COLUMN

スタートアップからスケールアップへ! 共に成長し、進化し続けるエコシステムの実現【Part 1】

2026.03.26

D-POPS GROUPでは、日本のベンチャーエコシステムの発展を支援するため、多角的な活動を展開しています。2026年1月、その志を同じくする一般社団法人スタートアップエコシステム協会の代表理事、藤本あゆみさんへのインタビューを実施しました。

全3回にわたるインタビューのPart1では、協会の設立秘話や、現場の調査から見えてきた「資金調達よりも切実なスタートアップの課題」について深く掘り下げます。

(このインタビューは2026年1月に実施いたしました。)

◆協会の設立経緯:3年越しの構想と「宣言」

-杉原-
今回は、当社が目指す「ベンチャーエコシステムの実現」と非常に近い活動をしておられる、一般社団法人スタートアップエコシステム協会を4年前の2022年3月に設立した、代表理事の藤本あゆみさんにインタビューいたします。

まず初めに、この一般社団法人スタートアップエコシステム協会(以下、協会)を設立された経緯を教えていただけますか?CMOとしてPlug and Play Japan社に在籍中に設立されたのですよね。

-藤本-
はい。設立したのは2022年ですが、実は構想自体は2019年、私がPlug and Play Japanに入ってすぐの頃から持っていました。

当時はアクセラレーターというカテゴリーが認知され始め、様々なプレイヤーが登場していた時期です。「1社でできることは限られているけれど、もっと横が繋がって広く連携すれば、スタートアップが成長する土壌(エコシステム)ができるのではないか」と考え、当時はまだ協会という名前ではありませんでしたが、ネットワーク化の企画書を書いていました。

ただ、当時は社内でも「意義はわかるけれど、今は難しいよね」という話になり、一度その案は寝かせることにしたんです。

それが再び動き出したのは、CIC Tokyoの1周年記念イベントに呼んでいただいたことがきっかけでした。そこで東京都副知事の宮坂さんや、CICの名倉さんたちとパネルディスカッションを行ったんです。

そのパネルの最中、何の文脈だったか「もっとスタートアップが育つ土壌として、こういう横の繋がりがあった方がいいですよね」と団体の構想があったという話をした際に、宮坂副知事「それはやったほうがいいよ」とコメントをもらい、セッションの最後に「というわけで、私がやることになると思うんですが」と、半分冗談、半分本気のような勢いで宣言してしまったんです(笑)。

その夜すぐに企画書を掘り起こして修正し、その日のうちにセッションの参加者の皆さんに送りました。特に名倉さんが「一緒にやりましょう」と強く背中を押してくださったので、「やります」と決断することができました。

それが2021年の後半。コロナ禍で先行きが見えない時期でしたが、だからこそ支援者同士が繋がって、日本のエコシステムを強くしようという目的が固まりました。

◆支援側のネットワーク化

-杉原-
横の繋がりというのは、スタートアップ同士というより、支援側のネットワークを指しているのでしょうか?

-藤本-
私たちは後者ですね。政府や自治体、事業会社、そして個人に至るまで、皆が動いているのになぜかバラバラで、連携しにくいという課題がありました。そこを繋ぎ合わせるのが私たちの役割です。

同時期に砂川さん(一般社団法人スタートアップ協会 代表理事)に声をかけたら、「実は僕たちも同じことを考えていた」と仰っていて。結果としてスタートアップ協会を含めて、4つほどの支援団体がほぼ同時期に誕生しました。それぞれ目的は違えど、スタートアップが育ち、日本経済に貢献する環境を作るというゴールは共通しており、今でも連携を続けています。

-杉原-
Plug and Play社としては、最終的には別組織として活動することに合意されたのですね。

-藤本-
はい。あらためて経営陣に話をしたら「今はやはり(業界全体のために)必要だよね」と理解してくれました。ただし、自社の事業としてではなく、中立な立場の一般社団法人としてやるべきだということで合意形成がなされました。

-杉原-
名倉さんや宮坂さんとは、そのパネルディスカッションの前から深いお知り合いだったのですか?

-藤本-
数回お会いしたことがある程度でした。ただ、名倉さんとは以前テレビ番組でご一緒した縁があり、その時に「CIC Tokyoの1周年イベントに来てください」と声をかけてくださったんです。あのお誘いがなければ協会はできていなかったので、本当に感謝しています。

◆協力体制の構築

-杉原-
協会の公式サイトを拝見すると、東京都をはじめとする自治体、著名な連続起業家、投資家、さらには政治家の方々まで、そうそうたる顔ぶれが名を連ねています。これほどのコネクションを、どのようにして築き上げられたのでしょうか?

-藤本-
実を言うと、2019年の構想時点ではこれほどの方々を巻き込むことは難しかったと思います。2022年というタイミングだからこそ実現できたことですね。

活動を続ける中で、エコシステムに関わる多くのプレイヤーが連携や意見交換の必要性を感じ始めていました。そこで、名倉さんと私の二人で、このエコシステムに必要だと思う方々を知りうる限り全員書き出したんです。

そこから「こういう仕組みを作りたいので、ぜひ後押ししてください」と一人ひとりにお話ししました。当時はまだ具体的な活動内容まで決まっていなかったのですが、皆さん「それはぜひやるべきだ」と快諾してくださり、サポーターとして加わっていただけることになりました。

サポーターの皆さんは、政治家、経済団体、事業会社など、それぞれが異なる角度からスタートアップを支援している方々です。そうした方々の知見やネットワークが一箇所に集まるだけでも、エコシステム全体にとって大きな価値があると考えています。

-杉原-
サポーターの方々には、具体的にどのような役割を期待されているのですか? 例えば総会でのスピーチや、特定の課題へのアドバイスなど、名前が載っている以上の具体的な活動についても伺いたいです。

-藤本-
もちろん、イベントに登壇いただくこともありますが、あえて関わりを重くしすぎないことも大切にしています。

「サポーターになったからには、これをしなければならない」という義務を課すのではなく、必要な時にお互いに情報交換ができ、助言をいただけるような、フラットで風通しの良い関係を目指しました。

皆さん、深いコミットメントを強要しなくても、エコシステムの発展に対して非常にポジティブです。ここが必要な場所だと信じてくださっているからこそ、緩やかでありながらも強い協力体制が築けているのだと感じています。

◆活動の3つの柱:情報共有・格差是正・海外連携

-杉原-
スタートアップエコシステム協会が具体的にどのような活動をされているのか、その内容を教えていただけますか?

