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D-POPS GROUPのCVC投資活動について~エコシステムの仲間探し~

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2025.05.12

ディ・ポップスグループでは、ベンチャーエコシステムを、「共通のアイデンティティと理念の元に集まり、革新性の高い事業モデルにより、社会課題解決に挑戦し続ける企業群の集合体を支える、成長と永続のためのプラットフォームのこと」と捉え、その理想の形の実現に向けて日々挑戦と努力を続けています。
※詳しくはこちらをお読みください。「ベンチャーエコシステムとは?

その活動の一貫として、年間で産み出された利益を元手に、ベンチャー企業への支援、すなわちCVC投資活動を行っています。以下、その活動についてご説明致します。

1. 投資基準

多くの事業会社がCVC投資活動を行っていますが、一般的にはその利益への貢献や投資先の成功確率は低いものです。ただ、当グループとしては、単なる利益追求のための投資ではなく、エコシステムの仲間作りである事と、20社以上の事業会社から構成されるグループ(投資会社を含めると50社以上のグループ)と共に成長する事を重視して基本方針を立て、それに基づいた活動をしています。

(1)事業領域
①「リアルビジネス x テクノロジー x グループシナジー」そして何よりもその土台となる「x ヒト」これらの要素が複数あることを大切にしています。
グループの祖業が、携帯ショップ事業やそこから派生した人材ビジネス、そしてさらにソリューション事業、テクノロジー事業と発展してきたため、当グループでは祖業であるリアル、つまり実店舗や土地に関わり形ある物を扱うというような経済活動に、他社にはない強みを持っています。AIがどれだけ普及しても、最後のチューニング部分は人が必要です。むしろ未来は人間力がより重要になってくるでしょう。AIはあくまでも人の能力を最大限に活かすツールであると考え、人を活かす取り組みを応援したいと考えています。そして最後に、それらのベースにはテクノロジーを活用していることを重視しています。

これら全てが揃う必要はありませんが、複数ある、もしくはこのいずれかに強烈な強みがあるかどうかを、まず最初に確認しております。

②ICT・DX領域に注力していることが望ましい
必須条件ではありませんが、グループ各社とのシナジーの産み出し易さを考慮すると、情報通信業に関連する事業、DX領域に取り組んでいる企業であれば、知見の共有やグループ内での協業、そして、タッグを組んで営業活動をするといったシナジーが期待できます。

③取り組むべき社会課題であるか、また市場成長性の高さ
当グループは、”企業は社会の公器である”と考え、ただ儲かりさえすればいい、という考え方でビジネスを行っていません。それが本当に取り組むべき社会課題なのかどうかは重要な検討項目になります。また、その市場が成長しているかどうか、その成長領域の中で対象企業の競争優位性が明確にあるか、は当然のこととして検討の対象となります。

(2)理想とする創業者像
エコシステムの成長のためには、多様性はもちろん重要ですが、多様性を尊重しつつも、外してはいけない「人物像」というものがあります。D-POPS GROUPでは、投資対象企業の創業者と経営陣の方々が、次のような人物像であるかどうかを、仲間に入って頂く上で、重要な判断材料としています。

①社会貢献意識、社会を変革する志の高い起業家
②何事にも挑戦する、アントレプレナー精神がある
③誠実、謙虚、感謝、正直、倹約、粘り強さ、という姿勢

(3)ステージとモデル
一般的なVCファンドが明確に規定する、資金調達のステージや事業モデルには強い拘りはありません。シードからシリーズA、B、そしてレイターまで、幅広く支援しています。また、B2CかB2Bかについても、グループ内にはいずれのモデルの企業もあり、またアドバイザー陣も様々な経験を積んできているので、希望に応じて伴走することが可能です。

ただ一つモデルに関して拘りがあるとすれば、ストック型の収益モデルであり、尚且つプラットフォーム型のビジネスモデルであるかどうかはチェックさせて頂いています。グループの、人を大切にする、顧客との長期的な関係作りを重視する文化、そしてエコシステム全体の安定成長のためには、積み上げ式 且つ プラットフォーム型の事業モデルであることが望ましいと考えているからです。

2. 2024年度の投資実績

2024年以前からもディ・ポップスグループではCVC投資活動を行ってきましたが、特に2024年度からは、投資委員会を設け、この投資方針に準ずる形で活動を進めています。すなわち、全ての候補企業につき、投資委員会で審議をし、全員一致した場合のみ代表取締役に申請をし、適切なデューデリジェンスを実施し、全て合格となった場合のみ、出資契約を締結する、というプロセスを踏みました。その結果、2024年度は以下の8社のベンチャー企業に出資を実施しました。(2024年3月~2025年2月末)

①(株)フラクトライト
https://fluctlight.ai/

「人々の豊かな暮らしを実現するために、AIをつかった便利なサービスを開発し、日本の人材不足を解決します」を社是とし、生成AI技術を用いた新サービスの開発に取り組んでいます。

②The Salons Japan(株)(※資本業務提携)
https://www.thesalons.co/

「美容師に、真の独立を」を社是とし、完全個室美容モール『THE SALONS』を展開・運営する、正にリアルなビジネスであり、また専門スキルを持つ人を応援する企業です。

