COLUMN

起業家の未来が変わる1日。ベンチャーエコシステムサミット2025、熱狂の舞台裏~前編~

  • INTERVIEW
2026.02.17

今回は、2025年10月に開催したベンチャーエコシステムサミット2025の主催である後藤社長と運営本部の3名にインタビューいたしました。
(このインタビューは2025年12月に実施いたしました。)

◆イベントを終えての感想

-杉原-
本日は、「ベンチャーエコシステムサミット2025」の主催者である後藤社長と、運営本部の柴田さん、松谷さん、川口さんにお話を伺います。

まずは、イベントの大成功、本当におめでとうございます!参加者の方々からの反響も凄まじかったですし、私自身も一参加者として心から楽しませていただきました。大きなプロジェクトを終えられた今、率直なご感想をお一人ずつお聞かせいただけますか。

-後藤-
今はただ、安堵の気持ちでいっぱいです。というのも、起業家の方々は非常に目が厳しいんですよね。たとえ言葉で「よかったです」と言ってくださっても、本心でなければ表情ですぐに分かってしまいます。もし納得いかない点があれば、遠慮なく直接フィードバックをくださる方々ばかりですから。

そうした厳しい視点を持つ起業家の皆さんに満足していただけるイベントを無事に開催できた。その意味では、とにかく「ホッとした」という言葉に尽きますね。

-杉原-
全力を出し切ったかと思いますが、イベント終了後に体調を崩されたり、熱を出されたりしませんでしたか?

-後藤-
幸い高熱までは出ませんでしたが、一瞬ガクッときましたね(笑)。やはり本番までは気を張っていたのか、翌日は何とも言えない脱力感というか、ぐったりしてしまいました。

-杉原-
本当にお疲れ様でした。それでは続いて柴田さんお願いします。

-柴田-
そうですね、私も後藤社長と非常に近いのですが、一言で表すなら「熱狂」と「安堵」、この2つに集約されます。

ただ、私の感じた「安堵」は後藤社長のものとは少し性質が違っていて、まずは何よりも「無事にイベントを完走できた」という事務局としての安堵がひとつ。

そしてもうひとつは、今回私はグループの事務局長という立場で参加させていただいたのですが、準備期間中は運営本部の皆さんに少なからず負担をかけたり、思い通りに進まず苦労した場面もありました。だからこそ、終了後に皆さんから「素晴らしいイベントだった」という言葉をいただいたとき、ようやく肩の荷が下りたような安心感がありました。

振り返ってみれば、準備から本番まで走り抜けたあの期間は、まさに「熱狂」そのものだったなと感じています。

-杉原-
皆さん本当に生き生きとされていて、内側から輝いているようでしたね。続いて、松谷さんはいかがでしょうか。

-松谷-
私は今、静かに込み上げてくるような充実感に包まれています。イベントの最後、千本さんのご講演と後藤社長の締めのご挨拶を伺っている時、形容しがたいほどの感動を覚えたんです。

この形で開催できて本当に良かった。まるで、重厚で美しい交響曲を聴き終えた時のような、晴れやかな心地でした。会場全体のバランス、そして登壇者の方々や参加者の皆さんが放つ凄まじい熱量とパワーを肌で感じ、「このイベントを形にして、本当に良かった」と心から実感しました。

また、スタッフ一人ひとりの動きも素晴らしかったです。私たちが大切にしている「感情移入」というスタンスを、全員が現場で体現してくれていたことも印象的でした。

-後藤-
スタッフの動きについては、参加者の方々からも本当によく褒めていただきました。スタッフの細かな動きまでしっかり見ているあたりは、さすが経営者の方々だなと感心しましたね。

駅から会場までの道中、看板を持って誘導に立ってくれていたスタッフもいましたが、屋外での案内業務は想像以上にハードな仕事です。そうした陰の努力まで見てくださった社長の皆さんが、「運営が本当に素晴らしかった」と口々に仰ってくれました。会場内での細やかな配慮も含め、皆さんの対応は一貫して見事なものでしたね。

-杉原-
ありがとうございます。それでは、川口さんお願いいたします。

-川口-
私も皆さんと同じく、まずは無事に終わってホッとしたという思いと、まだ10月ではありましたが「この1年をやり遂げた」という達成感でいっぱいです。

実は、このイベントの準備をスタートしたのは2024年の12月からなんです。ホテルの会場見学から始めたのですが、当初は予約を取ること自体が難しく、日程調整に奔走したところからのスタートでした。そうした経緯もあり、自分の中ではこの1年間の全エネルギーを注ぎ込んだような感覚があります。

今年1年、「ベンチャーエコシステムサミットを成功させよう、盛り上げよう!」という強い気持ちで走り続けてきました。10月にしては少し気が早かったかもしれませんが、自分にとって今年最大のミッションを終え、今は心地よい脱力感に包まれています。

◆イベント開催の理由

-杉原-
1年も前から準備を重ねてこられたのですね。一参加者として、後藤社長の熱い想いがダイレクトに伝わってくる素晴らしいイベントだと感じました。改めて、ベンチャーエコシステムサミットを開催しようと決めた背景や理由を教えていただけますか。

-後藤-
D-POPS GROUPでは毎年、年末のグループ総会に、KDDIの共同創業者であり弊社の会長を務める千本さん、そして元駐米大使で弊社顧問の藤崎さんが登壇しています。お二人の話には、毎年魂を揺さぶられるような「特別なもの」を感じるんですよね。

ふと思ったんです。これほど価値のある体験をグループ内だけに留めておくのは、社会的な損失ではないかと。内輪だけで完結させるのではなく、今まさに全力で挑戦している起業家の皆さんに「見て、聴いて、感じてほしい」と考えたのが、一番の動機です。

それと同時に、これまでにない「ベンチャーエコシステム」を構築し、社会の役に立つプラットフォームを作ろうとしている。その私たちの姿勢を多くの方に知っていただきたいという思いもありました。

