COLUMN

auプランに組み込まれた子どもの安全を守るアプリ「コドマモ」の挑戦|Adora株式会社・冨田社長インタビュー~Part1~

  • INTERVIEW
2026.07.17

全3回にわたるインタビューの第1回となるPart1では、子ども向けSNS見守りアプリ「コドマモ」を開発・運営するAdora株式会社・冨田社長が語る、創業から現在に至るまでの急成長の軌跡に迫ります。株式会社ディ・ポップスグループが2024年7月に出資して以来の約2年間で何が変わったのか。auの新料金プラン「U12バリュープラン」への組み込みという異例の快挙はどのような経緯で実現したのか。泥臭く走り続けてきたスタートアップのリアルな歩みをお伝えします。(このインタビューは2026年6月に実施しました。)

◆ 出資から2年、創業から3年を振り返って

―杉原―
本日は、2024年7月に出資をさせていただき、ベンチャーエコシステムの仲間になっていただいた、Adora株式会社の冨田社長にインタビューさせていただきます。冨田社長には2024年9月にもインタビュー記事の作成にご協力いただいておりますが、その後も急成長を続ける「コドマモ」などについてさらに深掘りをさせていただきます。(前回の記事はこちらをご参照ください。)

冨田社長とは、2024年の5月に出会いましたよね。あれから2年が経ちました。また、2023年7月の創業からは約3年ですね。弊社の出資と協業開始からの約2年、そして創業以来の3年を振り返って、いかがですか?感想をお聞かせください。

―冨田―
そうですね。ご出資いただいたことで、社内のメンバーだけではなく社外の方も含めて「みんなの事業、みんなの会社」だという意識が改めて強くなりました。責任感をより強く持って頑張らなければという気持ちが湧いてきましたし、苦しいときもありながら、一生懸命泥臭くやってきたなと思います。気づけばあっという間でしたね。

―杉原―
3年って長いですか?短いですか?

―冨田―
短いですね。やばいな、もっと頑張らなきゃなって感じです。

もちろん、できる限りすべてにおいてベストを尽くし続けてきたという自負はあります。ただ、後から振り返ればもっとこうすればよかったということはたくさんあります。でも、その時々のベストを尽くしてきたのは事実なので、仕事していたらあっという間だったというのが率直な感想ですね。

―杉原―
2年間の事業の進み具合を振り返ると、ちょうど弊社が出資させていただいた頃は、本田圭介さんのファンドからの資本調達活動を始めたばかりのフェーズでしたよね。そこから加速した感じはありますか?

―冨田―
ありますね。あの頃はドコモショップさんとの取り組みも始まった時期で、売り上げもほとんどない状態でした。夢は語っているけれど、まだトラクションが全然ついてきていないという段階で、これはいけるのかなという感じでした。そんな段階で信じてコミットしていただいたことはとても嬉しかったです。

そこからドコモショップとの提携や有料サブスクの販売も始まり、徐々にトラクションが出てきました。出資いただいた時点では売り上げがほぼゼロだったところから、最初の1年はサービスを磨き続けること、ショップとの提携関係を構築することに注力していました。その1年間の下積みがあって、2025年の夏から秋ごろにぐっと売り上げが伸び、一気に10倍どころではない成長を遂げました。

3年間を振り返ると、準備期・資本調達期・加速期という流れがあって、2025年から2026年にかけてグッと実績が出てきたんじゃないかなと思います。

◆ auの新料金プラン「U12バリュープラン」への組み込みという快挙

―杉原―
この間の最大のイベントといえば、主力サービス「コドマモ」がKDDI様のauスマートフォン向け2025年夏の新料金プラン「U12バリュープラン」に組み込まれたことではないでしょうか。

―冨田―
そうですね。もともとディ・ポップスさんの店舗での取り扱いは走っていたんですが、通信キャリアの料金プランに正式に組み込ませていただくのはこれが初めてのことで、本当に大きなイベントでした。

―杉原―
創業からまだ2年半ほどの会社のサービスをauが料金プランに組み込むのは、かなり異例のことだと思います。世間にまだ普及していないブランドを大企業が採用するのはリスクもあると思いますが、どのような経緯でこの大きな提携が実現したのでしょうか?

―冨田―
KDDIさんのほうで「子どもたちの安全を守るサービス」を探されていた中で、弊社のサービスを発見していただいたのがきっかけです。KDDIさんの社内でも、従来のフィルタリングにとどまらず、「スマホを禁止するのではなく、使わせながら守る」という本質的なアプローチが必要だというディスカッションがあったそうで、その中で弊社のサービスに目を留めていただいたとのことです。(KDDI記事:https://mugenlabo-magazine.kddi.com/list/adora/

―杉原―
KDDIさんが他のサービスも調査した上でAdora社を選んだ要因は何だと思いますか?

