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【百名山から学ぶベンチャー経営論】 第三部「戦略・戦術・戦闘」

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2026.08.12

ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。

アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げて以来、全国の山々を登り続け、執筆時点で48座まで登りました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、判断や学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。

第一部では、目指す頂き(ビジョン)を定めることの大切さと、その実現に向けた準備について、第二部では、計画は綿密に、実行段階では地道な歩みに集中することについて記しました。

今回第三部は、事業における戦略・戦術・戦闘のそれぞれの意味と重要性を、百名山への挑戦と照らして考察してみます。

7. まず、戦略を立てよ
~事業戦略無き起業は無謀~

昨年の夏、「アラカンで日本百名山を踏破する」という目標(ビジョン)を立てましたが、同時にその実現方法を深く考えました。アラカン、すなわち還暦前後で達成するには、今後3年から4年、62歳前後までに完了する計画を立てれば良い。しかし、低山しか登っていない素人が、そのような短期間で、非常に困難な山も含む日本中の100座の山に登り切れるのだろうか?と思いました。

そこでまず、全ての山について、様々な書籍やメディアから情報を収集しました。
・標高および難易度は?(コース定数という参考数字が公開されている)
・各山に適した季節は?(冬期は登頂不可または危険という山が多い)
・連続で登れる山は?(縦走したり車で移動して連日で登れる山々もある)
・早めに登っておきたい山は?(経験としてや山の魅力を知る目的で)

その調査が終わった後に、私が考えた戦略はこうです。
①コース定数の低い山から順次挑戦し、徐々に知識・技術・体力を付けていく
②分散する地方の名山をまず攻め、難易度の高いアルプス山脈は後半にアタックする
③移動に時間を要する東北や九州では、一度の遠征で複数の山を登る
④季節が制限される山は優先的に予定を決め、早めに宿と移動手段を予約する
⑤経験を積みながら、体を鍛え、課題を発見し、必要装備などを学んでいく

この戦略に基づいて、全ての山に関して、今後3~4年の間でいつ頃登るのか、どれとどれをセットで登るのか、どんな移動手段を使うべきか、などを地図帳やメモアプリに記録しました。そして、まず2025年中に登る山に関して、登山口までの移動手段と必要時間、登山にかかる時間や難易度を考慮して、前章で記述したように個々の計画を立てたのでした。

これまでに48座まで登ることができ、今ではコース定数と等高線地図を読めば大体どれくらいの難易度なのかが予想できるようになりました。また、疲労蓄積のパターンや自分なりの回復の方法なども学んできました。

既に約半数の山を登れた訳ですが、困難な山は後半に取ってあるので、これからが正念場、それこそ山場だと思っています。しかし、今ではこの戦略の正しさに自信を持っており、今後待ち構えている難攻な山々に挑戦する準備が整ってきたと思えます。


(全ての山について難易度と標高を調べ、3~4年での登頂計画を立ててから実行した)

このように、十分な情報収集をし、熟考した上で戦略を立てること、そしてその戦略に基づいて計画を立てることは、ベンチャー企業の経営においても最も重要な活動です。

ベンチャー企業では、「良い製品を作れば売れる」と考えがちです。しかし実際には、「誰に」「どの市場で」「どのような販売方法で」勝負するかという戦略が結果を大きく左右します。価格設定もその戦略の重要な要素です。

成長市場や解決されていない社会課題が明確である市場(機会)においては、既に先行する会社(脅威)があるか、またはいずれは必ず競合事業者が現れます。その上で自社の強みや弱みを整理して、それに基づいて戦略を立てる。また、会社のメンバ―全員が同じ方向に向かって努力していけるよう、一定期間後の売上や顧客数などの明確なマイルストーンを立てる。

創業者とその経営メンバーは、寝ても覚めても戦略を考えることが、創業初期における最も重要なアクションの一つです。

もちろん、いざ実行段階に入ったら、外部環境や内部環境の変化により戦略の立て直しを余儀なくされることもあります。が、だからといって、戦略無きまま、感覚で事業を立ち上げ、進めていくという起業は、無謀と言えます。

成功する事業の裏には、経営陣全員が頭がパンクするくらいに考えに考え抜かれた戦略があるものです。

百名山は、勢いだけでは登り切れません。事業もまた、情熱だけでは成長しません。高く険しい頂を目指すのであれば、まず戦略を立てること。挑戦は、その一歩を踏み出す前から始まっています。

8. 弱みを補うギアを持て
〜己を理解した戦術が勝率を上げる〜

私は、登山にハマる前まではジム通いが趣味で、主に上半身を中心に筋トレをしてきました。そのため、筋肉量が多い上半身に重心が偏っています。また、幼少期にやせ型だったために骨格が細く、下半身、特に膝や足首が細くて痛めやすいという、登山には向いていない体付きをしています。