③Adora(株)
https://www.kodomamo.com/

AIを活用したペアレンタルコントロールアプリ「コドマモ」の開発及び運営を行うベンチャー企業で、子供を守る、AIを駆使している、という点で投資方針に合致しました。

④クロスロケーションズ(株)
https://www.x-locations.com/

「多種多様な位置情報や空間情報を意味のあるかたちで結合・解析・可視化し、誰でも活用できるようにすること」を掲げ、既に多くの顧客を抱え、投資基準にも合致しました。

⑤(株)Lezily
https://corp.lezily.com/

「脱”気合いと根性”を目指した日本初のメンタル版パーソナルトレーニング」により、世の中からメンタル不調者を無くす事を目指しています。人を大切にする想いに共感しました。

⑥(株)BLUEISH
https://www.blueish.co.jp/

「AIで未来を創造し、ビジネスの可能性を無限に広げる」を理念に掲げ、業務プロセスの効率化を支援します。経営陣の人柄とAIに関する知見の深さに惹かれ出資を決めました。

⑦(株)Payke
https://payke.co.jp/

訪日外国人向けショッピングサポートアプリ「Payke」の開発・運営を行う企業。そのアプリは最も訪日外国人に使われているアプリの一つで正にリアルと人を象徴する事業です。

⑧(株)ワークポート
https://www.workport.co.jp/

「限りなく誠実に、極めて合理的に。人と企業をありたい未来へつなぐ。」をパーパスに掲げる人材紹介・育成の企業です。”働く人の頼れる港”作りを応援します。

これまでの投資ポートフォリオ企業はこちらをご覧ください。
https://d-pops-group.co.jp/group/

3. 出資後の伴走活動

当グループのCVC活動においては、特に出資先への伴走、すなわち事業運営のサポートを大事にしています。ほんの一端ですが、そのような伴走活動の一部をご紹介します。

(1)グループ会社での試験的導入
Lezily社、クロスロケーションズ社、BLUEISH社のサービス・商品をグループ会社の一部でテスト利用させていただき、その使用感のフィードバックをしたり、営業開拓先のヒントを得たりして、協業の準備をしました。

(2)グループ会社との協業
Adora社とはディ・ポップスが運営するTOP1ショップ全店で契約取次をする他、グループのアドバンサーの支援により、全国のキャリアショップや量販店スマホショップでの取り扱いの交渉をしています。また、BLUEISH社とは、グループのA社とB社とで新ソリューションを開発する取り組みも行っています。

(3)新規顧客と協業先の開拓
ほぼ全ての投資先に関して、その新規顧客候補となる企業や、代理店候補となる大手企業をご紹介してきました。アドバイザー陣の幅広い人脈と、エコシステム内で同じ社会課題に取り組む企業があるおかげで、比較的スムーズにお繋ぎ活動が進んでいます。

(4)その他経営相談
一見するとシナジーが無さそうに見えるThe Salons Japan社ですが、その店舗(美容モール)の開拓とサブリースモデルは、正に不動産業です。そしてディ・ポップスが行ってきた携帯ショップ網の拡大も同じく不動産業とも言えます。その経営者同士の定期的な壁打ちがブランド力を高める店舗開発に活かされています。

このようにして、ベンチャー企業にはやや足りない、人的リソース、顧客基盤、組織力、人脈、経験といったものを注ぐことで、新たにエコシステムの仲間入りした企業の支援に心血を注いでいます。ディ・ポップスグループのCVC投資活動では、資金支援だけでなく、むしろそれ以上に、この伴走活動を重視しています。

4. 未来構想

ベンチャーエコシステムとは?」のコラム記事で記載したように、ディ・ポップスグループでは、エコシステム内でのコラボレーションや、学び合いと助け合いをとても大事にしています。その具現化として、最近では次のような活動も始めました。

(1)事業紹介&懇親会イベント
新たに出資したスタートアップの創業者の方に登壇いただき、その事業説明と質疑応答のイベント、それに続く夜の懇親会、というパッケージを始めました。当グループの各社のリーダー達は、アントレプレナー精神に溢れる人ばかりなので、躍進中のベンチャーのモデル、凄まじい苦境を乗り越えた逸話、個性豊かな起業家達の話は大いに興味を持ちます。彼らの話から刺激を受け、また、良い質問により新しいアイデアの種をお互いに見つける、良いきっかけとなりました。そして夜は居酒屋に移り、参加者皆で囲んで更に質問責めとなり(笑)、二度盛り上がりました。

これまでにBLUEISH社の為藤社長とPayke社の古田社長にご登壇いただきましたが、できればこのような勉強会を毎月一回程度開催していき、数多くのエコシステム内の企業に登壇して頂き、様々な軸で勉強会を開いていきたいと考えています。

また、エコシステム全体が成長し永続するための施策として、出資比率に関わらず、将来的には以下のような活動も加えていきたいと考えます。

(2)交流
CxOやエンジニア、マーケターなど、異なる企業の同じ立場や職種のメンバー同士で人材の交流や情報交換を行い、刺激し合う。エコシステム内での短期留学や出向、そして人材の転籍なども可能な仕組み作りをしていきたいと考えます。

(3)互助
経理部門や営業部門など、ノウハウの伝授と吸収目的、また、新チャネルや新システムの立ち上げ期など、一時的に企業Aで人員が不足する時に、その時期に人員に余裕がある企業Bから人材を送り、レスキューをすることもあります。企業Bが同じ状況になった時には、企業Cがヘルプ要員を送り込む、”お互い様”な関係が、エコシステム内では成り立ちます。