-藤本-
はい。主に3つの柱があります。

1つ目は、国内の情報を集めて共有することです。 いわばGoogleのエコシステム版のように、情報を集めて整理し、使いやすくすることを目指しています。(注:Googleのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」)

具体的な活動としては、『スタートアップエコシステムサミット』を毎年1回開催しています。 通常、スタートアップ関連のイベントといえばスタートアップが登壇するものですが、このサミットではスタートアップは一切登壇せず、支援者側が全員登壇するのが特徴です。 企業や政府、自治体などの機関が、「私たちはスタートアップに対して、今このような支援プログラムを提供しています」という内容を話します。

これはスタートアップ向けでもありますが、どちらかというとエコシステム内の情報共有を強化する狙いがあります。 意外と「隣の組織が何をやっているか知らない」ということが多いので、年に一度こうした場を持つことで、「あそこは今こんな風に進化したんだ」「この間はやっていなかったのに」といった気づきや、「ここが連携すると面白いよね」という機会を作る活動をしています。 これが国内向けの1つ目の柱です。

2つ目は、特にスタートアップに向けた情報の格差をなくすための活動です。
スタートアップの成長過程では様々なことが起こりますが、一番足りていないのは情報の格差だと感じています。 「本当は知っていれば、その障害につまずかずに済んだ」というものがたくさんあるので、それをなくしたい。 そのために、サミットに登壇する方々以外も含めたあらゆる支援情報を網羅したデータベースを作成しています。

また、スタートアップが非常に困っている採用の支援も企画しました。 採用のためのキャリアフェアなどは最初にお金がかかりますよね。 良い人が採れるかどうかもわからない段階で、スタートアップが40万円、50万円という費用を払うのは難しい。 そこで東京都と連携してキャリアフェアを開催し、採用イベントを行っています。

その中でも、例えば「学生がインターンをしたいけれど、大人が話しているブースに割り込んで『インターンやってますか?』と聞きに行くのは怖い」という声がありました。 そこから派生して、学生しか参加できないインターンシップフェスというイベントも生まれました。 こうしたスタートアップのための情報共有と活動が2つ目です。

3つ目がグローバルとの連携です。
エコシステムは日本国内だけで完結するものではありません。 海外のあらゆるエコシステムと繋がりたいと思っています。 日本に海外のスタートアップを連れてきたいというニーズもあれば、日本のスタートアップを海外に呼んでほしいというニーズもあります。 そうしたニーズの架け橋になるような活動をしています。
主にこれら3つの軸で活動を展開しています。

◆現場の課題解決:資金よりも「採用と営業」

-杉原-
確かにスタートアップ関連のイベントというと、スタートアップがピッチをして投資家が審査するような関係性のものが多いですよね。 VCファンドや金融機関などが主催するイベントも、そうした形が一般的だと思います。 スタートアップを応援する側の人たちをすべて可視化して、支援者が主役になるという取り組みは、他ではあまり見かけません。

-藤本-
そうですね。他ではやっていないと思います。 一般社団法人として非営利でしかできない活動だとも感じています。 ビジネスにはなりづらいけれど、みんなが必要だと思っていたことの一つなのかな、と思っています。

また、もう一つの活動として、政府への政策提言も行っています。 政府側にはなかなかスタートアップの現場の声が届きにくいという現状があるため、私たちがメインとなって調査を行い、スタートアップが今何に困っているのかという声を直接政府に届けるようにしています。

-杉原-
先ほどのお話にもあった、情報の格差や採用に関する課題などは、まさにそうですよね。 スタートアップにとって、採用は最も難しいことの一つだと思います。

-藤本-
はい。実はそれも調査から導き出された答えなんです。 資金調達に関する支援は世の中にたくさんありますが、実際に調査をしてみると、資金面で困っているのは全体の30%ほどでした。 残りの多くが何に困っているかというと、採用と営業の2つなんです。

ここに関しては、支援プログラムが全然ありませんでした。 「具体的に何をすればいいのか」という場所もなかなかなかったので、東京都と一緒にキャリアフェアを作り上げてきました。

実は今年からは、私たちの手を少し離れて、独自に東京都の事業として自走してもらう形に移行しています。 私たちはそのきっかけとなる初めの仕組みを作った、という形ですね。

~Part2へ続く~

☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太

【一般社団法人スタートアップエコシステム協会】
代表理事:藤本 あゆみ
所在地:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階
設 立:2022年3月30日
U R L:https://startupecosystem.org/

 

次回Part2のインタビューでは、
・スタートアップエコシステムサミットについて
・海外との連携
・世界の潮流:スタートアップからスケールアップへ
・新会社設立の背景
などについてお伺いしています。

Part2もぜひご覧ください!