前章で記した戦略に基づき、百名山の中でも難易度の低い山から順次登り始めた当初、下山時に膝痛が起きることがよくありました。

そこで考えた”戦術”は、「登山用のストックと上半身の力に頼る」ということと、「どんな山でも必ず膝と足首をテーピングで保護する」ということ。

登山を始めた頃の私は、「ストックを使わない方が格好いい」と思っていました。しかし、それは私にとっての正解ではありませんでした。見栄を張らず、膝が弱いという自分の弱点を認め、自分に合った戦術を選んだことが、結果的には正解でした。

今では常にストックを使い、上半身の力にも頼りながら登っています。また、様々なテーピングの製品や巻き方を研究して、今の形に辿り着きました。この戦術により、ほぼ、膝痛を起こすことなく、3日連続で三座の百名山に登る挑戦もできるようになりました。


(いつも頼りにするストック、怪我予防の膝テーピング、急な下りには膝サポーター)

では、振り返って、経営における戦術とは?

ベンチャー企業も、素人登山愛好家だった私のように、創業当初からすべてを備えているわけではありません。営業が弱い会社もあれば、資金力に乏しい会社もあります。だからこそ、自社の弱点を理解し、それを補う戦術を考えることが重要になります。

戦術とは、自社の弱みを補い、強みを最大限に生かすための具体的な工夫です。

・社長はエンジニアで、開発チーム作りには自信があるが、営業力が弱い
→経験豊富な営業責任者を採用する
・チーム全体が若くて経験が浅いため、信用を得られ難い
→各界で実績と人脈が豊富な著名な顧問を迎え入れる
・資金力と人材の豊富さで先行する競合企業に劣る
→大手企業と提携する

現実的には、製品群毎に、企業のステージが変わる毎に、また市場におけるポジションにより、様々な戦術が考えられます。大きな方針とも言える戦略と異なり、戦術とは、事業を進めていく中で適宜組み立てていくべきもので、その時々でベストな戦術を編み出していかねばなりません。そのためには、自社の弱点から目を背けず、それを補う方法を考え続けること。そして、その判断を下せる創業者の覚悟が求められます。

登山では、ストックやテーピングは決して「弱さの象徴」ではありません。自分を知り、その弱点を補うための戦術です。

事業も同じです。強い会社とは、弱点がない会社ではありません。弱点を理解し、それを補う戦術を持っている会社です。

9. 道具には使い慣れておけ
〜戦闘には使い慣れた武器・ツールが欠かせない〜

十分に練った戦略の上で、己を理解した戦術を定め、いざ登山をする訳ですが、登山においては、その山のタイプや季節、天候によって、様々な道具を使います。

雨具やヘッドライトはもちろん、岩場ではハイカットシューズやグローブ、落石の恐れがある山ではヘルメット、雪山ではチェーンスパイクやアイゼン、ピッケルなどを適切に選ばなければなりません。私自身も、山に応じて4〜5足の登山靴を履き分けています。

しかし、これらの必要な道具を用意するだけでは戦闘準備ができているとは言えません。

戦闘では、「持っていること」よりも、「使いこなせること」の方が重要です。

新しい靴、初めて使うアイゼン、初めて使うストック。いずれの道具も、十分に使いこなせるようになってから、本番の山に挑むようにすべきです。

そういう私も、購入してまだ慣れていない登山靴でハードな雪山に登り、滑落して足を捻挫してしまいました。いつもの靴だったらまた違ったのでは、と深く反省しています。「新しい道具なのだから、きっと以前より安全だろう。」そう考えましたが、間違っていました。性能よりも、身体が覚えていることの方が重要でした。

戦略、戦術が正しくとも、戦闘準備ができていなければ、勝てる戦いも負けてしまいます。

野球選手にとってのグローブ、サッカー選手にとってのシューズ、登山家にとっての各種道具。使い慣れた道具を使いこなしてこそ、困難な戦いに挑む準備ができるというものです。


(履きなれた登山靴、手放せないストック、使い慣れていないアイゼン)

そして、道具を用意すること、それ以上にその道具に使い慣れておくことの重要さは、ベンチャー経営でも同様です。

・ロールプレイを繰り返して、提案を身体で覚える。
・AIツールは、十分に検証してから、自分達の武器として使いこなす。
・新しい営業手法は、小さく試してから全社、全顧客に展開する。
・新しい制度は、運用を想定したリハーサルを経て導入する。

例えば上記に挙げたように、机上だけで考えた提案をそのまま顧客にぶつける、十分に使いこなせていないAIツールで重要なレポートを作成する、流行の制度を十分な準備なく導入するといった、行き当たりばったりなことをしていては、戦略が正しくとも、戦術が自社に相応しくとも、戦闘力は上がりません。

AIを使いこなすこと自体は戦略ではありません。
営業の勝ちパターンを身につけることも戦術そのものではありません。
それらは、戦略と戦術を現場で実現するための戦闘能力です。

これらは事業を前に進めるための効率化や成功確率アップの手段の一つに過ぎません。しかし、その道具を使いこなせれば、一人一人の能力が決して高くはないチームでも、大きな成果を出すことができるのです。

