COLUMN

【百名山から学ぶベンチャー経営論】第五部「不撓不屈の精神と、慎重な判断力を併せ持て」

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2026.09.17

ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャーを輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。

アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げ、これまで全国の山々を登り続け、執筆時点で56座に登頂しました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、そこからの学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。

この挑戦は後半に入りましたが、昨年までは力不足で登れなかった山にも徐々に挑み始めています。それにつれて、諦めたくなるような厳しい山も増えてきました。ベンチャー企業で勤めていた時にも、何度も諦めたくなるような難しい局面は多々ありました。あそこで諦めていたら、その後の人生は今とは違うものになっただろうな、と思うと同時に、無謀な行動や慎重さを欠いた取り組みは命取りになるという事も経験してきました。

第五部では、ビジネスでも登山でも、「不撓不屈(ふとうふくつ)の強い心」と同時に、「慎重さや臆病な心」も併せ持たなければならない、ということについて考えてみます。 

13. 「もう無理」と「あと一歩」は紙一重
~不撓不屈の精神で困難に立ち向かえ~

まずい・・頭が熱い。吐き気がする。脚に力が入らない・・。

スマートウォッチの心拍数の数字は170/分を超えている。明らかに異常な数値だ。

8月初旬、山形県・朝日連峰の主峰、大朝日岳(おおあさひだけ)に挑戦した日のことでした。

山頂まであと1kmほどの急登を前にして、最後の水場の休憩ポイントで、力尽きてしまいました。その1時間程前には両足の太ももが痙攣を起こし、そしてこの場所で熱中症と思われる症状となって、ついに体が動かなくなってしまいました。

「体力的難易度が非常に高い上級者向けの行程」と言われるルートで挑戦した登山は、まさに苦行となりました。その日は全国的に気温が高く、早朝に出発した時点ですでに高温多湿な天候でした。登り始めて早々に滝のような汗をかき、アップダウンの激しい、険しい山道を延々と歩き続けました。

そして4時間後、冒頭の症状となってしまいました。

すれ違ったベテランの登山者からは、「山は逃げませんから」と、下山を勧められたりもしました。しかし、撤退を決める前に、まずは冷静に、回復のためにできるだけのことをしようと決めました。塩分補給のためみそ汁の素とおにぎりを水で喉に流し込み、湧き水で濡らしたタオルで頭を冷やしながら、岩場に横になって休むことにしました。

そして30分を過ぎた頃、体温も心拍数も下がり、だいぶ楽になりました。倒れた時は「もう無理だ」と弱気になりましたが、体調と共に気力が戻り、その考えは「あと一歩。あと少し、歩を進めてみよう」に変化しました。

もちろん、体調が回復しなければ撤退すべき場面です。不撓不屈とは、危険を無視して前進することではありません。その点については後ほど改めて触れます。

しかし、この時は休息によって体調が回復し、もう一度前に進める状態になりました。

その後、一歩一歩を積み重ね、ついに難度の高い大朝日岳の山頂に到達することができ、その時は、嬉しさと達成感、そして恐怖から解放された安堵から、男泣きしてしまいました。

(足が攣り、熱中症と思われる症状にも見舞われたが、休憩と回復を経て、登頂を果たした)

あの時、重い足を持ち上げながら、何を考えていたのか。

それは、「これまでも仕事では数々の難局を乗り越えてきた。逃げ出したくなるような状況や、『もう無理だ』と諦めたくなるような状況。その度に、不撓不屈の強い心で乗り越えてきたじゃないか。あれらの苦労に比べたら、ここは何とかなる。ベンチャー魂の踏ん張り所だ!」ということでした。

PHS事業会社の立ち上げ期、徹夜続きの開業準備、そして開業直後にはアンテナからの電波が全停止した事故が発生し、担当する代理店から殺到するクレームへの対応に追われました。

Googleがまだ日本で市場シェア30%ほどだった頃には、当時日本最大の検索ポータルサイトからシェアを奪うべく、パソコンメーカーや主要ポータルサイトとの事業提携交渉に奔走しました。交渉条件を巡ってチキンレースのような状況となり、毎週のように日本から深夜、本社の役員会議に案件を上申し続けたこともありました。 

