COLUMN

【投資先インタビュー】 The Salons Japan株式会社 大木 結女さん ~前編~

  • INTERVIEW
2025.02.13

昨年弊社は、完全個室型のビューティーモール®️を運営するThe Salons Japan株式会社と資本業務提携を行い、ベンチャーエコシステムの仲間として歩み始めました。

☆The Salons Japan株式会社との資本業務提携に関するプレスリリースはこちら
https://d-pops-group.co.jp/column/the-salons-japan/

今回は、The Salons Japan株式会社で社員1号として創業者のお二人を支える大木さんへ、インタビューしました。
(こちらのインタビューは、2025年1月に実施しました。)

 

◆入社の経緯

-杉原-
今回は、The Salons Japanの社員第1号である大木さんにインタビューさせていただきます。宜しくお願いします。

まず始めに、大木さんがThe Salons Japanに入社した経緯を教えていただけますか。

-大木-

まず1番最初に出会ったのが取締役の窪島でした。

私は以前に美容室のレセプションをしていたのですが、その経歴を知った窪島が「実はThe Salons Japanという会社で美容モールという事業をしているんだ」という話をしてくれて。その美容モールは私が以前その美容室のレセプションで働いてた時に課題だと思っていたところを解決してくれるサービスだと感じたんです。

なので、The Salons Japanにすごく興味が湧いて、入社を希望しました。

-杉原-
それはいつぐらいの話なんですか?

-大木-
2019年に初めてお会いして、 入社したのが2020年の4月ですね。ちょうどコロナ禍でした。

-杉原-
2018年11月にThe Salons Japanを設立して、1店舗目のオープンが2019年とのことなので、創業者2人に次ぐ従業員第1号だったわけですね。

では、現在のThe Salons Japanにおける役割を教えて下さい。

-大木-
基本的な内容としては、まず美容師さんからのお問い合わせの対応で、それに伴う店舗の内覧対応ですね。内覧は代表の清水と一緒に活動しており、申し込み・契約までのお手続きの手配をしています。

あとは店舗オープンに伴う各種手配や契約書の作成、あとは通信機器の設置など、店舗管理に関する様々なことをやっています。その他業者さんの対応やトラブル対応なども行っています。

-杉原-
契約書の対応もされているんですね。たくさんの美容師さんが入居されていると思いますが、今までどのくらいの契約書を作成されてきたんですか。

-大木-
そうですね…数えきれないですね(笑) もともと契約や不動産に関する知識はなかったのですが、弊社にかかわる契約書であれば、契約書に書かれている大事なポイントについてはお伝えできるようになりました。

私は仕事をするうえで、コミュニケーションを一番大切にしています。普段のコミュニケーションはもちろんですが、相手の気持ちに沿いながら大事なことはきちんとお伝えすることを大事にしています。

ここは本当に最初の美容室のレセプションの経験が生かされているなと思う部分ですね。一方的なコミュニケーションにならないようにするとか、相手の気持ちに寄り添うとか。レセプションの仕事の中でカスタマーサポートやクレーム対応というところも含めてやってきたので、頂いたご意見を通じて問題解決をしていくというのが、今後さらに良くなっていくステップでもあるので、大事にしています。

-杉原-
素晴らしいですね。THE SALONSでの契約や内覧の担当をするには、美容業界での経験が必要だなと感じることはありますか。

-大木-
そうですね、不動産を経験してきた方よりも、美容業界にかかわってきた方のほうがスムーズに話が進むというのはあるかもしれません。

ただこれに関しては私が1番歯痒い部分なんですけど、私は美容業界に関わってきた人間ではあるものの、美容師ではないんです。美容師さんとお会いして感じるのは、美容師さん同士ならではのわかりあえる感覚というのもあるので。内覧の時に話が一気に進んだりすると、「美容師さんですか?」って聞かれるんです。そう聞かれるたびに、美容師さんだったらよりよかったんだろうなって思うところは少しあります。

代表の清水は、内覧の時によく「僕も美容師なんです!」と言っています(笑)

◆THE SALONSとシェアサロンのモデルの違い

-杉原-
さて、”シェアサロン”っていう言葉をよく耳にするようになったと思うんですけど、THE SALONSのモデルと、よく聞く”シェアサロン”との違いを説明していただけますか?