(4)OB・OG
いずれグループ内には、上場や前向きな事業譲渡によりexitに成功する経営者も現われるでしょう。中にはその会社を卒業するメンバーもいます。しかし、企業理念や誠実・謙虚・感謝といった人としての理念が一致していればこそ、卒業してもOB・OGは共通の仲間です。先ほどの勉強会に講師として登壇してもらったり、成績が振るわない企業の再建に一時的な代打経営者として取り組んでもらうなどができます。

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以上、(株)ディ・ポップスグループが取り組むベンチャーエコシステムを実現する活動の一環として、CVC投資活動のその方針と2024年度の実績について、簡単にご紹介させていただきました。

これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。

D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太

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ディストリビューションビジネスとは?~その解説とストック型ビジネスへの応用~
ディ・ポップスグループの基本戦略には、”事業の柱を増やしストックビジネスで固める”、”ストックの蓄積により業績のブレ幅を右肩上がりにする”という項目があります。(https://d-pops-group.co.jp/business/) 中核事業会社の一社であるディ・ポップス社が行っており、着実にその利用者が伸びている「スマホ相談窓口TOP1」や、代理店として取り次いでいる通信キャリアのスマートフォンの月額基本料収益などは、典型的なストックビジネスと言えるでしょう。 この記事では、各種ストックビジネスとは一見関係がなさそうに思われる、「ソフトウェアのディストリビューション」という販売モデルの事例を理解していただくことで、ストックビジネスの営業戦略を練る上での参考となることを目指します。 1. ストック型ビジネスの特徴 一般的に「ストック型ビジネス」とは、一度顧客を獲得すれば継続的に安定した収益が得られるビジネスモデルを指します。代表的な例には、サブスクリプション型のソフトウェアサービス(SaaS)、定額制の動画配信やフィルタリングサービス、賃貸不動産の家賃収入、保険の保険料収入などがあります。当社で言えば、出資先のAdora社のコドマモアプリやThe Salons Japan社の美容モールというサブリース事業はその典型と言えます。 これに対し、単発の売上に依存するモデルを「フロー型ビジネス」と言いますが、ストック型ビジネスは将来の収益予測が立てやすく、事業の安定性や企業価値の向上にもつながります。その主なメリットとしては収益の安定性と高い利益率が挙げられますが、顧客の解約(チャーン)を防ぐための継続的な価値提供や顧客満足度の維持が重要です。 ストックビジネスでは、月次収益(MRR=Monthly Recurring Revenue)、年間収益(ARR=Annual Recurring Revenue)、顧客生涯価値(LTV=Life Time Value)、顧客獲得コスト(CAC=Customer Acquisition Cost)などの指標が経営判断に活用されます。長期的な視点で信頼関係を築きながら収益を積み上げるモデルといえます。 2. ディストリビューションとは? さて、事業における「ディストリビューション」とはどういう活動でしょうか? ディストリビューションとは、製品やサービスを製造元から消費者や販売チャネルに届けるための「流通・供給」に関する一連の活動を指します。一般には、形あるモノの物流や卸売を含む言葉ですが、オンラインで販売するソフトウェアや、IT業界においては、製品の販売・拡販チャネルの構築や管理といったビジネス的な側面を強く含みます。 たとえば、パートナー企業との連携によってソフトウェア製品をプリインストールしたり、他の製品とセットで提供したりすることで、効率的に市場に広げていく仕組みを指します。多くのグローバルIT企業では、このディストリビューション部門がマーケティング部門や営業部門と連携しながら、製品の認知拡大やユーザー獲得を支援する戦略的な役割を担っています。 3. ストック型サービスのディストリビューション ここからが本題です。 スマホファーストの時代に、少し古いですが、読者の誰もが使っている、もしくは目にしたことがある、PC版の「Google Chromeブラウザ」を題材にして、ストック型サービスのディストリビューションについて解説します。 1) Chromeはストック型ビジネスのソフトウェア 意外に思われるかもしれませんが、Google Chromeは無料のブラウザソフトですが、Google社にとってはストック型ビジネスの収益の源泉、そのソフトそのものがストック型サービスとも言えるのです。 Chromeブラウザの上部にある空白の入力スペースを「アドレスバー」と言いますが、ここが検索ボックスを兼ねています。Chromeユーザーは、わざわざGoogleやYahoo!、そして少し古いですがniftyやSo-netやMSNといったポータルサイトに行かなくても、このブラウザ標準の検索ボックスにキーワードを入力するだけで、知りたいことを調べられます。 そしてご存じのように、ユーザーが検索をすると、その検索結果ページの上位には検索連動型広告が掲載されます。ユーザーがそれらの広告をクリックすると、Google社は広告料収益を得られます。一度のクリックで得られる収益はわずかですが、ユーザーがそのパソコンを利用している間、毎月一定数の検索をし、一定数の広告のクリックをすることで、ちりも積もれば山となり、1つのChromeブラウザから毎月一定の収益が上がることが期待できるのです。 