まだ小さくて、信用も弱く、リソースも足りないベンチャー企業にとって重要なことは、まず、戦略を土台におき、己を理解した上で適宜戦術を考え、その上で、個々の戦闘能力を高めて、事業活動を推進していくということではないでしょうか。

ベンチャー企業における戦略・戦術・戦闘は、次のように捉えることができると思います。

戦略とは、目指す頂へたどり着くための全体設計。

戦術とは、自分や自社の強み・弱みを踏まえ、最善の戦い方を選ぶこと。

戦闘とは、その戦略と戦術を、現場で確実に実行する力。

この三つが噛み合って初めて、困難な頂にも、険しい市場にも挑むことができるのです。

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以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第三部でした。

この挑戦も約半数となり、これからは更に険しい山に挑戦していきます。また怪我をせぬように、細心の注意を払いながら、諦めない心で、一座一座最終ゴールに向けて積み重ねていきながら、リアルタイムにこの連載を続けていきたいと思います。

次回は「アンテナを張り巡らせよ」をテーマに、外部環境、内部環境に目を配ること、重要な局面での判断などについて考えてみたいと思います。

D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太

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【百名山から学ぶベンチャー経営論】第五部「不撓不屈の精神と、慎重な判断力を併せ持て」
ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャーを輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。 アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げ、これまで全国の山々を登り続け、執筆時点で56座に登頂しました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、そこからの学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。 この挑戦は後半に入りましたが、昨年までは力不足で登れなかった山にも徐々に挑み始めています。それにつれて、諦めたくなるような厳しい山も増えてきました。ベンチャー企業で勤めていた時にも、何度も諦めたくなるような難しい局面は多々ありました。あそこで諦めていたら、その後の人生は今とは違うものになっただろうな、と思うと同時に、無謀な行動や慎重さを欠いた取り組みは命取りになるという事も経験してきました。 第五部では、ビジネスでも登山でも、「不撓不屈(ふとうふくつ)の強い心」と同時に、「慎重さや臆病な心」も併せ持たなければならない、ということについて考えてみます。  13. 「もう無理」と「あと一歩」は紙一重~不撓不屈の精神で困難に立ち向かえ~ まずい・・頭が熱い。吐き気がする。脚に力が入らない・・。 スマートウォッチの心拍数の数字は170/分を超えている。明らかに異常な数値だ。 8月初旬、山形県・朝日連峰の主峰、大朝日岳(おおあさひだけ)に挑戦した日のことでした。 山頂まであと1kmほどの急登を前にして、最後の水場の休憩ポイントで、力尽きてしまいました。その1時間程前には両足の太ももが痙攣を起こし、そしてこの場所で熱中症と思われる症状となって、ついに体が動かなくなってしまいました。 「体力的難易度が非常に高い上級者向けの行程」と言われるルートで挑戦した登山は、まさに苦行となりました。その日は全国的に気温が高く、早朝に出発した時点ですでに高温多湿な天候でした。登り始めて早々に滝のような汗をかき、アップダウンの激しい、険しい山道を延々と歩き続けました。 そして4時間後、冒頭の症状となってしまいました。 すれ違ったベテランの登山者からは、「山は逃げませんから」と、下山を勧められたりもしました。しかし、撤退を決める前に、まずは冷静に、回復のためにできるだけのことをしようと決めました。塩分補給のためみそ汁の素とおにぎりを水で喉に流し込み、湧き水で濡らしたタオルで頭を冷やしながら、岩場に横になって休むことにしました。 そして30分を過ぎた頃、体温も心拍数も下がり、だいぶ楽になりました。倒れた時は「もう無理だ」と弱気になりましたが、体調と共に気力が戻り、その考えは「あと一歩。あと少し、歩を進めてみよう」に変化しました。 もちろん、体調が回復しなければ撤退すべき場面です。不撓不屈とは、危険を無視して前進することではありません。その点については後ほど改めて触れます。 しかし、この時は休息によって体調が回復し、もう一度前に進める状態になりました。 その後、一歩一歩を積み重ね、ついに難度の高い大朝日岳の山頂に到達することができ、その時は、嬉しさと達成感、そして恐怖から解放された安堵から、男泣きしてしまいました。 (足が攣り、熱中症と思われる症状にも見舞われたが、休憩と回復を経て、登頂を果たした) あの時、重い足を持ち上げながら、何を考えていたのか。 