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【グループ会社インタビュー】株式会社フェイスフル 加藤 貴博 社長 ~後編~
D-POPS GROUPでは、現在約25社のグループ会社が仲間となっています。 今回は、株式会社ディ・ポップスグループ 常務執行役員 経営企画室室長 及び 株式会社フェイスフル 代表取締役の加藤さんへインタビューいたしました。 (このインタビューは2025年12月に実施しました。) 前編の記事はこちらからご確認ください。 ◆M&A責任者としての奔走 -杉原- 一方で、加藤さんは現在もM&Aの責任者を兼任されています。代表を務めるフェイスフルの事業とM&A業務、その比重はどのようなバランスですか? -加藤- 心の重さで言えば、M&Aのプレッシャーが9割以上を占めていますが、費やす時間としてはフェイスフルの事業運営の方が長いですね。 特にM&Aに関しては、最初は全くの素人からのスタートでした。今は買い手の数が非常に多いため、普通に待っているだけでは良い案件なんて回ってきません。 -杉原- コネクションもない状態から、どのように案件を動かせるようになったのですか? -加藤- 最初の1年間は、とにかく泥臭く動きました。あらゆるM&Aセミナーに足を運ぶのですが、それらは大抵売り手を集めるためのものなんです。でも、私はあえて一番前の席に座って質問を繰り返し、最後に「どうすればあなた(仲介会社)と仲良くなれますか?」と正面からぶつかっていきました。 そうして誰も知り合いのいない懇親会に図々しく入り込んで、いつしか少しずつ仲良くなって。そうした人間関係の構築を1年間ひたすら繰り返す中で、ようやく1件目の案件として繋がったのがgraphDだったんです。 -杉原- M&Aの第1号案件となったgraphDですが、当時の本業からすると、少し意外なジャンルへの挑戦だったのではないでしょうか? -加藤- おっしゃる通りだと思います。1件目にしては「少し領域を広げすぎではないか」という懸念もありました。当初、私がこの案件を提案したときは、後藤代表も最初はそれほど乗り気ではなかったんです。 ところが、面白いように風向きが変わりました。主要な取引先である通信キャリアの方から「POP制作に強い会社と組むのは非常に面白いね」とポジティブな反応をいただいたんです。そこで代表も「やはり面白いかもしれない」と。 (※POP=Point of Purchase、販売促進用の広告物) さらに驚くべき後日談がありました。このgraphDという会社、実は後にディ・ポップスグループの常務執行役員となる渡辺さんが、かつてヨドバシカメラにいた頃に「こういうPOPの会社を作ったらいい、そうすれば事業が円滑に回るよ」とアドバイスをして立ち上がった経緯のある会社だったんです。 -杉原- そんな不思議な縁があったのですね。 -加藤- 当時は渡辺さんとの接点も全くありませんでした。そんな背景も知らないまま、私は自分の足で見つけてきた案件として提案していました。後からその事実を知って、点と点が線につながったような感覚でしたね。 私の20年を振り返ると、こうした混乱や偶然のような出来事がたくさんありますが、今になってようやく一つひとつのパズルが繋がり、今のグループの形になっているのだと実感します。 ◆「人」を重視するD-POPS GROUPのM&A -杉原- graphDのM&Aを皮切りに、これまでグループ入りした会社が15社ほどあるかと思いますが、それだけの数を形にする裏側では、膨大な数の案件を精査されていますよね。 -加藤- そうですね、数えきれないくらい見ています(笑)。今年だけでリスト化したものを見ても、300〜400件は精査しました。 M&Aの仲介会社さんからは「そんな条件の会社、他には絶対にないですよ」と言われることも多いです。たとえば「年商10億円以上の黒字企業」といった高いハードルを設けて絞り込んでいるので、そんな優良案件がそう簡単に転がっているはずがない、と。それでも私たちは、その中から本当に価値のあるものを絞り込む作業を続けています。 -杉原- 年間300〜400件を書類でレビューし、そこから面談に進むのはどのくらいですか? -加藤- 面談に進むのは、その中でもさらに厳選した案件だけです。ただ、その厳選するプロセスそのものが非常に重要だと思っています。 -杉原- 膨大な案件の中から、面談しようと決める際の判断基準や観点はどこにあるのでしょうか。 -加藤- よく仲介会社さんから「具体的な企業名や業種を提示してほしい」と言われるのですが、実はそれは難しいんです。 判断の基準は、取締役会などで議論されるグループの今の課題感と、私たちが持っている既存のリソースの掛け合わせにあります。グループのエコシステムがこれだけ出来上がってくると、業種のマッピングで見れば埋まっている場所が多い。その隙間をどう探しに行くか。 そして、あまりに遠い飛び地の案件は論外ですが、今の事業を補完する垂直統合型だけでも不十分だと思っています。 単に競合をM&Aして規模を大きくするのではなく、既存事業と組み合わせたときに面白い次の展開が描けるかどうか。常に「未来から逆算して、このピースがはまれば新しい価値が立体的に生まれるのではないか」という視点で、案件を見極めるようにしています。 -杉原- グループのポートフォリオにおいて、欠けているピース(隙間)を埋める案件が見つかったとします。書類審査を通過し、実際に経営者と面会する際、どのようなポイントをチェックされているのでしょうか? -加藤- 一番は「グループのメンバーと空気(カルチャー)が合うか」を非常に重視しています。 たとえ業種が違っても、言葉選びが違っても、根底にある価値観さえ同じであれば、お互いにリスペクトし合える。その直感を大切にしています。一方で、最初から一方的な話し方をされる方などは、やはり難しいと感じますね。 面談の際に私が気を付けてみていることは、面接天井になっていないか、ということです。 面接がピークで、その場だけお化粧をして自分を良く見せている状態のこと。でも、それは見抜けます。実際にDD(デューデリジェンス)の過程で、そのお化粧が剥がれて破談になったケースも過去にはありますから。 -杉原- その見極めのために、具体的にどのようなステップを踏んでいるのですか? -加藤- 私たちは、いわゆる圧迫面接のようなことは絶対にしません。お互いの夢を語り合ったときに、楽しい想像ができるかどうか。それを確かめるために、通常2回に分けてお会いします。 1回目は私一人でお会いし、2回目は後藤代表を交えて、より深い話をします。ただ、机上の話だけでは見えない部分も多いので、やはり夜の会食をご一緒するようにしています。 お酒を飲んだときにふと漏れる一言や、夢を語る熱量。そこまで踏み込んで初めて、相手の本当の姿が見えてくると思っています。 後藤代表の面談や会食は、3時間以上にも及びます。それだけ時間をかけて、相手の人生の背景までを深く理解しようとする。その熱量を受け継ぎながら、最後は「この人と一緒に未来を創りたいか」という、人間としての本質的な部分で判断しています。 -杉原- これまで手がけたM&Aの中で、特に印象的だった、あるいは苦労したケースについて教えてください。 -加藤- 私たちのM&A戦略は、経営者の成長支援を方針に掲げているので、買収と同時に創業者が引退するケースは非常に稀なんです。基本的には、創業者の方にそのままグループへ参画していただき、共に走り成長するスタイルをとっています。だからこそ、数少ないグループ入りと同時に創業者が引退されるケースのときは、託された想いのメッセージが、どれも非常に強く印象に残っています。 譲渡した後も、その方々に「あの時、このグループに託して本当に良かった」と思い続けてほしい。バトンを受け取った事業を新たな仲間とさらに大きくするのは、当然の義務であり、その対する意識は人一倍強く持っています。 -杉原- 一方で、苦渋の決断を迫られたケースもあったのでしょうか。 -加藤- そうですね。唯一、自分の中で今でも「あれが正解だったのか」と自問自答し続けているのが、M&Aした会社を最終的に別の会社に売却する形となったケースです。 経営上の判断や、キャッシュを回収できたというビジネス的な観点で見れば、時代の流れに沿った正しい選択だったのかもしれません。しかし、私は常に相手の懐に飛び込み、人の気持ちを大切にしながらクロージングまで伴走するスタイルです。店舗一軒一軒を大切にするのと同じ感覚で向き合っているからこそ、心残りがあります。 -杉原- それほどまでに人を重視するからこそ、価格以外の部分で選ばれているのですね。 -加藤- おっしゃる通りです。私たちの提示する買収価格は、他社さんと比べて必ずしも一番ではないと思います。むしろ高くないことの方が多い。それでも「あなたたちに任せたい」と言ってバトンを託してくださる経営者の方がいます。 高い価格を提示したから選ばれた理由ではないからこそ、託された想いに対する責任をより一層重く感じます。その信頼に結果で応え続ける為にグループで連携することが、M&A担当としての私の使命だと考えています。 -杉原- 先ほど非常にまれにバトンパスされる創業者の方もいらっしゃると伺いました。譲渡側の経営者は、あえて「こう育ててくれ」といった具体的な要望は口にされないとのことですが、加藤さんはどうやってその想いを受け止めているのでしょうか。 -加藤- 直接的な言葉として語られるわけではありません。ただ、最終的に私たちを選んでくださるまでの過程で、「なぜ他社さんを断ったのか」という理由は必ず伺うようにしています。仲介会社さんを通じて入ってくる情報も含め、その積み重ねが、経営者の方の言葉にできない想いとして大事にしていこうと思っています。 最も心に響くのは、引き継ぎ式の会食です。経営者の方が、残る社員の皆さんに向けて「今までありがとう。これからはこのグループで頑張ってね」と声をかける姿。その言葉は、私たちに対する「(この人たちなら)大丈夫だよ」という信頼の証でもある。その背中を見ていると、絶対に裏切れないという強い責任感を感じます。 ◆後藤代表が大切にする「気の流れ」 -杉原- M&Aのプロセスにおいて、後藤代表から言われた言葉で印象的だったものはありますか? -加藤- これはもう、一言「気の流れが悪い」ですね。これが一番大変です(笑)。 仲介会社さんも、1年に1件決まるかどうかという案件を必死で進めてきて、ようやくここまで漕ぎ着けた。そこで代表から「気の流れが悪い」と言われてしまうと、返す言葉がありません(笑)。 -杉原- 加藤さん自身は、精査を重ねて提案した案件に対してそう言われた時、納得感はあるのでしょうか。 -加藤- 正直なところ、昔は納得感は全くありませんでした。当時はまだ私自身、数字や事業シナジー、業界内でのポジショニングといった数字的な側面ばかりを見ていて、本質の人の部分が完全に見えていなかったんだと思います。 でも、何度もその答え合わせをしていくうちに、少しずつ理解できるようになってきました。「ああ、代表はここを気にされていたんだな」と。今では、感覚的に納得できる確率がかなり増えてきましたね。それでも時々、「この案件でもダメなんだ」と、自分の思い入れとの間で悲しくなることもありますけれど(笑)。 -杉原- 後藤代表は「気の流れ」以外にも、財務や業績などの面で、どのような視点を持って案件を見ていると感じますか? -加藤- 代表が最も鋭く見ているのは、「その経営者が、どのように意思決定をしてきたか」という点だと思います。 代表はよく「積み木が一つだけ突出して伸びることはない」と仰います。一人の人がすべてにおいてトップである必要はない、と。一方で、私自身は経営企画として、自分がグループの足かせにならないよう必死に努力してきた自負があります。 実務的な数字や条件面の交渉は私に任せていただいていますが、最終意思決定する取締役会での判断では、ボードメンバーの視点も非常に重要になります。大きな案件の際は、後藤代表が自ら内藤社長や千本会長に対して事前ディスカッションを行い、この案件はどう思うかと徹底的な壁打ちを行う。私はその連携のプロセスを聞きながら、フィードバックを事業計画や譲渡契約に落とし込んで調整してきました。そうした厳しいプロセスを経て仲間になったのが、今リストにある各社の経営者たちなんです。 -杉原- 長年M&Aを担当してきて、最もよかったと感じる瞬間はいつですか? -加藤- M&Aというのは、多くの経営者にとって人生に一度の、命をかけた大勝負です。その極めて重要な場に立ち会えること自体、本当に光栄なことだと思っています。 実はディ・ポップスグループでやってきた業務のすべてが、私が会計事務所に入る前からずっと抱いていた想いなんです。「経営者の想いに寄り添い、支えたい」という。今、M&Aを通じて経営者の人生の決断を支援できていることは、私にとって仕事のやりがいのど真ん中にいる実感がありますね。 -杉原- フェイスフルの社長・グループ全体のM&Aという大役。この二足のわらじを履く上で心がけていることはありますか? -加藤- 自分自身が事業会社の代表を務めるようになって、他のグループ会社の社長たちに対する尊敬の念がより一層強くなりました。これは、M&Aの担当だけをしていたら決して分からなかった感覚だと思います。 経営者としての本当の課題と向き合う事や孤独感は、当事者になって初めて肌身で感じられる。かつて入社したての頃、管理部門の立ち上げに注力していた時に、現場から「いきなり幹部候補って何だよ」と冷ややかな目で見られたこともありました。しかし今なら、セクションや立場の違いをどう理解し全うすべきかが、経営者の視点を持って理解できます。 グループ全体を俯瞰する立場と、現場の経営を担う立場。その両方を経験させてもらっている今の環境は、非常に贅沢で、挑戦しがいのあるものだと思っています。 -杉原- 複数の顔を持つ多忙な日々の中で、プライベートとの両立や、人生において大切にされていることはありますか? -加藤- 私が社長を目指した大きなきっかけの一つに、EOへの入会がありました。入社した2007年頃から、ずっと先輩方から「あのEOは凄い場所だ」と聞かされてきた、憧れの場所だったんです。 そこで学んだのは、経営のノウハウだけではありません。もっと根源的な人生観のようなものです。「人はいつか死ぬ」という現実と向き合ったとき、自分は最期をどう迎えたいか。