2) ディストリビューションモデル このように考えると、Google Chromeのディストリビューションとは、その検索連動型広告により得られる収益向上のために、Chromeブラウザを世界中に広めるための流通・拡販戦略を指し、ユーザー自身の手によるホームページからのダウンロードの促進に加えて、パートナー企業との提携によって大規模に展開した戦略的な事業活動でした。 その主な手法には、 ① メーカー各社のパソコンへのプリインストール ② ウィルス検知ソフト等他のソフトウェアへのバンドル配布(*) ③ ADSL等ブロードバンドの設定ソフトとのバンドル(*) ④ 通信事業者やインターネットプロバイダ等との連携 などが挙げられます。(※ソフトウェアバンドルとは、そのソフトウェアのインストール時に、ユーザーの確認の上で一緒にパソコンにインストールされるような仕組みのこと。) スマホ時代が到来する前、まだパソコンが全盛期だった2010年代には、T社製、S社製、L社製、H社製といったパソコンには、店頭に並んだ時点からChromeがデフォルトのブラウザとして設定されるようになっていました。 3) ディストリビューションの狙い Google社において、このディストリビューションビジネスは非常に重要な位置付けをされていました。なぜなら、前記のパートナーシップ提携を通じて、次の狙いがあってChromeブラウザを普及させたかったからです。 ① Googleの白いホームページ ”以外の” アクセスポイントを増やすため ② 検索エンジンの競争環境において、その根っこであるブラウザを抑えるため ③ ITリテラシーの低い一般消費者へもリーチを広げるため ④ GoogleやChromeの製品ロゴの露出を広めるブランディングのため 2010年前後に活発に行われたこのディストリビューションビジネスの後に始まった、テレビCMを含む積極的なマーケティング活動により、事前に普及させていたChromeブラウザからの検索数が急速に増えたのでした。 なお筆者は、このディストリビューションビジネスにおけるAPAC地域の初代リーダーを務め、Chromeの普及及びそれに伴ってのGoogleの検索シェアの向上に貢献をしました。 4. ファイナンシャルモデル では、上記で挙げた協業パートナー各社は、無条件でGoogleに協力したのでしょうか? そんな訳はありません。Win-Winの関係を築くには、市場創出という理念の一致だけではなく、相手方にとっての金銭的なメリットも必要でした。協業パートナーからは、Chromeを製品にバンドルすることにかかるコスト相応かそれ以上の対価が求められました。以下、いくつかの支払いモデルを示します。 ① レベニューシェアモデル ② バンドル台数に応じた支払いモデル ③ アクティベーション件数に応じた支払いモデル ④ これらの複合 ①は、ポータルサイトとの協業で主流だったモデルで、検索連動型広告から得られる収益からお互いの取り分(xx%)を分け合うモデル。収益が大きければ支払いも大きくなります。逆に言えば、Chromeが使われなければ支払いもされません。PCメーカーなど、バンドルするための作業コストや製造負荷がかかる事業者は、そのコストの補填を要求するので、ディストリビューションモデルには適しませんでした。 ②は、Chromeブラウザをバンドルしたパソコンの台数に応じて支払うモデル。パソコンメーカーにとっては、この手数料を当てにして製造原価を下げることができるので望ましいと受け止められました。ただしChromeが全く使われなかった場合、Googleにとっては痛手です。バンドル手数料を支払っても、そのパソコンからは検索連動広告の収益があがらないので、支払った手数料が無駄になってしまうからです。 そこで③です。あらかじめバンドルされたChromeブラウザが、ユーザーの手に渡り、初回起動された(=アクティベーション)ことを検知したら、その台数分だけ、支払いの対象とするというモデルで、双方にとって納得感のあるモデルです。 少し細かくなってしまいましたが、ここからが重要なポイントです。 この場合の、一台あたりに支払う手数料は、いくらまでなら許容されるでしょうか? 相手に言われるがまま無制限に支払っていては、Googleにとっての利益が上がらずメリットがありません。一方で少なすぎては協業したい企業とのディールは成立しません。そのさじ加減は、適当な感覚で決めるものではなく、非常に綿密な計算のもと、限界値を割り出し、そこを念頭に入れながら交渉をしなければならないのです。 ここでは、非常にざっくりとした仮定の数字を使って説明をします。 日本における単位検索件数(1000件)あたりの広告売上=50円 Chromeユーザーの1ヶ月あたりの検索数=200回 日本における平均的なパソコンの買い替えまでの年数=5年 Chromeブラウザ1つから期待できる将来収益 =50円 ÷1000 x (200 x 12ヶ月) x 5年 = 600円 よって、一台のアクティベーションから、将来パソコンが買い換えられるまでの間に600円の収益が見込まれる。それをベースに、販管費や開発コストなどと必要な利益を考慮した結果、例えばその1/3である200円までが、協業相手に支払いできる限度額になる、といった具合になります。 実際には、検索数の増加率やパソコン毎のユーザ特性も勘案した綿密なシミュレーションの上で割り出されるし、限度額もそのマーケットの競争環境によって上下します。そしてパソコンメーカーあたりの新規出荷台数は年間何百万台もあり、手数料支払額は数十億円にもなるため、非常に慎重で大がかりなディールとなります。 ここで示したモデルのポイントは、あらかじめその製品から見込まれるLTVを把握して、そのうちの何%までなら販売コストとして支払うことができるか、というディールの限界条件を決めた上で、営業戦略や業務提携契約の交渉に入る必要がある、ということです。 5. サブスク事業やSaaS事業への応用 さて、Chromeブラウザを題材にしたディストリビューションビジネスのファイナンシャルモデルを例としてご紹介しましたが、この考え方は、決して古いものではなく、現在盛んに新規事業が立ち上がっているサブスクリプション型事業やSaaS事業や月額料金制のモバイルアプリの販売戦略とも大いに関連するのです。 