世の中にはVCやエンジェル投資家、国や自治体による支援など、多種多様なベンチャー支援が存在します。しかし、現状はどこか「縦割り」なんですよね。あらゆる角度から全方位的な支援ができるプラットフォームは、まだこの世に存在しないと思っています。もちろん、我々もまだその完成形には達していません。ですが、このエコシステムに関わる起業家やメンバーが、「自分たちは世界で初めてのプラットフォームを作り上げようとしているんだ」と実感できる場所まで辿り着きたいと考えています。

その構想を世の中にしっかりと伝えていくためには、今回のタイミングがベストでした。あれだけの起業家が集まれば、彼らのインフルエンサーとしての発信力は凄まじいものがあります。1人が10人に伝えてくれれば、一気に数千人にまで広がっていく。素晴らしい起業家の皆さんにエコシステムの意義を伝えることは、今後の展開において非常に大きな意味を持つと確信しています。

-杉原-
確かにおっしゃる通りですね。一般的なイベントであれば、たとえ1,000人の来場者が集まったとしても、その中には会社の指示でやむを得ず参加している方や、途中で集中力が切れてしまう方もいらっしゃるのが現実です。

しかし、今回のサミットは参加者全員が経営者。会場全体の「この1日で何かを学び取ろう、吸収しよう」という意識の高さには、圧倒されるものがありました。

-後藤-
実は今回の参加者の皆さんは、全員私からの直接招待なんです。私の周囲には情熱的で努力家な方が非常に多く、本当はもっとたくさんの方をお呼びしたかったのですが、会場キャパシティの関係でお声がけを断念せざるを得ない方もいたほどでした。

それだけに、選ばれた参加者の皆さんはこのイベントに対して並々ならぬ熱量を持って臨んでくれました。あの会場の熱気は、そうした志の高い方々が集まってくださったからこそ生まれたものだと思います。

-杉原-
参加者の皆さんも、並外れて成長意欲の高い方ばかりでしたね。当日、お客様対応を一手に引き受けられていた柴田さんは、現場で皆さんの熱量をどのように感じていましたか?また、運営にあたって苦労された点などもあれば教えてください。

-柴田-
冒頭で感想として挙げた「熱狂」という言葉は、まさに会場の「熱量」そのものを指しています。

正直なところ、私も仕事柄さまざまな勉強会に参加する機会がありますが、やはり杉原さんがおっしゃるように「会社の指示で来ているんだろうな」という空気感の方を見かけることも少なくありません。 ですが今回のイベントでは、全体を俯瞰する運営の立場から見ていて、参加者の皆さんが一瞬たりとも目を逸らさず、全員が顔を上げて登壇者の方々を凝視していた光景が非常に印象的でした。「この一瞬からすべてを学び取り、絶対に自社に活かしてやろう」という本気の気迫が、後方にいてもひしひしと伝わってきたんです。客席でこれほどですから、壇上の方々はより一層強いエネルギーを感じていたのではないでしょうか。

苦労した点について、結果的には取り越し苦労で終わったのですが、準備段階では後藤社長と「いかにして経営者の方々に集中してもらうか」という戦略をかなり練り上げました。 経営者の皆さんは意思が強く自由な方が多いので、最後まで飽きさせないコンテンツの内容や登壇の順番、緻密な時間配分など、細部まで徹底的にこだわったんです。

ただ、いざ蓋を開けてみたら、そこには後藤社長が心から信頼して招待した方々の姿がありました。登壇者も参加者も、驚くほど「誠実・謙虚・感謝」を重んじる方ばかりで、全員が自分事として本気で参加してくださった。苦労するだろうと覚悟して準備したことが、拍子抜けするほどスムーズに進んだことが、私の中では一番の驚きであり、深い感銘を受けたポイントでした。

◆イベントの出演者について

-杉原-
ありがとうございます。今回のセミナーは、登壇者のラインナップも非常に豪華でしたね(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。まずは、千本さんや藤崎さんといった日本を代表する方々に講演を依頼された経緯と、参加者の皆さんの反応について教えてください。

-後藤-
まず、千本さんと藤崎さんのご講演が聴けるというだけで、「何としても参加したい」と感じた方は相当多かったのではないでしょうか。

お二人の話がどれほどプライスレスな価値を持っているか。それは弊社のメンバーであればよく理解していますが、多くの起業家にとっても同様です。千本さんは、挑戦を続ける起業家なら誰もが一度は直接お話を伺いたいと願う存在ですし、一方で藤崎さんのような、元駐米大使という立場で外交や国際情勢の最前線にいらした方のお話は、経営者といえども普段はなかなか触れる機会がありません。

しかし現在、世界情勢は激動の中にあります。アメリカや中国といった大国の動向がビジネスに直結する今、経営者の皆さんは非常に高いアンテナを張っています。だからこそ、藤崎さんの視点を知りたいというニーズは確実にありました。このお二人の登壇が決まった時点で、イベント成功に向けた「盤石な土台」は固まったと確信していました。

ですので、企画の真っ先に、まずはお二人にお願いすることを決めました。千本さんにご相談したところ、「素晴らしい試みだ。ぜひ私も参加するし、全面的に協力しよう」と即諾していただいたんです。当日のプレゼンテーションからも、お二人が本気で起業家たちにメッセージを届けようとしてくださっているのがひしひしと感じられましたね。

-杉原-
今回はさらに、ファインドスターグループの内藤社長や、NTTドコモビジネスの本髙様にもご講演いただきました。お二人に依頼される際、どのようなやり取りがあったのでしょうか。

-後藤-
内藤さんは弊社の社外取締役を務めていただいていますし、本髙さんも親友のような間柄ですので、お二人とも快く引き受けてくださいました。ただ、非常に深い関係性だからこそ、あえてこちらからも高いハードルをお願いしました。

相手は感度の鋭い起業家集団です。例えば内藤さんであれば、これまで数多くの講演や勉強会に登壇されていますが、「今までどこにも話したことがないような、一歩踏み込んだ内容をプレゼンしてほしい」とオーダーしました。資料も事前に提出していただき、こちらの意図を反映していただくようお願いしたのですが、私にとって内藤社長は兄のような存在の深い間柄だからこそ、そこまでの依頼ができ、それを引き受けて頂けたのだと思っています。

参加者の皆さんが満足し、納得するためには、全体の設計が極めて重要です。すべてのピースをフルスペックで揃え、内容に重複が一切ないよう、パズルを埋めるように構成を練り上げました。「今の起業家が求めているピースは何か」を徹底的に考え、それを埋めにいく感覚です。

