COLUMN

渋谷を起点に、世界と日本をつなぐエコシステムを実現する!シブヤスタートアップス株式会社 会長 渡部志保さん【後編】

  • INTERVIEW
2026.01.27

今回は、ベンチャーエコシステムサミット2025にご登壇いただいた、シブヤスタートアップス株式会社 会長の渡部さんにインタビューさせて頂きました。
(このインタビューは2025年11月に実施いたしました。)

前編の記事は、こちらからご確認ください。

◆スタートアップ支援を選んだ理由

-杉原-
さて、ここからは少し時計の針を戻してお話を伺いたいと思います。モルガン・スタンレーでのアナリストからキャリアをスタートされ、Google、さらにはメルカリやELSA Speakといった最前線のスタートアップで華々しい経歴を積んでこられました。そんな渡部さんが、なぜ今スタートアップ支援という道を選ばれたのでしょうか。

-渡部-
正直なところ、一番は「ご縁」に導かれたというのがありますが、自分なりに振り返ると二つの理由があるように思います。

一つは、私を育ててくれた「渋谷」という街への恩返しです。外資系企業やスタートアップで経験を積み、改めて自分の原点を見つめたとき、ホームカミングのような感覚で、この街に何かを還元したいという思いが自然と湧いてきました。

もう一つは、私の人生のキーワードでもある「逆張り」の精神です。 シリコンバレーなどの王道キャリアであれば、ユニコーン企業で働くか、あるいは自ら起業し、後に投資家になる……といった道が一般的かもしれません。でも私は意図せずに「主流ではない道」を選ぶ事が多かった気がします。今回も例外ではないかもしれません。

例えば、リーマンショック前(2008年)の時代に、モルガン・スタンレー投資銀行部から第二新卒としてGoogleへ転職したときも、日本におけるテック業界の認知度も投資銀行ほど確立されておりませんでした。実はもう一つの選択肢として、学生時代に学び夢でもあったジャーナリズムを活かせる「外資系テレビ局の経済レポーター」というオファーもあったんです。私はGoogleを選びました。考え抜いた決断というよりかは予感かもしれません。未知の業界に飛び込むことは一見難しそうですが、ワクワク感もあると思います。Googleでは、面接をしてくださった方々が楽しそうに仕事をされていた事も印象的でした。

「10人中9人が選ばない道」を選んでみる。リスクも大きそうですが、そうすれば、多くの気づきがあると思いますし、予想もしなかった新しいステージにキャリアを導けるかもしれない。自分のスキルが職場でお役に立つというのは大前提ですが、今回のスタートアップ支援という選択も、そんな私の「逆張り人生」の延長線上にあるものなのかもしれません。

◆渋谷の魅力

-杉原-
ありがとうございます。
「渋谷」という街の話が出ましたが、シブヤスタートアップスを率いる渡部さんから見て、渋谷にはどのような魅力があると感じていらっしゃいますか?

-渡部-
「ボヘミアン指数」という指標を用いると分かりやすいかもしれません。社会学者のリチャード・フロリダが提唱したもので、人口あたりの芸術家やクリエイターの割合を示す指標です。この指数が高い街ほど、多様性や寛容性に富み、結果として経済発展やイノベーションが起きやすいと言われています。まさに渋谷は、このボヘミアン指数が極めて高い、変化に対してオープンな街。そこが最大の魅力ですね。

◆日本の魅力や課題

-杉原-
確かに、日本で最もその指数が高いのは渋谷でしょうね。 世界を渡り歩いてこられた渡部さんから見て、日本の魅力や、逆に課題だと感じる部分はどこにありますか。

-渡部-
魅力については、日本人である私からは逆に見えにくいものですが、食の豊かさや治安の良さ、ものづくりやおもてなしといった「当たり前の質の高さ」は、一歩海外へ出るといかに稀有なことかが分かります。

一方で課題というより特徴に近いのですが、日本のビジネスシーンでは「ステークホルダーへの配慮」を非常に重視しますよね。独自の「察する文化」は美徳でもありますが、意思決定のスピードという面では弱点にもなり得ます。 例えば、国家主導でスピーディーに動く中国や、自由と利益を追求するリバタリアニズムのアメリカ、規制は多いが官民の役割が明確な欧州。日本はそのどれとも違い、時には同調圧力や暗黙の了解にたよる時も多く、チーム内の全員がシンクロしながらしなやかに、かつ慎重に、物事を進めている印象があります。いい面もあるものの、「よそ者」が組織に入ってきた時に、そのようなシステムやルールは簡単に壊れてしまいます。