―冨田―
利用時間の管理サービスは他にもあるかもしれませんが、LINEをはじめとするSNSのチャットの見守りにしっかり力を入れているのは、今も市場で弊社だけだと思っています。日本で最も普及しているSNSのセキュリティ対策ができるというのは大きなポイントだったと思います。

また、愛知県警と連携していたり、国内のパートナーとの実績も積み上げてきていたことも評価されたのではないかと思います。もちろんKDDIさんとしても、ブランドイメージに関わる話ですから慎重に、本当に任せられるかをじっくり検討していただいた上での提携でした。

―杉原―
単にサービスを紹介するだけでなく、開発も伴いますよね。

―冨田―
そうです。auのIDでログインできる連携機能なども実装しました。KDDIのユーザーさんがスムーズに加入できる仕組みを開発したというところです。

◆ 他社には真似できない技術的優位性

―杉原―
コドマモにはAI技術やセキュリティ技術が深く組み込まれていますが、この技術力の高さが評価されたのでしょうか?特に優れていると考える技術的な優位性や、開発において特に工夫・苦労されたポイントを教えてください。

―冨田―
チャットを見守るというのはシンプルに聞こえますが、実際にそれを実現するためには、裏側でさまざまな技術が必要です。従来は分析が難しかったSNSのチャット内容を解析できるようにしたこと自体に大きなイノベーションがあります。

自然言語で危険かどうかを判定するモデルや、画像が不適切かどうかを判定するモデル、それを端末上で軽量に動かす仕組みなども開発しています。チャット自体を分析可能にするという、これまで誰もやってこなかったことを実現したというところが、大きな技術的優位性だと思っています。

それと同時に、使いやすいUI・UXへのこだわりも重要です。私自身も開発チームの中でコミットして、みんなの努力で磨いてきました。どんなに優れた技術でも使いやすくなければ社会実装されないと思っているので、わかりやすく使いやすいアプリにすることを常に意識してきました。

―杉原―
LINEなどのSNSのやりとりを読み取り、分析して危険なチャットを検知するこの仕組みは、他のスタートアップがすぐに作れるものではないという自信がありますか?

―冨田―
はい。今ではAIが既存のアプリをさっと作れるようになっていますが、世の中にすでにあるものを作るのとは違います。まだ誰も作っていないものを実現するのはAIだけに任せても難しい。そこに我々の技術チームの強みがあると自負しています。

また、ユーザーインタビューやユーザーデータの分析を細かく積み重ねてきたことで、継続率(リテンションレート)も毎月上がり続けています。

―杉原―
最近は安定し始めましたね。

―冨田―
一般的なCtoCのサービスはリテンションレートがどんどん下がっていくことが多いのですが、弊社の場合は6か月ほどでしっかり下げ止まっています。適切なユーザーに刺さっているという検証ができているという意味では、プロダクトマーケットフィットに近い状態に来ているかなと思っています。技術力だけでなく、UXや総合的なブランディングも含めて、親御さんにとって使えるアプリができているということだと思います。

―杉原―
難しい技術を極めるだけでなく、ユーザー目線で使えるものをという意識が、冨田社長の総合プロデューサーとしての役割なんですね。

☆インタビューアー
株式会社ディ・ポップスグループ アドバイザー 杉原 眼太

【Adora株式会社】
会社名:Adora株式会社
代表者:代表取締役 冨田 直人
設 立:2023年7月
サービスサイト:https://www.kodomamo.com/about-us

Part 2では、
・「コドマモ」加入後の状況と反響
・3大キャリア全てとの協業へ拡大
・「コドマモ for School」— 自治体・学校向けの取り組み
などについてお伺いしています。

Part2もぜひご覧ください!

