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坪効率とは?「場所の最適化」が営業利益を最大化する

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2026.01.15

ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。

今回は、「リアルビジネス」である店舗経営に必須の、店舗の効率性や収益性を測る上で非常に重要なポイントとなる「坪効率」について解説してまいります。

「坪効率」は一坪当たりの売上高のことで、業態や業種により異なります。来店頻度の高い食品スーパーや高単価商材を扱う百貨店や家電量販店が一般的に一坪当り売上高の高い坪効率の良い業態とされています。今回は同業態かつ同立地での会社比較を行うことかつ、前々回「在庫回転率」、前回「一人当たり売上高」の話をしましたので、話に継続性がでる家電量販店に再度スポットをあて「坪効率」を解説していきたいと思います。

1.店舗経営の3種の神器とも言える指標の1つ

前々回は「在庫回転率」を、前回は「一人当たり売上高」を例にとりました。「在庫回転率」はその名の通り在庫で、主にCFやBSに効いてくるもので、「一人当たり売上高」は主に人件費に絡むもので、PLに効いてくる指標であることは解説しましたが、今回取り上げる「坪効率」は主に家賃に絡み、人件費同様PLに効いてくる指標です。

今回の「坪効率」で店舗経営の3種の神器とも言える指標である、在庫、人件費、家賃の3つが出そろいます。前々回の「在庫回転率」や前回の「一人当たり売上高」をまだお読みでない方は、この機会にぜひご一読いただけると幸いです。ではなぜ「坪効率」が重要か、以下順をおってご説明いたします。

2.坪効率とは

まず、坪効率とは、一坪当りの売上高を指し店舗の生産性を示す指標で、坪効率が高いほど良いとされます。一般的には年間の売上高を売り場面積(坪単位)で割った計算式より算出されます。

例えば
年間500億円の売上高の店舗で売り場面積が4,000坪であれば、坪効率は1,250万円
年間15億円の売上高の店舗で売り場面積が1,000坪であれば、坪効率は150万円
年間4億円の売上高の店舗で売り場面積が80坪であれば、坪効率は500万円
年間2.5億円の売上高の店舗で売り場面積が50坪であれば、坪効率は500万円
となります。

坪効率は業態や業種により平均が大きく異なり、業界平均もあまり公表されておりません。郊外型の家電量販店で150万円程度、ホームセンターで50万円程度、コンビニで500万円程度、ドラックストアで400万円程度が平均とされております。扱い商品の購入頻度、単価、大きさといった商品特性と、都市型か郊外型といった立地により主に変わってきます。

立地に関しては、立地の違いは家賃に違いがでるため、例えば都市型と郊外型の比較では、郊外型の坪効率は悪いけど都市型に比べ家賃が極端に安いという状況が起こりうるので、単純に坪効率だけで効率比較ができないという点を考慮する必要があります。

3.なぜ坪効率が重要か?

では坪効率がなぜ重要か、以下の例を元に解説してみたいと思います。

上記での解説通り、都心型、郊外型等の出店場所と扱い商品が違う会社同士は比較しても家賃と単価が異なり有効な比較対象とならないため、の前回の「1人当り売上高」の時と同様に、同じ商品を販売していて、同じ都市型に立地している家電販売店をモデルケースに解説していきたいと思います。(モデルケースの会社は架空の会社ですが、実際の会社がベースとなっております)

モデルケース

【家電量販店B社】
店舗数24店、売り場面積75,000坪、坪効率10,093千円、売上高7,500億円、経常利益500億円、経常利益率6.7%

【家電販売店C社】
店舗数45店、売り場面積74,000坪、坪効率6,002千円、売上高4,400億円、経常利益40億円、経常利益率0.9%

今回モデルケースとして採用したB社は前回の「1人当たり売上高」で取り上げたB社と同じ会社です。C社は前回の「1人当たり売上高」で取り上げたC社と同じ会社ですが、C社は沢山の屋号をもつグループ経営の会社ですので、今回は都市型店舗の屋号だけを切り抜いて取り上げました。各種数字は坪効率の年度のものに合わせたことと、売り場面積は坪効率と売上から逆算して算出しています。B社とC社はライバル会社として知られる会社で、どちらも都市型に出店しており、新宿等の大都市では隣接して出店している会社です。