それは、「これまでも仕事では数々の難局を乗り越えてきた。逃げ出したくなるような状況や、『もう無理だ』と諦めたくなるような状況。その度に、不撓不屈の強い心で乗り越えてきたじゃないか。あれらの苦労に比べたら、ここは何とかなる。ベンチャー魂の踏ん張り所だ!」ということでした。 PHS事業会社の立ち上げ期、徹夜続きの開業準備、そして開業直後にはアンテナからの電波が全停止した事故が発生し、担当する代理店から殺到するクレームへの対応に追われました。 Googleがまだ日本で市場シェア30%ほどだった頃には、当時日本最大の検索ポータルサイトからシェアを奪うべく、パソコンメーカーや主要ポータルサイトとの事業提携交渉に奔走しました。交渉条件を巡ってチキンレースのような状況となり、毎週のように日本から深夜、本社の役員会議に案件を上申し続けたこともありました。  あの時、途中で投げ出したり、苦しい状況から逃げたりしていたら、その後の充実した人生はなかったと思います。 読者の皆さん、特に大きなリスクを背負って挑戦している起業家の皆さんは、きっとこれまでに数々の難局に直面してきたことと思います。 それぞれの記憶の中に、「あの時、諦めなくて良かった」「あの難局を乗り越えたから今がある」と思える経験があるのではないでしょうか。 世の中には、ベンチャー企業、一般的に言うスタートアップが無数にあります。その多くが、その時代を反映した成長領域や事業モデルで製品やサービスを市場に送り出そうとするため、必然的に類似した企業も数多く生まれます。しかし、その中で成長を続け、生き残るスタートアップはごく僅かです。成功したベンチャーと、途中で消えていったベンチャーを分けたものは何なのか? 経営者の経営力、商売センス、資金調達力、人脈、そして運。様々な要因があると思います。その中でも、社長や経営チーム、そしてそこで働くメンバー全員が持つ「諦めない強い心」、すなわち「不撓不屈の精神」は、ベンチャー企業の成否を分ける大きな要因の一つだと思います。 困難な状況が目の前に立ちふさがった時、「もう無理だ」と思うことは誰にでもあります。しかし、本当に限界なのか。それとも、あと一歩を踏み出せば、見える景色や生み出される結果が変わるのか。 「もう無理」と「あと一歩」は、紙一重です。 困難に直面した時こそ、それまで積み重ねてきた努力と、その人や組織が持つ底力の真価が問われます。そこで簡単に諦めるのではなく、「不撓不屈の精神」でもう一歩だけ前へ進んでみる。その一歩が大きな壁を乗り越えるきっかけとなり、次の成長へ、そして成功へとつながっていくのではないでしょうか。 14. 大胆な冒険心と慎重さを併せ持て~臆病であることを恥じるな~ 13章では、「決して諦めるな」「不屈の精神で進め」と述べました。しかし、それとは一見相反するように聞こえる、とても重要なことがあります。 経営者やビジネスリーダーには、大胆に突き進む冒険心が必要です。しかし同時に、危険を恐れる臆病さや、立ち止まって考える慎重さも併せ持たなければなりません。 雨が降りしきる空が、突然、真っ赤に燃えました。 標高2400m。北アルプスの剣沢小屋から見た夕焼けです。山小屋のスタッフの皆さんも、「ここまで赤い夕焼けは見たことがない」と言います。 美しい。しかし私は、その異様な赤さに、なぜか恐ろしさを感じました。 翌日、私は日本最難関の一つとも言われる剱岳(標高2999m)に挑戦する予定でした。 その日は朝から富山県各地で大雨や洪水、土砂災害に関する警報が発令されており、立山に到着した時点では、激しい雷とともに打ち付けるような雨が降っていました。 それでも、「翌日には雨は止み、曇り空に変わる」という天気予報を信じ、強い雨の中、山小屋までは到着したのでした。そして夕食前、山小屋で横になりながら考えました。 「何としてでも登るぞ」「諦めるな、根性だ」「不撓不屈の精神だ」 ところが、その後、先ほどの真っ赤な夕焼けを見た時のことです。 確かに幻想的で、とても美しい。しかし、私には、それが警告のように感じられました。 「大胆さと無謀さは違うぞ」「明日は本当に危険な日だぞ」「慎重に決断せよ」 という山の神様からの声が聞こえてきた気がしました。 そして、その真っ赤な空が、私には「進むな」という赤信号のように見えたのです。 結局、翌朝になっても予報のような曇り空には変わらず、雨が降り続いていました。 剱岳は、ただ山道を歩いて登る山ではありません。岩壁を登り、鎖を掴み、切れ落ちた岩場を慎重に通過しなければならない場所があります。前日から降り続いた雨によって岩や鎖が濡れていれば、危険度は大きく増します。 その状況から、山小屋に宿泊していた登山者の中にも、登頂を試みる人は一人もいませんでした。周囲の判断も踏まえ、私も迷うことなく登頂断念を決断しました。 (中央の画像で雲に隠れている山が剱岳。翌朝も雨が止まず、登頂中止を決断した。) もし雨が止み、曇り空になっていたら、どのような判断をしていただろうか。そう考えると、今でも少し怖くなります。雨が降っていなくても、前日からの大雨で岩は濡れ、手で掴む岩も、足を置く岩も、そして頼りにする鎖も滑りやすくなっていたはずです。 そこで「せっかくここまで来たのだから」「何としても登りたい」と無理に進み、事故に遭っていたら、百名山への挑戦そのものを断念せざるを得なくなっていたかもしれません。 