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「起業したくなる国へ」一般社団法人スタートアップ協会・砂川大氏インタビュー|連続起業家が語る、スタートアップが自由に挑戦できるエコシステムの作り方~Part3~
全3回にわたるインタビューの最終回となるPart3では、砂川大氏が日本のスタートアップ環境の「今」を率直に語ります。かつて三菱商事を辞めてベンチャーをやると批判された時代から、東大生が普通に起業する時代への変化。しかし日本がアメリカとの差をキャッチアップできていない構造的な理由。さらに、生成AIの台頭で全ての職業が変わっていく中で、それでも残るものとは何か。最後に、ディ・ポップスグループのベンチャーエコシステムへの共感について語っていただきます。(このインタビューは2026年5月に実施しました。) ◆幅広い人脈の作り方——「Facebookで友達だけど話したことない人とランチ」という企画 —杉原— 砂川さんのFacebookの投稿を拝見すると、幅広い影響力のある各界のリーダーたちとの人脈がおありですね。みなさんとはどのような形で出会い、どうお付き合いを広げてこられたのでしょうか? —砂川— 最初はFacebookに投稿していなかったんですよ。ちなみに全部ランチなんです。ディナーになると大体お酒が入るし、なんか長くグダグダしてしまって非効率だなと思い始めて。ランチだとお互い1時間ぴったりになるし、ものすごく要点だけの話で効率的だし、むしろランチの方がいいなと思うようになったんです。 —杉原— ランチされている方は元からのお知り合いなんですか? —砂川— 元からです。でも途中から「Facebookで友達になっているけどあまり話したことない人とランチに行く企画」を始めたんです。もったいないじゃないですか、ネットワークに入っているのに。私は実際に会った人しか友達申請を受け付けていないので、過去には会っているんですよ。でもどこで会ったかもよくわからない、誰かもよくわからないという人がいる。その人にメッセージを送って「ちょっと誰かわかんないんですけど、ランチ行きませんか?」って(笑)。 会ってみたら、登山家の人とか占い師とか、面白い人がどんどん出てくる。それをFacebookにアップするようになったら、友達になっている相手から「今度ランチしませんか?」と連絡が来るようになって、どんどん広がっていきました。別にブランディングをやっているわけじゃないんですよ。 —杉原— この活動は、ご自身の会社や協会の活動にもいい影響はありますか? —砂川— 狙ってはいないんですが、やはり何かしらの効果は当然あります。世の中ってストレートなメリットだけじゃないと思っているんですよ。ある人になにかしてあげて、その人がどこかで砂川のことを言ってくれて、面白いじゃんとなって、戻ってくる。そういうことが偶発的に起こる。でも決して狙ってるわけではないですよ。 ◆起業に否定的だった時代から東大生が普通に起業する時代へ — 急速に変わる日本の環境 —杉原— ここ数年、日本政府はスタートアップ支援の本気度が高まり、優秀な学生が大企業に就職せず起業を選んだり、スタートアップにインターンからそのまま転籍するケースが増えています。起業も数社経験し、エグジットにも成功した砂川さんから見て、現在の環境はどう見ていらっしゃいますか? —砂川— めちゃくちゃもり上がっていますよ。ロケーションバリューをやっていた頃は言われましたもん。「三菱商事を辞めてベンチャーで、いいんですか?」「何かしちゃったんですか?」みたいな、犯罪でも犯したかのような扱いでしたよ(笑)。当時の仲間たちを悪く言うつもりはないですが、立ち上げ当初は本当にいろんなハードシングスが起こりましたし、動物園みたいな世界でした。 今は東大卒の人が普通にうちに就職してきますし、在学中に起業する人も多い。むしろこれからそういう人の方が増えてくると思います。本当に起業しやすくなってきています。 —杉原— プレイヤーたちもどんどん変わってきている。起業の道も選びやすくなってきている。日本は他国に対して何年遅れぐらいまでキャッチアップしていますか? —砂川— 残念ながらキャッチアップはできていないです。構造の問題だと思っています。まず人材流動性が異常に低い。 もう一つ、ルールメーキングの話で言うと、アメリカは連邦政府なので会社法は州政府が作っています。各州がスタートアップを奪い合っているんですよ。競争原理が働いて、スタートアップ向けのルールがどんどん良くなっていく仕組みがビルトインされています。イーロン・マスクの会社が全部テキサスに移転したのも、カリフォルニアの税率が上がって企業がどんどん出ていっているのも、競争原理の結果です。 日本は一国一城なので競争原理が働かない。その結果、アメリカがトライアンドエラーで進歩している中で、日本はずっと昔の会社法を堅持したまま動かない。今、ミニマムタックスの問題を議論していて、アメリカで起業すればエクジット時に税金を払わなくていいものが、日本だと何億円も税金払わなければならないというケースもありえるんです。どちらで起業しますかと言ったら明白じゃないですか。スタートアップ育成5か年計画の趣旨に照らせばちぐはぐですよね、ということを、協会としては訴えています。 ◆機会と課題 —「ミクロでは戦える」、でもグローバル展開の壁をどう越えるか —杉原— 端的に言って、現状の日本のスタートアップ環境、スタートアップにとっての機会と課題をどうお考えですか? —砂川— 機会はすごくいっぱいあると思います。ミクロで言えばそれほど競争環境は厳しくない。例えば我々のサービスはアメリカに競合が20社あります。でも日本では今のところスマートラウンドだけ。円換算ではコストも安いし、同じことをやるならまず日本で勝てる可能性は十分にある。人材のクオリティも高い。信頼度も高い。幼少期からフィリピン、メキシコ、アメリカなど、いろんな国に住んで見てきた中で、日本はクオリティが高くて真面目で信用できる人が多い。しっかり成長できるスタートアップを作る機会はあると思います。 