また、日本人が「これは仕方ない」「こういうものだ」と諦めていることの中に、実は膨大なビジネスチャンスが眠ってるかも。例えば、日本独特の「中抜き構造」や「過剰な書類・承認プロセス、アナログ前提の業務フロー」による不当な高コストや低い効率性を是正するだけでも、それは立派な事業になります。「よそ者」の視点が入ることで、日本の当たり前を疑い、新しい価値を生み出せるはずです。

-杉原-
日本独特の合議制は、全員が納得するまで時間をかける分、決定後の後戻りが少ないという長所もありますが、今の時代、変化への対応が遅れるという弊害も目立ちますね。この「見えない壁」は参入障壁として機能してきた反面、日本人がグローバルで通用しにくくなっている要因かもしれません。

-渡部-
そうですね。ただ、その壁の内側で育まれてきた独自文化やクリエイティビティ、そして安全性は、世界に誇れる日本の「文化」そのものです。

もう一つ、アメリカに住んでいて痛感するのは、日本の社会保障の充実ぶりです。起業を志したとき、日本では「保険はどうするの?」という心配をせずに済みます。これは挑戦する上での強烈なアドバンテージです。

-杉原-
確かに! 私がGoogleに入社した直後、米国で研修を受けた際、最初のセッションで参加者が一斉に質問したのは「保険はあるか?」でした。人事が保険の充実をアピールする姿を見て、日本での当たり前が世界では特権なのだと驚いた記憶があります。

-渡部-
本当にそうなんです。アメリカでは救急車を呼ぶだけで数十万単位かかる事もあるし、治療費はさらに別という世界ですから。失敗してもセーフティーネットがある。だからこそ、私は「日本で起業したらいい」と、自信を持って言いたいですね。

◆日本の成長市場について

-杉原-
未来の展望についてもお伺いさせてください。起業や新規事業という視点で見たとき、これからの日本において、特に有望だと考えられる成長市場はどの分野でしょうか?

-渡部-
それは間違いなく超高齢化・少子化に紐づく領域です。 介護そのものはもちろん、その周辺にあるあらゆるビジネスに大きな可能性があります。それが業務効率化のSaaSなのか、ロボティクスなのか、あるいは生成AIなのか。アプローチは様々ですが、この分野のソリューションは今後ますます重要になります。

例えば、私たちが支援している企業の一つに、AIを搭載したゲームで遊ぶだけで認知症の早期発見ができるアプリを開発しているスタートアップがあります。早期発見ができれば、適切な治療によって進行を劇的に遅らせることが可能です。こうした技術は、これから確実に求められます。

日本は世界で最も早く高齢化が進む課題先進国ですが、それは裏を返せば、世界に先駆けて解決策を提示できる市場の最前線にいるということです。 さらに日本は、ディープテックやエッジAI、量子コンピューティングといったハードウェア面での技術蓄積もあります。こうした最先端のハードウェアと、社会課題を解決するソフトウェアが掛け合わさる領域は、非常に強力な成長分野になると確信しています。

-杉原-
心から賛同します。そうしたイノベーションを、シブヤスタートアップスや私たちディ・ポップスグループが協力して支援することで、さらに大きな可能性が広がっていきますね。

ところで、昨今の生成AIの急速な浸透は、ビジネス環境を根本から変えようとしています。「消える職業」や「新たに生まれる職業」、あるいは「人間に問われる能力」など様々な議論がありますが、渡部さんご自身は現状をどう捉えていますか。

-渡部-
私は、テクノロジーは目まぐるしく変化し流行り廃りもありますが、人間の根底にある「文化」というものは、そう簡単には変わらないものだと考えています。

もちろん、AIのポテンシャルは極めて高く、上手に活用すれば効率化が進み、消えていく職業も確実にあるでしょう。ただ、私たちにとって「AIと共存する道を探る」以外に選択肢はないのも事実です。AIは人間には不可能な処理を瞬時に行えますが、それをどう使いこなすかが重要になります。

これからの時代は、教育の現場も大きく変わるはずです。これまでのように「答えを出す力」を競うのではなく、「AIに対して、いかに精度の高い問い(プロンプト)を投げかけられるか」という、問いを立てる力の方が重要になります。

ただ、世界が明日からガラリと全く別の場所になってしまうかと言えば、私はそうは思いません。人間がそれを許容し、コントロールする意思を持ち続ける限り、テクノロジーが人間を置き去りにして暴走することはないのではないかと考えています。

-杉原-
そのような未来予測や社会環境の変化を踏まえたとき、起業家やシブヤスタートアップスにとっては、どのような影響があるとお考えですか? これは大きなチャンスでしょうか、それともチャレンジでしょうか。

-渡部-
間違いなくチャンスだと捉えています。 現在、私たちが支援している企業の7割以上がAIを活用した企業になっていますが、これは特別なことではなくなりつつあります。かつて、あらゆるスタートアップがインターネットを活用することを前提としたように、これからはAIを使いこなすことがごく当たり前の風景になっていくでしょう。