今回見比べていただきたいポイントは売り場面積坪効率です。

B社は7,500億円程度の売上を作る為に売り場面積を75,000坪使用し、C社は4,400億円程度の売上を作る為に売り場面積を74,000坪使用しています。坪効率に換算するとB社は10,093千円、C社は6,002千円です。両社とも非常に高い坪効率を誇る会社ですが、B社とC社の売り場面積はほぼ同じ75,000坪程度ですので、B社とC社の坪効率の差額4,091千円を売り場面積75,000坪に換算すると、3,000億円以上の差がでます。

この差が売り上げの差であり、売上総利益率を家電量販店の平均的な数字30%として両社とも計算すると、売上総利益では900億円近い差が出ます。家賃に相当する金額に換算することは非常に困難でここでは行いませんが、どちらも都市型店舗で同じような場所に出店しているため、仮に同じ額の家賃がかかっていいたとすると、この売上総利益の差がそのまま利益の差につながります。B社とC社の経常利益の差が460億円、経常利益率で5.8%の差がありますが、この差の大きな要因の一つが坪効率であることは明確かと思います。

前回の「1人当たり売上高」の時もお話ししましたが、多少の違いはあれども同じ商品を扱っている家電販売店業界ではB社、C社以外をみても売上総利益率は大体30%程度で、どの会社も同じような水準です。業界問わず、同じ商品を扱っている業態で同じような売上規模だと売上総利益率に大きな差は出にくいと思います。

今回のB社、C社の比較の場合で、前述しておりますが、売上総利益率を30%と仮定した坪効率からくる売上総利益で約900億円の差が生じます。同じ商品を扱い、同じような立地に出店し、同じような売り場面積を使用しているにも関わらず、競合他社とこれだけの経営効率の差が出るのは、坪効率以外では「在庫回転率」、「一人当たり売上高」くらいしかでないのではないかと考えます。

今回のモデルケースだけでなく、店舗を構えるビジネスであれば、飲食でもアパレルでも、スーパーでも店舗を構える限り、店舗一坪当たりの売上高(坪効率)から逃げることはできません。同等の立地に出店し競合他社を大きく上回る坪効率を実現することができれば、ビジネスをする上で避けて通れない競合他社との競争において、大きなアドバンテージを持つことに直結していきます。

4.坪効率を上げるポイント

坪効率の重要性はご認識いただけたかと思いますので、坪効率を如何に上げるか?というお話をさせていただきます。坪効率を上げるポイントはいくつかございますので以下に代表例を挙げてみたいと思います。

坪効率を上げるポイント①

購入頻度が高い、又は単価が高い商品を扱うということです。食料品や日用品の様に単価が安くても購入頻度が高いと坪効率は上がりやすく、ブランド品の様に単価が高い商品は、購入頻度が低くても購入頻度の低さをはじき返すだけの購入単価があるので坪効率が上がりやすいです。地域密着型のドラックストアが品揃えとしてドラックより購入頻度が高い食品や日用品の扱いをしているのは、坪効率の観点から考えると当を得た商品展開と言えますし、家電量販店が品揃えを増やし購入頻度が高い消耗品と単価が高いハード品をMIXさせて扱うということも坪効率の観点から考えると当を得た商品展開と言えます。

坪効率を上げるポイント②

扱う商品の大きさとお店全体を無駄にしないということです。要は小型の商品を隙間なく展示することです。ドンキホーテやコンビニ、ドラックストア、都市型家電量販店をみれば一目瞭然で、一部の店には大型商品がありますが、小型商品が中心で隙間なくそれこそ天井までびっしり並べられています。

