COLUMN

「登山と経営」ーベンチャー企業経営と登山との類似性

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2025.09.29

ディ・ポップスグループでは、ベンチャーエコシステムを、「共通のアイデンティティと理念の元に集まり、革新性の高い事業モデルにより、社会課題解決に挑戦し続ける企業群の集合体を支える、成長と永続のためのプラットフォームのこと」と捉え、その理想の形の実現に向けて日々挑戦と努力を続けています。
※詳しくはこちらをお読みください。「ベンチャーエコシステムとは?

今回の記事では、ベンチャー企業経営を登山に例えながら、その心構えや、地道な一歩の積み重ねやリスクへの対処の重要性などを記述します。

1. 登山と経営との類似性

登山家は、初めて登る大きな山の麓に立つと、思わず息を飲みます。その頂の高さ、そこまでの距離、そして険しさに心がざわつきます。期待と不安、ワクワクと怖さが入り混じった、何とも言えない感覚。まさに「武者震い」という言葉がぴったりです。

でも、いざ歩き出すと、山頂はすぐに視界から消えてしまいます。代わりに目に入るのは、足元の岩、濡れた木の根、分かれ道、急坂。体力を消耗しすぎないようペースを調整し、呼吸を意識しながら、一歩一歩を積み重ねていく。それと同時に、天候の急変や茂みの物音にも注意を巡らす。

登山というのは、派手さのない地味な営みの連続であり、また大きな危険を伴います。

この感覚は、「起業」や「ベンチャー企業での仕事」にとてもよく似ています。社会課題を解決するために掲げた、大きな目標を掲げながらも、日々の実務は地味で、予測不能で、簡単ではない。そして人生をかけて大きなリスクを背負います。

以下に登山と経営の類似性をいくつか例示します。

(1) 登山:準備 → 経営:ビジョン設定

登山には "準備" が欠かせません。どの山に登るのかを決め、地図を調べ、ルートを決め、アタックに必要な装備と体力を付ける。経営で言えば、それはビジョンの設定、資金や情報の収集、プロダクトの開発チームや営業体制の準備にあたります。

(2) 登山:パーティー → 経営:チーム編成

登山では仲間の存在も重要です。自分と同じくらいの体力で、登山スタイルや目的を共有できる人と登るのが理想です。これは、「誰を最初のバスに乗せるべきか」が重要であるとも言われるスタートアップや新規事業のチームビルディングとそっくりです。

(3) 登山:外部環境の把握 → 経営:市況の変化への対応

登山中は、常に外部環境に目を配る必要があります。突然の天候の変化、足元の不安定な岩場、見落としがちな分岐点。事業運営においては、市況の変化や競合の動き、見落としがちな製品の不具合や顧客の声といった“環境変数”にあたります。

(4) 登山:現在位置の把握 → 経営:KPIのトラッキング

実行フェーズにおいては現在地の把握も大事です。GPSで正確な現在位置と高度の把握、そして自身の心拍数や発汗量、時には血中酸素濃度のチェックが必要です。一方の経営では、KPIや財務データのチェック、メンバーの体調の把握などがそれに当たります。

(5) 登山:勇気ある下山 → 経営:事業撤退やピボット

そして、外部環境の変化や自身の体力の限界や怪我により、どうしても継続できないと判断したときは、勇気を持って引き返すことも選択肢に入ります。それは経営で言えば、事業撤退や縮小、もしくはピボット。いずれも命や株主やメンバーを守るためのリーダーとしての決断であり、時には後の大成功につながる英断となります。

(6) 諦めない心

そして最後に、挑戦する勇気、諦めない心、粘り強さというものが、登山にもベンチャー企業経営にも欠かせません。前項の勇気ある下山や事業撤退と相反するようですが、「もう無理」と思うか、「あと一歩」と思うかで、失敗と成功に大きく結果が分かれる場面が多々あります。この心の在り方はベンチャー企業運営にとっての重要な要素でもあります。

2. 座学と実践の大きな違い

現代は情報が洪水のように溢れています。経営者の自叙伝やそのノウハウ本、マーケティング本、MBA関連の書籍などは、数えきれないほど出版されています。その壮絶な経験を知ること、そして語ることで、あたかも自分もその一部であるかのような錯覚に陥ることがあります。事業運営に必要な知識を書物から学ぶことは決して無駄なことではありません。しかし、これらの考え方や物語を読むことは、登山に例えるならば「山の情報を読むこと」や「高い山を見たこと」にすぎません。

では、「登山の経験」とは何でしょうか?