前記の②、③の先払い方式では、GoogleはChromeをバンドルしたパソコンが使われ始めても当分の間は一台当たりで見れば赤字です。複数のメーカーと協業を開始してからの当初数年間は深く赤字を掘りました。 しかし、ある時から、あらかじめパソコンに忍び込ませていたChromeの存在を知ったユーザーが検索を使い始め、徐々に検索連動型広告からの収益が上がりました。そのパソコンの台数が市場に流通するに連れて、Chromeディストリビューションビジネスは黒字に転換し、その後の売り上げはずっとGoogleの手取りになったのです。また、一度使い慣れてしまえば、そのユーザーはパソコンを買い替えてもまたChromeを使いたくなるといった具合に、メインブラウザのIEからChromeへの切り替えが進んだのでした。 ・・・そして現代。市場に溢れる各種SaaSやサブスク事業も同様です。ディストリビューションビジネスのような協業パートナーを開拓できれば、プロダクトを市場に投下した当初は一時的に赤字になっても、いずれ黒字転換し、以降はその勢いが加速するという販売戦略が実現可能です。 ただし、このことが成り立つのは、 ① LTVの予測と綿密な計算により販路コストの限度額を割り出す ② ストックビジネスの基本である低い解約率を維持する ③ Win-Win関係が継続する協業パートナーを開拓する の3点がとても重要となります。 以上、(株)ディ・ポップスグループがその基本戦略で掲げている、ストックビジネスをどのように拡販するのか、その営業戦略の参考となり得る、ディストリビューションというビジネスモデルについて、解説させていただきました。読者の皆さんのビジネスのヒントになれば幸いです。 これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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2025.07.15
D-POPS GROUPが考える「のれん」とは?「のれん償却」見直しの考察
ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。また、このベンチャーエコシステムの成長のために、既存事業のオーガニック成長、新規事業・新会社の設立、M&A、CVC、資本業務提携の5つの基本戦略を推進しております。 今回は、この5つの基本戦略の1つである「M&A」と関わりの深い会計における「のれん」について、その会計処理についてニュースとなっていることもあり、取り扱いたいと思います。特に、「のれん」の「非償却」の可能性についても、言及できればと思います。 「のれん」に関しては、2025年5月30日に「のれんの非償却の導入およびのれん償却費計上区分の変更」に関する要望が、日本の会計基準の設定主体であるASBJ(会計基準委員会)にテーマ受付表として提出されました。この要望は、経済同友会、スタートアップ関連13団体、スタートアップ有志35社、企業経営者有志138名の連名で提出され、首相の諮問機関である規制改革推進会議もこれをフォローし、さらにASBJの議論においても、スタートアップ関係者の問題意識が十分くみ取られ、適切な議論が行われるよう、検討プロセスも含めフォローする旨を公表しています。このことは、日経新聞にも「のれん償却の見直し、民間13団体など会計基準機構に提案」という見出しでニュースになりました。 1.「のれんの非償却の導入およびのれん償却費計上区分の変更」の要旨 なお、今回提出された要望の要旨は、以下のとおりです。 ①のれんの非償却を導入(選択制) のれんの償却と併せてのれんの非償却も認める選択制を適用する。 (遅くともスタートアップ育成5か年計画の終期である2027年度までに結論・措置に至るよう検討を要望) ②のれん償却費の計上区分変更 現在、販売費及び一般管理費として営業費用に計上しているのれんの償却費を営業外費用もしくは特別損失に計上する。 (2026年度の結論・措置の可能性も含めて検討を要望) 2.現在の日本の会計基準における「のれん」の定義と取り扱い 現在の日本の会計基準において、M&Aの代金のうち、対象企業の純資産額を上回る金額については、「のれん」として無形固定資産に計上したうえで、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、規則的に償却するとしています。例えば、純資産3億円の対象企業を10億円の代金でM&Aする場合、7億円が「のれん」として無形固定資産となります。またその際に、投資回収期間を7年と想定していたならば、この7億円の「のれん」を毎年1億円づつの定額、7年間で費用化(償却)することになります。 一方で、IFRS(国際会計基準)、米国会計基準においては、「のれん」について規則的な償却は行わず、「のれん」の価値が損なわれた時に減損処理を行う方法が採用されています。これが、今回提出された要望における「のれんの非償却」です。なお、減損処理とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、将来において確実に回収可能な額を除き、資産を費用化することをいいます。先ほどの例でいうと、7億円の無形固定資産が計上されていたが、対象企業が赤字決算続きとなり回復が見込めない場合には、価値が損なわれた、つまり投資額の回収が見込めなくなったとして、7億円の全額を一時に費用化することになります。 これまで、日本の会計基準は、企業の財務報告の透明性と比較可能性の向上を目的として、IFRSとの整合性を目指し基準の改訂を行ってきましたが、このように「のれん」の会計処理についてはIFRSと相違しています。そのため、M&Aを積極的に行っている上場企業では、この相違を理由として、IFRSに移行している企業も多くあると考えられます。IFRSへの移行には、会計コンサルティングの導入、会計監査報酬の増加といった追加コストはあるものの、それを上回るメリットがあると経営判断した上場企業もあるのではないでしょうか。 3.