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D-POPS GROUPが考える「のれん」とは?「のれん償却」見直しの考察

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2025.06.25

ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。また、このベンチャーエコシステムの成長のために、既存事業のオーガニック成長、新規事業・新会社の設立、M&A、CVC、資本業務提携の5つの基本戦略を推進しております。

今回は、この5つの基本戦略の1つである「M&A」と関わりの深い会計における「のれん」について、その会計処理についてニュースとなっていることもあり、取り扱いたいと思います。特に、「のれん」の「非償却」の可能性についても、言及できればと思います。

「のれん」に関しては、2025年5月30日に「のれんの非償却の導入およびのれん償却費計上区分の変更」に関する要望が、日本の会計基準の設定主体であるASBJ(会計基準委員会)にテーマ受付表として提出されました。この要望は、経済同友会、スタートアップ関連13団体、スタートアップ有志35社、企業経営者有志138名の連名で提出され、首相の諮問機関である規制改革推進会議もこれをフォローし、さらにASBJの議論においても、スタートアップ関係者の問題意識が十分くみ取られ、適切な議論が行われるよう、検討プロセスも含めフォローする旨を公表しています。このことは、日経新聞にも「のれん償却の見直し、民間13団体など会計基準機構に提案」という見出しでニュースになりました。

1.「のれんの非償却の導入およびのれん償却費計上区分の変更」の要旨

なお、今回提出された要望の要旨は、以下のとおりです。

①のれんの非償却を導入(選択制)
のれんの償却と併せてのれんの非償却も認める選択制を適用する。
(遅くともスタートアップ育成5か年計画の終期である2027年度までに結論・措置に至るよう検討を要望)

②のれん償却費の計上区分変更
現在、販売費及び一般管理費として営業費用に計上しているのれんの償却費を営業外費用もしくは特別損失に計上する。
(2026年度の結論・措置の可能性も含めて検討を要望)

2.現在の日本の会計基準における「のれん」の定義と取り扱い

現在の日本の会計基準において、M&Aの代金のうち、対象企業の純資産額を上回る金額については、「のれん」として無形固定資産に計上したうえで、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、規則的に償却するとしています。例えば、純資産3億円の対象企業を10億円の代金でM&Aする場合、7億円が「のれん」として無形固定資産となります。またその際に、投資回収期間を7年と想定していたならば、この7億円の「のれん」を毎年1億円づつの定額、7年間で費用化(償却)することになります。

一方で、IFRS(国際会計基準)、米国会計基準においては、「のれん」について規則的な償却は行わず、「のれん」の価値が損なわれた時に減損処理を行う方法が採用されています。これが、今回提出された要望における「のれんの非償却」です。なお、減損処理とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、将来において確実に回収可能な額を除き、資産を費用化することをいいます。先ほどの例でいうと、7億円の無形固定資産が計上されていたが、対象企業が赤字決算続きとなり回復が見込めない場合には、価値が損なわれた、つまり投資額の回収が見込めなくなったとして、7億円の全額を一時に費用化することになります。

これまで、日本の会計基準は、企業の財務報告の透明性と比較可能性の向上を目的として、IFRSとの整合性を目指し基準の改訂を行ってきましたが、このように「のれん」の会計処理についてはIFRSと相違しています。そのため、M&Aを積極的に行っている上場企業では、この相違を理由として、IFRSに移行している企業も多くあると考えられます。IFRSへの移行には、会計コンサルティングの導入、会計監査報酬の増加といった追加コストはあるものの、それを上回るメリットがあると経営判断した上場企業もあるのではないでしょうか。

3.今回提出された要望の背景

政府は2022年に「スタートアップ5カ年計画」を策定していますが、この計画において、M&Aは、スタートアップのエグジット戦略(出口戦略)のみとしてだけではなく、既存の大企業とのオープンイノベーションの推進策として、その重要性について触れられています。(スタートアップを成長させるM&A)

今回提出された要望は、このスタートアップを成長させるM&Aの促進において、日本の会計基準における「のれん」の償却が、阻害要因になっているということを背景としています。すなわち、「のれん」が償却される場合には、営業費用(販売費及び一般管理費)に計上されるため営業利益がのれん償却による費用額の分、減少することとなりますが、これがM&A検討の障害や、M&Aを断念する理由となっているということを背景としています。