このような展開は坪効率の観点から考えると当を得た商品展開です。家電量販店がわかりやすいので例にとりますと、現状家電量販店は都市型が○○カメラで郊外型が○○電機という屋号に大きくは分類されるわけですが、なぜこうなったかというと、昔の都市型店舗はどの店舗も非常に小さく、冷蔵庫や洗濯機を置いたら数台で店舗が埋まってしまう店舗でした。結果、都市型店舗はカメラや時計、ポータブル機器、理美容機器、小型のOA機器等が販売の中心になり、郊外型店舗は家賃が安い為、坪効率の悪さを跳ね返せるので冷蔵庫や洗濯機等の大型商品が中心になったことは、坪効率の観点から考えると必然の結果と言えます。

ちなみに昔は都市型で冷蔵庫や洗濯機等の大型商品中心の店がたくさんありました。秋葉原を見ればわかりますが、現状では体力のある大型店に集約され、0ではありませんがほとんど残っていません。これも坪効率の観点から考えると必然の結果と言えます。

坪効率を上げるポイント③

クロスセル、アップセルを行い購入単価を上げることです。クロスセル、アップセルは店舗の努力で大きく変えることができます。スーツを買いに行けば多くの店でスーツにあったワイシャツやネクタイを進められますし、パソコンを買いに行けば多くの店でセレロンの様な安いCPUを搭載した安いモデルではなく、コアiシリーズの様な性能の高いCPUを搭載したモデルを勧められます。

全社がクロスセルで後者がアップセルです。アップセルで購入単価は変えることができ、単価が上がれば坪効率が上がります。また、クロスセルで購入点数を増やすことができ、購入点数が増えれば一人当たりの購入単価が上がり坪効率は上がります。

上記が坪効率を上げるための代表的な例です。もちろん坪効率を上げるためのポイントは他にもございますが、最大のポイントは「在庫回転率」、「一人当たり売上高」と同様に坪効率の重要性の教育が従業員になされており、常に会社と従業員が坪効率を高めるための仕入れや、展示、接客に創意工夫をし続ける血の通った経営を在庫や売上点数/売上単価の可視化がきるテクノロジーを使い実現させることだと思います。

結果的には、経営効率を飛躍させる坪効率の向上も、ヒト × テクノロジー × 経営戦略の掛け算の上に成り立つということになると思います。

5.まとめ

今回は、坪効率のお話をさせていただきました。店舗ビジネスで場所を使わないビジネスは存在しません。この場所の最適化こそが、坪効率として数値化され営業利益の最大化につながり、同じような場所に出店する競合他社との大きなアドバンテージポイントになります。

坪効率は、商品の単価、大きさ、購入頻度といった商品特性、品揃えを増やしお店に隙間なく陳列すると品揃えと陳列手法、クロスセル/アップセルに代表される接客技術で大きく変えることができます。つまりは、扱い商品のコンセプトを決める会社と仕入れ、陳列、接客を具体的に行う従業員が常に生産性を高めるための創意工夫をし続けることが坪効率を上げるポイントになるということです。

今回の坪効率で、店舗経営の3種の神器とも言える指標である、在庫、人件費、家賃の3つが出そろいました。前々回の「在庫回転率」前回の「一人当たり売上高」から一連の流れとしてご一読いただきますと店舗経営ポイントがより見えてくると思います。

ディ・ポップスグループとして、「在庫回転率」「一人当たり売上高」「坪効率」の3部作を通じお伝えしたいことは、ビジネスはヒトにより成り立っているということです。商品を購入いただくお客様もヒトであり、経営戦略を考えるもの、テクノロジーを使うのもすべてはヒトであります。

AIをはじめとするテクノロジーを使いこなさなければ、ビジネス上で競争に勝ち生き残ることはできないと思いますが、テクノロジーだけでも生き残ることはできないと思います。テクノロジーが良いから、経営戦略が良いから、ビジネスが成功するのではなく、ヒト × テクノロジー × 経営戦略の掛け算が大切であるとディ・ポップスグループは考えます。

この考えの元、ディ・ポップスグループはヒトが輝くために、また社会課題解決のためにベンチャー企業に対して、出資を通じた支援と効率という数字だけではない価値を通じたベンチャーエコシステムの実現を目指しています。