一方で大きな壁は、グローバルマーケットに行けないという問題です。日本は中途半端にいいマーケットなので、国内でそれなりに成長できてしまう。それで落ち着いてしまうと、グローバルサービスへはなかなか辿り着かない。ただ、言語の壁は多分あと2〜3年でなくなるんじゃないかと思っています。AIで同時通訳されますから。 グローバルが重要だと言っている人は多いんですが、それは外野の野次みたいなものなんですよ。グローバルに行ったことがある人間が言うならわかりますが、バッターボックスに立ったこともないのに野次を飛ばしているだけでは何も起こらない。本当に成功したアメリカの起業家を連れてきて、日本のスタートアップのアドバイザーになってもらわない限り、変えられないと思います。スマートラウンドは実際にアメリカで成功したゲーム会社の創業者をエンジェル投資家として迎えて、事あるごとにアドバイスをいただいています。目線が全然違います。 ◆「ゴールドラッシュでつるはしを売れ」— AIの時代に日本が狙うべき成長市場 —杉原— 日本のスタートアップ、これからの有望な成長市場はどのような分野だと思われますか? —砂川— 成長市場というのは、そこにあるものじゃなくて、我々が開拓しに行かなければならないものだと思っています。今、全ての世界はAIに設計されている状況の中に入っていて、例えばGeminiが強いと思うのは、Googleとして自前で発電所も持っているし、TPUも自分で作っている。AnthropicもChatGPTも電力は買わなければならないし、GPUはNVIDIAから買わなければならない——垂直統合できていないんです。Googleだけができている。 「ゴールドラッシュの時に金を掘りに行くんじゃなくて、つるはしを売れ」と言うじゃないですか。AIのつるはしって何だろうと考えるべきだと思っていて、それはエネルギーとチップセットです。核融合とか絶対に大事。そこでの優位性を勝ち取るために、色々な分野に少しずつ予算を分散させるのではなく、思いっきりそこに全部ぶち込むくらいのことをやらないといけない。 ◆生成AIで消える職業、残る職業 —「息子の就職アドバイスができない」本音 —杉原— 生成AIの登場と浸透によってビジネス環境が大きく変化しています。どのような職業が消え、どのような職業が残ると思いますか? —砂川— めちゃめちゃ難しいですね。正直、何も残らないんじゃないかとすら思っています。AnthropicがClaudeのFinanceバージョンを出したために、投資銀行でモデルを作っていた若手は基本的に職がなくなったようなものですし、Claude Legalが出て弁護士も青ざめているはず。しかも彼らは儲かりそうなホワイトカラーの高収入な職種をピンポイントで狙ってくる。全部やられたら何も残らないじゃないかという感じです。 すごく悩んだのが、息子への就職アドバイスです。私自身、三菱商事からハーバードMBA、VCインターン、マッキンゼーやUBSのようなインベストメントバンクも少し見てきた。全部なくなっていくんじゃないか、という状況ではまともにアドバイスできないですよね(笑)。 結局商社に行くことになったんですが、なぜそれがいいと思ったかというと、究極的には「人と人を繋ぐ仕事」はAIには作れないから。心を動かす、感動させる、「この人だから信頼できる」という、あの目の合わせ方や雰囲気の違いはAIにはわからない。そこだけは残るんじゃないかと思っています。 ◆「みんなで力を合わせないと何も変わらない」——ベンチャーエコシステムの実現について —杉原— 最後に、ディ・ポップスグループが目指す「ベンチャーエコシステムの実現」について、共感すること、協業できる領域などがあればお願いします。 —砂川— スタートアップ協会として、誰かを出し抜いてどうこうというつもりは一切ないんです。むしろ、みんなで力を合わせないと何も変わらないと思っているので、さっきも話したように、この団体とここでは協力する、全部それだと思っています。 我々は完全フリーハンドでみんなと組みに行きます。志が一緒で、スタートアップのエコシステムを1ミリでも底上げしたいと思っている人たちは「同志」ですから、ぜひ一緒にやりましょう。 ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   【プロフィール】砂川 大 一般社団法人スタートアップ協会 代表理事 / 株式会社スマートラウンド 代表取締役CEO 三菱商事を経てハーバードMBA取得後、米国VCでディレクターとして勤務。帰国後に株式会社ロケーションバリューを創業しNTTドコモへ売却。Googleでアンドロイドの統括部長などを努めた後、、2018年に株式会社スマートラウンドを創業。2022年に一般社団法人スタートアップ協会を設立し代表理事に就任。スタートアップ育成5か年計画の策定にも関与するなど、日本のスタートアップ・エコシステム形成に取り組む。 一般社団法人スタートアップ協会:https://www.startup-kyokai.org/ 株式会社スマートラウンド:https://jp.smartround.com/corporate Part1の記事はこちらからご確認ください。 Part2の記事はこちらからご確認ください。
  • INTERVIEW
2026.07.09
「起業したくなる国へ」一般社団法人スタートアップ協会・砂川大氏インタビュー|連続起業家が語る、スタートアップが自由に挑戦できるエコシステムの作り方~Part2~