例えば、数百億円規模の売上を築き上げた内藤さんがお話しされる横で、同じ規模感の社長が同じような話をしても重なってしまいます。だからこそ、大企業の視点というピースがどうしても必要でした。その役割を担っていただくには、人間的にも心から尊敬している本髙さんが最適だと考えたのです。

-杉原-
プログラムの構成ひとつとっても、そこまで綿密に計算されていたのですね。

-後藤-
そこはもう、めちゃくちゃ考えましたね。若手起業家による魂の揺さぶられるようなピッチや、書道家の岡西佑奈さんによるパフォーマンスもそうです。岡西さんのパフォーマンスは、当初はプログラムの最後に持ってくる予定でしたが、チームで議論を重ねた結果、あえて冒頭に持ってくることにしました。

最初にあの圧巻のパフォーマンスを観ていただくことで、会場の空気を一気に引き締め、参加者の意識を一点に集中させることができました。普段のイベントでは少しやんちゃな振る舞いをする社長さんも、この日ばかりは背筋を正して聞き入っていましたね。

岡西さんは華があるだけでなく、人間性も素晴らしく、彼女から放たれる気が会場を良いエネルギーで満たしてくれたのだと感じています。ちなみに、パフォーマンスで書き上げていただいた2枚のパネルは、1枚をヒカリエに展示し、もう1枚を抽選でプレゼントしたのですが、イベント終了後に「あのパネル、売ってもらえませんか?」と問い合わせがあったほど好評でした(笑)。

◆準備過程の裏話

-杉原-
確かに、あのパフォーマンスは素晴らしかったですね。制作物の手配や、書道家さんとの連携は川口さんが担当されたと伺いました。パフォーマンスを実現させるにあたって、準備段階で工夫されたことはありますか?

-川口-
後藤社長から「イベントで書道パフォーマンスをやりたい」というお話をいただいたとき、実は私が当初イメージしていたスケールと、社長が描いていた理想の大きさが、あまりにもかけ離れていたんです(笑)。

私は「1メートルくらいの高さかな」と予想していたのですが、いざ相談してみると、社長室に飾ってある大きなユニコーンパネルを指して「あれの倍、2メートルくらいの高さにしたい」と仰ったんです。「本当にその大きさで作るんですか・・・?」と何度か確認しながら、実際にメジャーでサイズを測り、最終的に「やはり2メートルの迫力が必要だ」という結論に至りました。

ただ、いざ発注しようとすると、それほどの特大サイズを制作できる業者さんがなかなか見つかりませんでした。見つかっても「紙を2枚繋ぎ合わせるしかない」「強度が保てるかわからない」という回答がほとんどでした。

そこで、弊社のオフィス内装を手掛けてくださったベストサポートシステムズさんに相談したんです。社内のユニコーンパネルをすべて制作してくださった実績がありましたので。内装業者さんにパネル制作だけの依頼ができるか不安でしたが、快く引き受けてくださいました。サイズはもちろん、ユニコーンの顔の位置といった細かなデザインの微調整まで、何度も何度もやり取りを重ねて完成させてくださったんです。彼らの真摯な協力がなければ、あのパフォーマンスは実現しませんでした。本当に感謝しています。

結果的にあのパネルは大好評で、参加された社長様から「自社のイベントでも使いたいから業者さんを紹介してほしい」というお声をいただいたり、書道家の岡西さんからも「とても書きやすい材質だったので詳しく知りたい」と問い合わせをいただいたりしたほどでした。

-杉原-
これほど盛りだくさんな内容のセミナーですから、当日の進行や準備にも相当なご苦労があったかと思います。進行担当の松谷さんは、当日の朝3時に起きて進行台本を完成させたと伺いました。進行を司る上で、特にこだわったポイントを教えてください。

-松谷-
後藤社長には「起業家の未来が変わる1日にする」という明確なビジョンがありました。私の役割は、その想いをいかに具体的な形に落とし込むかだ。そう考えていました。 イベント運営において最も避けるべきは、進行が滞ることで参加者の集中力を削いでしまうことです。参加者の皆さんに余計なストレスを感じさせず、コンテンツだけに没入していただくにはどうすればいいか。そこを一番に考えました。

イベントの大きな流れは後藤社長が作り込まれていたので、私は、懇親会会場へ移動する際の誘導ルートやスタッフの配置、さらには飲食テーブルのレイアウトといった細部に至るまで徹底的にこだわりました。それらをいかに正確にスタッフ全員へ共有し、動いてもらうかという点に心血を注ぎましたね。

実は学生時代にも1,000人規模のプレゼンイベントを運営した経験があるのですが、当時は若さゆえに2日間一睡もせずに準備をしていました。さすがに社会人になるとそうもいかず、前日は深夜1時から3時まで2時間ほど仮眠をとってから最後の仕上げに取り掛かりました(笑)。

司会を務めていただいたトークナビの樋田さんには、前々日に台本のたたき台をお送りし、最終版をお渡ししたのは当日の朝でした。そんなタイトなスケジュールにもかかわらず、樋田さんは当日の変更や修正にも非常に柔軟に対応してくださり、抜群の安定感で進行を支えてくださいました。本当に感謝しかありません。

-杉原-
確かに、これだけの規模のイベントにありがちなミスやトラブルが、当日は一切見受けられませんでしたね。

-松谷-
ミスがなかったわけではないですが。(笑)実は事前の全体リハーサルも行えていなかったので、個人的には「奇跡的だった」と感じています。 スライド投影の最終確認なども当日の朝に行いましたが、会場スタッフの皆様の多大なるご協力のおかげで乗り切ることができました。会場の支配人の方も様子を見に来てくださり、途中で「本当に素晴らしい会ですね」とお褒めの言葉をいただいたことも、大きな励みになりましたね。

~後編に続く~

☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太

次回後編のインタビューでは、
・懇親会について
・運営メンバーについて
・後藤社長と準備を進める中で感じたこと
・「ベンチャーエコシステムの実現」について
などについてお伺いしています。

後編もぜひご覧ください!