特にスタートアップについては、企業価値(M&A代金)に占める純資産額の割合が小さいことが多く、「のれん」は比較的多額となるケースがあります。また、日本の多くの成長企業において、企業価値の源泉であるコアコンピタンスが、人的資本(従業員の知識やスキル、経験)、知識資本(特許、商標、企業ノウハウ)で構成されていることが多いと考えられますが、スタートアップにおいては、その傾向はさらに強いと考えられます。今後ますますAI領域におけるスタートアップの増加が加速すれば、その傾向も加速的に強まっていくと考えられます。

このように人的資本、知識資本は、企業価値の源泉として極めて重要ですが、現在の会計基準では、これらの「自社で生み出された」無形資産は、原則として資産計上することが認められていません。これは、その価値を客観的に測定することが困難であること、また将来の収益の獲得への貢献が不確実であることなどが理由とされています。

このこともあり、非常に価値の高い人的資本、知識資本を有する企業は、企業価値(M&A代金)は高く評価されるものの、会計上の純資産額は小さいというケースが増加していくと考えられます。この結果、これらを対象企業とするM&Aにおいては、「のれん」は多額となっていく可能性は極めて高いと考えられますし、M&Aを行う企業は、その「のれん」の償却により、営業利益も圧迫される可能性も極めて高いと考えられます。

ところで、営業利益は、企業の本業における収益力を示す重要な指標であり、企業価値に大きな影響を与えるものではありますが、「のれん」の償却、非償却による営業利益の増減は、理論的には企業価値に直接的な影響を与えるものではありません。これは、理論的には企業が将来生み出すキャッシュ・フローにより企業価値は評価されますが、「のれん」の償却は現金支出を伴わない営業費用の計上であり、実際の事業活動から生じるキャッシュ・フローには影響しないためです。

それでもなお、「のれん」の償却による営業利益の圧迫が、M&A検討の障害や、M&Aを断念する理由となるのは、営業利益が企業の本業における収益力を示す重要な指標であり、実務においては理論を超えて企業価値評価に大きな影響を与えているということだと思います。

IFRSではこれまで、営業利益の明確な定義がなく、表示も義務付けされていなかったのですが、今後はその定義を明確化して、表示を義務付けすることを検討しています。このことも、営業利益という指標が、実務においては投資家にとって重要な情報であるということを示唆していると思われます。また、日本においては、IFRS適用企業の多くが、「営業利益」あるいはそれに類する項目を損益計算書に表示しています。

4.ベンチャーエコシステムの実現を目指すディ・ポップスグループが考える「のれん」とは

ディ・ポップスグループも、財務状況や経営状況をステークホルダーに説明する義務を果たすうえで、「のれん」の償却、非償却の双方にメリット、デメリットがあることを十分に理解したうえで、「のれん」の非償却、もしくは、その選択制に賛同いたします。ディ・ポップスグループは、ベンチャーエコシステムの実現、成長の戦略の1つとして、M&Aも積極的に行ってきましたが、やはり「のれん」の償却による営業利益の圧迫が、ディ・ポップスグループが実現している企業成長を含めた経営状況の実態を適切に説明する阻害要因になっていると感じているからです。

また、「のれん」を償却する場合には、決算期ごとに「のれん」の額は償却により減少していきますが、一方で営業利益が圧迫されることにより純資産額の積み上げは少額となります。一方で、「のれん」を非償却とする場合には、減損処理を行うような経営状況にさえならなければ、「のれん」は多額のままとなり総資産額も多額となりますが、営業利益は圧迫されないため純資産額の積み上げも早くなります。

財務状況を表す貸借対照表における資産の本質は、平易にいうと、「企業が現在持っている、将来の稼ぐ力のもとになるもの」であり、そして、純資産額は、株主からの出資を除くと、「企業が獲得した利益の蓄積」を表していると考えます。

ディ・ポップスグループにおいては、M&Aでグループ企業としてベンチャーエコシステムに参画してもらう際には、投資額よりも多く将来の稼ぎ、つまり投資回収としてのキャッシュ・フローをもたらすことに確信をもっています。それは、戦略の1つであるコングロマリット・プレミアムによるグループシナジーがあるからであり、そして、ベンチャーエコシステムという共存共栄関係のなかでの事業成長により、このキャッシュ・フローが年々増加していくことを目指しています。

そのため、「のれん」が多額となったとしても、それは、M&A投資による将来の稼ぐ力を適切に表し、そのM&Aの投資回収が純資産の積み上げとなることは、獲得した利益の蓄積を適切に表すと考えるため、財務状況のステークホルダーへの説明においても適切であると考えます。