仲間と深く語る機会がよくあります。 私の理想は、死ぬときに「あの当時は本当に頑張ったよね」と思い出を振り返り語り合える仲間が、周りにたくさんいてくれること。そして「ありがとうの輪」を広げていくことが、今の私の生きる指針になっています。 また、プライベートでは19歳の時に知り合った妻と今でも仲が良く、今年で共に歩んで30年目になります。家族が円満であることは、私の大きな支えです。 私生活は、順風満帆だったわけではありません。41歳のときに癌を患い、その後100万人に1人と言う病気を併発しました。先日「もう薬を飲まなくていい」とお医者さんに言われて、やっと病気との戦いが落ち着き、少し安堵しました。この経験があるからこそ、家族と仲間の大切さが身に沁みてわかるようになりました。 病気になり自分の弱さを知ったことで、本当の意味で「誠実、謙虚、感謝」という言葉が自分の中で一つに繋がった気がします。これからは、自分が支えてもらったように、今度は自分が誰かの支えになれるような、そんな人間でありたいです。 ◆「ベンチャーエコシステムの実現」に向けて -杉原- D-POPS GROUPでは、「ベンチャーエコシステムの実現を目指す」をスローガンにしていますが、その目標に共感する部分はどんなところですか?共にベンチャーエコシステム作りを目指す上での意識や活動などはありますか? -加藤- 実は、20年前の入社面接の際、後藤代表が3時間にわたって熱く語ってくれたのがデパートの構想でした。同じ建物の中にカフェがあり、携帯ショップがあり、香水ショップがある。それらが相乗効果を生んで顧客満足を作れたら最高だよね、という内容でした。 当時の内容は形こそ違いますが、それが今私たちが目指しているベンチャーエコシステムの原型だと思っています。 20年経ち、ビジネスモデルは変わりましたが、「人に喜びと輝きを提供する」という根底の想いは全く変わっていません。昔は自分たちが食べていくための仕事プラスアルファという感覚でしたが、今は教育支援など、より広い社会へ影響を及ぼせるほど遠心力がついてきた。その進化を肌で感じています。 -杉原- そのエコシステムをより強固なものにするために、加藤さんが日々意識していることは何でしょうか。 -加藤- これまで約5年おきに、決まって適度な「逆境」がやってきました(笑)。どんな追い風、向かい風が吹こうとも、私が意識しているのは、「持ち場を守れ」「常に挑戦」「3倍速成長」ずっと以前から掲げられてきたこの3つです。 私たちの社名(D-POPS GROUP:Dream-Produce One’s Plesure and Shining)にある喜びや輝きは、現状維持では決して生まれません。自分たちに心地よいストレッチをかけ、ありえないような高い目標にみんなで挑んでいく。その挑戦のプロセスこそが、3倍速の成長を生み、結果として誰かの喜びや自分たちの輝きに繋がっていく。 これを回し続けることが、私にとってのエコシステム作りそのものだと思っています。 ◆5年後の理想の姿 -杉原- 加藤社長、そしてフェイスフル社の「5年後の理想の姿」を教えてください。 -加藤- 「D-POPS GROUPの中で、ダイレクトマーケティングといえばフェイスフル(URIZO)」と誰もが想起するような状態に持っていきたいですね。 私はこれまで、入社から10年弱は「財務戦略」を、その後の期間は「M&A戦略」を担ってきました。ここに「マーケティング戦略」という3本目の柱をしっかりと確立できれば、グループの基盤として大きな貢献ができると考えています。過去に作った仕組みを次に引き継いだ人がブラッシュアップし、より強固なものにしていく。そんな理想を描いています。 -杉原- 新しく加わったURIZOというサービスは、今後の鍵になるのでしょうか。 -加藤- はい、鍵と思われるようにしていきたいです。2024年、上場企業の子会社を譲り受けての事業ですが、グループ全体のマーケティング戦略において極めて重要な役割を担うと考えています。今はまだ種の段階ですが、これをいち早く大きな芽に育て上げることが私の今の使命です。 -杉原- AIが普及する中で、マーケティングのあり方も変わってきています。今後の課題をどう捉えていますか? -加藤- 今はAIを使えば誰でも簡単に一次情報を入手し、マーケティング施策を打てる時代です。だからこそ、AIには真似できない差別化が不可欠です。 実は、そこにはかつての携帯電話と同じようなリテラシーの差があると感じています。デジタルが普及すればするほど、あえてお手紙のようなアナログなマーケティングが再び注目されたり、AI任せではない人の気持ちが乗った提案が価値を持ったりします。最新のツールと、人間ならではの工夫や熱量。この二つをどう掛け算していけるかが、これからの勝負だと思っています。 -杉原- 最後に、この記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします。 -加藤- これまでの経験を振り返ると、成功よりも大きな失敗の方が強く印象に残っています。それでも、失敗の中から学び、そして再びチャンスをもらい、何とか形にして、みんなが喜んでくれるものをいくつか作ってこれた。私にとってこのグループのステージは、何度でも挑戦させてくれる「フェアチャンス」と「リチャレンジ」の場です。 これからも失敗を恐れずに挑戦し続け、グループの中に新しい楽しさや価値を作っていきたい。もし、この記事を読んで私たちのエコシステムに共感してくれる仲間が増えてくれたら、これほど嬉しいことはありません。一緒に、世界が変わるような楽しい挑戦をしていきましょう。 ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   【株式会社ディ・ポップスグループ】 常務執行役員 経営企画室室長 加藤 貴博 【株式会社フェイスフル】 代表者:(共同)代表取締役 加藤 貴博 所在地:東京都渋⾕区渋⾕2-21-1 渋⾕ヒカリエ32階
  • INTERVIEW
2026.03.17
【グループ会社インタビュー】株式会社フェイスフル 加藤 貴博 社長 ~前編~