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  • INTERVIEW
2026.04.02
スタートアップからスケールアップへ! 共に成長し、進化し続けるエコシステムの実現【Part 1】
D-POPS GROUPでは、日本のベンチャーエコシステムの発展を支援するため、多角的な活動を展開しています。2026年1月、その志を同じくする一般社団法人スタートアップエコシステム協会の代表理事、藤本あゆみさんへのインタビューを実施しました。 全3回にわたるインタビューのPart1では、協会の設立秘話や、現場の調査から見えてきた「資金調達よりも切実なスタートアップの課題」について深く掘り下げます。 (このインタビューは2026年1月に実施いたしました。) ◆協会の設立経緯:3年越しの構想と「宣言」 -杉原- 今回は、当社が目指す「ベンチャーエコシステムの実現」と非常に近い活動をしておられる、一般社団法人スタートアップエコシステム協会を4年前の2022年3月に設立した、代表理事の藤本あゆみさんにインタビューいたします。 まず初めに、この一般社団法人スタートアップエコシステム協会(以下、協会)を設立された経緯を教えていただけますか?CMOとしてPlug and Play Japan社に在籍中に設立されたのですよね。 -藤本- はい。設立したのは2022年ですが、実は構想自体は2019年、私がPlug and Play Japanに入ってすぐの頃から持っていました。 当時はアクセラレーターというカテゴリーが認知され始め、様々なプレイヤーが登場していた時期です。「1社でできることは限られているけれど、もっと横が繋がって広く連携すれば、スタートアップが成長する土壌(エコシステム)ができるのではないか」と考え、当時はまだ協会という名前ではありませんでしたが、ネットワーク化の企画書を書いていました。 ただ、当時は社内でも「意義はわかるけれど、今は難しいよね」という話になり、一度その案は寝かせることにしたんです。 それが再び動き出したのは、CIC Tokyoの1周年記念イベントに呼んでいただいたことがきっかけでした。そこで東京都副知事の宮坂さんや、CICの名倉さんたちとパネルディスカッションを行ったんです。 そのパネルの最中、何の文脈だったか「もっとスタートアップが育つ土壌として、こういう横の繋がりがあった方がいいですよね」と団体の構想があったという話をした際に、宮坂副知事「それはやったほうがいいよ」とコメントをもらい、セッションの最後に「というわけで、私がやることになると思うんですが」と、半分冗談、半分本気のような勢いで宣言してしまったんです(笑)。 その夜すぐに企画書を掘り起こして修正し、その日のうちにセッションの参加者の皆さんに送りました。特に名倉さんが「一緒にやりましょう」と強く背中を押してくださったので、「やります」と決断することができました。 それが2021年の後半。コロナ禍で先行きが見えない時期でしたが、だからこそ支援者同士が繋がって、日本のエコシステムを強くしようという目的が固まりました。 ◆支援側のネットワーク化 -杉原- 横の繋がりというのは、スタートアップ同士というより、支援側のネットワークを指しているのでしょうか? -藤本- 私たちは後者ですね。政府や自治体、事業会社、そして個人に至るまで、皆が動いているのになぜかバラバラで、連携しにくいという課題がありました。そこを繋ぎ合わせるのが私たちの役割です。 同時期に砂川さん(一般社団法人スタートアップ協会 代表理事)に声をかけたら、「実は僕たちも同じことを考えていた」と仰っていて。結果としてスタートアップ協会を含めて、4つほどの支援団体がほぼ同時期に誕生しました。それぞれ目的は違えど、スタートアップが育ち、日本経済に貢献する環境を作るというゴールは共通しており、今でも連携を続けています。 -杉原- Plug and Play社としては、最終的には別組織として活動することに合意されたのですね。 -藤本- はい。あらためて経営陣に話をしたら「今はやはり(業界全体のために)必要だよね」と理解してくれました。ただし、自社の事業としてではなく、中立な立場の一般社団法人としてやるべきだということで合意形成がなされました。 -杉原- 名倉さんや宮坂さんとは、そのパネルディスカッションの前から深いお知り合いだったのですか? -藤本- 数回お会いしたことがある程度でした。ただ、名倉さんとは以前テレビ番組でご一緒した縁があり、その時に「CIC Tokyoの1周年イベントに来てください」と声をかけてくださったんです。あのお誘いがなければ協会はできていなかったので、本当に感謝しています。 ◆協力体制の構築 -杉原- 協会の公式サイトを拝見すると、東京都をはじめとする自治体、著名な連続起業家、投資家、さらには政治家の方々まで、そうそうたる顔ぶれが名を連ねています。これほどのコネクションを、どのようにして築き上げられたのでしょうか? -藤本- 実を言うと、2019年の構想時点ではこれほどの方々を巻き込むことは難しかったと思います。2022年というタイミングだからこそ実現できたことですね。 活動を続ける中で、エコシステムに関わる多くのプレイヤーが連携や意見交換の必要性を感じ始めていました。そこで、名倉さんと私の二人で、このエコシステムに必要だと思う方々を知りうる限り全員書き出したんです。 そこから「こういう仕組みを作りたいので、ぜひ後押ししてください」と一人ひとりにお話ししました。当時はまだ具体的な活動内容まで決まっていなかったのですが、皆さん「それはぜひやるべきだ」と快諾してくださり、サポーターとして加わっていただけることになりました。 サポーターの皆さんは、政治家、経済団体、事業会社など、それぞれが異なる角度からスタートアップを支援している方々です。そうした方々の知見やネットワークが一箇所に集まるだけでも、エコシステム全体にとって大きな価値があると考えています。 -杉原- サポーターの方々には、具体的にどのような役割を期待されているのですか? 例えば総会でのスピーチや、特定の課題へのアドバイスなど、名前が載っている以上の具体的な活動についても伺いたいです。 -藤本- もちろん、イベントに登壇いただくこともありますが、あえて関わりを重くしすぎないことも大切にしています。 「サポーターになったからには、これをしなければならない」という義務を課すのではなく、必要な時にお互いに情報交換ができ、助言をいただけるような、フラットで風通しの良い関係を目指しました。 