最後に、ディ・ポップスグループでは、M&Aを行う際に優れたビジネスモデルに着目する場合もありますが、多くの場合には優れた経営戦略を着実に実行する経営者の能力、ノウハウにより重点をおいています。これはディ・ポップスグループが目指すベンチャーエコシステムが、自立支援を重視し、独立した経営者集団であることを目指していることと関連しています。

つまり、コングロマリットプレミアムなビジネス環境を提供し、グループシナジーのなかで更なる自社の成長を望む経営者のためのエコシステムであり、そのため、基本的にはグループジョイン後も継続して自社の経営、成長にリードしていただきたいと考えています。

このような経営者が創ってきた企業は、ディ・ポップスグループにジョインする段階で、研究開発費、人材育成費、マーケティング投資など、将来の収益拡大や競争優位性の構築を目指すための戦略的な投資により、非常に価値の高い人的資本、知識資本が構築されています。

資産の本質は、「企業が現在持っている、将来の稼ぐ力のもとになるもの」であり、画期的な技術を開発するための研究開発費や、優秀な人材を育成するための研修費も、将来の収益増加に貢献するはずであるのに、前述のように、これらの「自社で生み出された」無形資産は、原則として資産計上することが認められていません。このことは、特に無形資産が企業価値の大部分を占める現代の知識集約型社会において、企業の財務諸表がその企業の真の価値や投資の実態を十分に反映していないという課題を生んでいると考えます。

このような状況下で、M&Aによってグループ参画した企業の「のれん」を償却することは、ある種の二重費用計上のような側面を持つ可能性があると考えています。なぜならば、「のれん」の大部分は、グループ企業が過去に人的資本や知識資本に投じた費用、「将来の企業成長のための投資となる費用」であり、資産として計上されなかったものが、M&Aによってようやく「のれん」という形で資産計上されたものと考えられるからです。つまり、過去に一度費用として処理された投資が、「のれん」の償却で再度費用となりかねないという問題があります。

これまで述べてきたように、ベンチャーエコシステムの実現を目指すディ・ポップスグループにとって、「のれん」の大部分の本質は、人的資本、知識資本であり、コングロマリットプレミアムのコアとなる重要な資産であると考えています。そして、これがグループシナジーに拍車をかけ、エコシステム内により多くのキャッシュ・フローが創出され、それがまた将来のエコシステムの成長のために投資されていくという好循環を生み出すことでイノベーションを加速し、日本の未来に貢献したいと考えています。

東京証券取引所のグロース市場の見直しにより、M&Aは、成長戦略の重要な柱として、エグジット戦略の1つとして、その重要性はますます高まっていくと考えられます。「M&A」と関わりの深い「のれん」の会計処理について、これから行われるASBJの検討内容に注目していきたいと思います。

これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。

D-POPS GROUP 執行役員 公認会計士 米谷好弘

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2026.03.04
クロスセルとは?売上総利益を劇的に改善する具体策と成功事例を解説
今回は、企業の基本的な収益力を示す売上総利益に着目し、売上総利益の上げ方 その①として「クロスセル」について解説して参ります。 「クロスセル」とは、顧客が購入した商品やサービスに対し、関連する商品やサービスを追加で提案し顧客単価を上げ、売上を上げる手法です。牛丼屋で卵とサラダを、ハンバーガーショップでポテトとドリンクを勧められたりすることが最も一般的なクロスセルの事例と言えます。今回は小売業の事例を元に「クロスセル」を解説していきたいと思います。 1.経費も時間もかからずに絶大な効果が得られる手法 前回までに「在庫回転率」「一人当たり売上高」「坪効率」を取り上げ、会社経営をしていく上で利益を上げる手法として企業の収益力を示す売上総利益ではなく、あえてCFや経費(人件費、家賃)を取り上げました。同じような売上規模、同じような商品を扱う競争環境の中で同業他社と大きな差別化を図るためには売上総利益よりCFや経費に目を向けることが肝要であるからで、前回までに具体的事例をご説明いたしました。今回はCFや経費の重要性を理解いただいた上で、会社経営の本丸である売上総利益に着目して参ります。 売上総利益は非常に単純な指標で、売上高から原価を差し引いた利益のことで、粗利と言ったりもします。商品やサービスそのものが、独自性があり差別化されていれば、高い売上総利益を上げることができます。今回は独自性があり差別化された商品やサービスの作り方で売上総利益を上げる方法ではなく、同じような商品を扱う状況の中で、如何に売上総利益を上げるか?ということを取り上げて参ります。 今回取り上げる「クロスセル」は経費も時間もかからずに売上総利益に対し絶大な効果が得られる手法です。ではなぜ「クロスセル」が重要か、以下順を追ってご説明いたします。 2.クロスセルとは まず、クロスセルとは、顧客が購入した商品やサービスに対し、関連する商品やサービスを追加で提案したり品揃えをしたりすることで、顧客単価を上げたりリピート購入を増やすことで売上を上げる手法です。 例えば ・スーツを購入すれば、スーツに合ったネクタイを勧められる ・スマホを買えば、フィルム、ACアダプタ、保険、ウイルスソフトを勧められる ・カメラを買えば、レンズ、フィルター、メモリーカードを勧められる ・車を買えば、タイヤ、シート、ドラレコ、カーナビ、保険を勧められる といった様なことが代表的で、このほかにもクロスセルの事例は枚挙にいとまがありません。 上記の様に直接的に勧められなくても、パソコンやカメラの周辺機器の様に沢山の品揃えをすることで後から購入してもらえる状況を作るということも、広義の意味ではクロスセルと言えます。クロスセルは、リアル店であれば店員のトークで、WEBであれば商品リコメンドとして、商品やサービスを販売する業態や業種であればどの企業でも大なり小なり実践していると思います。 クロスセルは一見非常に地味ですが、売上総利益に対し絶大な効果を及ぼします。次項ではどのくらいの効果があるかを見ていきたいと思います。 3.なぜクロスセルが重要か? クロスセルの及ぼす効果とは いくつかの事例をもとにクロスセルの及ぼす効果を解説していきたいと思います。最初は、ある会社のある時期でのパソコンの利益をモデルケースに解説します。(モデルケースは架空の事例としていますが、実際の事例がベースとなっております。) モデルケース PC本体 売上総利益28億円 利益率20% 売上140億円 PC周辺/アクセサリー/関連商品 売上総利益 44億 利益率40% 売上110億円 (PC周辺/アクセサリー/関連商品とは、プリンター/ルーター/記録装置等の周辺機器、マウス/キーボート/バック等のアクセサリー、インク/紙等の消耗品、ブロードバンドの加入手数料、関連ソフト/関連書籍等を全て合算したものです。) この事例で見ていただきたいポイントは、利益額、売上高です。 顧客が最初に目的として購入するパソコンの利益は28億円。パソコンを購入と同時、もしくは購入した後に必要となるクロスセル対象商品であるPC関連商品合計の利益は44億円。実に16億円、比率にして157%も利益が違います。売上はPC本体が140億円、PC関連合計は110億円で、クロスセル対象商品であるPC関連商品合計の方が30億円も少ないにも関わらずです。 PCだけではありませんが、顧客が最初に目的として購入する商品の多くは、商品での競合や店舗での競合があり、それほど儲かりません。PC関連商品合計の様なクロスセル対象商品はすべてではありませんが、利益率の高い商品が多く、クロスセル対象商品を顧客が最初に目的として購入する商品の販売時やその後のリピートで一生懸命売ることが利益額的にも、効率を見た利益率の面でも、売上総利益を上げることに対し絶大な効果を発揮していることがお分かりいただけるかと思います。 