これからもご支援、応援の程よろしくお願いします。

D-POPS GROUP 常務執行役員 渡辺哲也

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不採算事業から撤退できず赤字を拡大してしまったり、潜在的な問題を抱えたまま新規事業のスタートや新商品のリリースをしてしまったり、組織の価値観に合わない人材を採用し、後に大きな軋轢を生んでしまったりと、取り返しのつかない経営判断につながることがあります。 このようなことにならないよう、重要な決断をする際には、自分たちがサンクコストの罠にはまっていないかどうかを、経営者は特に意識し、冷静に判断をすることが求められます。 諦めてはいけない時に諦めないこと。そして、諦めるべき時には、それまで費やした時間やお金、努力に囚われず、潔く撤退すること。その両方ができてこそ、本当の意味で「不撓不屈の精神と、慎重な判断力を併せ持つ」ことになるのだと思います。 ———————— 以上、【百名山から学ぶベンチャー経営論】の第五部でした。 この挑戦も一年が過ぎました。タイトルは「百名山から学ぶ」としていますが、実は裏を返せば、私の想いとしては、「これまでのベンチャー経営の経験を登山にも適用して取り組めば、登山の素人でも短期間で百名山を踏破できる、ということを証明してみよう」というものでした。これまでのところ、大いにその経験が活かされていると思います。 次回は、「失敗から学び、成長を続ける」 をテーマに、場数を踏み、鍛錬を積み、一つ一つ学びながら、自らの成長を続けることについて考えてみたいと思います。 なお、シリーズのこれまでの記事をまだお読みでない方は、こちら↓をぜひお読みください。 第一部「頂を決め、準備する」第二部「計画は綿密に、実行は地道に」第三部「戦略・戦術・戦闘」第四部「アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませ」 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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2026.09.17
【The Salons Japan】美容師の新しいカタチの独立開業支援サービス『THE SALONS』の心斎橋店・梅田茶屋町店を訪問!
2026年7月30日に資本業務提携企業のThe Salons Japan株式会社が運営する完全個室美容モール『THE SALONS』の心斎橋店と梅田茶屋町店にお邪魔してきました! 『THE SALONS』とは? 『THE SALONS』は、美容師やビューティシャンが月額賃料のみで自分だけの完全個室サロンをオープンできる、全く新しいカタチの独立開業支援サービス(モール型サロン)です。大きな特徴として、以下のポイントが挙げられます。 ・   低リスクで“自分のサロン”を持てる:初期費用0円から開業可能であり、資金に縛られず自身のタイミングで独立の夢を叶えることができます。 ・   あなたらしいサロンを叶える:内装から働き方まで全て自由となっており、美容室をはじめ、エステやネイルなど幅広い業種に対応しています。 ・   充実の設備と独立を支えるサポート体制:各区画にはフルフラットバックシャンプー台やシンク、照明、Wi-Fiが完備されており、光熱費や月300枚までのレンタルタオルも料金に含まれています。また、融資相談から将来の路面店出店までトータルで支援する体制が整っています。 一般的な半個室のシェアサロン(利用者契約)とは異なり、完全個室の独立店舗として「店舗出店契約」を結ぶため、1人のサロンオーナーとしての社会的信用が得られるのも大きな魅力となっています。 【THE SALONS 心斎橋店】 THE SALONS心斎橋店は、四ツ橋駅から徒歩1分、心斎橋駅から徒歩4分ととても通いやすい場所にあります。心斎橋駅からはクリスタ長堀の地下街を通って、北12番出口を出るとすぐの場所にあります。地下街にはいろいろなお店が並んでいるので、予約の時間まで少し余裕があるときでも楽しく過ごせそうだなと思いました! 訪れたのは平日だったこともあり、お休みの店舗も多く見られましたが、7月末時点で満室となっていました! 