全3回にわたるインタビュー Part2(Part1はこちら)では、スタートアップ協会が最も力を入れてきた政策提言の具体的な成果として、「ストックオプション改革」の全貌に迫ります。保管委託要件という知られざる制度の壁が、いかに起業家のリターンを「紙切れ」にしてきたか。そして砂川氏たちがどのようにしてその問題を政府に持ち込み、政策に盛り込むという成果を上げたのか——政策立案の裏側を詳しく語っていただきます。(このインタビューは2026年5月に実施しました。) ◆レピュテーションを積み上げる — 政府に「代表性」を認めてもらうための信用構築 —杉原— 25,000社を代表するとまではいかなくても、代表として政策提言をするためには、それなりの「顔」を見せる必要があると思うんですが、政府に対してどのように説明しているのですか? —砂川— レピュテーション(信用・評判)だと思います。少しずつ積み上げていくしかない。活動していく中で「こいつはまともだな」とみんなが評価していくし、透明性を担保しながら、重要な話をするときは理事会を通してガバナンスをしっかり取っています。会社のようにしっかりした仕組みで運営することで信用を作っていく。 今回、私も少し長期政権になってきたので、今年から共同代表になっていただいた方と一緒に、きちんとバトンパスをしていきたいと思っています。 ◆ストックオプション改革 —「紙切れ」を「リターン」に変えた政策提言 —杉原— 協会の活動として特に「政策提言関連」がユニークだと思います。具体的に日本のスタートアップ政策に影響を与えた、新制度作りに深く関わったという成果の例をご紹介いただけますか? —砂川— ストックオプション関連は非常に頑張って作りました。理由は明確で、スタートアップに優しいエコシステムを作るためには、まず希少性の高いリソースである起業家が、日本で起業したいと思うエコシステムでなければならない。そのためには、起業家たちがチャレンジした分ちゃんとリターンが行くように設計することが非常に大事です。 日本のストックオプションの歴史は「恐る恐る作ってきた」という感じで、アメリカと比べたら全く優遇されていない状況でした。リスクの高い船に乗るということは、それなりのリワードがあって然るべきです。給料も安い、チャレンジしなければならない、ではリターンはどこで得るかといったら、やはりストックオプションですよね。 ところが、設計通りにいかず紙切れになってしまうケースが非常に多かった。例えば、あまり知られていませんでしたが、以前は税制適格ストックオプションに「保管委託要件」という要件があって、それが故に保管委託を受けてくれる金融機関が必要だったんです。でも実態として受けてくれる金融機関がほとんどない。1社だけあったんですが、そこに預けるためには紙で株式発行が必要になり、それが他の全株式の発行も引き起こす。ものすごく大変なオペレーションになるんです。「こんなことやってられない」となりますよね。 こういう実務をやった人間じゃないと問題がわからない。我々が「実は出来ない」ということをちゃんと教えていかなければいけなかったんです。 —杉原— 米国だとIPO前にFacebookなどの株式をファンドに売ってエグジットしている人がいますね。日本ではあまり聞かなくて、みんなIPOを待っているような。 —砂川— それともう一つ、日本では退職するとストックオプションは原則として消えてしまいますが、外資では退職してもそれまで貢献した分は権利として残る(権利確定済みのストックオプションは維持される)んです。スタートアップに賭けて汗を流した時間が報われないというのは、リスクとリターンが全く合っていない。それを一つひとつ直しに行ったのが今回のストックオプション改革です。 —杉原— スタートアップで早い段階から関わっているリーダーたちにとって、ストックオプションによるリターンを得られるよう、4年間で変えてきたということですね。岸田内閣でのスタートアップ支援の動きについてはどうでしたか? —砂川— 岸田内閣の2〜3年目頃に「スタートアップ育成5か年計画」が策定されたんです。スタートアップ協会では、そこに本当に必要な内容を反映すべく働きかけたのです。その結果、140項目あるうちの10項目をドラフトさせていただくことができました。 そういうことを地道にやっていくんです。政策立案担当者もスタートアップのプロではないので、何をやらなければいけないか、何が引っかかっているか、どの条文がいけないか、スタートアップはどう思っているのか、アメリカではどうなっているか。そういったことを全部調べて、我々が持っていって「具体的にこういう風にしてほしい」と説明するわけです。 その後、自民党のスタートアップ議連(議員連盟)に持っていき、骨太の方針の中に反映いただき、骨太の方針が政府の方針として予算配分されるというプロセスをやっています。 —杉原— 今の話を聞いているだけで、協会の仕事はすごいエネルギーがかかりますね。ご自身の会社を経営しながらやっていたんですね。 —砂川— ありがたいことに、スマートラウンドの中に非常に優秀な人間がたくさんいたので、一時期は協会の仕事の方にかなり時間を振り向けたことがあります。かなりの時間を割いてやっていました。 ◆Googleに3日目で「3年で辞める」と宣言した連続起業家の本音 —杉原— 砂川さんは連続起業家ですよね。起業した位置情報サービスの株式会社ロケーションバリューをNTTドコモに売却し、ロックアップ後にGoogleに入社されています。そして早々と退社して2018年5月に起業されています。 —砂川— 実はGoogle入社3日目に中小企業向け営業部門の方々を集めてもらって講演したんですが、その時に「3年で辞める」と宣言しています。では、なぜGoogleに入ったかというと、優秀なエンジニアをスカウトするためだったんです(笑)。Googleの人事担当は苦笑いしていましたが。 最初のスタートアップで最も苦労したのが、優秀なエンジニアを探すことだったんです。ドコモに売却して「次もスタートアップをやろう」と思っていた時に、「Googleに誘われてたな」と思い出して話を聞きに行ったら、PM(プロダクトマネージャー)のポジションだったので、3年だけ行ってみるか、となったんです。 —杉原— そして2018年5月に株式会社スマートラウンドを起業されたと。読者の方のためにサービスについて簡単にご紹介いただけますか? —砂川— smartroundはスタートアップと投資家のための情報共有プラットフォームです。資金調達前と後で目的が異なります。 調達前は、いわゆるCRMです。スタートアップ側からすれば投資家を検索・管理して、交渉状況やデータ共有の状況を把握するツール。