あの時、途中で投げ出したり、苦しい状況から逃げたりしていたら、その後の充実した人生はなかったと思います。

読者の皆さん、特に大きなリスクを背負って挑戦している起業家の皆さんは、きっとこれまでに数々の難局に直面してきたことと思います。

それぞれの記憶の中に、「あの時、諦めなくて良かった」「あの難局を乗り越えたから今がある」と思える経験があるのではないでしょうか。

世の中には、ベンチャー企業、一般的に言うスタートアップが無数にあります。その多くが、その時代を反映した成長領域や事業モデルで製品やサービスを市場に送り出そうとするため、必然的に類似した企業も数多く生まれます。しかし、その中で成長を続け、生き残るスタートアップはごく僅かです。成功したベンチャーと、途中で消えていったベンチャーを分けたものは何なのか?

経営者の経営力、商売センス、資金調達力、人脈、そして運。様々な要因があると思います。その中でも、社長や経営チーム、そしてそこで働くメンバー全員が持つ「諦めない強い心」、すなわち「不撓不屈の精神」は、ベンチャー企業の成否を分ける大きな要因の一つだと思います。

困難な状況が目の前に立ちふさがった時、「もう無理だ」と思うことは誰にでもあります。しかし、本当に限界なのか。それとも、あと一歩を踏み出せば、見える景色や生み出される結果が変わるのか。

「もう無理」と「あと一歩」は、紙一重です。

困難に直面した時こそ、それまで積み重ねてきた努力と、その人や組織が持つ底力の真価が問われます。そこで簡単に諦めるのではなく、「不撓不屈の精神」でもう一歩だけ前へ進んでみる。その一歩が大きな壁を乗り越えるきっかけとなり、次の成長へ、そして成功へとつながっていくのではないでしょうか。

14. 大胆な冒険心と慎重さを併せ持て
~臆病であることを恥じるな~

13章では、「決して諦めるな」「不屈の精神で進め」と述べました。しかし、それとは一見相反するように聞こえる、とても重要なことがあります。

経営者やビジネスリーダーには、大胆に突き進む冒険心が必要です。しかし同時に、危険を恐れる臆病さや、立ち止まって考える慎重さも併せ持たなければなりません。

雨が降りしきる空が、突然、真っ赤に燃えました。

標高2400m。北アルプスの剣沢小屋から見た夕焼けです。山小屋のスタッフの皆さんも、「ここまで赤い夕焼けは見たことがない」と言います。

美しい。しかし私は、その異様な赤さに、なぜか恐ろしさを感じました。

翌日、私は日本最難関の一つとも言われる剱岳(標高2999m)に挑戦する予定でした。

その日は朝から富山県各地で大雨や洪水、土砂災害に関する警報が発令されており、立山に到着した時点では、激しい雷とともに打ち付けるような雨が降っていました。

それでも、「翌日には雨は止み、曇り空に変わる」という天気予報を信じ、強い雨の中、山小屋までは到着したのでした。そして夕食前、山小屋で横になりながら考えました。

「何としてでも登るぞ」「諦めるな、根性だ」「不撓不屈の精神だ」

ところが、その後、先ほどの真っ赤な夕焼けを見た時のことです。

確かに幻想的で、とても美しい。しかし、私には、それが警告のように感じられました。

「大胆さと無謀さは違うぞ」「明日は本当に危険な日だぞ」「慎重に決断せよ」

という山の神様からの声が聞こえてきた気がしました。

そして、その真っ赤な空が、私には「進むな」という赤信号のように見えたのです。

結局、翌朝になっても予報のような曇り空には変わらず、雨が降り続いていました。

剱岳は、ただ山道を歩いて登る山ではありません。岩壁を登り、鎖を掴み、切れ落ちた岩場を慎重に通過しなければならない場所があります。前日から降り続いた雨によって岩や鎖が濡れていれば、危険度は大きく増します。

その状況から、山小屋に宿泊していた登山者の中にも、登頂を試みる人は一人もいませんでした。周囲の判断も踏まえ、私も迷うことなく登頂断念を決断しました。

(中央の画像で雲に隠れている山が剱岳。翌朝も雨が止まず、登頂中止を決断した。)