完全個室の独立型サロンで、美容師さんお一人で営業されている店舗も多いからか、お子様連れのお客様の姿もちらほら見かけました。気心の知れた美容師さんのもとであれば、安心してお子さんを連れて行けますよね。これもTHE SALONSならではの魅力だなと感じました。 【THE SALONS 梅田茶屋町店】 THE SALONS梅田茶屋町店は、大阪梅田駅から徒歩2分ととても通いやすい場所にあります! カラーやパーマは施術時間が長くなりがちで、待っている間についお腹が空いてしまうこともありますよね。そんなときに同じビル内にバーガーキングがあるのは心強いポイント。施術帰りはもちろん、待ち時間にサッと小腹を満たせるのも嬉しいところです。 梅田茶屋町店は、個室の広さや窓の角度などが部屋ごとに違っていて、同じ店舗の中でもサロンごとの雰囲気がまったく異なっているのが印象的でした。個室の形がそれぞれ違うからこそ、光の入り方や開放感など、自分にとってぴったりの空間を探すことができます! THE SALONSの各店舗には、あらかじめシンクとシャンプー台が備え付けられています。それ以外の家具などは自分の好みで自由に選べるので、水道まわりの心配をせずに、自分らしい店舗づくりが楽しめるのは嬉しいポイントだなと思いました。 今回心斎橋店と梅田茶屋町店を紹介してくださった、The Salons Japanの秋山さんには、店舗について詳しく教えて頂きました。ありがとうございました! 同社の取締役も務める、ディ・ポップスグループのアドバイザーの杉原と共に写真を撮らせていただきました。 ディ・ポップスグループは、「リアルビジネス × テクノロジー × グループシナジー」を掛け合わせた事業展開をしている会社の集合体で、100年後も社会から必要とされ続けるベンチャーエコシステムの実現を目指しています。 The Salons Japanもベンチャーエコシステムの仲間として精一杯応援してまいります。 ディ・ポップスグループ ブランド戦略室 川口
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2026.09.09
【百名山から学ぶベンチャー経営論】 第四部「アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませ」
ディ・ポップスグループは、「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャー(ユニコーン企業)を輩出する」というミッションを掲げ、「誠実・謙虚・感謝の心で、共に学び、共に成長する」をバリューとしています。 アドバイザーを務める杉原は、昨夏「ユニコーンTシャツを着て日本百名山100座を踏破する」という目標を掲げて以来、全国の山々を登り続け、執筆時点で53座まで登りました。本連載では、その挑戦の中で経験した成功や失敗、判断や学びを、ベンチャー経営や組織運営になぞらえながら考察しています。 山では、計画や装備が万全でも事故は起こります。その多くは、変化の兆候を見逃し、判断が遅れた時に起こります。第四部では、ベンチャー企業経営にも通じる、外部と内部の変化を察知し、適切な判断につなげることの重要性について考えてみます。 10. アンテナを張り巡らせよ ~外部環境の変化に敏感になれ~ バスケットボールや卓球などの屋内スポーツと登山の決定的な違いは、天候の影響を大きく受けること、そして自然が相手だということです。 登山の計画段階で、台風はもちろんのこと、暴風や雷の予報があれば登山を延期すべきことは明白です。しかし、予報段階をクリアして、いざ実行段階に入ってからも、山の天候は変わりやすく油断はできません。また、森深い山では最近特に話題の熊のみならず、猪や蜂やヒルなどに遭遇することもあります。岩山では突然の落石に見舞われることもあります。 それらに適切に対処することはもちろんですが、できるだけ事前に察知できることが理想です。 肌で感じる気温の急激な変化、ザワザワという笹の音、怪しい木の動き、小石が上から転がってくる音…。これらはその後の大きな危機が襲いかかる前兆かもしれません。 私自身も、晴れ予報の日の登山だったにも関わらず、突如としてガスが湧いて視界が真っ白になったために、道を誤り30分ほど道なき道を歩いてしまったことがあります。