を考慮して、前章で記述したように個々の計画を立てたのでした。
これまでに48座まで登ることができ、今ではコース定数と等高線地図を読めば大体どれくらいの難易度なのかが予想できるようになりました。また、疲労蓄積のパターンや自分なりの回復の方法なども学んできました。
既に約半数の山を登れた訳ですが、困難な山は後半に取ってあるので、これからが正念場、それこそ山場だと思っています。しかし、今ではこの戦略の正しさに自信を持っており、今後待ち構えている難攻な山々に挑戦する準備が整ってきたと思えます。

(全ての山について難易度と標高を調べ、3~4年での登頂計画を立ててから実行した)
このように、十分な情報収集をし、熟考した上で戦略を立てること、そしてその戦略に基づいて計画を立てることは、ベンチャー企業の経営においても最も重要な活動です。
ベンチャー企業では、「良い製品を作れば売れる」と考えがちです。しかし実際には、「誰に」「どの市場で」「どのような販売方法で」勝負するかという戦略が結果を大きく左右します。価格設定もその戦略の重要な要素です。
成長市場や解決されていない社会課題が明確である市場(機会)においては、既に先行する会社(脅威)があるか、またはいずれは必ず競合事業者が現れます。その上で自社の強みや弱みを整理して、それに基づいて戦略を立てる。また、会社のメンバ―全員が同じ方向に向かって努力していけるよう、一定期間後の売上や顧客数などの明確なマイルストーンを立てる。
創業者とその経営メンバーは、寝ても覚めても戦略を考えることが、創業初期における最も重要なアクションの一つです。
もちろん、いざ実行段階に入ったら、外部環境や内部環境の変化により戦略の立て直しを余儀なくされることもあります。が、だからといって、戦略無きまま、感覚で事業を立ち上げ、進めていくという起業は、無謀と言えます。
成功する事業の裏には、経営陣全員が頭がパンクするくらいに考えに考え抜かれた戦略があるものです。
百名山は、勢いだけでは登り切れません。事業もまた、情熱だけでは成長しません。高く険しい頂を目指すのであれば、まず戦略を立てること。挑戦は、その一歩を踏み出す前から始まっています。
8. 弱みを補うギアを持て
〜己を理解した戦術が勝率を上げる〜
私は、登山にハマる前まではジム通いが趣味で、主に上半身を中心に筋トレをしてきました。そのため、筋肉量が多い上半身に重心が偏っています。また、幼少期にやせ型だったために骨格が細く、下半身、特に膝や足首が細くて痛めやすいという、登山には向いていない体付きをしています。
前章で記した戦略に基づき、百名山の中でも難易度の低い山から順次登り始めた当初、下山時に膝痛が起きることがよくありました。
そこで考えた”戦術”は、「登山用のストックと上半身の力に頼る」ということと、「どんな山でも必ず膝と足首をテーピングで保護する」ということ。
登山を始めた頃の私は、「ストックを使わない方が格好いい」と思っていました。しかし、それは私にとっての正解ではありませんでした。見栄を張らず、膝が弱いという自分の弱点を認め、自分に合った戦術を選んだことが、結果的には正解でした。
今では常にストックを使い、上半身の力にも頼りながら登っています。また、様々なテーピングの製品や巻き方を研究して、今の形に辿り着きました。この戦術により、ほぼ、膝痛を起こすことなく、3日連続で三座の百名山に登る挑戦もできるようになりました。