投資家側も同じで、スタートアップを発掘し、交渉状況や社内の投資委員会の通過状況を管理するためのツールとなります。 そして資金調達後は「機関決定」のためのツールです。投資契約書・株主間契約書がある場合、取締役会前にリードインベスターから事前承諾を取らなければならないのですが、承諾を取り付け、その後、取締役会にかけて、最後に株主総会にかけて期間決定をするというプロセスを、会社法に基づいてしっかり行うためのツールです。定款、登記簿、株主間契約書などを全てデータとして保持しておき、それを元に法律に準拠して何をしなければならないかを判別していく仕組みです。 最後はデータ共有で、VCは一つのファンドから100〜200社に投資するわけですが、各社の状況や権利関係を把握するのが実は非常に難しい。しかもスタートアップが提出する書類はフォーマットがバラバラだったり間違いがあったりする。それを全部統一して、オンラインプラットフォームでコントロールできるようにしているのがsmartroundです。 ◆smartround以前は全部エクセル — 日本VCエコシステムの遅れ —杉原— smartroundがなかった時代はどうしていたんですか? —砂川— 大手含めてみんなエクセルでした。アメリカでVCをやってきた人間からすると「何十年遅れてるんだ」という感じでしょうか。アメリカはもっとテクニカルにやっていたので。 なぜ日本のVCがそこまでやっていなかったかというと、成り立ちの問題があります。アメリカの場合は機関投資家(エンダウメントやペンションファンド)がVCにLP出資するので、VCも激詰めされてデータをちゃんと見ないといけない緊張感があります。日本の場合は事業会社がLPなので「ざっくりお任せ」的なところがある。そういうツールを作らないと要求に応えられないアメリカと、それほどでもない日本、という差がありました。 —杉原— ニーズはスタートアップにも投資家にもあるわけですね。今はどのくらい普及していますか? —砂川— ベンチャーキャピタルファンドで300近くに使っていただいていますし、スタートアップは7,500社になっています。 —杉原— その数はすごいですね。競合はあるんですか? —砂川— 米国には20社あります。最大手が「Carta(カルタ)」という会社で、それぐらいアメリカは成熟している。日本はスマートラウンドだけです。ただ、部分的にそれぞれに競合はいます。投資家側の投資管理だけをやっている会社、スタートアップ側のツールだけをやっている会社、ストックオプション管理だけをやっている会社など、パーツごとには競合がいますが、当社は全部を包括的にやっている唯一の会社です。 ネットワーク効果が非常に重要で、VCとスタートアップ両方が使っているから便利なんです。電話と一緒で、相手が電話を持っていなければ電話に意味はない。だから両側をやらないといけないと考えています。。 ~Part3へ続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   【プロフィール】砂川 大 一般社団法人スタートアップ協会 代表理事 / 株式会社スマートラウンド 代表取締役CEO 三菱商事を経てハーバードMBA取得後、米国VCでディレクターとして勤務。帰国後に株式会社ロケーションバリューを創業しNTTドコモへ売却。Googleでアンドロイドの統括部長などを努めた後、、2018年に株式会社スマートラウンドを創業。2022年に一般社団法人スタートアップ協会を設立し代表理事に就任。スタートアップ育成5か年計画の策定にも関与するなど、日本のスタートアップ・エコシステム形成に取り組む。 一般社団法人スタートアップ協会:https://www.startup-kyokai.org/ 株式会社スマートラウンド:https://jp.smartround.com/corporate 次回・Part3では、 ・幅広い人脈の作り方 —「Facebookで友達だけど話したことない人とランチ」という企画 ・起業に否定的だった時代から東大生が普通に起業する時代へ ・ベンチャーエコシステムの実現について などについてお伺いしています。Part3もぜひご覧ください!
  • INTERVIEW
2026.07.07
「起業したくなる国へ」一般社団法人スタートアップ協会・砂川大氏インタビュー|連続起業家が語る、スタートアップが自由に挑戦できるエコシステムの作り方~Part1~
全3回にわたるインタビューの第1回となるPart1では、連続起業家・砂川大氏が2022年に一般社団法人スタートアップ協会を設立するに至った原点を探ります。経産省の有識者会議で感じた「起業家側の代表がいない」という違和感、そしてどのように団体設立へとつながったのか。ミッションである「スタートアップによる、スタートアップのための政策立案」の意味、PTAに例えた運営の難しさなど、スタートアップエコシステムの底上げを狙う活動の全貌に迫ります。(このインタビューは2026年5月に実施しました。) 【プロフィール】砂川 大 一般社団法人スタートアップ協会 代表理事 / 株式会社スマートラウンド 代表取締役CEO 三菱商事を経てハーバードMBA取得後、米国VCでディレクターとして勤務。帰国後に株式会社ロケーションバリューを創業しNTTドコモへ売却。Googleでアンドロイドの統括部長などを努めた後、2018年に株式会社スマートラウンドを創業。2022年に一般社団法人スタートアップ協会を設立し代表理事に就任。スタートアップ育成5か年計画の策定にも関与するなど、日本のスタートアップ・エコシステム形成に取り組む。 一般社団法人スタートアップ協会:https://www.startup-kyokai.org/ 株式会社スマートラウンド:https://jp.smartround.com/corporate ◆ 「起業家側の代表がいない」— 有識者会議での違和感が団体設立のきっかけに —杉原— まず初めに、4年前の2022年2月、この一般社団法人スタートアップ協会を設立された経緯を教えていただけますか? —砂川— 元々、Googleに入る前に「ロケーションバリュー」というスタートアップをやっていたんですよ。