D-POPS GROUPでは、現在約25社のグループ会社が仲間となっています。 今回は、株式会社ディ・ポップスグループ 常務執行役員 経営企画室室長 及び 株式会社フェイスフル 代表取締役の加藤さんへインタビューいたしました。 (このインタビューは2025年12月に実施しました。) ◆入社の経緯 -杉原- 今回は、ディ・ポップスグループ 経営企画室室長でM&Aを担当されている加藤さんにお話を伺います。加藤さんは、グループ会社である株式会社フェイスフルの代表も務められています。本日はよろしくお願いいたします! 加藤さんは2006年8月にご入社されたと伺っていますが、それまでのご経歴と、入社の経緯を教えていただけますか? -加藤- 前職は仙台の会計事務所で、財務コンサルタントとして医療法人の設立支援やメディカルモールの開業支援などを担当していました。そこで5年ほどがむしゃらに働きました。 当時は、成果を出せば出すほど給与に反映される報酬形態の会社で、23歳という若さで地方企業に関わらず、年収500万円ほど稼いでいたんです。今から20年前の物価感覚で言えば、かなり破格の待遇だったと思います。 ただ、若くして稼げるようになった分、いつの間にか意識の矢印が「お客様」ではなく「自分の収入」に向いてしまっていました。「このお客様なら、この位の保険を契約してもらえるな」と、自分の利益を優先して考えてしまう。そんな慢心があったのだと思います。 そんな時、学生時代のアルバイトから大変お世話になり、恩人が独立して事業を始められたんです。その社長は「加藤が頑張っているなら」と私の最初のお客様になってくれました。しかし、私が昇進したことで、直接その方を担当するポジションから外れてしまい、気持ちが離れてしまいました。しばらくして、彼の事業が行き詰まり、廃業してしまったんです。 普通高校で簿記を学び始めた頃、私は「将来、社長の役に立ちたい」という純粋な志を持っていました。それなのに、目先の利益に目が眩み、大切な恩人の変化にも気づけなかった。自分の慢心が招いた結果だと、激しい後悔に苛まれました。 「社長を外部コンサルタントとして遠くから支えるよりも、近くの1人の社長の右腕になったら、どれだけ社長を支え、事業をスケールできるだろう」と思って転職活動をはじめしました。 -杉原- そのときに後藤社長に出会われたんですか。 -加藤- はい。当時、ディ・ポップスともう一社の2社を受けていました。 もう一社の方は、内定後すぐに「今すぐ入社してほしい」という条件でした。しかし、当時の私はまだ仙台に住んでおり、娘が生まれる直前というタイミング。どうしても「3ヶ月待ってほしい」と伝えましたが、それでは難しいと断られてしまったんです。 一方、後藤社長は違いました。私の事情を正直に伝えると、「分かった。3ヶ月待つよ」と言ってくださったんです。その懐の深さに触れ、ディ・ポップスへの入社を決めました。 今でも忘れられないのは、面接の密度です。1次・2次と2回を行ったのですが、すべて後藤社長が自ら面接対応してくださり、それぞれ3時間以上、計6時間以上も将来の目標や想いを聞き、できる事をお伝えしました。あの濃厚な対話があったからこそ、この人の元で再出発しようと確信できました。 ◆入社当時のディ・ポップスについて -杉原- 3時間!すごいですね。加藤さんが2006年に入社した当時の役割は何だったんでしょうか? -加藤- 当時の私の役割は「バックオフィス全般を任せたい」ということで、幹部候補として管理部採用でしたが、いざ入ってみると驚くような状態でした(笑)。 たとえば、全店舗の売上入金を私一人で担当していたんです。当時はまだ割賦販売(ローン)が普及していなかったので、各店舗の金庫には毎日何百万円もの現金が貯まっていました。それを回収して、店舗から一番近い銀行のATMまで運んで、後で分かる様に1日分ずつ入金するということをひたすらやっていました。5-6店舗回ると夕方になり、そこから帰社して、現金照合したり経理処理する日々です。 組織の雰囲気も、まさに戦場です。「生き残るためには隣の競合店を蹴落としてでも、結果を出す」という強烈な雰囲気を感じる競争の中にいました。正社員もアルバイトも派遣スタッフも関係なく、全員がひたすら目の前の販売台数(売上)だけを追いかけている、そんな時代でした。 -杉原- 管理体制も今とは全く違ったのでしょうね。 -加藤- そうですね。当時は勤怠確認を出社FAXという仕組みでやっていました。スタッフが店舗に出勤したら本社にFAXを送る。そうしないと店が開いているかどうかも把握できなかったんです。それでも、お客様から本社に「今日、店が開いてないんだけど?」と電話がかかってくることがありました(笑)。 その後、ITシステムを導入しましたが、今度は店舗の外から勝手に打刻してしまうスタッフが出てきてしまって。結局打刻だけでは意味がないということになったんです。 そこで次に導入したのが、店舗のFAXを使って「朝のクレドテスト」に回答させるという方法でした。ところが、これも知恵が働く人がいて、なんとFAXのタイマー送信機能を使って不正をしようとする。まさに不正アクセスや不正打刻とのいたちごっこで、制度そのものを根底から考え直さなければならない時代でした。 -杉原- そこからどのように今のような組織へと変わっていったのでしょうか。 -加藤- 大きく変わったのは、2007年から2008年頃にかけて新卒採用を始めたあたりからだと思います。それまでの数字さえ出せれば何をしてもいいという文化から、教育を受けた新卒社員が入ってくることで、組織の意識がガラッと変わっていきました。今振り返ると、あれが大きな転換点だったと思います。 -杉原- 加藤さん自身の考え方が変わったのはいつ頃だったのでしょうか。 -加藤- はい、人生観が変わるような大きな変化がありました。 昔から後藤代表は、経営状況の報告で銀行などを訪問する際にも常に「誠実・謙虚・感謝」という言葉を聞かされていました。当時は正直なところ、私にとってはただの呪文のようにしか聞こえていなかったんです。でも、長年組織に向き合ってきた今では、あの言葉が本当に腹落ちして、深く納得できるようになりました。 ◆組織の土台づくり -杉原- 2017年のグループ経営移行前、ディ・ポップス時代には、経営企画としてありとあらゆる業務を担われていたそうですね。 -加藤- はい。M&Aを本格化させるまでの約10年間は、とにかく組織の土台づくりに奔走しました。当時はまだ社労士さんとの契約もなく、労務管理も後藤代表のお母様が担当されていたような状態でしたから、まずはそこを専門的な制度に切り替えることから始めました。 他にも、現金管理のタイムラグをなくしてキャッシュフローを可視化したり、当時は存在しなかった実績管理の仕組みを作ったり。季節係数を盛り込んで店舗別の精緻な数字を算出したり、店舗別損益を管理したりと、経営判断をするための数字を一つずつ整備していったんです。 -杉原- そうした緻密な制度設計がないと、現在の規模での経営は不可能ですよね。 -加藤- おっしゃる通りです。ただ、一方で仕組みを整えながらも、ずっと大切にしてきたのは「店舗スタッフの感情移入接客」という現場の熱量と想いでした。 入社直後に、後藤代表と1週間かけて一緒に全店舗を回るオリエンテーションがあったんです。店舗の前で1時間ほど接客の様子を見ながら、後藤代表とディスカッションさせていただきました。。 後藤代表は、「あの店長は数字こそ平凡かもしれないけれど、お客様から圧倒的な支持を得ているんだ。見てごらん、お客様があんなに笑顔で帰っていく。店舗によって笑顔の形は違うけれど、あれがうちの強みなんだ」と教えてくれました。 ただ数字を管理するだけでなく、その裏側にある現場の温度感やお客様との絆を肌で感じさせてもらった。その経験があったからこそ、管理のための制度づくりだけでなく、心の通った組織運営の制度を意識できたのだと思います。 -杉原- 店舗の運営や、事業の現場に直接関わることはあったのでしょうか? -加藤- 店舗のオペレーションを正確に把握するために、2週間だけ現場に入ったことがあります。現場でどこにどのような課題があるのか、その流れを一通り理解した上で、再び本社の業務に戻りました。 