皆さん、深いコミットメントを強要しなくても、エコシステムの発展に対して非常にポジティブです。ここが必要な場所だと信じてくださっているからこそ、緩やかでありながらも強い協力体制が築けているのだと感じています。 ◆活動の3つの柱:情報共有・格差是正・海外連携 -杉原- スタートアップエコシステム協会が具体的にどのような活動をされているのか、その内容を教えていただけますか? -藤本- はい。主に3つの柱があります。 1つ目は、国内の情報を集めて共有することです。 いわばGoogleのエコシステム版のように、情報を集めて整理し、使いやすくすることを目指しています。(注:Googleのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」) 具体的な活動としては、『スタートアップエコシステムサミット』を毎年1回開催しています。 通常、スタートアップ関連のイベントといえばスタートアップが登壇するものですが、このサミットではスタートアップは一切登壇せず、支援者側が全員登壇するのが特徴です。 企業や政府、自治体などの機関が、「私たちはスタートアップに対して、今このような支援プログラムを提供しています」という内容を話します。 これはスタートアップ向けでもありますが、どちらかというとエコシステム内の情報共有を強化する狙いがあります。 意外と「隣の組織が何をやっているか知らない」ということが多いので、年に一度こうした場を持つことで、「あそこは今こんな風に進化したんだ」「この間はやっていなかったのに」といった気づきや、「ここが連携すると面白いよね」という機会を作る活動をしています。 これが国内向けの1つ目の柱です。 2つ目は、特にスタートアップに向けた情報の格差をなくすための活動です。 スタートアップの成長過程では様々なことが起こりますが、一番足りていないのは情報の格差だと感じています。 「本当は知っていれば、その障害につまずかずに済んだ」というものがたくさんあるので、それをなくしたい。 そのために、サミットに登壇する方々以外も含めたあらゆる支援情報を網羅したデータベースを作成しています。 また、スタートアップが非常に困っている採用の支援も企画しました。 採用のためのキャリアフェアなどは最初にお金がかかりますよね。 良い人が採れるかどうかもわからない段階で、スタートアップが40万円、50万円という費用を払うのは難しい。 そこで東京都と連携してキャリアフェアを開催し、採用イベントを行っています。 その中でも、例えば「学生がインターンをしたいけれど、大人が話しているブースに割り込んで『インターンやってますか?』と聞きに行くのは怖い」という声がありました。 そこから派生して、学生しか参加できないインターンシップフェスというイベントも生まれました。 こうしたスタートアップのための情報共有と活動が2つ目です。 3つ目がグローバルとの連携です。 エコシステムは日本国内だけで完結するものではありません。 海外のあらゆるエコシステムと繋がりたいと思っています。 日本に海外のスタートアップを連れてきたいというニーズもあれば、日本のスタートアップを海外に呼んでほしいというニーズもあります。 そうしたニーズの架け橋になるような活動をしています。 主にこれら3つの軸で活動を展開しています。 ◆現場の課題解決:資金よりも「採用と営業」 -杉原- 確かにスタートアップ関連のイベントというと、スタートアップがピッチをして投資家が審査するような関係性のものが多いですよね。 VCファンドや金融機関などが主催するイベントも、そうした形が一般的だと思います。 スタートアップを応援する側の人たちをすべて可視化して、支援者が主役になるという取り組みは、他ではあまり見かけません。 -藤本- そうですね。他ではやっていないと思います。 一般社団法人として非営利でしかできない活動だとも感じています。 ビジネスにはなりづらいけれど、みんなが必要だと思っていたことの一つなのかな、と思っています。 また、もう一つの活動として、政府への政策提言も行っています。 政府側にはなかなかスタートアップの現場の声が届きにくいという現状があるため、私たちがメインとなって調査を行い、スタートアップが今何に困っているのかという声を直接政府に届けるようにしています。 -杉原- 先ほどのお話にもあった、情報の格差や採用に関する課題などは、まさにそうですよね。 スタートアップにとって、採用は最も難しいことの一つだと思います。 -藤本- はい。実はそれも調査から導き出された答えなんです。 資金調達に関する支援は世の中にたくさんありますが、実際に調査をしてみると、資金面で困っているのは全体の30%ほどでした。 残りの多くが何に困っているかというと、採用と営業の2つなんです。 ここに関しては、支援プログラムが全然ありませんでした。 「具体的に何をすればいいのか」という場所もなかなかなかったので、東京都と一緒にキャリアフェアを作り上げてきました。 実は今年からは、私たちの手を少し離れて、独自に東京都の事業として自走してもらう形に移行しています。 私たちはそのきっかけとなる初めの仕組みを作った、という形ですね。 ~Part2へ続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太 【一般社団法人スタートアップエコシステム協会】 代表理事:藤本 あゆみ 所在地:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階 設 立:2022年3月30日 U R L:https://startupecosystem.org/   次回Part2のインタビューでは、 ・スタートアップエコシステムサミットについて ・海外との連携 ・世界の潮流:スタートアップからスケールアップへ ・新会社設立の背景 などについてお伺いしています。 Part2もぜひご覧ください!
  • INTERVIEW
2026.03.26
【グループ会社インタビュー】株式会社フェイスフル 加藤 貴博 社長 ~後編~