また、さらにその前にアメリカで独立系VCに勤務していたので、いろんな立場からスタートアップに関わってきました。 日本に帰ってきてスタートアップを経営していた時に「あれ?」と思うことがすごく多かったんです。2005年に起業したんですが、会社法の制定が2006年なので、その前の商法ベースで会社を作っている時代なんですね。法律がカタカナ表記で非常に読みにくく、しかも現在のような優先株という概念が整備されてなかったんです。だからベンチャーキャピタルからの出資は普通株で受けるしかなく、そのリスクを回避するためにバイバック条項(買い取り条項)が入ったりしていました。 2006年に会社法が制定されてから優先株が本格的に使われるようになったのが2010年頃。私はその過渡期を両側で見てきている、かなりレアな人間なんです。 そういった背景を知っていたので、2019〜20年頃、当時経済産業省の室長をされていた石井さんという方に、「投資契約の内容に詳しそうだから、有識者会議に来てくれないか」と声をかけていただいたんです。 ところが、会議に行ってみると、アカデミアの人たちやベンチャーキャピタルの人たちばかりで、起業家側がほとんどいないんですよ。「スタートアップの契約を議論しているのに、なんでスタートアップじゃない人たちばかりいるの?」と。投資する側と投資を受ける側は利害が相反するんです。例えばM&Aの時に、どちらが多く取るかという話に必ずなりますから、投資契約書というのは非常に微妙な代物なんです。 そのことを石井さんに伝えたんです。そうしたら「誰にアプローチしたらいいかわからなくて」と言われたんです。それが設立のきっかけだったんです。 ただ、そこから時間がかかりました。仲間集めもしなければならないし、自分の仕事もある。一般社団法人の作り方すら手探りでしたし、準備にも時間がかかりました。 —杉原— その時って、もうご自身の会社も起業していましたよね。 —砂川— 2018年に株式会社スマートラウンドを起業して、2019年にサービスをローンチしたところでした。 —杉原— それでも、有識者会議での課題意識を提言したら「じゃあ作ったら?」と言われて、よく決意されましたね。「誰かがやらなきゃ」という気持ちだったんですか? —砂川— まさにそうです。ありがたいことに、最初のスタートアップをエグジットしているので、金銭的にはそれほど困っていない。であれば後進のために何ができるかを考えるのは自然なことでした。その思いでスマートラウンドもやっているんです。smartroundはルールの中で最適にオペレーションするためのサービスですが、ルール自体がよくない場合はどうにもならない。だったらルールも直していこう、という発想です。 ◆ 協会のミッションは「政策提言」— 唯一無二の活動と、その意味 —杉原— 協会のHPの活動内容や各種ワーキンググループの活動、外部連携の活動を拝見すると、本当に幅広い方面で検討会やイベントに参加したり、レポートを発信されたりしていますね。最も注力されている活動はどのあたりになりますか? —砂川— 注力しているのは政策提言で、もうこれは唯一無二です。他のことはどちらかというと付随するような形です。正直、政策提言が全てだと思っています。我々のミッションは「スタートアップの互助により日本を『スタートアップのための世界最高の環境』に進化させる」こと。そして、世界で一番スタートアップに優しいエコシステムを作ることを目指してやっていますので、やはりルールを変えていかなければいけないんです。 —杉原— スタートアップのための政策を作った時に、投資家は賛同してくれるんですか? —砂川— 当然賛同してくれます。理由は明確です。多くのスタートアップが生まれ、成功するスタートアップが出てきて初めて、VCはそのアップサイドを取れるわけです。日本のスタートアップの数が減り、成長軌道に乗れなければ、VCは産業として成立しない。なので、そこはもう明確に利害が一致します。 —杉原— 一方で、意図してのことではないと思いますが、大企業中心の日本社会を変えようというニュアンスもあるんですか? —砂川— 大企業には大企業の役割があると思っています。僕も三菱商事にいましたが、今でも大好きですし、例えばインフラを作るとか、エネルギー施策をやるとか、レアアースを発掘しに行くとか、大企業だからこそできることがありますよね。だからそれは役割分担です。 ただ、イノベーションを起こして種を0から1で作っていくのはスタートアップの方が得意です。例えばAIを大企業が全ての新技術を同時並行で導入し、社内情報を全部放り込めるかといったら、セキュリティ上絶対にできない。スタートアップはできる。機動力が違うんです。 ◆正会員はスタートアップ経営者のみ — 強みと「PTA的な難しさ」 —杉原— 砂川さんご自身もスマートラウンドの創業社長としてスタートアップを経営されていますが、他の理事の方々も皆さんスタートアップの創業社長の方々ですよね。起業家が運営する支援団体の強みと、逆に課題や難しさがあれば教えてください。 —砂川— 弱みも強みも、スタートアップだけが運営しているというところに集約されます。我々は正会員を全員スタートアップ経営者に限定しています。それ以外の方は入れないようになっています。 —杉原— スタートアップの定義はどのようにされているんですか? —砂川— 難しい問いですよね。明確な定義は世の中にはないので、急成長を目指している会社で、それを満たしているかを1社1社審査してやっています。例えば、受託開発をずっとやってきたが新しく自社プロダクトを作って急成長した会社も、スタートアップですし、できたばかりでプロダクトもないけど目指しているところは上場、という会社もスタートアップです。 —杉原— スタートアップだけで率先している団体であるというところが特徴であり強みであり、課題でもある。その課題というのは? —砂川— まさにそこです。それぞれに本業があるので、この活動に割ける時間やパッションには濃淡があります。イメージとしてはPTAみたい、とよく言うんですよ。