入社時は管理部という所属でしたが、私の出す提案が企画寄りであったり、工夫や改善を求められる内容が多かったりしたこともあって、「『経営企画』という名前に変えて、もっと外に出て動きなさい」とアドバイスをいただいたんです。そこから約10年間、経営企画として長く務めることになりました。 ◆M&A戦略の始動とフェイスフルとの出会い -杉原- 2017年にフェイスフルの代表取締役に就任されていますが、ここにはどのような背景があったのですか? -加藤- グループが売上100億円を達成した2015〜16年頃、販売制度の変更という大きな逆風が吹いたんです。3ヶ月で1億円の赤字を出すという、グループにとって2度目の大きな危機でした。 この時、当時の幹部メンバーたちが「守りに入るのではなく、挑戦する姿勢を見せよう」と、それぞれが新しい領域へ踏み出すことになりました。人事を担当していた堀さんが、グッド・クルーの社長として牽引したり、岩間さんがM&Aで譲受したジーネクストの社長に就任したり。藤田さんがアドバンサーを、保坂さんがSTAR CAREERを設立したりと、当時の幹部から大きく動き出しました。 その中で、私はM&Aの責任者を任されることになりました。 -杉原- M&A戦略へと舵を切ったのは、必然だったのでしょうか。 -加藤- そうですね、私が担当したのは自然な流れでした。後藤代表は以前からM&Aをやりたいと仰っていましたし、自社内のリソースだけで積み上げるビジネス(オーガニック成長)だけでは、成長の角度を劇的に上げることはできないという危機感がありました。労働集約型のモデルだけでは、成長を逆算して描くのが難しかった。そこで、M&Aを成長戦略の柱に据えることになったんです。 実はフェイスフルという会社も、私がM&A担当として譲り受けた会社の一つでした。 -杉原- 自らM&Aを決めた会社の代表に、そのまま就任されたわけですね。 -加藤- はい。M&Aの1号案件はgraphDという会社で、そして2社目に買収したのがフェイスフルでした。自分で買収を提案して推した会社ですから、その後の舵取りも自ら引き受けることになったというのが代表就任の経緯です。 -杉原- 2015年から16年にかけて、組織のあり方が激変したのですね。 -加藤- まさに、今のグループ経営の土台が作られたスタートの時期でした。 -杉原- M&A担当として2社目に買収したのがフェイスフルとのことですが、当時の事業概要を教えてください。 -加藤- 実は、M&Aした直後数ヶ月でピボット(事業転換)を余儀なくされたんです。 当初、フェイスフルは記事制作代行の事業をメインで行っていました。ところが、そのタイミングでキュレーションメディアの信頼性問題が社会的に発生し、業界全体に激震が走ったんです。その煽りを私達も受けて、私たちの手がけていた記事も炎上してしまいました。 売上の7〜8割を占めていた主力事業が続けられない状況になり、一気に大赤字に転落。普通ならM&Aは失敗だったと諦めてしまうような局面でしたが、ここで撤退してしまえば次の一手が打てなくなります。そこで、不採算となった旧事業を切り離し、再起を図ることにしたんです。 ◆持続可能なBtoBモデルの構築へ -杉原- そこからどうやって、現在の事業へと作り替えていったのですか? -加藤- 現在に至るまでの事業は、買収したときの中身を引き継いだのではなく、完全にゼロから作り上げたものです。 当時、弊社の社外取締役でファインドスターグループの内藤社長が、取締役会で「既存のビジネスを少しずつずらしていくと、新しいビジネスチャンスが見つかるよ」というアドバイスをいただいていました。そこで、「もし自分たちが携帯電話を店舗販売していなかったら、何ができるだろう?」と考え、ターゲットを法人(BtoB)に絞った通信コンサルティングに振り切ることにしたんです。 新規事業を立ち上げたわけですが、当時、私はずっとディ・ポップスグループの役員で銀行担当も兼務していました。周囲からは「現場が疲弊しない、持続可能なビジネスを作ってくれ」という期待もあり、それなら「銀行をリファラルパートナー(紹介者)に迎えたモデル」がベストだと思い付き、ご提案してパートナーになっていただきました。 ◆フェイスフルの強みと「働く仲間」への想い -杉原- 現在のフェイスフルの事業を一言で表すと、どのような事業になりますか? -加藤- 一言で言えば中小企業の支援事業です。もともとはメディア事業を譲り受けたわけですが、それをピボットし、全く新しい形で中小企業の課題解決を行う現在のコンサルティングモデルを構築しました。 -杉原- 数あるコンサルティング企業の中で、フェイスフルの強みはどこにあるのでしょうか。 -加藤- やはり、長年携帯ショップを経験を積んできたスタッフがコンサルティング提案するので、ノウハウをすべて活かせることが、圧倒的な強みですね。 他社の法人向けOA機器サービス会社は、商材を売って終わりの売りっぱなしになりがちです。その後のフォローが難しいし、キャリアさんとの深い付き合いがないので、踏み込んだ調整も難しい。 私たちはキャリアさんとの強固なリレーションを背景に、公正中立な比較提案ができますし、何より現場を熟知したメンバーがそのまま移籍して活躍できる環境があります。 -杉原- 働くメンバーの環境という視点も、事業立ち上げの背景にあったのですね。 -加藤- 実は、そこには裏の目標もありました。店舗業務はどうしても土日がメインになりますが、BtoB(法人向け)事業であれば平日メインの働き方を作ってあげられる。 メンバーがキャリアアップしていく中で、より高い専門性を身につけ、付加価値を乗せていける。そんなBtoBの領域を深掘りすることで、働く仲間の将来の選択肢を広げたかったという想いがあります。 -杉原- 店舗での店舗営業(BtoC)から、法人営業(BtoB)への転換は、メンバーにとってかなり高いハードルだったのではないでしょうか? -加藤- そこはもう、今でも大きな葛藤があり、試行錯誤の連続です。営業スタイルも必要な知識も全く違いますから、その超えられない壁は想像以上に大きいものでした。 フェイスフルのメンバーは圧倒的にグループ内からの転籍組が多いのですが、最初から法人営業として募集し、専門特化して作られた組織とは立ち上がりの性質が異なります。いかにして店舗で培った接客力を、法人の課題解決力へと昇華させるか。そこは常に組織としての課題であり、挑戦でもありますね。 ~後編に続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   【株式会社ディ・ポップスグループ】 常務執行役員 経営企画室室長 加藤 貴博 【株式会社フェイスフル】 代表者:(共同)代表取締役 加藤 貴博 所在地:東京都渋⾕区渋⾕2-21-1 渋⾕ヒカリエ32階 次回後編のインタビューでは、 ・M&A責任者としての奔走 ・「人」を重視するD-POPS GROUPのM&A ・後藤代表が大切にする「気の流れ」 ・「ベンチャーエコシステムの実現」に向けて ・5年後の理想の姿 などについてお伺いしています。 後編もぜひご覧ください!
  • INTERVIEW
2026.03.12
外国人向けサービスアパートメント「SUMII」を展開する株式会社Sumiiと資本業務提携を締結