ここで重要なのは、AIはあくまで目的ではなく手段だということです。 例えばUberは、本質的には「配車サービス」の会社であって、テクノロジーはそのためのインフラに過ぎません。最高の効率でサービスを回すために、テクノロジーを徹底的に活用しているに過ぎないのです。

これからのスタートアップも同じです。「AIの会社」と名乗らなくても、自社のミッションを最高効率で達成するために、当たり前のようにAIを使いこなす。そんな実利を伴った企業が主流になっていくはずですし、そこには無限のビジネスチャンスが広がっていると考えています。

◆シブヤスタートアップスが考える、スタートアップエコシステムとは

-杉原-
それではシブヤスタートアップスが考える、「スタートアップエコシステム」について教えてください。

-渡部-
スタートアップエコシステムは、単にスタートアップが存在するだけでなく、成長した企業が次世代の顧客や支援者となり、そこに投資家も加わって、成長のサイクルがその中で完結する状態だと考えています。

現在、日本には支援するリソースはあるものの、スタートアップの数そして人材自体がまだ不足しているのではないかと考えています。そこで私たちは、海外にいる日本に興味を持つ優秀な人材を招聘し、日本のスタートアップエコシステムがより良くなるような取り組みを試みます。

私たちのコミュニティには、ブロックチェーン「Polygon」の共同創業者の創業したスタートアップや、Googleの卒業生コミュニティであるXooglerの共同創業者によるスタートアップなど、スーパースターが52名ほど集まっています。彼らは米国のトップVCから資金を調達できるような実力者たちです。

なぜこうした人材を渋谷に招聘するのか。それは、周囲にユニコーン企業を作る友人がいれば、自分にとってもそれが「当たり前の選択肢」になるからです。逆に、小規模なIPO(上場)が当たり前の環境にいれば、そこが基準になります。

私の役割は、いわばオーケストラの指揮者です。私自身が楽器を弾く(事業を作る)のではなく、最高の演奏ができるプレイヤーを集め、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えていくこと。それが、私たちが目指すエコシステムの形です。

◆「ベンチャーエコシステムの実現」について

-杉原-
さて、最後に、ディ・ポップスグループが目指す「ベンチャーエコシステムの実現」について、共感すること、協業できる領域などがあれば、ぜひお願いします。

-渡部-
そうですね、私が協業の可能性を感じるのは「人材の多様性」という領域です。

今、私たちが支援している海外出身の起業家たちは、高い技術力を持つ一方で、日本には詳しくありません。私は、これからのスタートアップはアイドルグループのような多国籍チームが最強だと考えています。各国の出身者がチームにいることで、海外展開の際に現地の販売網やニーズを即座に掴めるからです。「日本人だけ」「外国人だけ」にこだわる必要は全く無いと思っています。

「Sakana AI」や 「Shisa AI」のように、日本の国家戦略を担うAIモデルを開発している創業チームに外国人がいるということも興味深いと思っております。GoogleやOpenAIが米国企業である以上、有事の際にAIインフラが止まる事もあり得るので、自国のAIモデル開発は大事なプロジェクトです。さらに、自国のLLMを開発することはインターネットでは残らないかもしれない日本の文化の細かい部分をAI時代に継承する事にも繋がります。このような日本のインフラ作りの分野にも外国人人材が参入してきています。
こうした多様性を持ってこそ気づける日本の課題や価値は非常に多い。彼らのような「外からの視点」を持つ優秀な人材と、日本国内で強固な基盤を持つ企業が手を取り合い、人材の流動性を高め、多様なチームを支援する仕組み作りで、ぜひ連携していきたいですね。

☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太

【シブヤスタートアップス株式会社】
代表者:会長 渡部 志保
代表取締役社長 田坂 克郎
所在地:渋谷区東一丁目29番3号 Shibuya Bridge B棟
設 立:2023年2月
U R L:https://upshibuya.com/