上記事例はPCの事例だったので、次はスマホの事例を見てみましょう。 以下の事例はある会社のスマホ販売における1ヶ月の利益内訳です。(モデルケースは架空の事例としていますが、実際の事例がベースとなっております。) モデルケース スマホ販売総利益 9,000万円 スマホ本体の販売による利益 5,000万円 スマホ関連商品利益 4,000万円 (スマホ本体の販売による利益とは、スマホ本体を販売することにより得られる利益の合計、スマホ関連商品利益とはスマホ本体のクロスセルによりスマホ本体以外から得られる利益の合計です。) スマホ本体は、スマホの新規加入がPCに比べ利益があるので、顧客が目的として購入するスマホ本体の利益よりクロスセル対象商品であるスマホ関連商品の利益の方が多くなる、というところまでにはなっていませんが、全体の比率の45%が、スマホ関連商品の利益で占めています。顧客が目的として購入する商品の販売時に、クロスセル対象商品を一生懸命売ることで、売上総利益を上げることに対し、絶大な効果を発揮していることがこの事例でもお分かりいただけるかと思います。 上記2つの例からも分かる様に、クロスセルは売上総利益に対し絶大な効果を発揮するわけですが、クロスセルの最大のメリットは、追加の経費がほぼ掛からず、売上総利益の増加分=営業利益の増加につながるということです。 例えば店舗なら、売上を上げるために出店をしますが、家賃や人件費等の経費が追加でかかります。法人営業なら売上を上げるために営業マンを増強したり、広告費を追加したり、営業所を追加したりしますが、この分の経費が追加でかかります。店舗を増やしたり、営業マンを増強したり、広告費を増やしたりすることで、当然売上も売上総利益もいくらかは上がるでしょうが、この経費をかけた分を回収できる売上や売上総利益が上がる保証はありません。経費分が回収できず、営業利益ベースでは赤字だったという事例はたくさんあるのではないかと思います。 これがクロスセルだと追加の経費がほぼ掛かりません。クロスセルにより売上が上がり、売上総利益が上がると、追加の経費がほぼ無いので、上がった売上総利益がそのまま営業利益になるという、利益貢献度が抜群な手法であるわけです。 今回のモデルケースだけでなく、商品やサービスを販売するビジネスであれば、飲食でもアパレルでも、クロスセルを活用することで、顧客が目的として購入する商品やサービスで出す利益と同等か、それ以上の利益を上げることも可能で、全体の売上総利益の10%程度を底上げする程度なら、ハードルの低い取り組みで実現可能です。 さらに前述したように、追加の経費がほぼないので、売上総利益の底上げ分がそのまま営業利益になります。売上総利益や営業利益を上げたいと思うなら、出店や営業マンの増強、広告費の増加で新しい顧客を探すのではなく、最初にクロスセルで顧客単価を上げることをおススメいたします。クロスセルでの売上増加が営業利益まで直結して増加するためです。 同じような商品を扱う競合状況の中では、競合他社を大きく上回るクロスセルを実現すれば、売上総利益だけでなく、営業利益の面でも競合他社に大きなアドバンテージを持つことになります。クロスセルが経営に及ぼす効果が如何に大きいかおわかりいただけたのではないかと思います。 4.クロスセルで売上を上げるポイント クロスセルの重要性はご認識いただけたかと思いますので、クロスセルで売上を上げるポイントをいくつか紹介させていただきます。 クロスセルで売上を上げるポイント① クロスセルが成り立ちやすい商品を扱うということと、関連商品の品揃えをしっかりすることです。 分かり易い例でいえば、冷蔵庫や洗濯機は延長保証くらいしかクロスセルが成り立ちませんが、例に出したPCやスマホ、カメラ、車、スーツあたりはクロスセルの宝庫といえます。スーツを例にとると、ワイヤシャツ、ネクタイはもちろんのこと、スーツに合うカバンやベルト、靴等を品揃えすればクロスセルが成り立ちますし、ネクタイピンやシャツずれの防止グッズあたりもクロスセルにつながります。上記は例ですが、クロスセルが成り立つ商品を扱うことと、その関連商品の品揃えをしっかり行うことで、クロスセルによる売上は上がります。 クロスセルで売上を上げるポイント② クロスセルの重要性の教育が従業員になされており、常に会社と従業員がクロスセルを高めるために商品知識や接客トーク、接客技術を磨き、接客や展示、仕入れ等に対し創意工夫をし続ける血の通った経営をし続けることです。 なぜクロスセルの提案商品が必要なのか?を顧客の目線で説明できるトークを身に着け、提案商品が複数あれば提案の順番とどのタイミングで提案するかを考え、提案商品をどこに置くと効果的かを考え展示をしていく。このような創意工夫ができる会社とできない会社では、圧倒的な差が生まれてきます。 また、クロスセルで提案する商品は利益があればなんでもいいというわけではありません。