D-POPS GROUPでは、現在約25社のグループ会社が仲間となっています。 今回は、株式会社ディ・ポップスグループ 常務執行役員 経営企画室室長 及び 株式会社フェイスフル 代表取締役の加藤さんへインタビューいたしました。 (このインタビューは2025年12月に実施しました。) 前編の記事はこちらからご確認ください。 ◆M&A責任者としての奔走 -杉原- 一方で、加藤さんは現在もM&Aの責任者を兼任されています。代表を務めるフェイスフルの事業とM&A業務、その比重はどのようなバランスですか? -加藤- 心の重さで言えば、M&Aのプレッシャーが9割以上を占めていますが、費やす時間としてはフェイスフルの事業運営の方が長いですね。 特にM&Aに関しては、最初は全くの素人からのスタートでした。今は買い手の数が非常に多いため、普通に待っているだけでは良い案件なんて回ってきません。 -杉原- コネクションもない状態から、どのように案件を動かせるようになったのですか? -加藤- 最初の1年間は、とにかく泥臭く動きました。あらゆるM&Aセミナーに足を運ぶのですが、それらは大抵売り手を集めるためのものなんです。でも、私はあえて一番前の席に座って質問を繰り返し、最後に「どうすればあなた(仲介会社)と仲良くなれますか?」と正面からぶつかっていきました。 そうして誰も知り合いのいない懇親会に図々しく入り込んで、いつしか少しずつ仲良くなって。そうした人間関係の構築を1年間ひたすら繰り返す中で、ようやく1件目の案件として繋がったのがgraphDだったんです。 -杉原- M&Aの第1号案件となったgraphDですが、当時の本業からすると、少し意外なジャンルへの挑戦だったのではないでしょうか? -加藤- おっしゃる通りだと思います。1件目にしては「少し領域を広げすぎではないか」という懸念もありました。当初、私がこの案件を提案したときは、後藤代表も最初はそれほど乗り気ではなかったんです。 ところが、面白いように風向きが変わりました。主要な取引先である通信キャリアの方から「POP制作に強い会社と組むのは非常に面白いね」とポジティブな反応をいただいたんです。そこで代表も「やはり面白いかもしれない」と。 (※POP=Point of Purchase、販売促進用の広告物) さらに驚くべき後日談がありました。このgraphDという会社、実は後にディ・ポップスグループの常務執行役員となる渡辺さんが、かつてヨドバシカメラにいた頃に「こういうPOPの会社を作ったらいい、そうすれば事業が円滑に回るよ」とアドバイスをして立ち上がった経緯のある会社だったんです。 -杉原- そんな不思議な縁があったのですね。 -加藤- 当時は渡辺さんとの接点も全くありませんでした。そんな背景も知らないまま、私は自分の足で見つけてきた案件として提案していました。後からその事実を知って、点と点が線につながったような感覚でしたね。 私の20年を振り返ると、こうした混乱や偶然のような出来事がたくさんありますが、今になってようやく一つひとつのパズルが繋がり、今のグループの形になっているのだと実感します。 ◆「人」を重視するD-POPS GROUPのM&A -杉原- graphDのM&Aを皮切りに、これまでグループ入りした会社が15社ほどあるかと思いますが、それだけの数を形にする裏側では、膨大な数の案件を精査されていますよね。 -加藤- そうですね、数えきれないくらい見ています(笑)。今年だけでリスト化したものを見ても、300〜400件は精査しました。 M&Aの仲介会社さんからは「そんな条件の会社、他には絶対にないですよ」と言われることも多いです。たとえば「年商10億円以上の黒字企業」といった高いハードルを設けて絞り込んでいるので、そんな優良案件がそう簡単に転がっているはずがない、と。それでも私たちは、その中から本当に価値のあるものを絞り込む作業を続けています。 -杉原- 年間300〜400件を書類でレビューし、そこから面談に進むのはどのくらいですか? -加藤- 面談に進むのは、その中でもさらに厳選した案件だけです。ただ、その厳選するプロセスそのものが非常に重要だと思っています。 -杉原- 膨大な案件の中から、面談しようと決める際の判断基準や観点はどこにあるのでしょうか。 -加藤- よく仲介会社さんから「具体的な企業名や業種を提示してほしい」と言われるのですが、実はそれは難しいんです。 判断の基準は、取締役会などで議論されるグループの今の課題感と、私たちが持っている既存のリソースの掛け合わせにあります。グループのエコシステムがこれだけ出来上がってくると、業種のマッピングで見れば埋まっている場所が多い。その隙間をどう探しに行くか。 そして、あまりに遠い飛び地の案件は論外ですが、今の事業を補完する垂直統合型だけでも不十分だと思っています。 単に競合をM&Aして規模を大きくするのではなく、既存事業と組み合わせたときに面白い次の展開が描けるかどうか。常に「未来から逆算して、このピースがはまれば新しい価値が立体的に生まれるのではないか」という視点で、案件を見極めるようにしています。 -杉原- グループのポートフォリオにおいて、欠けているピース(隙間)を埋める案件が見つかったとします。書類審査を通過し、実際に経営者と面会する際、どのようなポイントをチェックされているのでしょうか? -加藤- 一番は「グループのメンバーと空気(カルチャー)が合うか」を非常に重視しています。 たとえ業種が違っても、言葉選びが違っても、根底にある価値観さえ同じであれば、お互いにリスペクトし合える。その直感を大切にしています。一方で、最初から一方的な話し方をされる方などは、やはり難しいと感じますね。 面談の際に私が気を付けてみていることは、面接天井になっていないか、ということです。 面接がピークで、その場だけお化粧をして自分を良く見せている状態のこと。でも、それは見抜けます。実際にDD(デューデリジェンス)の過程で、そのお化粧が剥がれて破談になったケースも過去にはありますから。 -杉原- その見極めのために、具体的にどのようなステップを踏んでいるのですか? -加藤- 私たちは、いわゆる圧迫面接のようなことは絶対にしません。お互いの夢を語り合ったときに、楽しい想像ができるかどうか。それを確かめるために、通常2回に分けてお会いします。 1回目は私一人でお会いし、2回目は後藤代表を交えて、より深い話をします。ただ、机上の話だけでは見えない部分も多いので、やはり夜の会食をご一緒するようにしています。 お酒を飲んだときにふと漏れる一言や、夢を語る熱量。そこまで踏み込んで初めて、相手の本当の姿が見えてくると思っています。 後藤代表の面談や会食は、3時間以上にも及びます。それだけ時間をかけて、相手の人生の背景までを深く理解しようとする。その熱量を受け継ぎながら、最後は「この人と一緒に未来を創りたいか」という、人間としての本質的な部分で判断しています。 -杉原- これまで手がけたM&Aの中で、特に印象的だった、あるいは苦労したケースについて教えてください。 -加藤- 私たちのM&A戦略は、経営者の成長支援を方針に掲げているので、買収と同時に創業者が引退するケースは非常に稀なんです。