あの時は、視界が悪くなった段階で早めにGPSで現在地を確認すべきだったと反省しました。 また、笹の濃い山道を歩いている時、突然、笹がざわざわと揺れました。「ついに熊か」と身構え、一度立ち止まり、万が一熊だった場合にどう対処するかを頭の中で整理しました。結局、茂みから現れたのは大きな鹿でしたが、あの時も外部の小さな変化を見逃さないことの大切さを実感しました。 (左:ガスで視界不良となった岩道、中:後を付けられた猿、右:突如現れた鹿) このように、登山中は常に外部にアンテナを張り巡らせ続けなければならないのです。このアンテナの感度を高く保ち、そこで捉えた変化を素直に受け止め、適切に判断できるかどうか。それが、登山中の事故を未然に防げるかどうかを左右するのです。 このことは、ベンチャー経営にも例えられます。屋内スポーツをビジネススクールで学ぶ座学に例えるとすると、外部環境の影響を受ける屋外スポーツは実際の事業運営に、そして自然環境に左右される登山はベンチャー企業の経営に、より近いものだと思います。 企業が受ける外部環境、すなわち市況の変化、新技術の登場、法律の改正などからの影響は計り知れません。あらゆる企業は、外部環境の変化の中で事業を営んでいると言っても過言ではありません。顧客の反応が少し鈍くなった、利用率が減少に転じた、営業現場から同じ質問が増えてきた。こうした小さな変化は、大きな市場変化よりも早く現れることがあります。大企業でも影響を受けるくらいですので、ましてやベンチャー企業にとっては、存続が危ぶまれるほどの激しい変化もあるのです。最近では、AIエージェントの急速な普及、グローバルプラットフォーマーの勢力拡大、少子化、金利上昇による投資家の投資方針の変化などが挙げられます。 ベンチャーの経営チームは、これらの変化を敏感に察知すると共に、先手先手で戦略や計画を練り直し、適切に対処する。場合によっては、ピンチをチャンスに変えるほどの大胆な一手を打つ。その覚悟と行動力が求められるのです。 危機は、突然現れるように見えて、その多くは小さなサインを出しています。そのサインに気付けるかどうかが、登山でも経営でも、生き残る者とそうでない者を分けるのです。 11. センサーを研ぎ澄ませよ ~内部環境の変化に気が付け~ 外部環境の変化に目を向けることと同じくらい重要なのが、内部環境の変化に気付くことです。 登山における内部環境とは、ソロ登山であれば自分自身の、グループで登る場合には自分だけでなく、メンバー一人ひとりの調子やバイオデータの変化を指します。登山中は、自分の体が発するさまざまな情報を受け取るセンサーを持つ必要があります。 バイオデータの取得に関しては、最近、登山用アプリやスマートウォッチなどで、歩行ペースを確認したり、歩きながら心拍数を確認したり、休憩中に血中酸素濃度を測定したりできるようになりました。また、そういったデバイスでは測れない、膝や足腰の関節の調子、筋肉の疲労度、発汗量などの変化にも敏感である必要があります。 デジタル機器では測れない変化こそ、自分自身の感覚で捉えなければなりません。 私の場合、登山を始めたばかりで膝が今よりも弱かった頃は、山を登っている間に、「この調子で登り続けたら、下山できなくなる」と感じた日は、途中で勇気を持って下山に切り替えたことがあります。あのまま登り続けて、下山できなくなるよりも、はるかに正しい判断だったと思います。 (左:通常の登山中、中:異常な心拍数、右:2700m下での血中酸素濃度) 一方、ベンチャー経営においては、社長の体調を整えることはもちろん重要ですが、会社の内部環境の微妙な変化を察知することも重要です。 何気ない会話や挨拶が減った、オフィス内の整理整頓が乱れ始めた、ボトムアップで情報が上がってこなくなった、無断欠勤者や理由が不明確な退職者が増えてきた…。これらはいずれも会社が傾く前の予兆です。 経営者は、ビジネスのセンスだけでなく、こういった内部環境の変化に敏感に気付けるセンサーも持ち合わせていなければなりません。 そのセンサーが鈍いと、社長自身はエネルギーにあふれ、やる気に満ち、前を向いて邁進しているにもかかわらず、ふと立ち止まると、メンバーは誰一人ついてきていなかったとか、皆疲弊してパフォーマンスを発揮できなくなっていた、ということが起きがちです。 