関連性があり顧客メリットが無ければ、単なる無理やり販売になってしまい、購入体験における顧客満足を落とす結果になり、経営としてマイナスの結果になってしまいます。どの商品のどの部分に関連性があり顧客にメリットがあるのかを顧客の目線でストーリー化する必要があります。このようなことの実現にも、深い商品知識と創意工夫が不可欠であることは言うまでもありません。 クロスセルで売上を上げるポイント③ テクノロジーの活用です。 WEBで買い物をすれば過去の購買状況からレコメンドが出ますし、通信業界では接客中にシステムでレコメンド商品が上がってくるといった取り組みが始まっています。当然、誰がどのくらいクロスセルができているのかを可視化することも、テクノロジーの領域です。テクノロジーの例はこれだけではありませんが、テクノロジーを使いこなすことはクロスセルによる売上アップに欠かせない要素の一つであることは明確です。 以上、クロスセルで売上を上げるための代表的な例を3つほど紹介いたしました。 もちろんクロスセルで売上を上げるためのポイントは他にもございますが、最大のポイントは、クロスセルの重要性の教育がなされたヒトがテクノロジーを使いこなすことです。結果的には、クロスセルで売上を上げ経営効率を飛躍的に向上させることは、ヒト×テクノロジーの掛け算の上に成り立つということになると思います。 5.まとめ 今回は、クロスセルのお話をさせていただきました。クロスセルは経費も時間もかからずに売上総利益だけでなく、営業利益に対しても絶大な効果が得られる手法で、このクロスセルにより、顧客が目的として購入する商品やサービスの売上を最大化することこそが、売上総利益と営業利益の最大化につながり、競合他社との大きなアドバンテージポイントになることをご説明いたしました。 今回のクロスセルは、前回までにお話しした「在庫回転率」、「一人当たり売上高」、「坪効率」として取り上げた、在庫、人件費、家賃のCFや経費の後にあえて取り上げております。1番最初の「在庫回転率」から一連の流れとしてご一読いただきますと、経営のポイントがより見えてくると思います。まだお読みでない方は、是非ご一読いただけますと幸いです。 今回のクロスセルを通してディ・ポップスグループとしてお伝えしたいことは、前回までと同様ビジネスは、ヒトにより成り立っているということです。商品を購入いただくお客様もヒトであり、商品を販売する販売員も、テクノロジーを使うのも、すべてはヒトであります。AIをはじめとするテクノロジーを使いこなさなければビジネス上で競争に勝ち生き残ることはできないと思いますが、テクノロジーだけでは生き残ることはできないと思います。テクノロジーが良いから、経営戦略が良いから、ビジネスが成功するのではなく、ヒト×テクノロジー×経営戦略の掛け算が大切であるとディ・ポップスグループは考えます。 この考えの元、ディ・ポップスグループはヒトが輝くために、また社会課題解決のために、ベンチャー企業に対して、出資を通じた支援と、効率という数字だけではない価値を通じた、グループエコシステムの実現を目指しています。 これからもご支援、応援の程、よろしくお願いします。 D-POPS GROUP 常務執行役員 渡辺哲也
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2026.02.12
創業社長にも求められる営業スキル ーベンチャー成長の壁を突破する「経営思考の営業」
ディ・ポップスグループでアドバイザーとしてベンチャー支援に携わる中で、多くの創業者が直面する壁があります。それは『営業』です。 本稿では、伴走支援する中で有用性を実感した、経営者こそ持つべき営業スキルについて解説します。 営業は創業後の成長を支える基盤 企業の成長過程において、営業活動は避けて通れない機能です。法人向け事業はもちろん、消費者向け事業においても、販路開拓、業務提携、アライアンス構築といった局面では必ず「営業活動」が発生します。市場に優れたプロダクトを投入しただけで自然に売上が立つ時代は終わり、顧客との対話設計そのものが競争優位を生む時代に入っています。 特に創業期・成長初期のベンチャー企業では、営業専門部隊を持つ以前に、創業者自身が最前線に立つことが少なくありません。資金調達、パートナー獲得、大口顧客の開拓など、重要局面ほど創業者が商談の中心に立つ現実があります。 豊富な営業経験のある創業者であれば、その経験値が武器になります。一方で、技術者やプロダクト開発出身の創業者にとって、営業は「不得意領域」と捉えられがちです。しかし現実には、事業の初期成長を決定付けるのは、プロダクトの完成度以上に「顧客との対話の質」であることが多いのです。 本稿では、営業責任者のみならず、創業者自身にも参考にしていただける、三つの「経営思考の営業スキル」をご紹介します。 1.「傾聴の姿勢」と「売ろうとしない勇気」 先日、珍しくスマホに一本の電話が入りました。出資及び事業推進の伴走をしている、B2B向けのソリューションベンチャーの創業社長からの、嬉しい報告でした。 