今回提出された要望の背景 政府は2022年に「スタートアップ5カ年計画」を策定していますが、この計画において、M&Aは、スタートアップのエグジット戦略(出口戦略)のみとしてだけではなく、既存の大企業とのオープンイノベーションの推進策として、その重要性について触れられています。(スタートアップを成長させるM&A) 今回提出された要望は、このスタートアップを成長させるM&Aの促進において、日本の会計基準における「のれん」の償却が、阻害要因になっているということを背景としています。すなわち、「のれん」が償却される場合には、営業費用(販売費及び一般管理費)に計上されるため営業利益がのれん償却による費用額の分、減少することとなりますが、これがM&A検討の障害や、M&Aを断念する理由となっているということを背景としています。 特にスタートアップについては、企業価値(M&A代金)に占める純資産額の割合が小さいことが多く、「のれん」は比較的多額となるケースがあります。また、日本の多くの成長企業において、企業価値の源泉であるコアコンピタンスが、人的資本(従業員の知識やスキル、経験)、知識資本(特許、商標、企業ノウハウ)で構成されていることが多いと考えられますが、スタートアップにおいては、その傾向はさらに強いと考えられます。今後ますますAI領域におけるスタートアップの増加が加速すれば、その傾向も加速的に強まっていくと考えられます。 このように人的資本、知識資本は、企業価値の源泉として極めて重要ですが、現在の会計基準では、これらの「自社で生み出された」無形資産は、原則として資産計上することが認められていません。これは、その価値を客観的に測定することが困難であること、また将来の収益の獲得への貢献が不確実であることなどが理由とされています。 このこともあり、非常に価値の高い人的資本、知識資本を有する企業は、企業価値(M&A代金)は高く評価されるものの、会計上の純資産額は小さいというケースが増加していくと考えられます。この結果、これらを対象企業とするM&Aにおいては、「のれん」は多額となっていく可能性は極めて高いと考えられますし、M&Aを行う企業は、その「のれん」の償却により、営業利益も圧迫される可能性も極めて高いと考えられます。 ところで、営業利益は、企業の本業における収益力を示す重要な指標であり、企業価値に大きな影響を与えるものではありますが、「のれん」の償却、非償却による営業利益の増減は、理論的には企業価値に直接的な影響を与えるものではありません。これは、理論的には企業が将来生み出すキャッシュ・フローにより企業価値は評価されますが、「のれん」の償却は現金支出を伴わない営業費用の計上であり、実際の事業活動から生じるキャッシュ・フローには影響しないためです。 それでもなお、「のれん」の償却による営業利益の圧迫が、M&A検討の障害や、M&Aを断念する理由となるのは、営業利益が企業の本業における収益力を示す重要な指標であり、実務においては理論を超えて企業価値評価に大きな影響を与えているということだと思います。 IFRSではこれまで、営業利益の明確な定義がなく、表示も義務付けされていなかったのですが、今後はその定義を明確化して、表示を義務付けすることを検討しています。このことも、営業利益という指標が、実務においては投資家にとって重要な情報であるということを示唆していると思われます。また、日本においては、IFRS適用企業の多くが、「営業利益」あるいはそれに類する項目を損益計算書に表示しています。 4.ベンチャーエコシステムの実現を目指すディ・ポップスグループが考える「のれん」とは ディ・ポップスグループも、財務状況や経営状況をステークホルダーに説明する義務を果たすうえで、「のれん」の償却、非償却の双方にメリット、デメリットがあることを十分に理解したうえで、「のれん」の非償却、もしくは、その選択制に賛同いたします。ディ・ポップスグループは、ベンチャーエコシステムの実現、成長の戦略の1つとして、M&Aも積極的に行ってきましたが、やはり「のれん」の償却による営業利益の圧迫が、ディ・ポップスグループが実現している企業成長を含めた経営状況の実態を適切に説明する阻害要因になっていると感じているからです。 また、「のれん」を償却する場合には、決算期ごとに「のれん」の額は償却により減少していきますが、一方で営業利益が圧迫されることにより純資産額の積み上げは少額となります。一方で、「のれん」を非償却とする場合には、減損処理を行うような経営状況にさえならなければ、「のれん」は多額のままとなり総資産額も多額となりますが、営業利益は圧迫されないため純資産額の積み上げも早くなります。 財務状況を表す貸借対照表における資産の本質は、平易にいうと、「企業が現在持っている、将来の稼ぐ力のもとになるもの」であり、そして、純資産額は、株主からの出資を除くと、「企業が獲得した利益の蓄積」を表していると考えます。 ディ・ポップスグループにおいては、M&Aでグループ企業としてベンチャーエコシステムに参画してもらう際には、投資額よりも多く将来の稼ぎ、つまり投資回収としてのキャッシュ・フローをもたらすことに確信をもっています。それは、戦略の1つであるコングロマリット・プレミアムによるグループシナジーがあるからであり、そして、ベンチャーエコシステムという共存共栄関係のなかでの事業成長により、このキャッシュ・フローが年々増加していくことを目指しています。 そのため、「のれん」が多額となったとしても、それは、M&A投資による将来の稼ぐ力を適切に表し、そのM&Aの投資回収が純資産の積み上げとなることは、獲得した利益の蓄積を適切に表すと考えるため、財務状況のステークホルダーへの説明においても適切であると考えます。 最後に、ディ・ポップスグループでは、M&Aを行う際に優れたビジネスモデルに着目する場合もありますが、多くの場合には優れた経営戦略を着実に実行する経営者の能力、ノウハウにより重点をおいています。これはディ・ポップスグループが目指すベンチャーエコシステムが、自立支援を重視し、独立した経営者集団であることを目指していることと関連しています。 