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  • INTERVIEW
2026.06.02
「健康は最高の投資」40年のキャリアが語る、経営者の体と姿勢の真実|青山一丁目カイロプラクティック・山口博院長インタビュー【Part2】
全3回にわたるインタビュー Part2では、経営者の孤独と精神的ストレスが体に与える深刻な影響をテーマに掘り下げます。施術前に患者の「歩き方」「表情」「声質」を観察するプロの視点と、投資家として起業家を評価する際の「人物のOS」チェックの共通点が明かされます。カイロプラクティック院長が語る「姿勢と表情は相互に影響し合う」という身体の真実、そして山口先生がカイロプラクティックの道へ進んだ原点のエピソードもお届けします。(このインタビューは2026年4月に実施しました。) Part1はこちらからご覧ください。 ■ スタートアップ経営者の体は「OS」— 姿勢は生産性を最大化するための投資 -杉原- IT業界やテック業界に勤める若い起業家にとっても、この話は非常に重要だと思います。起業家も物心ついた頃からスマホが当たり前の世代が多くなっているので、彼らにもわかりやすく「姿勢が悪いと何が起きるか」を説明していただけますか。 -山口- 先ほど申しましたように、姿勢を正すということは単なる健康法ではなく、今行っている事業を成功させるための投資、生産性を最大化するための投資と考えていただきたいです。経営者やスタートアップのみなさんなどにとって、体というのは「OS」です。 どんなに優れたアプリ(スキルや戦略)があっても、OSがちゃんと動かなければ意味がありませんよね。そのOSが、まさに経営者ご自身の体なんです。 -杉原- OSがバグっていたら、いいアプリがあっても、頭の中にある構造を具現化できないですよね。 -山口- まさにそうです。健康と姿勢はもちろん姿勢だけではありませんが、姿勢も深く関係しています。そういうことをぜひお伝えしたいと思っています。 ■ ストレスは体を固くする — 精神的疲労のメカニズム -杉原- 当ディ・ポップスグループのグループ会社は25社、また出資をしている会社は30社ほどあります。みんな経営者で、様々なフィールドで社会課題の解決に向けて頑張っています。 ただ、資金繰り問題や人事問題など、経営者になると様々なプレッシャーがあり、それを人に言えない立場の方も多いんですよね。経営者の孤独というか、誰にも話せない悩みを抱えながら頑張っています。そういう状態は、やはり体に不調をきたしやすいものなのでしょうか。 -山口- 何かを支えたり持ったりする肉体的な疲労というものがありますよね。そして、もう1つは気を使うこと、問題を解決しなければならないプレッシャー、人の間に挟まれて困ることなど、そういったメンタル的・精神的な疲労も筋肉を固くさせます。 むしろ、運動性の疲労は体を動かせばある程度解消できますが、精神的な疲労の方が体への影響が大きいことも多いんです。 昔の言葉に「借金で首が回らない」という表現がありますよね。思い悩むことが続いたり、辛いことが重なったりすると、首が硬くなって眠れなくなったり、頭痛がしたりする。昔の人はこういった身体症状を的確に言語化していたんです。「借金で首が回らない」は、ストレスによる典型的な身体症状なんですね。 この言葉が生まれた頃は「ストレス」という言葉自体がまだなかった。今の言葉で言えば、まさに「ストレスで首が回らなくなる」ということです。 以前、外資系企業の社長さんで日本語があまりわからない方が来られたことがあります。その方の頭痛や首の痛みはストレスから来ていると思いましたので、英語で「How do you like your new boss?(新しい上司はどうですか?)」と聞いた後に、英語の表現「He's a pain in the neck(あいつが首を痛めている、つまり"あいつには頭が痛い")」の話をしたんです。日本語でも英語でも、ストレスは首を痛める。これは普遍的な事実なんですね。 ■ 脳神経が首・肩を直撃する — ストレスの身体メカニズム -杉原- 抱え込み続けると体に来るんですね。 -山口- 一番気を使う人や、全く気が合わない人と1日仕事をすると、座っていなくても夕方になると首が硬くなって頭痛がすることがよくありますよね。それは肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労から来るものです。 なぜかというと、肩より下の多くの動きは「脊髄」という感情のない部位から出る神経の影響が多く、感情がない部位から出ているので、どれほど気を遣っても足が動かなくなる、手が動かなくなるということは起きません。ところが、首から上(特に頭や首、肩)は「脳神経」という、感情を処理する脳から直接出る神経が関係しています。脳のストレス状態、気疲れやイライラ、心配が脳神経を通じて、首や肩の筋肉を一気に緊張させてしまうんです。 脳神経は12対ありますが、その中でも11番目の「副神経」が、肩や首を動かす「胸鎖乳突筋」などの筋肉に影響します。