それは、大手企業から契約の内示を獲得できたという知らせでした。数ヶ月前まで契約が思うように進まず、悔しさを滲ませていた彼の声には、明らかな達成感が宿っていました。私は祝福の言葉を伝えると共に、これは単なる幸運の産物ではない、営業における「姿勢」を変えた結果であり、今後の活動に向けての大きな一歩だと伝えました。 彼は、今回の商談を振り返った際、以前は無料トライアル後に早期の本契約を迫り、相手の懸念が十分に解消されないまま、自社都合で前進しようとしていたことが、失注の要因だったと自己分析していました。 今回はそのアプローチを改め、導入判断を急がせず、商談相手が検討すべき論点を共に整理し、次回までの「宿題」を設定することで自然に次回の対話へとつなげました。その結果、商談が一歩一歩前に進み、今回の内示獲得へと至りました。 注目すべきは、特別なクロージング技術を用いたわけではない点です。 むしろ、過剰に売り込もうとする前のめりな姿勢を意識的に控えた点でした。 実は、4ヶ月前、私は彼に見込み顧客となり得る企業を紹介すると共に、その商談に同席しました。しかし、その商談での彼のふるまいに思うところがあり、その終了後にやや強い口調で助言を行いました。「営業で最も重要なのは、契約を取ることではなく、破断させないことです」と。 彼の商談に決定的に欠けていたのが、「傾聴の姿勢」でした。 単に相手の話を黙って聞く事ではありません。 ・どこで言葉を選んでいるか ・言外の含みはないか ・少し首をかしげた このような微妙な反応を読み取りながら、”対話”を進める姿勢のことです。 多くの営業担当者は契約に向けて商談を前進させることを目的とします。しかし、実際には相手が安心して検討を継続できる状態を維持することこそが、本質的な役割です。判断を急かされると人は思考を止めるか拒絶反応を示し、結果として静かなフェードアウトが起こります。「持ち帰って検討します」で終わる商談は、概ね失注に終わります。 従って、相手の疑問を即座に潰そうとせず、次に何を考えるべきかを共に整理し、十分な検討時間を提供しながら、相手のゴールを念頭に対話を続けることが求められます。 一般に「できる営業」は知識が豊富で、反応が早く、即答できる人物像として語られがちです。しかし、顧客から信頼を得るのは、話を遮らず、思考の間を許容し、不明点を認め、次回までに調べてくる、といった、誠実な姿勢を持つ人物です。 冒頭の彼は、この失敗した商談以降、明らかに顧客への向き合い方が変わったのです。数ヶ月後、彼が得たのは単なる契約ではなく、相手の話を聴けるようになった実感、急がなくても前進できる成功体験、そして再現性ある営業感覚でした。 傾聴の姿勢があるからこそ、「今は売り込みをしない」という判断が可能になります。 営業に課題を感じる起業家ほど、自身が相手の話を聴こうとしているのか、それとも自分の話を聞かせようとしているのかを問い直す必要があります。その違いに気づいたとき、営業の質が確実に変わり始めることでしょう。 2.「課題起点」の質問力 営業で成果を分けるのは話術の巧拙ではありません。かつて事業開発およびB2B営業を長く務めていた私が常にゴールに置いていたのは、「相手の経営課題を言語化していただく」という一点でした。 シンプルに言うならば、「御社の経営課題は何ですか?」というキラー質問です。 経営者には企業の経営課題を、マーケティング責任者にはブランド戦略上の課題を、人事責任者には人材育成の課題を、情報システム責任者には社内ITの課題を問いかける。この問いに辿り着くことが、特に初回商談のゴールでした。 もちろん、初対面で唐突に課題を尋ねても容易には答えていただけません。信頼関係を築き、安心して話せる空気を醸成し、自然な対話の流れの中で最終的にこの問いへ至ることが重要です。 その関係構築ができた上で、適切なタイミングで適切な質問を行った結果、相手の課題が言語化された瞬間、営業は「一方的な売り込み」から「共同検討」へと質的転換を遂げます。自社の商品やサービスは、解決手段の候補として自然に議題に上がるのです。 成果が出ない営業の多くは、課題を聴かぬまま説明を開始します。会社紹介と自己紹介、商品説明、市場優位性、同一業界での導入事例、導入に必要なコストと時間、などを型通りに語り、「だから弊社の商品は御社でも役立つはずです」と結ぶ。 しかし、その時相手の頭に浮かぶのは「本当に今必要か」「誇張はないか」「データに誤りはないか」といった検証思考です。そして最悪の場合「断る理由」 を探すスイッチが入ります。経営にも事業にもゴールがあり、それに無関係な商品を導入する理由はありません。 だからこそ、営業が最初に行うべきは相手のゴールと課題を理解することです。 また、現実には、初回から決裁権限者に会えるとは限りません。その場合は担当者の業務目標や達成上の課題を尋ねます。担当者は経営課題全体を語れなくとも、自身の業務上の悩みや課題は語れます。その課題解決を共に考え、自社の提供価値がどこで貢献できるかを探索する。この積み重ねが、やがて決裁者との対話へとつながります。 