つまり、コングロマリットプレミアムなビジネス環境を提供し、グループシナジーのなかで更なる自社の成長を望む経営者のためのエコシステムであり、そのため、基本的にはグループジョイン後も継続して自社の経営、成長にリードしていただきたいと考えています。 このような経営者が創ってきた企業は、ディ・ポップスグループにジョインする段階で、研究開発費、人材育成費、マーケティング投資など、将来の収益拡大や競争優位性の構築を目指すための戦略的な投資により、非常に価値の高い人的資本、知識資本が構築されています。 資産の本質は、「企業が現在持っている、将来の稼ぐ力のもとになるもの」であり、画期的な技術を開発するための研究開発費や、優秀な人材を育成するための研修費も、将来の収益増加に貢献するはずであるのに、前述のように、これらの「自社で生み出された」無形資産は、原則として資産計上することが認められていません。このことは、特に無形資産が企業価値の大部分を占める現代の知識集約型社会において、企業の財務諸表がその企業の真の価値や投資の実態を十分に反映していないという課題を生んでいると考えます。 このような状況下で、M&Aによってグループ参画した企業の「のれん」を償却することは、ある種の二重費用計上のような側面を持つ可能性があると考えています。なぜならば、「のれん」の大部分は、グループ企業が過去に人的資本や知識資本に投じた費用、「将来の企業成長のための投資となる費用」であり、資産として計上されなかったものが、M&Aによってようやく「のれん」という形で資産計上されたものと考えられるからです。つまり、過去に一度費用として処理された投資が、「のれん」の償却で再度費用となりかねないという問題があります。 これまで述べてきたように、ベンチャーエコシステムの実現を目指すディ・ポップスグループにとって、「のれん」の大部分の本質は、人的資本、知識資本であり、コングロマリットプレミアムのコアとなる重要な資産であると考えています。そして、これがグループシナジーに拍車をかけ、エコシステム内により多くのキャッシュ・フローが創出され、それがまた将来のエコシステムの成長のために投資されていくという好循環を生み出すことでイノベーションを加速し、日本の未来に貢献したいと考えています。 東京証券取引所のグロース市場の見直しにより、M&Aは、成長戦略の重要な柱として、エグジット戦略の1つとして、その重要性はますます高まっていくと考えられます。「M&A」と関わりの深い「のれん」の会計処理について、これから行われるASBJの検討内容に注目していきたいと思います。 これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。 D-POPS GROUP 執行役員 公認会計士 米谷好弘
  • MEDIA
2025.06.25
1人当たり売上高とは?効率という数字だけではない価値ある指標
ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続ける「ベンチャーエコシステムの実現」を目指しています。今回は、会社経営として必須の生産性や効率性を測る上で非常に重要なポイントとなる「一人当たり売上高」について解説してまいります。 「一人当たり売上高」は業態により大きく異なり、小売店や飲食店といったリアルビジネスやSES/一般派遣等の派遣ビジネスの様な労働集約型の業態では低くなりますし、設備等に投資をする資本集約型のビジネスや、高度なスキルや知識を集めた知識集約型のビジネスになれば高くなりますので、業態を超えた比較だと業態の違いだから致し方ないという結論になりかねないため、今回は同業態での比較を行うことかつ、前回「在庫回転率」の話をしましたので、話に継続性がでる小売業に再度スポットをあて解説していきたいと思います。 1.PL改善の差別化を図る重要ポイント 前回は小売業を経営する上で大切にするポイントとして「在庫回転率」を例に取りました。「在庫回転率」はCFやBSに効いてくるものですが、今回取り上げる「一人当たり売上高」は結果的に数字上では営業利益つまりPLに効いてくる指標です。売上高、利益率、販売点数、販売単価等PLに効いてくる指標は沢山ありますが、なぜ「一人当たり売上高」が重要か、以下順をおってご説明いたします。 2.一人当たり売上高とは まず、一人当たり売上高とは、従業員1人当たりの生産性や効率性を測るための指標で限界値はありますが一人当たり売上高が高ければ高いほど良いとされます。一般的には年間の売上高を従業員数で割った計算式により算出されます。 例えば 年間4,000億円の売上高の会社で従業員が2,000人いれば、一人当たり売上高は2億円 年間400億円の売上高の会社で従業員が1,000人がいれば、一人当たり売上高は4千万円 となります。 今回例にとる小売業であれば約2,000万円が平均とされ、企業全体だと約3,800万円が平均とされています。 3.なぜ一人当たり売上高が重要か? 一人当たり売上高がなぜ重要か、以下の例を元に解説してみたいと思います。 扱い商品や規模が違う会社同士は比較の結果がわかりづらくなる為、前回の「在庫回転率」の時と同様に、同じ商品を販売していて、売上規模が同程度の家電販売店をモデルケースに解説していきたいと思います。(モデルケースの会社は架空の会社ですが、実際の会社がベースとなっております) 【モデルケース】 ①家電量販店B社  店舗数24店 従業員数5,000人 一人当たり売上高1.4憶 売上高7,500億円、経常利益600億円、経常利益率8% ②家電販売店C社  店舗数270店 従業員数11,500人 一人当たり売上高8,000万円 売上高9,000億円、経常利益260億円、経常利益率2.9% 今回モデルケースとして採用したB社は前回の「在庫回転率」で取り上げたB社と同じ会社(数字を最新のものに更新しました)、C社はB社のライバル会社として知られる会社です。 B社は都市型、C社は都市型と郊外型のミックスの会社で、主な違いは出店戦略の違いによる店舗数となりますが、今回見比べていただきたいポイントは従業員数と一人当たり売上高です。