それは、高尾山のような身近な山であっても、自分の足で一歩ずつ登り、汗をかき、息を切らし、頂上からの景色を肌で感じる体験です。途中で雨に降られ、道に迷い、足の痛みに耐えながら、それでも前に進む。その中で、「もう少し頑張ろう」と自分を鼓舞する力や「今日はここまでだ」と引き返す勇気が養われる。これらの感情や決断は、本を読んだだけでは決して得られません。

この体験こそが、私たちの仕事における「小さな実践」に例えられます。

一つひとつの顧客開拓、販路開拓、新規事業の立ち上げ、採用といった、「小さな登山」のような業務の実践の積み重ねが、やがて大きな山を登るための「筋力」となり、「判断力」となります。

頭の中にある情報と、身体で覚えた感覚は、全くの別物です。私たちは、知識だけでは決して経営者にはなれません。しかし、日々の業務で小さな山を登り続けることで、いつか大きな事業という山に挑む力が身につき、そして不断の努力により成功へと導かれます。

壮大な偉業も、まずは小さな一歩から始まり、そしてその積み重ねでこそ成し遂げられるのです。

3. 登山の足と経営能力の鍛え方

登山家の格言に、「山の足は山でしか鍛えられない」というものがあります。事業運営でも同じです。仕事の能力は、机上の学びだけでは決して高められません。

(1) ジムトレと山トレの違い

平らな道を何十キロもウォーキングしたり、ジムでランニングマシンで走ったり、バーベルで筋トレを繰り返しても、本物の「山を登る足」を作ることはできません。

登山道は、平坦な道だけではありません。木の根や細かな砂利で足を滑らして手を怪我をすることもあれば、浮石に足を置いてしまい捻挫することも、時には転倒して大怪我をすることもあります。急な坂を何百メートルも登り続けたり、岩山を登ったり下ったりする行為は、ジムでスクワットを繰り返しても都内のビルを何段登っても得られない、独特な負荷を体にかけるのです。

様々な山の、様々なコンディションでの登山の経験を繰り返していく中で、体幹や心肺機能は徐々に山に適応し、鍛えられていきます。それは、ジムでどれだけトレーニングを積んでも得られない、本物の「山登りの足」なのです。

(2) 仕事の能力は仕事でしか高められない

これは、仕事の能力にも同じことが言えます。

コンサルタントは、経営理論やSWOT分析やマーケットリサーチを駆使して、美しく完璧な事業戦略プランを描くことができます。ビジネススクールに通えば、多くのセオリーや成功事例を学び、中には交渉術の授業でロールプレイもするかもしれません。

しかしそれは、登山の例で挙げたジムでのトレーニングに過ぎません。

顧客との契約交渉が土壇場で破談になった際の絶望感と、また別の場では破断の原因を事前に回避して無事規約締結できた時の喜び。新規事業の資金調達がうまくいかず、撤退の決断を迫られた時の苦悩。チームメンバーとの意見衝突を、粘り強く対話して乗り越えた時の高揚感・・。

これらはすべて、教科書やロールプレイでは決して味わうことのできない、ビジネスという「実践的な山」でしか得られない経験です。

教科書と違い、実際の現場は一つとして型通りには進みません。ロールプレイと違い、ビジネスの現場の相手は真剣な、生身の人間です。市場環境も刻々と変化します。教科書に描かれた、完成した理論ができた当時と現在とでは、時間軸が数年から数十年ずれています。

現代の社会環境、技術的環境、競合環境においてのビジネス理論は、今、正に読者の皆さんがその事例を作っているところなのです。

そして、何度も様々なビジネスでの「山場」を経験するうちに、私たちは本物の事業運営のスキルを身につけていきます。失敗を繰り返す中で、成功への最短ルートを直感的に見つけ出す。顧客との対話から、言葉にはならない真のニーズを汲み取る。チームメンバーのわずかな表情の変化から、プロジェクトの危険な兆候を察知する。

これらの能力は、座学では絶対に身につかない、仕事を通してのみ鍛えられる「勘」や「判断力」なのです。

4. 備えの重要性

(1) 資金的な備え

登山において、荷物の重量は気になるところです。軽ければそれだけ体力の消耗が減り、長時間の行動が楽になります。しかし、軽さを追求しすぎてしまうと、命取りになることがあります。