下山して冷静になった時、改めて思いました。「大胆な冒険心」と「無謀な行動」は、全く違う。 そして、もう一つ。危険を恐れる「臆病さ」があるからこそ、次の挑戦につなげることができる。 13章で触れた大朝日岳では、休息によって体調が回復したことを確認し、「あと一歩、進もう」と決断しました。一方、今回の剱岳では、状況を見極めた上で「今回は退こう」と決断しました。 進む勇気もあれば、退く勇気もある。どちらを選ぶべきなのかを冷静に判断することこそが、本当の意味での勇気なのだと思います。 事業でも同じようなシチュエーションはあると思います。 法改正や技術革新、世界情勢の変化などによって、業界に突然逆風が吹き荒れることがあります。そのような時に、「一度決めた方針だから、最後までやり続けるんだ」と経営者が意固地になり、会社全体を危険な方向へ突き進ませれば、取り返しのつかない事態を招くことがあります。 昨日まで正しかった戦略・戦術が、今日も正しいとは限りません。(第三部参照) だからこそ経営者には、前に進む大胆さだけではなく、環境の変化やリスクを敏感に察知し、「危ない」と思った時には立ち止まる臆病さも必要なのです。(第四部参照) 実際、優れた経営者の著書や発言を見ても、「臆病さ」を経営者に必要な資質として捉える考え方があります。 ブリヂストン元CEOの荒川詔四氏は、著書のタイトルそのものを『臆病な経営者こそ「最強」である。』とし、小心さや臆病さこそ、不確実な世界を生き抜くための武器になると説いています。また、ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって市場が混乱し始めた時、X上で「嵐の前では臆病だと笑われるくらい守りに徹した方がいい。それが本当の勇気だと思う。」と発言しました。 百名山への挑戦も、ベンチャー企業の挑戦も同じです。ただ楽観的に「何とかなる」と考え、豪胆に突き進むことが勇気なのではありません。常に最悪の事態を想定して備え(第4章)、リスクや失敗の可能性を恐れ、危険な兆候を感じたら立ち止まる(第10章・第11章)。そして、それでも進むべきだと判断した時には、大胆に一歩を踏み出す。 経営者やリーダーに求められるのは、「大胆な冒険心」か「慎重な臆病さ」のどちらかではありません。その相反する二つを併せ持ち、状況に応じて「進む勇気」と「退く勇気」を使い分けることが、長く挑戦を続けるために必要なのだと思います。 15. 「ここまで来たのだから」に惑わされるな~サンクコストを捨てる勇気を持て~ もしアタック予定の朝、雨が止んでいたら、私は「せっかくここまで来たのだから」と考えたかもしれません。 そして実は、この「せっかくここまで来たのだから」という心理こそ、冷静な撤退判断を狂わせる、もう一つの大きな要因です。 何ヶ月も前から計画を立て、2ヶ所の山小屋を予約し、自宅から遠く離れた富山まで夜行バスを乗り継いでようやく辿り着き、それぞれに相応のコストをすでにかけてきました。そして標高2400mの山小屋まで、雨の中、重い荷物を背負って歩いてきました。 「費用と時間をかけて、ようやくここまで来たのに、山頂を目前にして帰るのか?」 そんな考えが頭の中を巡りました。 経済学や経営学では、このような「すでに支払ってしまい、取り戻すことのできない費用」を「サンクコスト(埋没費用)」と呼びます。 ベテランの登山家であれば容易に判断できる悪条件の中、まだ経験の浅い私は、大胆な冒険心――あの時は無謀な挑戦心――と共に、この「サンクコスト」が足かせとなって、即断を妨げていたのでした。 経営の現場、特にベンチャー企業の経営においては、このサンクコストが判断を鈍らせる場面が数多くあります。 不採算事業に関して、撤退やピボットをするか否かの判断。新規事業や新プロダクト開発において、クリティカルな問題が発覚した時のリリースの判断。非常に優秀ではあるものの、自社の理念や価値観との一致に疑問がある候補者を採用するか否かの判断。 その時の経営陣の議論の中で、「ここまで既に投資したのだから」「これだけ苦労したのだから」「時間をかけてきたのだから」と、サンクコストを意識し過ぎるとどうなるか? 不採算事業から撤退できず赤字を拡大してしまったり、潜在的な問題を抱えたまま新規事業のスタートや新商品のリリースをしてしまったり、組織の価値観に合わない人材を採用し、後に大きな軋轢を生んでしまったりと、取り返しのつかない経営判断につながることがあります。 このようなことにならないよう、重要な決断をする際には、自分たちがサンクコストの罠にはまっていないかどうかを、経営者は特に意識し、冷静に判断をすることが求められます。 諦めてはいけない時に諦めないこと。そして、諦めるべき時には、それまで費やした時間やお金、努力に囚われず、潔く撤退すること。その両方ができてこそ、本当の意味で「不撓不屈の精神と、慎重な判断力を併せ持つ」ことになるのだと思います。 ———————— 以上、【百名山から学ぶベンチャー経営論】の第五部でした。 この挑戦も一年が過ぎました。タイトルは「百名山から学ぶ」としていますが、実は裏を返せば、私の想いとしては、「これまでのベンチャー経営の経験を登山にも適用して取り組めば、登山の素人でも短期間で百名山を踏破できる、ということを証明してみよう」というものでした。