-大木-
そうですね。明確な違いとしては、一般的なシェアサロンは席貸しだったり、半個室のスペース貸しとなっていますが、THE SALONSに関しては完全に区分けされてる中で、区画1つ1つを店舗オーナーさんとして利用することができるというところが1番大きな違いかなと思います。

先ほどの席貸しと言ったのは、このTHE SALONSと同じように、ワンフロアはその会社が貸し切っているけれども、全ての売上や営業の管理は、その借りているところに付属してしまうんですね。

ただ、THE SALONSはビル側に許可を取りながらすべての個室を店舗として応援していただけるようにお願いしておりますので、フロアの個室であっても店舗オーナーとして営業できる・店舗を持つ事業者として実績を積むことができるというのは、1番大きな違いかなと思います。

-杉原-
自分のお店のオーナーになれるわけですね。シェアサロンとTHE SALONSのモデルを比較検討した結果、THE SALONSに入居しますっていう美容師さんもいらっしゃるんですか?

-大木-
もちろんいらっしゃいます。そしてシェアサロンからTHE SALONSに移る方も結構います。というのも、独立したいと思ってもすぐにはTHE SALONSに入れない方っていうのもいらっしゃるかもしれないなと想定しています。

今はプランを多数用意してるのでハードルを少し下げてはいるんですけれども、そこまで気持ちが決まってない方には、お店が持てますよというよりかは、 自分で一旦独立してシェアサロンや席貸しで給料が増えますよと言われたほうがいい方もいらっしゃると思うんです。

ただ、検討した結果THE SALONSに入られる方は、ゆくゆく路面で店舗を出したいと思われてる方が多い印象です。

-杉原-
THE SALONSのそれぞれのお店は表で宣伝などされていないと思うのですが、利用者の方は固定の方が多いのでしょうか。

-大木-
基本的にはそうです。新規集客を目指してる方もいらっしゃるものの、お客様がある程度ついているサロンが圧倒的に多いです。理由としては、例えば、さっきのシェアサロンモデルと比較すると、シェアサロンモデルは売り上げの何パーセントかをバックする。そして席の利用料は数万円くらいなんですね。

例えば、50万円の売上であれば、その10%である5万円と席の利用料数万円のお支払いで済むんですね。THE SALONSのモデルは、店舗を借りる時点で30万円~40万円ぐらいかかるとなると、売上を持ってない方は入居が難しいモデルになるので、自分の売上を考えた時に、お客さんが確実についてきてくれるという自信のある方が多いなという印象です。

◆入居されている美容師さんの特徴

-杉原-
入居されているオーナー美容師さんたちは、どんな方が多いんですか?

-大木-
美容師さんという職種自体なんですけれども、やっぱり「より良くしたい」っていう気持ちも強いですし、こだわりのある方が全体的に多いなという印象はあります。ただ、 ぶつかったり店舗でトラブルになったりなどはほとんどないです。そのトラブルにしないように、プライス表やメニュー表を表に出さないというルールを設けてます。

あとは個室空間なので、完全に予約制のサロンが多く、お客様は直接サロンに向かわれてると思うんです。そうなると、わざわざTHE SALONSの中を歩きながら見て回って、ここのサロンがどういうサロンなのかとかを調べたりすることもないのかなと想定しています。 お客様の取り合いもないですし、スタッフの取り合いもないです。

-杉原-
THE SALONSに入居して従業員美容師さんからオーナー美容師になったからこそのサクセスストーリーはありますか?

-大木-
あります!美容業界って、給料が低いイメージがあると思うんです。労働時間は長いけれども、給与や待遇がそんなに良くない状況でも1人前になるまで長い。その状況でずっと働いていらっしゃった美容師さんがTHE SALONSに入られてから、収入が7倍になったというのを伺いました。

-杉原-
収入が7倍!!それはすごいですね!!