「社会に変革をもたらす多数の成長ベンチャーを輩出する」ことをミッションに掲げる株式会社ディ・ポップスグループ(本社:東京都渋谷区、代表取締役:後藤 和寛、URL:https://d-pops-group.co.jp/、以下『当グループ』)は、外国人向けサービスアパートメント「SUMII」を運営する株式会社Sumii(本社: 東京都中央区、代表取締役CEO: Daniel Lim、URL:https://www.livesumii.com/、以下『Sumii社』)と資本業務提携を締結いたしました。 ■出資の背景 当グループは、ベンチャーエコシステムの実現を掲げ、2017年よりM&AやCVCを積極的に推進してまいりました。現在ではグループ会社数25社、投資先企業35社の大規模なグループに成長し、ベンチャー企業やスタートアップ企業の支援を拡大しております。 今回出資したSumii社は、東京を中心に家具付きサービスアパートメントを提供するスタートアップです。シンガポール出身の共同創業者であるDanielとJing Xiangが、自ら日本で物件を探す際に直面した「煩雑な契約手続き」や「言語の壁」という実体験に基づき設立されました。 現在、日本国内では訪日外国人旅行者の急増に加え、長期滞在を希望する層や「デジタルノマド」と呼ばれる層が拡大しています。Sumii社は、、六本木、表参道、代々木、恵比寿といった都内各地のプライムロケーションを中心に物件を展開しています。洗練された家具・家電はもちろん、キッチン用具やリネン類、高速Wi-Fiまでを完備し、スーツケースひとつで日本での生活をスムーズに開始できる環境を整えています。 また、水道光熱費込みのシンプルな料金体系や、オンライン完結型の入居プロセスにより、従来の不動産契約に付随する手続きの負担を大幅に軽減。日本での生活を希望する外国人のニーズにワンストップで応える、次世代の居住インフラを構築しています。 当グループのCVC活動における不動産活用・店舗開発の支援事例としては、2024年に資本業務提携を行った株式会社The Salons Japanなどが挙げられます。このように、祖業である株式会社ディ・ポップスの店舗開発で培った不動産開拓ノウハウや人、街に対する知見を活かせる領域への投資を強化しております。 なお、今回の資本業務提携に伴い、当グループのアドバイザーである杉原 眼太が、Sumii社の取締役に就任いたします。今回のSumii社への出資においても、土台となる不動産開発の支援はもとより、店舗営業で培ったノウハウを提供することで、同社のさらなる成長をバックアップしてまいります。 ■各社 代表取締役コメント ◎株式会社Sumii 代表取締役 Daniel Lim この度、ディ・ポップスグループからご支援をいただけることが大変光栄に、そして心より嬉しく思っています。ディ・ポップスグループが持つ広範なネットワークと専門知見という後押しを得ることで、Sumiiをさらなる高みへと引き上げることができると確信しています。 個人的にも、ディ・ポップスグループが目指す「ベンチャーエコシステム」のビジョンには非常に感銘を受けてきました。その一員になれたことを誇りに思うとともに、後藤さん、そして杉原さんから多くのことを学ばせていただくのを楽しみにしています。 ◎株式会社Sumii 取締役 Jing Xiang Lin 東京の活気あふれる街並みや豊かな文化を体験しに世界中からやってくる人々と出会う中で、私は度々同じ悩み、つまり「住まい探しがとても煩雑だ」という不満を耳にしてきました。私たちは、そうした摩擦を取り除いた居住空間を構築しています。 しかしそれ以上に、私たちは、グローバルな視点を持つ居住者の方々が日本に到着した瞬間から「我が家」のように感じ、周囲との繋がりを持てるようなコミュニティを創り上げたいと考えています。 ◎ 株式会社ディ・ポップスグループ 代表取締役/CEO 後藤 和寛 この度、株式会社Sumiiに出資させていただき、弊社が推し進めるベンチャーエコシステムに、また将来性溢れる素晴らしい起業家が仲間に加わったことを、大変嬉しく思っております。 弊社は現在、起業家の成長プラットフォームであるベンチャーエコシステムの実現に向けて尽力しておりますが、心から応援したいと思える起業家に出会えることは、まさに「一期一会」だと思っております。競争優位性のあるビジネスモデルやマーケットの成長性などは当然重視しながらも、起業家としてのポテンシャルが最も重要であると考えています。創業者のDanielとJing Xiangにお会いして、様々なお話をお伺いしながら感じたことは、「将来有望なリアルアントレプレナーに出会うことができた」その一言に尽きます。起業家としての能力を兼ね揃えていると感じた瞬間(インスピレーション)は、今でも心に焼き付いています。 今回は、通常のCVC投資よりも大きく踏み込んだ、資本業務提携という形で、お二人とSumii社のこれからの成長を支援させて頂き、近い将来、世の中に大きなインパクトのある事業を生み出すことが出来ればと、非常に楽しみに思っております。 引き続き、ベンチャーエコシステムの実現に向けて、起業家そしてベンチャー企業にとって成長する土壌となるようなステージや環境をより整えていくことで、未来に多数のユニコーン企業を生み出し、社会に貢献していくことを目指して参ります。今後も、Sumii社と共に成長し、両社の企業価値の向上に努めてまいります。 ◎株式会社ディ・ポップスグループ アドバイザー 杉原 眼太 私事、グローバル企業で長く勤めましたが、海外社員の間で東京支社は常に人気の転勤先でした。一方、日本のスタートアップでも、当社の出資先も含めて、創業時から世界展開を見据え、多国籍なチーム作りをしているケースが増えています。また近年、桜の咲く春だけ、紅葉の美しい秋だけ、日本で数ヶ月過ごすというインフルエンサーもいると聞きます。 Sumii社は、このような目的で来日する外国人が、身一つで直ちに住環境を整えられるサービスを提供しています。SUMIIルームの広がりにより、ここ日本で世界中からの高度人材と日本人との間で知見の共有やポジティブな交流が盛んになること、そして彼ら彼女らが日本の街や文化の魅力を発信していただけることに繋がれば、素晴らしいことだと思います。 連続起業家である創業者のDanielとは5年前に出会いましたが、当初からその明るい人柄と起業家センスに魅かれていました。このたび、彼が長年の友人であるJing Xiangと新しく始めた事業に、共に取り組めることを大変嬉しく思います。 ■ 株式会社Sumii 企業概要 会社名:株式会社Sumii 代表者:代表取締役 Daniel Lim 所在地:東京都中央区湊二丁目11番1号シティタワー銀座東1019 設 立:2024年8月 コーポレートサイト:https://www.livesumii.com/ インスタグラム:https://www.instagram.com/livesumii/
  • プレスリリース
2026.03.10
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