これまでのところ、大いにその経験が活かされていると思います。 次回は、「失敗から学び、成長を続ける」 をテーマに、場数を踏み、鍛錬を積み、一つ一つ学びながら、自らの成長を続けることについて考えてみたいと思います。 なお、シリーズのこれまでの記事をまだお読みでない方は、こちら↓をぜひお読みください。 第一部「頂を決め、準備する」第二部「計画は綿密に、実行は地道に」第三部「戦略・戦術・戦闘」第四部「アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませ」 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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2026.09.17
【The Salons Japan】美容師の新しいカタチの独立開業支援サービス『THE SALONS』の心斎橋店・梅田茶屋町店を訪問!
2026年7月30日に資本業務提携企業のThe Salons Japan株式会社が運営する完全個室美容モール『THE SALONS』の心斎橋店と梅田茶屋町店にお邪魔してきました! 『THE SALONS』とは? 『THE SALONS』は、美容師やビューティシャンが月額賃料のみで自分だけの完全個室サロンをオープンできる、全く新しいカタチの独立開業支援サービス(モール型サロン)です。大きな特徴として、以下のポイントが挙げられます。 ・   低リスクで“自分のサロン”を持てる:初期費用0円から開業可能であり、資金に縛られず自身のタイミングで独立の夢を叶えることができます。 ・   あなたらしいサロンを叶える:内装から働き方まで全て自由となっており、美容室をはじめ、エステやネイルなど幅広い業種に対応しています。 ・   充実の設備と独立を支えるサポート体制:各区画にはフルフラットバックシャンプー台やシンク、照明、Wi-Fiが完備されており、光熱費や月300枚までのレンタルタオルも料金に含まれています。また、融資相談から将来の路面店出店までトータルで支援する体制が整っています。 一般的な半個室のシェアサロン(利用者契約)とは異なり、完全個室の独立店舗として「店舗出店契約」を結ぶため、1人のサロンオーナーとしての社会的信用が得られるのも大きな魅力となっています。 【THE SALONS 心斎橋店】 THE SALONS心斎橋店は、四ツ橋駅から徒歩1分、心斎橋駅から徒歩4分ととても通いやすい場所にあります。心斎橋駅からはクリスタ長堀の地下街を通って、北12番出口を出るとすぐの場所にあります。地下街にはいろいろなお店が並んでいるので、予約の時間まで少し余裕があるときでも楽しく過ごせそうだなと思いました! 訪れたのは平日だったこともあり、お休みの店舗も多く見られましたが、7月末時点で満室となっていました! 完全個室の独立型サロンで、美容師さんお一人で営業されている店舗も多いからか、お子様連れのお客様の姿もちらほら見かけました。気心の知れた美容師さんのもとであれば、安心してお子さんを連れて行けますよね。これもTHE SALONSならではの魅力だなと感じました。 【THE SALONS 梅田茶屋町店】 THE SALONS梅田茶屋町店は、大阪梅田駅から徒歩2分ととても通いやすい場所にあります! カラーやパーマは施術時間が長くなりがちで、待っている間についお腹が空いてしまうこともありますよね。そんなときに同じビル内にバーガーキングがあるのは心強いポイント。施術帰りはもちろん、待ち時間にサッと小腹を満たせるのも嬉しいところです。 梅田茶屋町店は、個室の広さや窓の角度などが部屋ごとに違っていて、同じ店舗の中でもサロンごとの雰囲気がまったく異なっているのが印象的でした。個室の形がそれぞれ違うからこそ、光の入り方や開放感など、自分にとってぴったりの空間を探すことができます! THE SALONSの各店舗には、あらかじめシンクとシャンプー台が備え付けられています。それ以外の家具などは自分の好みで自由に選べるので、水道まわりの心配をせずに、自分らしい店舗づくりが楽しめるのは嬉しいポイントだなと思いました。 今回心斎橋店と梅田茶屋町店を紹介してくださった、The Salons Japanの秋山さんには、店舗について詳しく教えて頂きました。ありがとうございました! 同社の取締役も務める、ディ・ポップスグループのアドバイザーの杉原と共に写真を撮らせていただきました。 ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。 The Salons Japanもベンチャーエコシステムの仲間として精一杯応援してまいります。 ディ・ポップスグループ ブランド戦略室 川口
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2026.09.09
【百名山から学ぶベンチャー経営論】 第四部「アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませ」
ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。 アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げて以来、全国の山々を登り続け、執筆時点で53座まで登りました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、判断や学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。 山では、計画や装備が万全でも事故は起こります。その多くは、変化の兆候を見逃し、判断が遅れた時に起こります。第四部では、ベンチャー企業経営にも通じる、外部と内部の変化を察知し、適切な判断につなげることの重要性について考えてみます。 10. アンテナを張り巡らせよ ~外部環境の変化に敏感になれ~ バスケットボールや卓球などの屋内スポーツと登山の決定的な違いは、天候の影響を大きく受けること、そして自然が相手だということです。 登山の計画段階で、台風はもちろんのこと、暴風や雷の予報があれば登山を延期すべきことは明白です。しかし、予報段階をクリアして、いざ実行段階に入ってからも、山の天候は変わりやすく油断はできません。また、森深い山では最近特に話題の熊のみならず、猪や蜂やヒルなどに遭遇することもあります。岩山では突然の落石に見舞われることもあります。 それらに適切に対処することはもちろんですが、できるだけ事前に察知できることが理想です。 肌で感じる気温の急激な変化、ザワザワという笹の音、怪しい木の動き、小石が上から転がってくる音…。これらはその後の大きな危機が襲いかかる前兆かもしれません。 私自身も、晴れ予報の日の登山だったにも関わらず、突如としてガスが湧いて視界が真っ白になったために、道を誤り30分ほど道なき道を歩いてしまったことがあります。あの時は、視界が悪くなった段階で早めにGPSで現在地を確認すべきだったと反省しました。 また、笹の濃い山道を歩いている時、突然、笹がざわざわと揺れました。「ついに熊か」と身構え、一度立ち止まり、万が一熊だった場合にどう対処するかを頭の中で整理しました。結局、茂みから現れたのは大きな鹿でしたが、あの時も外部の小さな変化を見逃さないことの大切さを実感しました。 (左:ガスで視界不良となった岩道、中:後を付けられた猿、右:突如現れた鹿) このように、登山中は常に外部にアンテナを張り巡らせ続けなければならないのです。このアンテナの感度を高く保ち、そこで捉えた変化を素直に受け止め、適切に判断できるかどうか。それが、登山中の事故を未然に防げるかどうかを左右するのです。 このことは、ベンチャー経営にも例えられます。屋内スポーツをビジネススクールで学ぶ座学に例えるとすると、外部環境の影響を受ける屋外スポーツは実際の事業運営に、そして自然環境に左右される登山はベンチャー企業の経営に、より近いものだと思います。 企業が受ける外部環境、すなわち市況の変化、新技術の登場、法律の改正などからの影響は計り知れません。あらゆる企業は、外部環境の変化の中で事業を営んでいると言っても過言ではありません。顧客の反応が少し鈍くなった、利用率が減少に転じた、営業現場から同じ質問が増えてきた。こうした小さな変化は、大きな市場変化よりも早く現れることがあります。大企業でも影響を受けるくらいですので、ましてやベンチャー企業にとっては、存続が危ぶまれるほどの激しい変化もあるのです。最近では、AIエージェントの急速な普及、グローバルプラットフォーマーの勢力拡大、少子化、金利上昇による投資家の投資方針の変化などが挙げられます。 ベンチャーの経営チームは、これらの変化を敏感に察知すると共に、先手先手で戦略や計画を練り直し、適切に対処する。場合によっては、ピンチをチャンスに変えるほどの大胆な一手を打つ。その覚悟と行動力が求められるのです。 危機は、突然現れるように見えて、その多くは小さなサインを出しています。そのサインに気付けるかどうかが、登山でも経営でも、生き残る者とそうでない者を分けるのです。 11. センサーを研ぎ澄ませよ ~内部環境の変化に気が付け~ 外部環境の変化に目を向けることと同じくらい重要なのが、内部環境の変化に気付くことです。 登山における内部環境とは、ソロ登山であれば自分自身の、グループで登る場合には自分だけでなく、メンバー一人ひとりの調子やバイオデータの変化を指します。登山中は、自分の体が発するさまざまな情報を受け取るセンサーを持つ必要があります。 バイオデータの取得に関しては、最近、登山用アプリやスマートウォッチなどで、歩行ペースを確認したり、歩きながら心拍数を確認したり、休憩中に血中酸素濃度を測定したりできるようになりました。また、そういったデバイスでは測れない、膝や足腰の関節の調子、筋肉の疲労度、発汗量などの変化にも敏感である必要があります。 デジタル機器では測れない変化こそ、自分自身の感覚で捉えなければなりません。 私の場合、登山を始めたばかりで膝が今よりも弱かった頃は、山を登っている間に、「この調子で登り続けたら、下山できなくなる」と感じた日は、途中で勇気を持って下山に切り替えたことがあります。あのまま登り続けて、下山できなくなるよりも、はるかに正しい判断だったと思います。 (左:通常の登山中、中:異常な心拍数、右:2700m下での血中酸素濃度) 一方、ベンチャー経営においては、社長の体調を整えることはもちろん重要ですが、会社の内部環境の微妙な変化を察知することも重要です。 何気ない会話や挨拶が減った、オフィス内の整理整頓が乱れ始めた、ボトムアップで情報が上がってこなくなった、無断欠勤者や理由が不明確な退職者が増えてきた…。これらはいずれも会社が傾く前の予兆です。 経営者は、ビジネスのセンスだけでなく、こういった内部環境の変化に敏感に気付けるセンサーも持ち合わせていなければなりません。 そのセンサーが鈍いと、社長自身はエネルギーにあふれ、やる気に満ち、前を向いて邁進しているにもかかわらず、ふと立ち止まると、メンバーは誰一人ついてきていなかったとか、皆疲弊してパフォーマンスを発揮できなくなっていた、ということが起きがちです。 リーダーは前を見るだけでなく、社内全体を見渡し、小さな異変を見逃さない余裕を持たなければなりません。組織は突然崩れるのではなく、小さなほころびが積み重なった結果として崩れていくからです。 12. 重要な局面では特に冷静になれ ~状況を見極め、最善の一手を打て~ さて、張り巡らせたアンテナから情報を受け取り、研ぎ澄ませたセンサーが危険な信号を捉えたら、その時、どう対処すればよいのでしょうか。 登山においても経営においても、特に悪い情報、危険な信号を検知した時ほど、冷静になることが大事です。登山では、濃霧の中での道間違い、突然の土砂降り、岩場での捻挫や打撲、疲労による筋肉の痙攣など、さまざまな外部環境・内部環境の変化から生じる危機に直面します。 ベンチャー経営においても、AIの普及による顧客ニーズの劇的な変化、競合企業同士の合併発表、関連法規の変更、経営幹部の突然の退職、顧客情報の漏洩事故など、同じく様々な危険信号を受信します。 そんな時こそ、決してパニックに陥らず、冷静さを保ち、慎重かつ適切に判断し、その判断に基づいて迅速に行動することが求められます。パニックになり右往左往すれば、間違った方向にさらに進んだり、無駄な体力を消耗したり、怪我を悪化させたりすることにもなりかねません。 事が起きたら、まず一旦落ち着いて情報を集め、状況を把握し、分析する。次に、最悪の事態を想定しながら、それでも生き残る方法、登山であれば無事に下山する方法を考える。 そして、取るべき行動を決めたら、迅速に実行する。熟考は必要です。しかし、決めた後まで迷い続けていては、対応が遅れます。 私自身も、月山で雪渓を下山中に滑落したことがあります。その瞬間は頭が真っ白になりました。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、這って安定した場所まで移動し、靴下を脱いで患部をチェックしました。パニックになって慌てて歩き出すのではなく、まず体の状態を確認し、山頂を目指すべきではないと冷静に判断し、しっかりと休みを取ってから下山を開始しました。 また久住山では、登頂に成功した後の下山中ということで疲労が溜まっていたとに加え、ガスによる視界不良、そして晴れていても間違えやすいという藪道が重なって、数度の道間違いを起こしました。いずれも立ち止まって現在位置を確認し、間違えたポイントまで引き返す、という鉄則を守ったことで事なきを得ました。 いずれも、焦って無理な行動を取っていたら、状態をさらに悪化させていたかもしれません。 (二度も道に迷った久住山の藪の道) これらは登山でもベンチャー経営でも同じです。重要な岐路を迎えた時、危険を察知した時ほど、冷静に対処し、最善のアクションを考え、行動に移すことが求められるのです。 日本百名山には様々なタイプの山があり、それぞれに様々な危険が潜んでいます。そしてその自然環境は季節により、日により変化するし、自分の体調も日々変わります。ベンチャー経営の現場においても、市場も、競合も、顧客も、そして社内のメンバーも日々変化しています。 アンテナを張り巡らせる。センサーを研ぎ澄ます。危険を察知した時ほど、慌てず冷静に状況を見極める。熟考した上で取るべき行動を決めたら、迅速に最善の一手を打つ。 これらの習慣が、ベンチャー企業が生き残り、飛躍的な成長を遂げるための土台となるのです。 ———————— 以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第四部でした。 この挑戦も一年が過ぎました。当初は恐る恐る始めた本格的な登山ですが、今や全ての行程や景色を楽しめる余裕が出てきました。と同時に、挑戦する山も徐々に険しくなり、怪我や事故のリスクが高まってきました。 アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませて細心の注意を払いながら、諦めない心で、一座一座挑戦しながら、この連載を続けていきたいと思います。 次回は「不撓不屈と慎重さの両立」 をテーマに、「もう無理」と「あと一歩」が紙一重であること、大胆さと慎重さの両立、恐怖心を乗り越えることなどについて考えてみたいと思います。 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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