基本的には、創業者の方にそのままグループへ参画していただき、共に走り成長するスタイルをとっています。だからこそ、数少ないグループ入りと同時に創業者が引退されるケースのときは、託された想いのメッセージが、どれも非常に強く印象に残っています。 譲渡した後も、その方々に「あの時、このグループに託して本当に良かった」と思い続けてほしい。バトンを受け取った事業を新たな仲間とさらに大きくするのは、当然の義務であり、その対する意識は人一倍強く持っています。 -杉原- 一方で、苦渋の決断を迫られたケースもあったのでしょうか。 -加藤- そうですね。唯一、自分の中で今でも「あれが正解だったのか」と自問自答し続けているのが、M&Aした会社を最終的に別の会社に売却する形となったケースです。 経営上の判断や、キャッシュを回収できたというビジネス的な観点で見れば、時代の流れに沿った正しい選択だったのかもしれません。しかし、私は常に相手の懐に飛び込み、人の気持ちを大切にしながらクロージングまで伴走するスタイルです。店舗一軒一軒を大切にするのと同じ感覚で向き合っているからこそ、心残りがあります。 -杉原- それほどまでに人を重視するからこそ、価格以外の部分で選ばれているのですね。 -加藤- おっしゃる通りです。私たちの提示する買収価格は、他社さんと比べて必ずしも一番ではないと思います。むしろ高くないことの方が多い。それでも「あなたたちに任せたい」と言ってバトンを託してくださる経営者の方がいます。 高い価格を提示したから選ばれた理由ではないからこそ、託された想いに対する責任をより一層重く感じます。その信頼に結果で応え続ける為にグループで連携することが、M&A担当としての私の使命だと考えています。 -杉原- 先ほど非常にまれにバトンパスされる創業者の方もいらっしゃると伺いました。譲渡側の経営者は、あえて「こう育ててくれ」といった具体的な要望は口にされないとのことですが、加藤さんはどうやってその想いを受け止めているのでしょうか。 -加藤- 直接的な言葉として語られるわけではありません。ただ、最終的に私たちを選んでくださるまでの過程で、「なぜ他社さんを断ったのか」という理由は必ず伺うようにしています。仲介会社さんを通じて入ってくる情報も含め、その積み重ねが、経営者の方の言葉にできない想いとして大事にしていこうと思っています。 最も心に響くのは、引き継ぎ式の会食です。経営者の方が、残る社員の皆さんに向けて「今までありがとう。これからはこのグループで頑張ってね」と声をかける姿。その言葉は、私たちに対する「(この人たちなら)大丈夫だよ」という信頼の証でもある。その背中を見ていると、絶対に裏切れないという強い責任感を感じます。 ◆後藤代表が大切にする「気の流れ」 -杉原- M&Aのプロセスにおいて、後藤代表から言われた言葉で印象的だったものはありますか? -加藤- これはもう、一言「気の流れが悪い」ですね。これが一番大変です(笑)。 仲介会社さんも、1年に1件決まるかどうかという案件を必死で進めてきて、ようやくここまで漕ぎ着けた。そこで代表から「気の流れが悪い」と言われてしまうと、返す言葉がありません(笑)。 -杉原- 加藤さん自身は、精査を重ねて提案した案件に対してそう言われた時、納得感はあるのでしょうか。 -加藤- 正直なところ、昔は納得感は全くありませんでした。当時はまだ私自身、数字や事業シナジー、業界内でのポジショニングといった数字的な側面ばかりを見ていて、本質の人の部分が完全に見えていなかったんだと思います。 でも、何度もその答え合わせをしていくうちに、少しずつ理解できるようになってきました。「ああ、代表はここを気にされていたんだな」と。今では、感覚的に納得できる確率がかなり増えてきましたね。それでも時々、「この案件でもダメなんだ」と、自分の思い入れとの間で悲しくなることもありますけれど(笑)。 -杉原- 後藤代表は「気の流れ」以外にも、財務や業績などの面で、どのような視点を持って案件を見ていると感じますか? -加藤- 代表が最も鋭く見ているのは、「その経営者が、どのように意思決定をしてきたか」という点だと思います。 代表はよく「積み木が一つだけ突出して伸びることはない」と仰います。一人の人がすべてにおいてトップである必要はない、と。一方で、私自身は経営企画として、自分がグループの足かせにならないよう必死に努力してきた自負があります。 実務的な数字や条件面の交渉は私に任せていただいていますが、最終意思決定する取締役会での判断では、ボードメンバーの視点も非常に重要になります。大きな案件の際は、後藤代表が自ら内藤社長や千本会長に対して事前ディスカッションを行い、この案件はどう思うかと徹底的な壁打ちを行う。私はその連携のプロセスを聞きながら、フィードバックを事業計画や譲渡契約に落とし込んで調整してきました。そうした厳しいプロセスを経て仲間になったのが、今リストにある各社の経営者たちなんです。 -杉原- 長年M&Aを担当してきて、最もよかったと感じる瞬間はいつですか? -加藤- M&Aというのは、多くの経営者にとって人生に一度の、命をかけた大勝負です。その極めて重要な場に立ち会えること自体、本当に光栄なことだと思っています。 実はディ・ポップスグループでやってきた業務のすべてが、私が会計事務所に入る前からずっと抱いていた想いなんです。「経営者の想いに寄り添い、支えたい」という。今、M&Aを通じて経営者の人生の決断を支援できていることは、私にとって仕事のやりがいのど真ん中にいる実感がありますね。 -杉原- フェイスフルの社長・グループ全体のM&Aという大役。この二足のわらじを履く上で心がけていることはありますか? -加藤- 自分自身が事業会社の代表を務めるようになって、他のグループ会社の社長たちに対する尊敬の念がより一層強くなりました。これは、M&Aの担当だけをしていたら決して分からなかった感覚だと思います。 経営者としての本当の課題と向き合う事や孤独感は、当事者になって初めて肌身で感じられる。かつて入社したての頃、管理部門の立ち上げに注力していた時に、現場から「いきなり幹部候補って何だよ」と冷ややかな目で見られたこともありました。しかし今なら、セクションや立場の違いをどう理解し全うすべきかが、経営者の視点を持って理解できます。 グループ全体を俯瞰する立場と、現場の経営を担う立場。その両方を経験させてもらっている今の環境は、非常に贅沢で、挑戦しがいのあるものだと思っています。 -杉原- 複数の顔を持つ多忙な日々の中で、プライベートとの両立や、人生において大切にされていることはありますか? -加藤- 私が社長を目指した大きなきっかけの一つに、EOへの入会がありました。