もし雨が止み、曇り空になっていたら、どのような判断をしていただろうか。そう考えると、今でも少し怖くなります。雨が降っていなくても、前日からの大雨で岩は濡れ、手で掴む岩も、足を置く岩も、そして頼りにする鎖も滑りやすくなっていたはずです。

そこで「せっかくここまで来たのだから」「何としても登りたい」と無理に進み、事故に遭っていたら、百名山への挑戦そのものを断念せざるを得なくなっていたかもしれません。

下山して冷静になった時、改めて思いました。
「大胆な冒険心」と「無謀な行動」は、全く違う。

そして、もう一つ。
危険を恐れる「臆病さ」があるからこそ、次の挑戦につなげることができる。

13章で触れた大朝日岳では、休息によって体調が回復したことを確認し、「あと一歩、進もう」と決断しました。一方、今回の剱岳では、状況を見極めた上で「今回は退こう」と決断しました。

進む勇気もあれば、退く勇気もある。どちらを選ぶべきなのかを冷静に判断することこそが、本当の意味での勇気なのだと思います。

事業でも同じようなシチュエーションはあると思います。

法改正や技術革新、世界情勢の変化などによって、業界に突然逆風が吹き荒れることがあります。そのような時に、「一度決めた方針だから、最後までやり続けるんだ」と経営者が意固地になり、会社全体を危険な方向へ突き進ませれば、取り返しのつかない事態を招くことがあります。

昨日まで正しかった戦略・戦術が、今日も正しいとは限りません。(第三部参照

だからこそ経営者には、前に進む大胆さだけではなく、環境の変化やリスクを敏感に察知し、「危ない」と思った時には立ち止まる臆病さも必要なのです。(第四部参照

実際、優れた経営者の著書や発言を見ても、「臆病さ」を経営者に必要な資質として捉える考え方があります。

ブリヂストン元CEOの荒川詔四氏は、著書のタイトルそのものを『臆病な経営者こそ「最強」である。』とし、小心さや臆病さこそ、不確実な世界を生き抜くための武器になると説いています。また、ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって市場が混乱し始めた時、X上で「嵐の前では臆病だと笑われるくらい守りに徹した方がいい。それが本当の勇気だと思う。」と発言しました。

百名山への挑戦も、ベンチャー企業の挑戦も同じです。ただ楽観的に「何とかなる」と考え、豪胆に突き進むことが勇気なのではありません。常に最悪の事態を想定して備え(第4章)、リスクや失敗の可能性を恐れ、危険な兆候を感じたら立ち止まる(第10章・第11章)。そして、それでも進むべきだと判断した時には、大胆に一歩を踏み出す。

経営者やリーダーに求められるのは、「大胆な冒険心」か「慎重な臆病さ」のどちらかではありません。その相反する二つを併せ持ち、状況に応じて「進む勇気」と「退く勇気」を使い分けることが、長く挑戦を続けるために必要なのだと思います。

15. 「ここまで来たのだから」に惑わされるな
~サンクコストを捨てる勇気を持て~

もしアタック予定の朝、雨が止んでいたら、私は「せっかくここまで来たのだから」と考えたかもしれません。

そして実は、この「せっかくここまで来たのだから」という心理こそ、冷静な撤退判断を狂わせる、もう一つの大きな要因です。

何ヶ月も前から計画を立て、2ヶ所の山小屋を予約し、自宅から遠く離れた富山まで夜行バスを乗り継いでようやく辿り着き、それぞれに相応のコストをすでにかけてきました。そして標高2400mの山小屋まで、雨の中、重い荷物を背負って歩いてきました。

「費用と時間をかけて、ようやくここまで来たのに、山頂を目前にして帰るのか?」

そんな考えが頭の中を巡りました。

経済学や経営学では、このような「すでに支払ってしまい、取り戻すことのできない費用」を「サンクコスト(埋没費用)」と呼びます。

ベテランの登山家であれば容易に判断できる悪条件の中、まだ経験の浅い私は、大胆な冒険心――あの時は無謀な挑戦心――と共に、この「サンクコスト」が足かせとなって、即断を妨げていたのでした。