この神経がストレスの影響を受けると、首が回らなくなったり、肩がガチガチに固まったりします。 また、神経は左右のどちらか一方に出る特性があります。右利きなのに左の肩や首だけが特にきつい、という場合は、スマホの持ち方などの習慣的な問題だけでなく、神経から来ている可能性もあるんです。 ■ 蒸気機関車好きの青年が、カイロプラクティックの道へ -杉原- さすがプロの先生ですね(笑)。 ところで、先生は学生時代からこの道を目指されていたんですか? -山口- いえ、全然そんなことはないんです(笑)。学生時代は蒸気機関車が大好きで、日本中を北海道から九州まで写真を撮りに歩き回っていました。いわゆる「撮り鉄」ですね。 ただ、とにかくお金がないものですから、夜中の12時に出発して深夜3時頃に乗り換え、朝6時頃着くような、ハードなスケジュールで移動していました。家に帰ってくると体がかなりきつかったんです。実家が新宿にあったので、紀伊國屋書店に行って、立ち読みしながらストレッチの本を参考にしていたんです。 大学を卒業してからも、紀伊國屋書店に通う習慣が続いていたのですが、ある日、整形外科のコーナーに「背骨の歪みがこんな病気を引き起こす」というタイトルのカイロプラクティックの先生が書いた本があったんです。なぜそこにあったのかはわかりませんが、手に取ったのが、この世界に入るきっかけになりました。 その本の内容が非常に面白かった。それまで私は、痛みというのは無理をしたり、どこかにぶつけたりすることで生じるものだと思っていました。ところがその本には、悪い姿勢だけでも体のさまざまな部分に不調が出ると書かれていた。これは面白いと思って、すぐに問い合わせの電話をしたら、「カイロプラティックを教えてくれるところがある」と教えていただきました。 ■ 会社を辞め、深夜アルバイトをしながら朝まで勉強した日々 -山口- 数カ月悩みましたが、思い切って会社を辞め、アルバイトをしながら勉強することにしました。当時は赤坂プリンスホテルの「ポトマック」という喫茶店で働いていて、夕方4時頃から深夜12時半頃まで仕事をして、送迎で早稲田まで帰る。そして夜が明けるまでずっと勉強する生活でした。 ところが、その勉強が全く苦にならなかったんです。アルバイトで交感神経が緊張した状態が続いていたせいか、深夜でもものすごく集中できた。大学受験の時のように、頭がフル回転していました。解剖学の本を見ながら、夜明けまで没頭して勉強し、外が明るくなって人が歩き始める気配がすると眠り、午後に起きてアルバイトへ行く日々でした。 後から考えると、父親が戦時中に衛生兵として負傷した兵士の治療に携わっていたことも、何かのDNAとして自分の中にあるのかなと思うことがあります。父は軍医ではありませんでしたが、衛生兵として多くの方の治療をしていました。私も医師ではありませんが、多くの方々の健康に携わるこの仕事を続けているのは、そういうつながりを感じるからかもしれません。 -杉原- 独立は何年前のことですか? -山口- 最初の独立は40年くらい前ですね。 若かったので、自宅の住所をカイロ研究所として、四季報に掲載されている会社数十社に案内を送りました。お酒を飲みながら「どのくらい返事が来るかな」と待っていましたが、もちろん来るはずがないですよね(笑)。当時はパソコンがなかったのでワープロで作ったテキストだけの文書で、図版もなく、紹介者もいない。「御社の社員の方々の健康のために、ぜひ役立ちたいです」というだけの手紙でした。 ただ、この話を大学の恩師や友人にしたところ、3名の方が会社と交渉してくださって、「週に1回、または月に2回なら医務室や社員休憩所を使っていいですよ」という許可を正式にいただきました。勝手に行くのではなく、きちんと会社を通して活動することができました。 その後、渋谷の著名な先生から声をかけていただき、日本でもトップクラスのカイロプラクティック院に入ることになりました。そこには総理大臣経験者が3名、プロスポーツ選手、大手商事会社・大手不動産会社・航空業界の役員の方々、著名な芸能人など、各界の著名人が多数来院されていました。 -杉原- それは修行時代と言っていいんですか?(笑) -山口- そうですね、独立する前の修行時代でした。 そこで、自分にまったく注意を払ってくれない患者さんもいらっしゃいました。ところが院長が来ると、本当に嬉しそうにニコニコとお話しになる。それを見て「よし、頑張るぞ」と闘志が燃えましたね。自分の体を守ってくれる先生の前に来た若造に、わざわざ話しかけてくれなくても当然です。でも、いつか自分もそうなろうと強く思いました。 ■ 歩き方・表情・声質から読み解くプロの観察眼 -杉原- やはり施術する上で、会話は大事なんでしょうか。 -山口- 絶対に必要です。入ってきたときの歩き方、話したときの反応、普段と比べた変化など、施術だけでなく、こうした観察全体が治療の一部です。 うつ状態に近い方は、入ってきたときにもう背中が丸まってうつむいているんですね。「こんにちは」と声をかけたときの反応でも、この方は何かあるなとわかります。歩き方、座り姿、表情、声質、そういったものを総合的に踏まえて施術に向かっています。 -杉原- すごく共感します。ビジネス開発の仕事をしていた時代も、投資家として起業家と面談する時も同じで、事業モデルはどうか、事業領域はどうか、技術的にどう解決したか、といった質問はもちろんしますが、実はそれよりも、部屋に入ってきた時の表情、質問に答える時の自信の溢れ方、面談者にとって「当たり」の質問をされた時の目の輝きなどをを見ています。まずOSとしての人物をしっかり見ようと思って。人物チェックという意味で同じですね。 -山口- 背中が丸まった人の印象について、以前早稲田の学生にアンケートを取ったことがあります。「自信がなさそう」「弱々しい」「人生うまくいっていなさそう」といった回答が多く集まりました。また、猫背は老けて見える一因でもあります。 反対に、背筋が伸びていると若々しく見えるだけでなく、表情筋が上がり、脳の血流も改善します。逆に姿勢が崩れると脳の血流が悪くなって不活性化してしまいます。姿勢を正すことは、まさに内面と外面の両方に影響を与える「投資」なんです。 -杉原- 確かに猫背だと自信がなさそうに見えますよね。あと、面談した時に表情を見ます。どうしても悪い予感がする人がいて、気がマイナスだなとか。どれだけ言葉で語られても、深く付き合うのはどうかなと思ってしまう。 あるいは同じ人でも久しぶりに会った時に「元気ですよ」と言う時の姿勢や目力と表情を見て、なんか調子が悪いな、もう少し深く何かあれば相談してねというように、寄り添い方を変えたりもしますね。 -山口- 表情は体に影響しますし、また体も表情に影響する。これは双方向なんです。たとえば、胃が荒れると背中にも症状が出ることがあります。胃の内部を直接触ることは私たちにはできませんが、背中を緩めることで胃の状態を間接的に改善できることもある。うつ状態も同じで、背中を緩めることで気持ちが少し楽になることもある。体と心はしっかりつながっているんです。 ~Part3へ続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太 【青山一丁目カイロプラクティック】 院 長:山口博 所在地:東京都港区南青山2-2-15 ウィン青山740 公式サイト:https://aoyama1.jp/ 次回・Part3では、 ・青山一丁目への移転と、テレビ出演につながった「利他の精神」 ・本田宗一郎氏が語った「経営者が健康でなければならない本質的な理由」 ・ベンチャーエコシステムとの共通点 などについてお伺いしています。Part3もぜひご覧ください!  
  • INTERVIEW
2026.05.29
「健康は最高の投資」40年のキャリアが語る、経営者の体と姿勢の真実|青山一丁目カイロプラクティック・山口博院長インタビュー【Part1】
今回は、カイロプラクティック歴約40年のプロフェッショナル・山口博院長にインタビューいたしました。 まず初めに、山口先生の経歴を簡単にご紹介させていただきます。 -------------------------------------------------- 山口先生は、一冊の本との出会いを機に、それまでの仕事を辞め、夜間バイトをしながらカイロプラクティックの勉強をし、そして1987年(昭和62年)にカイロ院での勤務を始められました。そしてより自分の考えを出して治療をしたいという思いから独立し、現在も続く、「青山一丁目カイロプラクティック院」を開業され、これまでに延べ9万人を超える治療経験があります。また、日本姿勢教育協会理事として、放送大学で講座を担当されたり、各種メディアに登壇したりと、長年この分野での重鎮として貢献してこられました。 -------------------------------------------------- 今回は、ベンチャーエコシステム作りの参考として、企業経営者にとって、体は資本であるということを学ぶ、「プロフェッショナル」へのインタビューということで、山口先生にお時間をいただきました。 (このインタビューは2026年4月に実施しました。) ■ 「健康ブレーカー」とは何か — 突然、体が限界を迎える瞬間 -杉原- 事前に先生からいただいたレポートで印象的な言葉がありました。「一生懸命頑張っている方が、病気ではないのに突然体調を崩されてしまうことがあります。これは健康ブレーカーが落ちたような状態だと考えています。電気ブレーカーに例えてご説明しますと、容量ギリギリで電気を使っている時に電子レンジを使用してブレーカーが落ちた状況です」とのことでした。自分の身に起きたり、同僚に起きたりなど、意外と当てはまることがあるのではないかと思います。この言葉の意図について詳しく教えてください。 -山口- 一生懸命仕事をされていると、体が疲れていることは自覚できると思うんです。ただ、そのとき痛みがないとどうですか。「痛みがなければセーフ、大丈夫」だと思いますよね。 この「痛みがなければ大丈夫」という考え方でいると、健康ブレーカーは突然落ちやすくなります。なぜかというと、体はかなりの疲労状態にあっても、関節の動きが硬くなっていたり、筋肉に乳酸などの疲労物質が溜まっていても、アドレナリンなどの「頑張るホルモン」が分泌されてパフォーマンスを維持できるからです。