気温や行動時間を考慮した十分な飲料水。計画上必要な食事。エネルギーを補給する行動食。いざという時のための雨具や救急セット。これらはどれも登山において欠かすことのできない備えです。予備の飲料、非常食、万が一に備えた装備があるかどうかで、緊急事態が発生した場合、その後の行動や判断は大きく変わります。そして何よりも、"心の余裕"がまったく違います。

これは、経営の世界でもまったく同じです。会社を軽く、効率的に回すことは大切ですが、バッファを削りすぎると、いざというときに耐えられません。

たとえば、ある日突然、製品の不具合が発覚して全品回収しなければならなくなったら。
あるいは、コロナ禍のように、社会経済活動が数ヶ月単位で止まってしまったら。
売上がゼロに近づく状況でも、半年間は生き延びられる運転資金が手元にある──
これは多くの経営の教科書や実務家が口を揃えて言う“最低ライン”です。

キャッシュの余裕があれば、"心の余裕”となり、危機の中でも冷静に動けます。

資金繰りに追われて判断を誤ることも減りますし、余裕があれば、社会全体が不安定な時に、攻めの一手を打つという挑戦をすることも可能となります。

(2) 人的リソースの備え

バッファが必要なのは、事業運転資金だけではありません。人的なリソースも同じです。人員をギリギリで回している組織は、休暇を取る余裕がなくなり、心身の疲労が蓄積します。
体力的にも精神的にも限界に近づけば、判断力や創造力は確実に落ち、離職リスクも高まります。こうした負のスパイラルに入ると、組織全体が疲弊してしまいます。

一方で、人員や時間にバッファのあるチームは違います。突然のトラブル対応や新しい挑戦にも柔軟に動けますし、改善活動や学びの時間を持つことができます。メンバーにとっての“心の余裕”は、組織全体の安定感につながります。

(3) バッファは重要な投資

登山では、非常用の水や食料、救急セットを持つことは「重くなるからやめよう」とは考えません。それは余計な負担ではなく、生きて帰るための最低限の備えだからです。

経営における現金の余力、人員の余裕、時間のバッファも同じです。平時には“無駄”に見えるかもしれませんが、有事にはそれが唯一の命綱になります。そしてその余裕こそが、次の一手を打つ原動力となり、新しい領域に挑戦するエネルギーとなるのです。

軽さと予備、すなわちバッファのバランスをどう取るか。登山でも経営でも、そこに真の力量が表れます。ゴールに辿り着くために、そして安全に帰るために。バッファを持つことは、”心の余裕”を生むという効果があり、事業運営において、運転資金と、共に働くメンバーの心の余裕は、成功に導くための戦略投資と言えるのです。

5. 登山も経営も判断の連続

登山では常に臨機応変な判断が求められます。どんなペースで登るべきか、どのタイミングで休憩を取るか、水分やエネルギーの補給をするか、自分の体の調子と現在位置から、自らが判断せねばなりません。そもそも、天候によっては登山自体を中止するという判断も自ら行う必要があります。

経営者の間ではトライアスロンというスポーツも人気があります。しかし、トライアスロンの場合は、「決められたルールの中で」、「順位を競うレース」、「万全に安全が確保された競技場での戦い」です。天候が悪い場合、中止するか否かの判断は運営側が行います。企業で言えば、「取締役会の決定により」と言ったらいいでしょうか。規定のある中で競い合うタイプの競技は、どちらかというと大企業の役員や雇われプロ経営者に向いているのではないでしょうか。

一方で登山は、「自然と向き合い、環境の変化に適応し、常に危険と向き合いながら、自分の判断で進む挑戦」と言えます。

設立間もないスタートアップ、誰も挑戦したことのなり領域に挑むベンチャーの経営者やその企業で働くビジネスパーソンの姿勢や考え方も同じです。日々難しい判断の連続、常にリスクと向き合いながら、絶え間ない努力を続け、大きな社会課題に挑む。

このように、ベンチャー企業経営は正に登山に例えられるのではないでしょうか。

—-
以上、(株)ディ・ポップスグループが取り組むベンチャー・エコシステムを実現する活動の参考として、ベンチャー企業経営の心構えを登山に例えて記述させていただきました。

これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。

D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太

付録:ベンチャー・エコシステムのメンバーをサポートする杉原は、ベンチャー魂を示す活動として、「ユニコーンTシャツを着て日本百名山を踏破する」という挑戦に取り組んでいます。

 

 

 

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