経営の現場、特にベンチャー企業の経営においては、このサンクコストが判断を鈍らせる場面が数多くあります。

不採算事業に関して、撤退やピボットをするか否かの判断。新規事業や新プロダクト開発において、クリティカルな問題が発覚した時のリリースの判断。非常に優秀ではあるものの、自社の理念や価値観との一致に疑問がある候補者を採用するか否かの判断。

その時の経営陣の議論の中で、「ここまで既に投資したのだから」「これだけ苦労したのだから」「時間をかけてきたのだから」と、サンクコストを意識し過ぎるとどうなるか?

不採算事業から撤退できず赤字を拡大してしまったり、潜在的な問題を抱えたまま新規事業のスタートや新商品のリリースをしてしまったり、組織の価値観に合わない人材を採用し、後に大きな軋轢を生んでしまったりと、取り返しのつかない経営判断につながることがあります。

このようなことにならないよう、重要な決断をする際には、自分たちがサンクコストの罠にはまっていないかどうかを、経営者は特に意識し、冷静に判断をすることが求められます。

諦めてはいけない時に諦めないこと。そして、諦めるべき時には、それまで費やした時間やお金、努力に囚われず、潔く撤退すること。その両方ができてこそ、本当の意味で「不撓不屈の精神と、慎重な判断力を併せ持つ」ことになるのだと思います。

————————

以上、【百名山から学ぶベンチャー経営論】の第五部でした。

この挑戦も一年が過ぎました。タイトルは「百名山から学ぶ」としていますが、実は裏を返せば、私の想いとしては、「これまでのベンチャー経営の経験を登山にも適用して取り組めば、登山の素人でも短期間で百名山を踏破できる、ということを証明してみよう」というものでした。これまでのところ、大いにその経験が活かされていると思います。

次回は、「失敗から学び、成長を続ける」 をテーマに、場数を踏み、鍛錬を積み、一つ一つ学びながら、自らの成長を続けることについて考えてみたいと思います。

なお、シリーズのこれまでの記事をまだお読みでない方は、こちら↓をぜひお読みください。

第一部「頂を決め、準備する
第二部「計画は綿密に、実行は地道に
第三部「戦略・戦術・戦闘
第四部「アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませ

D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太

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2026.08.26
【エコシステム事例】Payke × Location AI、データ連携がひらく新しい共創のかたち|「何を買ったか」と「どこへ行ったか」がつながる未来とは?
2026年4月14日、一つのプレスリリースが公開されました。 訪日外国人向けショッピングアプリ「Payke」を運営する株式会社Payke。位置情報ビッグデータを活用した人流分析プラットフォームを提供するLocation AI株式会社。この二社が、データ連携を軸とした業務提携を開始したという発表です。 プレスリリース:「訪日外国人向けショッピングアプリ『Payke』と連携。」 今回の提携の核心は、Location AIが持つ「人がどこへ移動したか」という人流データと、Paykeが持つ「何に興味を持ち、何を買ったか」という購買・関心データを掛け合わせること。これまで「点」として捉えられてきた旅行者の行動が、「どこへ行き、何に興味を持ち、何を買ったのか」という一つのストーリーとして見えてくるようになります。 では、なぜこの二社は出会い、わずか半年ほどで業務提携に至ったのでしょうか。そして、この掛け合わせは日本のインバウンドや観光の未来をどう変えていくのでしょうか。両社のサービスの特徴から提携に至った背景、そしてこれから描く未来まで、お話を伺いました。 まず、両社のサービスについて教えてください Paykeは、どのようなサービスを提供しているのでしょうか? Payke: Paykeは、訪日外国人旅行者の買い物における「分からない」を解消する、ショッピングサポートサービスです。日本を訪れた外国人旅行者が商品を手に取っても、パッケージが日本語だけでは、用途や使い方、特徴、成分などを十分に理解できないことがあります。 そこでPaykeのアプリでは、商品のバーコードをスマートフォンで読み取るだけで、基本情報や使い方、特徴などを多言語で確認できるようにしています。単にパッケージの文字を翻訳するのではなく、当社が保有する商品データベースから、旅行者が商品を選ぶ際に必要な情報を届けていることが特徴です。 アプリだけでなく、店頭に設置する「Payke Tablet」も提供しています。旅行者自身が端末で商品のバーコードを読み取り、母国語で商品情報を確認できるため、多言語を話せるスタッフが常にいなくても、商品の魅力を伝えることができます。 Paykeは、翻訳や商品案内だけではなく、データの面でも強みを持っているのでしょうか? Payke: はい。私たちが蓄積しているのは、最終的に何が売れたかという販売データだけではありません。アプリやタブレットを通じて、 どの商品がスキャンされたのか どの商品と比較されたのか どの国籍や年代の人が関心を持ったのか といった、購入前の関心や検討行動も捉えることができます。 一般的な販売データに表れるのは、最終的に購入された商品です。一方、スキャンデータには、関心を持ったものの購入されなかった商品や、店頭で比較された商品も表れます。つまり、売上だけでは分からない、旅行者の心の動きに近づくことができるのです。 私たちは「何が売れたか」だけでなく、「なぜ関心を持ち、なぜ選ばれたのか」まで理解し、メーカーや小売企業の次の施策につなげたいと考えています。 価値は、伝わって初めて価値になる Paykeは、単に外国語を表示するサービスではありません。本来であれば選ばれていた可能性のある商品が、情報不足によって棚へ戻されてしまう。その見えない機会損失を減らし、日本の商品が持つ価値を、正しく旅行者へ届けています。どれほど優れた商品やサービスも、その価値が相手に理解されなければ選ばれることはありません。Paykeの事業は、経営における「価値をつくること」と「価値が伝わる状態をつくること」、その両方の重要性を示しています。 Location AIは、どのようなサービスを提供しているのでしょうか? Location AI: 私たちは、位置情報ビッグデータをAIで解析し、現実世界における人の流れを可視化・分析するサービスを提供しています。「Location AI Platform®」では、人がどこから訪れ、どこに滞在し、その後どこへ移動したのかを分析できます。商圏分析、出店計画、観光地分析、イベント分析、広告配信など、幅広い分野で活用されています。 たとえば、ある観光地にどの国から旅行者が訪れているのか、訪問前後にどの場所へ立ち寄ったのか、曜日や時間帯で人の流れがどう変化するのか。こうしたことを、実際の人流に基づいて捉えられます。これまで経験や感覚で判断されることが多かった領域を位置情報に基づくファクトへ変え、企業や自治体の意思決定を支援しています。 