課題が共有されていない段階で、機能一覧や価格表を提示しても意味はありません。 どの課題に、どの程度効くのかが腹落ちした後に初めて具体的なサービス内容を語ればよいのです。順序を誤らないだけで、商談の進行は大きく変わります。相手が関心を持つ機能に絞れば説明時間は短縮され、空いた時間を建設的な共同検討に充てられます。また、有効な導入事例は必ずしも同業界とは限らず、類似課題を解決した他業界事例の方が響く場合も少なくありません。 結局のところ、すべては傾聴の姿勢に帰着します。 相手の立場に立ち、真剣に話を聴く姿勢があれば、適切な問いは自然に生まれます。「話が上手い営業」ではなく「聴き上手な営業」が選ばれる理由はここにあります。 3.「断る勇気」と「撤退する勇気」 B2B営業において、すべての案件を受注できる営業こそ理想だと考える人は少なくありません。しかし現実には、それは必ずしも優れた営業とは言えません。長期的に企業と組織を守る営業とは、取らない案件を見極め、必要であれば断る判断ができる営業です。 営業現場では、「取りたいが、取ってはいけない」と感じる瞬間が確かに存在します。 過度な個別カスタマイズを当然視する相手、一方的な要求を押し通そうとする姿勢、企業文化として浸透する尊大な態度、価値を理解せず価格のみを追求する責任者。こうした案件を取り続けると、高コスト体質を生み、開発・サポート・経営層を巻き込む間接コストと精神的消耗を招きます。結果として受注が企業負担となることすらあります。 営業には忍耐が必要ですが、すべてのストレスを受け入れる必要はありません。理不尽な要求、通じない交渉、人としての敬意を欠く応対、単なる価格比較のための交渉。これらを無理に前進させることは、組織全体の損失につながります。 不健全なディールを途中で堰き止めることもまた営業スキルの一つです。 「弊社の方針とは合わないため今回は辞退します」。こうした意思表示は失礼でも敵対でもなく、境界線を示す誠実さの表現です。何でも引き受ける企業より、できることとできないことを明確に示す企業の方が、長期的には信頼を獲得します。 撤退の意思決定はリーダーの責務でもあります。 私自身、価格競争が過熱し利益が見込めない大型案件から意図的に降りる決断を本社経営陣と合意のうえで行った経験があります。それは「負けを認める」のではなく、「勝っても損をする勝負から自ら降りる」経営判断でした。また、基本的なビジネスマナーを著しく欠く企業には営業活動を停止する決断を下したこともあります。企業文化は必ず業績に現れます。取引先を選ぶことは、自社の文化を守る行為でもあります。 この考え方は新規営業に限りません。 既存顧客にも撤退すべき相手は存在します。 手間ばかりかかり収益性の低い顧客、合意したはずの事項の実行努力をしない顧客、傾く事業の立て直しの意思を欠く顧客、常に否定から入る顧客。こうした関係を「お客様は神様」とばかりに抱え続けることは、企業の未来を削る選択です。 契約更新時に更新を辞退する判断も、健全な経営には必要です。 興味深いことに、断る勇気を持つ企業ほど結果として良い顧客が集まります。自社文化に合い、対等な敬意を持ち、価値を理解し、成長努力を続ける顧客との関係は単なる取引を超えた信頼関係になります。そしてその顧客は、価格ではなく価値で選び、長期的なファンとなります。 営業は選ばれる仕事であると同時に、付き合う相手を選ぶ仕事でもあります。断る勇気と撤退する勇気は冷酷さではなく、会社と社員と未来を守るための責任ある判断です。本当に価値ある関係に資源を集中することこそが、次の成長を生む営業の姿であり、「経営思考」ではないでしょうか。 結び:営業スキルは経営スキルの一部である 本稿で紹介した三つのスキル、 傾聴の姿勢と売ろうとしない勇気 課題起点の質問力 断る勇気と撤退の勇気 これらはいずれも、単なる営業テクニックではありません。経営者や営業責任者が市場に真摯に向き合いながら、限られた経営資源を正しく配分するための経営思考です。 優れたプロダクトがあっても、優れた対話設計がなければ市場には届きません。 営業活動とは、事業成長の最前線に立つ経営活動そのものです。 ディ・ポップスグループでは、「ベンチャーエコシステム作りを目指す」をビジョンに掲げ、エコシステム内の企業群が持続的に成長できる仕組みづくりと、アドバイザー陣による伴走支援に取り組んでいます。 ※詳しくはこちらをお読みください。「ベンチャーエコシステムとは?」 エコシステム内の企業がこの「経営思考の営業」を実践できるよう、引き続き支援を続けてまいります。本稿が、ベンチャー創業者および事業責任者の皆様の実践的な一助となれば幸いです。 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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2026.02.05
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