また、脳には少しの異変信号が入ってきても、仕事に差し支えないよう情報を遮断する機能があります。そうでないと、私たちは仕事ができないんですね。 電気に例えると、通常の方が30アンペアの容量だとすると、アドレナリンが出ている経営者の方は60アンペア近くまで容量が上がっているイメージです。ですから、たくさんの電気を使っていてもブレーカーは落ちない。ところが、そのギリギリの状態で何か些細なきっかけがあった瞬間にブレーカーが落ちてしまうんです。ぜひ、そうなる前に対処していただきたいと思っています。 ■ 体は「言葉」ではなく「張り・凝り」でサインを出している -山口- 電気に例えると「使いすぎかな」と感じる段階が、体でいうと「張り」や「凝り」なんです。その段階でキャッチして、何か手を打ってほしいんですね。 体は言葉では話せません。だから、凝りや張りで「しんどいよ」と教えてくれているんです。たとえば「あと30分座り続けたら立った時に腰が痛くなる」とは言えない。でも、座っているうちに腰が重だるくなる。そういう形でサインを出しています。 危険なのは、その痛みを薬だけで抑えて無理をし続けることです。腰痛を薬で止めながらゴルフをし続けた結果、気がついたら激痛になり、病院に行ったら圧迫骨折だった、というケースも実際にあります。 これは、家の中でボヤが起きて火災報知器が鳴ったのに、うるさいからと止めて放置してしまうようなものです。そのまま放置すれば家が燃えてしまう。薬は決して否定しません、絶対に必要なものです。ただ、薬で痛みを抑えながら無理をし続けることは、体を壊す原因になります。 -杉原- 結構、経営者の皆さんやハードワークをしてきた方々には心当たりがあるんじゃないかと思います。病院に行っても「先生には伝わらないだろうな」という背中の鈍い痛みがずっと続いていて、でもストレスがなくなったら自然に消えてしまった。そういう経験をされた方も多いのではないでしょうか。ストレスが多かった時代の私の事ですが。(笑) ■ 来院者は会社員から大型客船の船長まで 多彩なリーダーたちの共通点 -杉原- 2つ目の質問ですが、青山一丁目カイロプラクティックにはどんな職業の方々が訪れているんでしょうか? -山口- 一番多いのは会社員の方や主婦の方ですね。ただ、経営者の方やリーダーの方もたくさんいらっしゃいます。 たとえば、日本で最も大きな客船の船長さんもいらっしゃっています。大型客船の航路はあらかじめ決まっていますが、そのときどきの波や風の状況に応じて、少し手前を行くか大回りするかを判断し、乗客ができる限り安全で快適な船旅ができるように導くのが船長の役割です。 つまり、大勢の命を預かる最高責任者なんです。ですから、自分の体が健康でなければならない。そういう思いで来院されています。 -杉原- 確かに、企業に例えると、大型客船のクルーたちは従業員で、乗船しているお客様たちはサービスを受けるお客様ですよね。そしてキャプテンは社長やCEOにあたります。そのトップが健康でなければ、安全なサービスは提供できません。 -山口- そうですね。企業もまったく同じです。また、世界的なテーマパークで責任者を務めていた女性の方も来院されています。テーマパーク、ショップ、ミュージック、映画といった部門の責任者を担われており、素晴らしい業績を残されています。ご自身もトレーニングを真剣に取り組まれながら、体のメンテナンスとして定期的に来てくださっているんです。 ある時、その方の友人のテレビ局の社長さんに「自分がこの仕事をちゃんとできているのは、カイロプラクティックで体を見てもらっているからだ」とおっしゃったと伺いました。私たちの仕事は、その方が「うまくいってよかった」と笑顔になる瞬間を支える黒子の仕事ですから、本当に嬉しかったですね。 また、今でも定期的に来院されているのが、アナログからデジタルへのテレビ移行を推進したテレビ局の重鎮の方です。アナログからデジタルへの切り替えには受像機をはじめすべての機器を変える必要があり、大手家電メーカーに「これからテレビ局はこういう仕様にするので対応した製品を作ってください」と交渉されていた。家電メーカー側も先行きが見えない中で大きな投資をして工場を作るのは容易ではない。その交渉がどれほど大変だったか、その方の部下の局長がうちに来られた際に「私にはとてもあんな交渉はできません」とおっしゃっていたほどです。 私たちが今、当たり前のようにデジタル放送を使えているのは、そうした方々の努力があったからです。その方が体が非常に辛かった時期に来てくださって、少しでも役に立てたことが本当に嬉しかったです。ベンチャーエコシステムの皆さんも、ぜひ体を大事にしてください。 ご来院される経営者の方々は、お忙しい中、ゴルフ、テニス、登山、楽器、他にもいろいろありますが、何かのスポーツや趣味をされている方が多いです。私が、運動や趣味で使用した道具、演奏された楽器など、使われた後はどうされますかとお尋ねしますと、ほとんどの方が、勿論、きれいにしてからしまいますよと仰られます。 