人流データがあることで、企業や自治体の判断はどのように変わるのでしょうか? Location AI: たとえば新しい店舗を出店する場合、従来は周辺人口や駅の乗降者数、担当者の経験などを基に候補地を選ぶことが多かったと思います。しかし、人口規模が同じエリアでも、実際にどのような人が、どの時間帯に、どの方向から訪れているかは異なります。 観光地も同様です。来訪者数だけを見ても、その旅行者がどこから来て、観光地の前後にどの場所を訪れたかまでは分かりません。実際の移動を捉えられることで、旅行者の誘致、広告の効果測定、店舗の出店、観光地の周遊促進などを、勘ではなく事実に基づいて計画できるようになります。私たちは、データを保有するだけでなく、現場の方が分析や意思決定に使える状態で提供することを大切にしています。 Paykeは、Location AIのサービスを初めて見たとき、どのような印象を持ちましたか? Payke: 打ち合わせの中で、実際に管理画面を見せていただいた瞬間が強く印象に残っています。地図上に人流データが可視化され、エリアや期間を切り替えると、訪日外国人のお客様の動きがその場で浮かび上がりました。 「データを持っていること」と「データを誰もが使える形にしていること」の間には、大きな距離があります。Location AIは、それをプロダクトとして高いレベルで完成させていました。さらに、技術者同士の打ち合わせでは、データ連携の方式が非常に速いスピードで決まっていきました。プロダクトの完成度だけでなく、意思決定と実行の速さにも驚かされました。 データの価値は、量ではなく行動で決まる 経営者が必要としているのは、膨大な数字そのものではありません。数字を見た結果として「では、何をするべきか」が分かることです。専門家しか扱えなかった位置情報ビッグデータを、経営者や現場担当者が意思決定に使える形へ変える。Location AIの強みは、データを「情報」で終わらせず「行動」へ変えていることにあります。 二社は、どのように出会ったのでしょうか? 今回の業務提携は、どちらから声を掛けたのでしょうか? Payke: 正直に申し上げると、「どちらから」という感覚があまりありません。きっかけは、2025年10月に開催されたD-POPS GROUPの「ベンチャーエコシステムサミット」でした。 会場でご挨拶したのが最初の接点です。Location AIさんは、D-POPS GROUPから事前に当社の事業について聞いてくださっていて、その場で「多面的な協業があり得るのではないか」と話が弾みました。翌日にはディスカッションのお誘いをいただき、最初の打ち合わせでお互いに「これは一緒にやるべきだ」と感じました。声を掛けた、掛けられたというよりも、D-POPS GROUPとの縁によって出会うべくして出会った、という表現が近いと思います。 Location AI: インバウンド旅行者の分析や広告配信を強化したいという考えがあり、当社からも積極的にお声掛けしました。D-POPS GROUPからPaykeさんのお話を伺ったときから、協業の可能性は感じていました。初回の打ち合わせで、当社の人流データとPaykeさんのデータを掛け合わせることで、より付加価値の高いサービスを提供できると確信しました。 初めて話したとき、「絶対に一緒にやるべきだ」と感じたのはなぜでしょうか? Payke: 両社のデータが、ちょうど「鏡合わせ」の関係になっていると気づいたからです。Paykeは、訪日外国人のお客様が「何に興味を持ち、何を買ったのか」という購買・関心のデータを持っています。しかし、その方がお店に来る前にどこを訪れ、購入後にどこへ移動したのかという「動き」は見えていませんでした。 一方、Location AIさんは「人がどのように動いたのか」という人流データを持っていますが、その人が移動先で「何を買ったのか」までは見えません。お互いに見えていなかった部分が、パズルのピースのように重なりました。この構図が見えた瞬間、議論は「やるか、やらないか」ではなく「何から始めるか」に変わりました。 Location AI: 私たちも同じ感覚でした。Paykeさんは、購買行動と結び付いたデータに加えて、旅行者の国籍や年代に関する信頼性の高いデータを持っています。人流だけでは分からなかった旅行者の興味や購買行動を理解できる。当社にとっても、サービスの精度と価値を大きく高められる組み合わせでした。 なぜ、他社ではなくこの二社だったのでしょうか? Payke: 大きく二つあります。一つ目は、同じD-POPS GROUPの出資先同士であるという、信頼の基盤です。データ連携は、お互いのユーザーやクライアントに対する責任を伴う、非常にセンシティブな取り組みです。だからこそ「信頼できる相手であること」が何よりも重要でした。同じ株主の下で経営に対する考え方や成長への姿勢を共有できていたことは、交渉のスピードにも議論の質にも大きく影響しています。 二つ目は、技術力とデータの規模です。位置情報ビッグデータをAIで解析し、誰もが利用できる形へ可視化したプラットフォームの完成度。そして、世界規模の人流データ。