リーダーは前を見るだけでなく、社内全体を見渡し、小さな異変を見逃さない余裕を持たなければなりません。組織は突然崩れるのではなく、小さなほころびが積み重なった結果として崩れていくからです。 12. 重要な局面では特に冷静になれ ~状況を見極め、最善の一手を打て~ さて、張り巡らせたアンテナから情報を受け取り、研ぎ澄ませたセンサーが危険な信号を捉えたら、その時、どう対処すればよいのでしょうか。 登山においても経営においても、特に悪い情報、危険な信号を検知した時ほど、冷静になることが大事です。登山では、濃霧の中での道間違い、突然の土砂降り、岩場での捻挫や打撲、疲労による筋肉の痙攣など、さまざまな外部環境・内部環境の変化から生じる危機に直面します。 ベンチャー経営においても、AIの普及による顧客ニーズの劇的な変化、競合企業同士の合併発表、関連法規の変更、経営幹部の突然の退職、顧客情報の漏洩事故など、同じく様々な危険信号を受信します。 そんな時こそ、決してパニックに陥らず、冷静さを保ち、慎重かつ適切に判断し、その判断に基づいて迅速に行動することが求められます。パニックになり右往左往すれば、間違った方向にさらに進んだり、無駄な体力を消耗したり、怪我を悪化させたりすることにもなりかねません。 事が起きたら、まず一旦落ち着いて情報を集め、状況を把握し、分析する。次に、最悪の事態を想定しながら、それでも生き残る方法、登山であれば無事に下山する方法を考える。 そして、取るべき行動を決めたら、迅速に実行する。熟考は必要です。しかし、決めた後まで迷い続けていては、対応が遅れます。 私自身も、月山で雪渓を下山中に滑落したことがあります。その瞬間は頭が真っ白になりました。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、這って安定した場所まで移動し、靴下を脱いで患部をチェックしました。パニックになって慌てて歩き出すのではなく、まず体の状態を確認し、山頂を目指すべきではないと冷静に判断し、しっかりと休みを取ってから下山を開始しました。 また久住山では、登頂に成功した後の下山中ということで疲労が溜まっていたとに加え、ガスによる視界不良、そして晴れていても間違えやすいという藪道が重なって、数度の道間違いを起こしました。いずれも立ち止まって現在位置を確認し、間違えたポイントまで引き返す、という鉄則を守ったことで事なきを得ました。 いずれも、焦って無理な行動を取っていたら、状態をさらに悪化させていたかもしれません。 (二度も道に迷った久住山の藪の道) これらは登山でもベンチャー経営でも同じです。重要な岐路を迎えた時、危険を察知した時ほど、冷静に対処し、最善のアクションを考え、行動に移すことが求められるのです。 日本百名山には様々なタイプの山があり、それぞれに様々な危険が潜んでいます。そしてその自然環境は季節により、日により変化するし、自分の体調も日々変わります。ベンチャー経営の現場においても、市場も、競合も、顧客も、そして社内のメンバーも日々変化しています。 アンテナを張り巡らせる。センサーを研ぎ澄ます。危険を察知した時ほど、慌てず冷静に状況を見極める。熟考した上で取るべき行動を決めたら、迅速に最善の一手を打つ。 これらの習慣が、ベンチャー企業が生き残り、飛躍的な成長を遂げるための土台となるのです。 ———————— 以上、【百名山から学ぶベンチャー経営】の第四部でした。 この挑戦も一年が過ぎました。当初は恐る恐る始めた本格的な登山ですが、今や全ての行程や景色を楽しめる余裕が出てきました。と同時に、挑戦する山も徐々に険しくなり、怪我や事故のリスクが高まってきました。 アンテナを張り、センサーを研ぎ澄ませて細心の注意を払いながら、諦めない心で、一座一座挑戦しながら、この連載を続けていきたいと思います。 次回は「不撓不屈と慎重さの両立」 をテーマに、「もう無理」と「あと一歩」が紙一重であること、大胆さと慎重さの両立、恐怖心を乗り越えることなどについて考えてみたいと思います。 D-POPS GROUP アドバイザー 杉原眼太
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