皆さん経営者ですから上下関係もなくて、意思決定もすごく難しい。事業ドメインも皆さんバラバラで、経営者の皆さんですのでしっかりとした意見を持っていますが、興味の範囲は違うことも多い。 誤解していただきたくないのは、我々は25,000社のスタートアップを代表している団体だとは思っていないんです。そんなことは無理ですし、そもそも全く興味がない人たちを代表する必要もない。ルールメーキングやスタートアップ全体のエコシステムを良くしたいと思って参加いただいている方々の中で、どう意見を調整していくかという話だと思っています。 また、団体の中に自社の競合がいたらどうするんだという話もありますが、経団連だってみんな競合しているわけで、同じ話です。ただ、うちの場合は全体のエコシステムを底上げするということだけに集中しているので、特定の一社だけが利するという話ではなく、全体のためになることをメインに政策提言しています。 —杉原— 同じ業界内の団体であれば同じ方向を向きやすいけれど、スタートアップ協会はそうではないですね。 —砂川— そうですね。業種はそれぞれ違うけど、スタートアップという立場の企業がちゃんと浮かばれるような政策を作ろうという意味ではまとまれる。業種・業態に特化した議論はしていないので、そういうことをやりたい場合は、例えばフィンテック協会やシェアリングエコノミー協会など、関連する他の団体と連名でやるという形を取ります。我々が主体的に動くのではなく、彼らが動いているものに協力する。そうじゃないと物事って動かないんですよね。 ◆「よくある間違い」を繰り返させないために — オフレコ会という仕組み —杉原— 協会の設立趣意書には「連続起業家でもない限りスタートアップ経営者は、『よくある間違い』を知らないまま、先輩経営者と同じミスを繰り返してしまうのです」とあります。こうした同じミスの繰り返しを防ぐための活動にはどのようなものがありますか? —砂川— 本当に多岐にわたりますが、私が一番詳しいところで言えば、資本政策の話ですね。例えば「500万出すから会社の株式50%をください」といった要求に応じてしまうと、次のファイナンスができなくなってしまうんです。でも何も知らなければ「500万もくれるんだから当たり前じゃないですか」と思ってしまいますよね。全く違うんですが。 また先人が得てきた知見がフィードバックされていかないという問題もあります。スタートアップ協会の難しさとして、会員がみな「卒業」していくんですよ。上場したりM&Aされたりすると、もうスタートアップじゃなくなる。緩やかな枠で集まっているだけなので、お互いのために何かしようという意識があまり強くない人も多い。むしろ出し抜いてやろうというくらいのマインドの世界ですから、結束が弱くなりがちです。それを逆回転させていくのが我々の目指しているところです。 そういう観点で、あまり外には出ていませんが、会員内でやっていてとても人気なのが「オフレコ会」です。表の舞台では絶対に言えないようなことが、スタートアップには色々と起こるじゃないですか。致命的なトラブルも。それをみんなに共有することで同じ失敗を避けられるようにしています。また「この投資家はちょっとやばい」という情報を実名で共有するようなことも。 —杉原— これはいいですね。経営者は孤独だとよく言いますから。同じ立場の仲間と情報共有できる場が、この組織に入ることで生まれる。ちなみに会費はあるんですか? —砂川— 毎月1,000円です。 —杉原— めちゃくちゃ安い!驚きました! —砂川— ぶっちゃけ赤字ですよ(笑)。学生の部活かよってくらいのレベルです。 ◆「恩送り」がエコシステムを変える — ニューヨーク変革の事例から —杉原— 本当は誰かに勝つのではなくて、みんなが成功したっていいわけですからね。起業した人たちが1,000人いたら1,000人成功したっていい。でも知見をシェアしようという気がない人が多いと、それぞれ粒で終わってしまうと。 —砂川— すごくいい例があります。かつてIT不毛の地だったニューヨークは、ネット広告会社「DoubleClick」を成功させ、MongoDBなど有力企業を次々と立ち上げたケビン・ライアン氏という一人の起業家の存在によって、シリコンバレーに次ぐ世界第2位のスタートアップ都市へと変貌を遂げました。この一人の偉大な起業家が起点となり、メンターシップやエンジェル投資、優秀な人材の輩出を地域に循環させていく「恩送り」の仕組みがニューヨークをスタートアップ都市へと育てたんです。 何が言いたいかというと、そういう人さえいれば変わっていく可能性がある。日本でもみんなでシリコンバレーを作りましょうと言っている人たちがいっぱいいるわりには、誰も協力し合っていないので何も起こらない。そういう「ドライブをかける」という部分がやはり大事なんじゃないかと思っています。 —杉原— アメリカ側のVCファンドのリーダーって、みんな元々は連続起業家ですもんね。 —砂川— そうですね。日本の場合、金融の会社からそのままVCになってきた人が結構多くて、自分ではスタートアップをしていないよという人が多い。さらに言うと、起業家もずっと辞めずに上場後もずっと社長で居続けるんですよね。批判しているわけではないですが、実態としてそうなっている。アメリカの場合、例えばAOL創業者のスティーブ・ケースもそうでしたが、「教える側」「投資する側」として戻ってくるという世界観がエコシステムを生み出しています。 ~Part2へ続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   次回・Part2では、 ・レピュテーションを積み上げる——政府に「代表性」を認めてもらうための信用構築 ・ストックオプション改革——「紙切れ」を「リターン」に変えた政策提言 ・Googleに3日目で「3年で辞める」と宣言した連続起業家の本音 などについてお伺いしています。Part2もぜひご覧ください!
  • INTERVIEW
2026.07.02
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