この二つがそろっている相手は、ほかにはいませんでした。 Location AI: Paykeさんが、購買行動と結び付いたデータと、正確な国籍・年代情報を持っていたことです。また、サービスを開発するだけでなく多くの流通・小売事業者に導入され、実際に旅行者から利用されている点も大きな魅力でした。データの量だけではなく、実際の購買行動に基づく信頼できるデータであることを高く評価しています。 強い企業は、自社に「見えていないもの」を認められる 企業は、自社の強みを語ることには慣れています。一方で、本当に大きな変化が始まるのは、自社だけでは見えない領域を認めたときなのかもしれません。すべてを自社でつくろうとするのではなく、異なる強みを持つ企業とつながる。弱みを隠すのではなく、他社の強みによって可能性へ変える。イノベーションとは、必ずしも何もないところから新しい技術を生み出すことだけではありません。すでに存在する優れた価値同士を、新しい意味でつなぐことでもあります。 購買データと人流データがつながると、どのような変化が生まれますか? Payke: 購買は、旅の中の「ワンシーン」です。旅行者の一日は、移動、観光、食事、買い物、宿泊の連続です。これまでの購買データが切り取っていたのは、その中の一瞬でした。そこに人流データが重なることで、“点”だった購買が“線”のストーリーとして見えるようになります。 たとえば、台湾から来た旅行者がドラッグストアで化粧品を購入したとします。その前にどのエリアを観光し、その後どの街へ移動したのか。「何が買われたか」だけではなく、「なぜ、その商品が、その場所で買われたのか」という文脈まで理解できるようになります。これは、購買データだけではたどり着けなかった世界です。 Location AI: 購買行動と訪問先を一緒に分析することで、旅行者の趣味嗜好や興味関心を、より深く理解できるようになります。さらに、その理解に基づいた広告配信も可能になります。人がどこを訪れたのかだけでなく、何に興味を持ち、何を購入したのかまで分かることで、旅行者により適した情報や体験を届けられるようになります。 分析するだけでなく、次の行動を促すこともできるのでしょうか? Payke: はい。私たちは、行動を「見えるようにする」だけで終わらせたくありません。Paykeのアンケートを通じて、行動の背景にある「なぜ」を直接聞くことができます。さらに、位置情報と連動した情報配信によって、お客様の次の行動を後押しすることもできます。理解した行動に対して、その場で働きかける。「見る」と「動かす」を一気通貫で行えることが、今回の提携の面白いところです。 この提携は、日本の観光をどう変えるのでしょうか?メーカーや小売以外では、どのような企業や組織が活用できますか? Payke: 自治体、DMO、観光事業者は、明確に対象になると考えています。訪日客がどこから来て、どこを回り、どこで何を消費したのかが分かれば、地域内の周遊促進や、観光地への集中を防ぐオーバーツーリズム対策にも活用できます。観光コンテンツの磨き上げなど、地域の意思決定にもそのまま使えるデータになります。ほかにも、空港、鉄道、交通事業者、商業施設、デベロッパーなど、インバウンドの移動と消費を知りたいあらゆる企業が対象になり得ます。 Location AI: 自治体や旅行会社、コンサルティング会社、広告代理店などにも活用いただけます。実際の人の動きを基に旅行者の誘致を計画できるようになるため、より根拠のある観光マーケティングが可能になります。 地方創生には、どのような可能性がありますか? Location AI: あまり予定を決めずに長期滞在する旅行者に対して、京都などの著名な観光地だけではなく、別の地域への訪問を提案できるようになります。旅行者の興味関心や行動を理解したうえで、本人に合う新しい行き先を届けることで、地方への周遊につなげられると考えています。 Payke: 地方に魅力がないのではなく、旅行者にその魅力が届いていないケースは少なくありません。購買と人流を一緒に捉えることで、その人がどのような体験や商品に関心を持っているのかが分かります。その関心に合った地域の商品、文化、食、自然、体験を、適切なタイミングで届けられるようになります。 データが、地域の未来をつくる 今回の提携によって生まれるのは、広告の精度向上だけではありません。旅行者を有名観光地から無理に移動させるのではなく、一人ひとりの興味に合う新しい行き先を提案する。その結果として旅行者の体験が豊かになり、地方にも新たな人と消費が流れていく。企業の売上を増やすためのデータが、地域の未来をつくるデータへ変わる。そこに、この提携の社会的な価値があります。 提携の成果と、これからの目標を教えてください 提携発表後、社内や市場からはどのような反応がありましたか? Location AI: データ量が増え、ファーストパーティデータに基づいた分析や広告配信ができるようになったことで、サービスの魅力が高まったという反応がありました。