-大木-
そうなんです!それを聞いた時は本当に衝撃でした。細かく今までの給料とかさすがに聞けなかったんですけれども、 7倍になったということに衝撃を受けたっていうのが1点と、 どこまでも可能性があるんだなっていうのをすごく感じたところもあります。

あと、THE SALONSの区画の利用方法は様々で、1区画でやってみたけど、思ったより売り上げが伸びて従業員も集まってきたから、隣も借りちゃおうということで1オーナーさんで最大で4区画まで増やしたサロンもありました。

また、すごくありがたいなと思った話なんですが、オーナー美容師さんとアシスタント美容師さんお二人で入居された方が、お二人とも売上を伸ばされて、アシスタント美容師として入られていた方も卒業して他の店舗を借りてくださったことがありました。

THE SALONSをもともと利用されていた方が次も借りたいって思ってくださるということは、THE SALONSのサービスをいいと思ってくれていたということなので、そんな独立の形があったことはすごく嬉しかったです。

-杉原-
美容師さん側からすると、シェアサロンモデルの場合は売上が上がるにつれて、そのシェアサロンのオーナーへの支払いも比例して大きくなる。THE SALONSの支払いは固定だから、固定費を超えたものは自分のサロンの資金にできる。 本当に1人のオーナーですよね。

ちなみに、皆さん経営ってできるんですか。

-大木-
経営に関しては、皆さん1番最初に不安に思われます。内覧案内時に「経営とか全然わからないんです。」っていう方がすごく多いんですよね。 ただし、ここはもうご自身のサロンになる以上やっていくしかないので、皆さんここで学んでいくようなイメージです。わからないことがある場合には、弊社でもサポートしています。

ただ、美容師さんたちのすごいところは、勉強家の方が本当に多いことです。税理士さんにご自身で相談されたりとか、 最初は自分でやってみて、法人化する時に税理士さんに頼まれている方とかもいらっしゃいます。

-杉原-
THE SALONSでは税理士さんを紹介するサービスなどもされているんですか?

-大木-
やっています。THE SALONSの枠として特価でやっていただいてます。

あと社労士さんと弁護士さんに関しては、何かあった時にトラブル対応としてはご相談いただけるような方を用意してます。ただ、もちろんパックとかではないので、THE SALONSのサービスを知ってくれている弁護士さんや社労士さんを紹介できるけれども、直接契約という形になります。

-杉原-
代表の清水さんから聞いた話だと、すごく人気の美容師さんが、入居してからしばらく段ボールにお金を入れていたと(笑)

-大木-
そんな方もいらっしゃいますね(笑) オープンしたばかりだとやることも多くて、どうしようどうしようと余裕がなくなってしまうんですよね。

その点でいうと、THE SALONSへの賃料に光熱費も含まれているんです。支払先が多いと忙しくて支払いを忘れてしまうこともあると思うのですが、支払いする手間は減らせているかなと思います。そのくらい最初は余裕がない方もいらっしゃいます。

◆店舗の特徴

-杉原-
支払いが一括で済むというのはとてもありがたいですね。

さて話は変わりますが、昨年までに7つのビルの店舗がオープンしていますが、それぞれに特徴はあるのですか?

-大木-
まず全体のコンセプトで一貫しているものとしては、 それぞれのサロンを邪魔しない、どちらかというと共用部は華美なものではなくて、 シンプルにおしゃれで嫌がる人が少ないような作りにしていることが多いです。

ただ、表参道店は本当にシンプルな白を基調とした作りだったんですけれども、だんだん進化してきています。清水がよく言ってるのが、ニューヴィンテージやアメリカのホテルのイメージで、 それぞれのサロンを邪魔しない程度にちょっと淡いグレーを入れてみたりとか、より共用部でも満足していただけるようなデザインにアップグレードしてます。

また、原宿Cat St.店では2点ほど今までの課題点を活かしてアップグレードしました。
THE SALONSはサロンがいっぱい入っている関係で、共用部を歩く方が多く足音が気になるときがあるので、原宿Cat St.店からはそれをカーペットタイルにして、足音が響かないようにしてみたりとか、真っ白の床だと汚れが目立ちやすいから、ちょっと暗めの色にしてみたりなど、前の店舗での改善点を活かして、次の店舗でアップグレードしています。

あとは雰囲気ですね。青山店は地下なので、地下に見えにくいようにちょっとライトを多くするとか、鉄扉がついてるんですけど、それを活かしてちょっと倉庫っぽい雰囲気にしてみたりとか、清水のこだわりが結構詰まっています。

原宿Cat St.店に関しては初めて清水が私に任せてくれまして、私も床材などを選ばせていただきました!そして今月オープンする新宿店は、新しく入ってきてくれたメンバーもいるので、みんなで選びました。

-杉原-
東京都だけで8店舗ありますが、それぞれの店舗ごとに美容師さんの特徴などあるんですか?