B社は7,500億円程度の売上を作る為に従業員を5,000人雇用し、C社は9,000億円程度の売上を作る為に従業員を11,500人雇用しています。年間の一人当たり売上高に換算するとB社は1.4億円、C社は8,000万円で従業員一人当たりの売上が年間6,000万円も違います。 この一人当たり売上高の差が人件費に直結しており、家電量販店の給与平均は大体どの会社も500万円程度のため、1人当り月の人件費を40万円と仮定し比較すると、B社では月の人件費総額が20億円、C社では月の人件費総額が46億円になり、月の差額で26億円も違います。この差を単純に年間にすると312億円になります。B社とC社の経常利益が340億円、経常利益率で5.1%の差がありますが、この差の大きな要因の1つが一人当たり売上高の差からくる人件費であることは明確かと思います。 ちなみに売上規模が違うため一人当たり売上高をベースに同じ規模として比較すると、C社の一人当たり売上高で従業員がB社同様5,000人の場合には、C社は売上4,000億円程度、経常利益率が同様とすると経常利益が116億円程度の会社でB社との経常利益の差は年間480億円ということになります。 また、C社が7,500億円の売り上げを作る場合で比較すると、従業員数は約9,400人必要で、B社とは4,400人差があり、月の人件費を40万円としたときのC社の月の人件費総額は約37億、B社との差は17億円にもなります。年間にすると204億円です。この差がどれだけ大きいかということがお分かりいただけると思います。 前回の「在庫回転率」の時もお話ししましたが、多少の違いはあれど、同じ商品を扱っている家電販売店業界ではB社、C社以外をみても売上総利益率は大体30%程度で、どの会社も同じような水準です。他の業態もそうかとおもいますが、同じ商品を扱っている業態で同じような売上規模だと売上総利益率に大きな差は出にくいと思います。 今回のB社、C社の比較の場合で、C社の売上をB社と同じ7,500億円と仮定した場合の人件費差額年間204億円は、売上総利益率に換算すると3%に相当します。同じものを販売する同業界、売上規模も同程度の会社間では売上総利益率で3%も差をつけるのはものすごく大変なことではないかと思います。 今回もわかりやすい例として一人当たり売上高を、同じ商品を販売していて、売上規模が同程度の家電販売店をモデルケースとして解説いたしましたが、同業界の競合他社とこれだけの経営効率の差は他の指標ではなかなか出ないと考えます。 今回のモデルケースの様な労働集約型のビジネスだけでなく、商品やノウハウで差別化ができる資本集約型や、知識集約型のビジネスでも、従業員を雇用する限り、従業員一人当たりの効率(一人当たり売上高)から逃げることはできません。業界水準を大きく上回る一人当たり売上高を実現することができれば、ビジネスをする上で避けて通れない競合他社との競争上において、大きなアドバンテージを持つことに直結していきます。 4.一人当たり売上高の上げ方 一人当たり売上高の重要性はご認識いただけたかと思いますので、一人当たり売上高を如何に上げるか?というお話をさせていただきます。 単純に人を減らせば一人当たり売上高が上がるのか?というと当たり前ですがそうではありません。一人当たり売上高が上がる会社としての仕組みが確立されていないと一人当たり売上高は上がりません。それどころか会社のサービスレベルが大きく低下し、会社存続の危機になりかねません。 一人当たり売上高が上がる会社としての仕組みは会社によりいろいろありますが、モデルケースとした小売業の例で見れば、出店リスクの少ない売上の小さな小型店を大量に出店するのではなく、売上の大きい大型店中心の出店戦略や、他社に先駆けECに傾注する戦略、物流網に投資による入出荷の効率化、テクノロジーの導入による仕入れ部門や経理部門等の間接部門の超スリム化、そして最大のポイントは一人当たり売上高の重要性の教育が従業員になされており、常に会社と従業員が生産性を高めるための創意工夫をし続ける血の通った経営をしていることかと思います。 経営効率を飛躍的に向上させる一人当たり売上高を向上させるには、ヒト×テクノロジー×経営戦略の掛け算の上に成り立つということになると思います。 5.まとめ 今回も、小売業をモデルケースに一人当たり売上高のお話をさせていただきました。例に出した小売業を含むリアルビジネスの様な労働集約型のビジネスだけでなく、資本集約型や知識集約型のビジネスでもビジネスはヒトにより成り立っています。このヒトの最適化こそが、一人当たり売上高として数値化され、特に労働集約型のビジネスでは、営業利益の最大化につながり、大きな競合他社とのアドバンテージポイントになります。 また、現在は人的資本経営という考え方が多くの会社に根付き、企業価値向上の為の経営手法としてディファクトスタンダードの1つになっています。この経営手法は会社と従業員が生産性を高めるための創意工夫をし続け、成長し続けることにポイントがあると思います。 つまりは、「一人当たり売上高」を追求することは、数字上の経営効率による企業価値向上と効率と、数字ではない人的資本経営による企業価値向上という両面の価値があると考えます。 繰り返しですが、ビジネスはヒトにより成り立っています。経営戦略を考えるのも、実行するのも、テクノロジーを使うのもすべてはヒトであります。その為に必要なものが、ヒト×テクノロジー×経営戦略の掛け算であると、ディ・ポップスグループは考えます。 その考えの元、ヒトが輝くため、また社会課題解決のために、ベンチャー企業に対して、出資を通じた支援と、効率という数字だけではない価値を通じたグループエコシステムの実現を目指しています。 これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。 D-POPS GROUP 常務執行役員 渡辺哲也
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2025.06.20
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