自分の使った道具がきれいになるのは気持ちがいいですよね。その大切に扱う、思うというお気持ちを、わずかで結構ですのでご自身のお体にも向けていただけますかとお願いしています。道具は大切にしていても、ご自身のお体は無理をされたままの方が多いのです。 疲れた体をそのままにして次々と仕事をしたり、疲れたまま寝てしまうと、体の中に疲労がどんどん積み重なって症状に結びつく事があります。短時間で結構ですので、仕事の間や帰宅後、関節や筋肉をゆっくり動かされると、血流も改善する事ができて健康に役立ちます。 ■ 定期的に来院する経営者に共通する「ひどい経験」と姿勢への認識 -杉原- 今、何人かの経営者の方の事例をあげていただきましたが、きっかけは体の不調だったとして、その後は定期的に来られるようになっているんでしょうか。どんな通い方をされているんですか? -山口- もちろんブレーカーが落ちてから来られる方もたくさんいらっしゃいますが、会社の経営者の方は、ブレーカーが落ちないように定期的に来院される方が多いです。 その理由は、そういった方々はどこかで一度、ひどい経験をされているからです。ブレーカーが落ちてから来ると、痛みはきつい、回復までの時間は長い、費用もかかる。だから定期的にケアをしていれば、症状が出ても軽く済む、あるいは出ないようにできる。それを経験的に知っているんですね。 ベテランの経営者ほど、定期的にチェック・修正することの重要性を理解されています。ただ、その理解に至る前には、たいていひどい経験をされているわけですが。 骨折のように疾患の場所が明確にわかるものはわかりやすい。でも、正しい姿勢の維持や体の調子を整え続けることの重要性については、なかなか認識されにくい部分があります。 よく「姿勢を正す」というと健康法の一種と捉えられがちですが、実は姿勢を正すということは「今やっていることを成功に導くための投資」と考えていただきたいんです。会社のトップがいて、役員がいて、社員がいて、家族がいて、取引先がいて、株主がいる。そのトップの体調は組織全体に影響します。だから、健康というのは「やりたいことを実現するための投資」なんです。 ■ 悪い姿勢が体に与えるメカニズム 「動物」である私たちが動かないとどうなるか -杉原- 役職や業界によって立ちっぱなしの仕事、座りっぱなしの仕事、様々ありますが、経営者の方は会議室で5時間会議、というのもよくある話ですよね。悪い姿勢が続くと体にどのような悪影響が出るのでしょうか。そのメカニズムを教えてください。 -山口- まず基本的なことをお伝えすると、私たちは「動物」です。文字通り、動く物なんです。 座りっぱなしで関節を動かさない、筋肉を使わないでいると、血流が悪くなります。血液は酸素と栄養を運び、老廃物を取り除く役割を持っています。それが滞ってしまうとどうなるか。たとえば、朝から晩まで働いてもらうのに食事も出さない、トイレも使わせない、という状態を想像してください。誰でも倒れてしまいますよね。座りっぱなしで血流を悪くしてしまうと、それと同じことが体の中で起きているんです。 具体的には、足を組む姿勢、低い位置のモニターなど、こういったものが問題になります。私が一番申し上げたいのは、長い時間過ごす椅子の高さ、デスクの高さ、モニターの位置、キーボードの配置、これらが非常に重要だということです。5分10分ではなく、何時間も同じ姿勢でいるわけですから、そのセッティングがいかに体に影響するかは計り知れません。 -杉原- 意識はしているんですが、良い姿勢をなかなか長く続けられないんですよね。気づくと崩れてしまっていて。あと、現代のビジネスパーソンはスマホ1台で仕事ができてしまう部分もありますが、うつむいた姿勢はやはりよくないですか? -山口- スマホの操作で頭が15度、20度、30度と前に傾くと、肩にかかる負担は大きく増加します。スマホを操作する姿勢だと、体重の約3分の1が肩にかかるとも言われています。頭の重さは体重のおよそ10パーセント。仮に2リットルのペットボトルを2本として計算したとき、胸の前で持つのと腕を伸ばして持つのとでは、負担が全然違いますよね。5分も持てないほど疲れる。その疲れが肩に蓄積されることで、肩こりや集中力の低下につながるんです。 ~Part2へ続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太 【青山一丁目カイロプラクティック】 院 長:山口博 所在地:東京都港区南青山2-2-15 ウィン青山740 公式サイト:https://aoyama1.jp/ 次回・Part2では、 ・スタートアップ経営者の体は「OS」— 姿勢は生産性を最大化するための投資 ・ストレスは体を固くする — 精神的疲労のメカニズム ・カイロプラティックの道へ進んだ理由 などについてお伺いしています。Part2もぜひご覧ください!
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2026.05.27
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