既存のお客様からも、分析や配信の信頼度が増したというお言葉をいただいています。新しいお問い合わせの増加にもつながっています。 Payke: 社内では、データチーム、広告チーム、営業チームが、それぞれ「この案件に活用できそうだ」と、具体的な提案へ結び付けて考え始めています。発表後は、既存クライアントから「人流と掛け合わせた分析はできないか」という相談や、広告会社・代理店からの問い合わせが増えました。特に、自治体、空港、交通関連など、Payke単体では接点をつくりにくかった領域からの引き合いが生まれています。 この提携が成功したと判断する指標は何でしょうか? Payke: 三つの段階で考えています。第一に、メーカー、小売、自治体などへの共同提案や共同案件の数。第二に、連携データを活用した分析・広告メニューを継続的に利用いただく企業の数。そして最終的には、両社のデータを統合した「インバウンドの消費×人流」という指標が、業界のスタンダードとして参照される存在になることです。単発のキャンペーン成功ではなく、この提携から生まれる案件が増え続けているかを、最も大切な物差しにしています。 Location AI: 当社としては、インバウンド関連の問い合わせが増えること、連携を活用した新しいサービスが生まれること、そして最終的に収益の向上へつながることを重要な指標としています。 D-POPS GROUPに、今後期待することはありますか? Payke: 今回の提携は、サミットの会場で交わした一つの挨拶から始まりました。出資先同士が実際に出会い、化学反応を起こせる「場」をつくっていただいたことに、まず感謝しています。D-POPS GROUPのエコシステムには、私たちがまだ出会えていない技術やアセットを持つ企業が、数多く存在していると思います。これからも、第2、第3の「Payke × Location AI」が生まれる掛け算の起点であり続けてほしいです。私たちも、成功事例の一号として、エコシステム全体に貢献していきたいと考えています。 Location AI: 今後も、今回のようにシナジーが生まれる投資先企業とのアライアンスを、積極的に推進していただきたいです。当社も、人流データの分析や広告などの領域で、さまざまな企業との柔軟な協業を進めていきたいと考えています。 最後に、この記事を読む企業へメッセージをお願いします Payke: 今回の提携によって、インバウンドの捉え方は「点」から「線と面」へ変わります。これまでは「商品が売れた瞬間」のデータが中心でした。これからは、その前後の動きとして、どこから来て、どこを回り、その後どこへ向かったのかまで含めて捉えられます。訪日外国人市場に向き合うメーカー、小売企業、自治体、観光事業者の皆様は、勘や断片的なデータだけでなく「購買×人流」の統合されたファクトを基に意思決定できるようになります。 大がかりなプロジェクトから始める必要はありません。一つの商品、一つのエリアの分析から、スモールスタートできます。インバウンドの実像を知りたいと感じたら、ぜひ一度ご相談ください。 Location AI: 私たちは、人流データの解析を基に、分析や広告などの分野で柔軟なアライアンスを進めていきたいと考えています。購買データ、人流データ、顧客データなど、異なるデータを組み合わせることで、これまで見えなかった新しい価値を生み出せます。協業に関心をお持ちの企業は、ぜひお問い合わせください。 編集後記 PaykeとLocation AIは、互いに足りないものを単純に補い合ったわけではありません。それぞれが長い時間をかけて磨いてきた強みを持ち寄り、一社では生み出せなかった価値に変えました。 今回の提携は、インバウンドマーケティングを進化させる取り組みであると同時に、企業がどのようにつながり、社会に新しい価値を生み出すべきかを示す、経営の事例でもあります。 自社だけですべてを抱え込む時代は、もう終わったのかもしれません。自分たちに見えていない領域があることを素直に認め、違う強みを持つ企業と手を組む。顧客も、技術も、データも、知見も、お互いに持ち寄る。そうやって生まれるものは、単純な足し算ではなく、掛け算に近い広がり方をするのだと思います。 これが、当社が「ベンチャーエコシステム」という言葉に込めている意味です。 D-POPS GROUPが目指すベンチャーエコシステムとは?  正直なところ、大きな変化のきっかけは、綿密な事業計画よりも、ちょっとした出会いだったりすることの方が多い気がしています。この人と組んだら面白そうだ、そう感じた瞬間にまず動いてみる。 そんな小さな一歩の積み重ねが、数年後には業界の当たり前になっている。そういうものを、これからも見ていきたいと思います。 D-POPS GROUP アドバイザー 佐藤壮
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2026.08.25
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