入社した2007年頃から、ずっと先輩方から「あのEOは凄い場所だ」と聞かされてきた、憧れの場所だったんです。 そこで学んだのは、経営のノウハウだけではありません。もっと根源的な人生観のようなものです。「人はいつか死ぬ」という現実と向き合ったとき、自分は最期をどう迎えたいか。仲間と深く語る機会がよくあります。 私の理想は、死ぬときに「あの当時は本当に頑張ったよね」と思い出を振り返り語り合える仲間が、周りにたくさんいてくれること。そして「ありがとうの輪」を広げていくことが、今の私の生きる指針になっています。 また、プライベートでは19歳の時に知り合った妻と今でも仲が良く、今年で共に歩んで30年目になります。家族が円満であることは、私の大きな支えです。 私生活は、順風満帆だったわけではありません。41歳のときに癌を患い、その後100万人に1人と言う病気を併発しました。先日「もう薬を飲まなくていい」とお医者さんに言われて、やっと病気との戦いが落ち着き、少し安堵しました。この経験があるからこそ、家族と仲間の大切さが身に沁みてわかるようになりました。 病気になり自分の弱さを知ったことで、本当の意味で「誠実、謙虚、感謝」という言葉が自分の中で一つに繋がった気がします。これからは、自分が支えてもらったように、今度は自分が誰かの支えになれるような、そんな人間でありたいです。 ◆「ベンチャーエコシステムの実現」に向けて -杉原- D-POPS GROUPでは、「ベンチャーエコシステムの実現を目指す」をスローガンにしていますが、その目標に共感する部分はどんなところですか?共にベンチャーエコシステム作りを目指す上での意識や活動などはありますか? -加藤- 実は、20年前の入社面接の際、後藤代表が3時間にわたって熱く語ってくれたのがデパートの構想でした。同じ建物の中にカフェがあり、携帯ショップがあり、香水ショップがある。それらが相乗効果を生んで顧客満足を作れたら最高だよね、という内容でした。 当時の内容は形こそ違いますが、それが今私たちが目指しているベンチャーエコシステムの原型だと思っています。 20年経ち、ビジネスモデルは変わりましたが、「人に喜びと輝きを提供する」という根底の想いは全く変わっていません。昔は自分たちが食べていくための仕事プラスアルファという感覚でしたが、今は教育支援など、より広い社会へ影響を及ぼせるほど遠心力がついてきた。その進化を肌で感じています。 -杉原- そのエコシステムをより強固なものにするために、加藤さんが日々意識していることは何でしょうか。 -加藤- これまで約5年おきに、決まって適度な「逆境」がやってきました(笑)。どんな追い風、向かい風が吹こうとも、私が意識しているのは、「持ち場を守れ」「常に挑戦」「3倍速成長」ずっと以前から掲げられてきたこの3つです。 私たちの社名(D-POPS GROUP:Dream-Produce One’s Pleasure and Shining)にある喜びや輝きは、現状維持では決して生まれません。自分たちに心地よいストレッチをかけ、ありえないような高い目標にみんなで挑んでいく。その挑戦のプロセスこそが、3倍速の成長を生み、結果として誰かの喜びや自分たちの輝きに繋がっていく。 これを回し続けることが、私にとってのエコシステム作りそのものだと思っています。 ◆5年後の理想の姿 -杉原- 加藤社長、そしてフェイスフル社の「5年後の理想の姿」を教えてください。 -加藤- 「D-POPS GROUPの中で、ダイレクトマーケティングといえばフェイスフル(URIZO)」と誰もが想起するような状態に持っていきたいですね。 私はこれまで、入社から10年弱は「財務戦略」を、その後の期間は「M&A戦略」を担ってきました。ここに「マーケティング戦略」という3本目の柱をしっかりと確立できれば、グループの基盤として大きな貢献ができると考えています。過去に作った仕組みを次に引き継いだ人がブラッシュアップし、より強固なものにしていく。そんな理想を描いています。 -杉原- 新しく加わったURIZOというサービスは、今後の鍵になるのでしょうか。 -加藤- はい、鍵と思われるようにしていきたいです。2024年、上場企業の子会社を譲り受けての事業ですが、グループ全体のマーケティング戦略において極めて重要な役割を担うと考えています。今はまだ種の段階ですが、これをいち早く大きな芽に育て上げることが私の今の使命です。 -杉原- AIが普及する中で、マーケティングのあり方も変わってきています。今後の課題をどう捉えていますか? -加藤- 今はAIを使えば誰でも簡単に一次情報を入手し、マーケティング施策を打てる時代です。だからこそ、AIには真似できない差別化が不可欠です。 実は、そこにはかつての携帯電話と同じようなリテラシーの差があると感じています。デジタルが普及すればするほど、あえてお手紙のようなアナログなマーケティングが再び注目されたり、AI任せではない人の気持ちが乗った提案が価値を持ったりします。最新のツールと、人間ならではの工夫や熱量。この二つをどう掛け算していけるかが、これからの勝負だと思っています。 -杉原- 最後に、この記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします。 -加藤- これまでの経験を振り返ると、成功よりも大きな失敗の方が強く印象に残っています。それでも、失敗の中から学び、そして再びチャンスをもらい、何とか形にして、みんなが喜んでくれるものをいくつか作ってこれた。私にとってこのグループのステージは、何度でも挑戦させてくれる「フェアチャンス」と「リチャレンジ」の場です。 これからも失敗を恐れずに挑戦し続け、グループの中に新しい楽しさや価値を作っていきたい。もし、この記事を読んで私たちのエコシステムに共感してくれる仲間が増えてくれたら、これほど嬉しいことはありません。一緒に、世界が変わるような楽しい挑戦をしていきましょう。 ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   【株式会社ディ・ポップスグループ】 常務執行役員 経営企画室室長 加藤 貴博 【株式会社フェイスフル】 代表者:(共同)代表取締役 加藤 貴博 所在地:東京都渋⾕区渋⾕2-21-1 渋⾕ヒカリエ32階
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2026.03.17
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