(いつも頼りにするストック、怪我予防の膝テーピング、急な下りには膝サポーター)
では、振り返って、経営における戦術とは?
ベンチャー企業も、素人登山愛好家だった私のように、創業当初からすべてを備えているわけではありません。営業が弱い会社もあれば、資金力に乏しい会社もあります。だからこそ、自社の弱点を理解し、それを補う戦術を考えることが重要になります。
戦術とは、自社の弱みを補い、強みを最大限に生かすための具体的な工夫です。
・社長はエンジニアで、開発チーム作りには自信があるが、営業力が弱い
→経験豊富な営業責任者を採用する
・チーム全体が若くて経験が浅いため、信用を得られ難い
→各界で実績と人脈が豊富な著名な顧問を迎え入れる
・資金力と人材の豊富さで先行する競合企業に劣る
→大手企業と提携する
現実的には、製品群毎に、企業のステージが変わる毎に、また市場におけるポジションにより、様々な戦術が考えられます。大きな方針とも言える戦略と異なり、戦術とは、事業を進めていく中で適宜組み立てていくべきもので、その時々でベストな戦術を編み出していかねばなりません。そのためには、自社の弱点から目を背けず、それを補う方法を考え続けること。そして、その判断を下せる創業者の覚悟が求められます。
登山では、ストックやテーピングは決して「弱さの象徴」ではありません。自分を知り、その弱点を補うための戦術です。
事業も同じです。強い会社とは、弱点がない会社ではありません。弱点を理解し、それを補う戦術を持っている会社です。
9. 道具には使い慣れておけ
〜戦闘には使い慣れた武器・ツールが欠かせない〜
十分に練った戦略の上で、己を理解した戦術を定め、いざ登山をする訳ですが、登山においては、その山のタイプや季節、天候によって、様々な道具を使います。
雨具やヘッドライトはもちろん、岩場ではハイカットシューズやグローブ、落石の恐れがある山ではヘルメット、雪山ではチェーンスパイクやアイゼン、ピッケルなどを適切に選ばなければなりません。私自身も、山に応じて4〜5足の登山靴を履き分けています。
しかし、これらの必要な道具を用意するだけでは戦闘準備ができているとは言えません。
戦闘では、「持っていること」よりも、「使いこなせること」の方が重要です。
新しい靴、初めて使うアイゼン、初めて使うストック。いずれの道具も、十分に使いこなせるようになってから、本番の山に挑むようにすべきです。
そういう私も、購入してまだ慣れていない登山靴でハードな雪山に登り、滑落して足を捻挫してしまいました。いつもの靴だったらまた違ったのでは、と深く反省しています。「新しい道具なのだから、きっと以前より安全だろう。」そう考えましたが、間違っていました。性能よりも、身体が覚えていることの方が重要でした。
戦略、戦術が正しくとも、戦闘準備ができていなければ、勝てる戦いも負けてしまいます。
野球選手にとってのグローブ、サッカー選手にとってのシューズ、登山家にとっての各種道具。使い慣れた道具を使いこなしてこそ、困難な戦いに挑む準備ができるというものです。

(履きなれた登山靴、手放せないストック、使い慣れていないアイゼン)
そして、道具を用意すること、それ以上にその道具に使い慣れておくことの重要さは、ベンチャー経営でも同様です。
・ロールプレイを繰り返して、提案を身体で覚える。
・AIツールは、十分に検証してから、自分達の武器として使いこなす。
・新しい営業手法は、小さく試してから全社、全顧客に展開する。
・新しい制度は、運用を想定したリハーサルを経て導入する。
例えば上記に挙げたように、机上だけで考えた提案をそのまま顧客にぶつける、十分に使いこなせていないAIツールで重要なレポートを作成する、流行の制度を十分な準備なく導入するといった、行き当たりばったりなことをしていては、戦略が正しくとも、戦術が自社に相応しくとも、戦闘力は上がりません。
AIを使いこなすこと自体は戦略ではありません。
営業の勝ちパターンを身につけることも戦術そのものではありません。
それらは、戦略と戦術を現場で実現するための戦闘能力です。
これらは事業を前に進めるための効率化や成功確率アップの手段の一つに過ぎません。しかし、その道具を使いこなせれば、一人一人の能力が決して高くはないチームでも、大きな成果を出すことができるのです。
まだ小さくて、信用も弱く、リソースも足りないベンチャー企業にとって重要なことは、まず、戦略を土台におき、己を理解した上で適宜戦術を考え、その上で、個々の戦闘能力を高めて、事業活動を推進していくということではないでしょうか。
ベンチャー企業における戦略・戦術・戦闘は、次のように捉えることができると思います。
戦略とは、目指す頂へたどり着くための全体設計。
戦術とは、自分や自社の強み・弱みを踏まえ、最善の戦い方を選ぶこと。
戦闘とは、その戦略と戦術を、現場で確実に実行する力。
この三つが噛み合って初めて、困難な頂にも、険しい市場にも挑むことができるのです。
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以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第三部でした。
この挑戦も約半数となり、これからは更に険しい山に挑戦していきます。また怪我をせぬように、細心の注意を払いながら、諦めない心で、一座一座最終ゴールに向けて積み重ねていきながら、リアルタイムにこの連載を続けていきたいと思います。
次回は「アンテナを張り巡らせよ」をテーマに、外部環境、内部環境に目を配ること、重要な局面での判断などについて考えてみたいと思います。
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太