-大木-
原宿Cat St.店でいうと、原宿にはカラーやブリーチ特化にするサロンが周りに多いので、ブリーチやハイトーンカラーを行うお店、若いお客様、 そして若い美容師さんが多いです。

一方で、銀座の店舗はお客様と美容師さんの年齢層も少し上がりますし、単価の高い髪質改善ストレートのサロンなどが多いです。

少し郊外にある吉祥寺店で言うと、地域密着型の美容師さんたちが多いです。店舗の近くに住んでらっしゃる方がとても多くて、 美容師さんたち皆さんおっしゃるのが、吉祥寺で働き続けたい方が多いです。アットホームな空間作りというのを大切にされてる方が多いなと感じています。

-杉原-
店舗の空き状況はいかがですか?

-大木-
どの店舗もほとんど埋まっています。今現状(2025年1月時点)だと、すぐに入ることができるのが青山店に1区画、原宿店に2区画のみですね。

吉祥寺店はもう満室で、ありがたいことに、内覧に来てくださった方が、「誰かが出たらすぐに入りたい」と言ってくださっています。

◆苦労したこと・やりがい

-杉原-
大木さん自身が5年やってきて、苦労したことややりがいを感じたってエピソードなどはありますか?

-大木-
苦労したことは、青山店のオープン時に通信機器が間に合わないということがありました。発注はしていたんですけれども、半導体不足で機器が間に合わないと言われまして・・・。

青山店は地下階もあるので、Wi-Fiを繋がないと何もできないんです。ポケットWi-Fiとかでつなぐしかないという話になった時が1番ピンチでした。小型の機械なのでみんなで使うと熱くなっちゃうんですけど、機械の前で扇風機を回して冷ましながら、過度な利用にならないように騙し騙し繋がるまで使いました。

通信が繋がらないと予約も取れないし、売上も反映されない。お客様からの連絡も来ないとなってしまうと本当に困ってしまうので、本当にピンチでした。

やりがいとしては、先ほどお話しした給与から7倍の報酬になった話ももちろんなんですけど、 皆さんの話を聞く中で、働く環境が良くなったんだろうなっていう話を聞ける機会がたまにあります。例えば 土日祝日に休めるとか。

通常のサロンだと、企業側が土日祝日休みな分、繁忙日なんですよね。一方で、自分の指名のお客さんが来てくれるとなると、土日休みにすることにもご理解があったりとか、旅行に行けるようになったなどのお話を聞くととても嬉しいです。

あとは、 以前ある店舗の忘年会に呼んでいただいたんですけど、「本当に入ってよかったです!」って言ってくださった時はすごい良かったなと、思わずちょっとうるっと来てしまいました。
美容師さんの人生を変えられるようなサービスになってきたのかなって思った時はすごく嬉しかったですね。

個人的に言うと、自分自身で契約を決められた時も大きかったです。自分自身の手でこの方が未来を想像できる、問題解決ができたということだと思うので、それもやりがいの1つだったかなと思います。

 

☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太

【The Salons Japan株式会社】
代表者:代表取締役社長/CEO 清水 秀仁
所在地:東京都世田谷区松原2-43-11 キッドアイラックビルヂング 2F
設 立:2018年11月30日
サイト:https://www.thesalons.co/

 

次回後編のインタビューでは、
・創業時からの変化
・資本業務提携後の変化
・創業者の清水さん・窪島さんについて
・新店舗オープンの状況
・「ベンチャーエコシステムの実現」に向けて
などについてお伺いしています。

後編もぜひご覧ください!

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  • INTERVIEW
2026.04.02
スタートアップからスケールアップへ! 共に成長し、進化し続けるエコシステムの実現【Part 1】
D-POPS GROUPでは、日本のベンチャーエコシステムの発展を支援するため、多角的な活動を展開しています。2026年1月、その志を同じくする一般社団法人スタートアップエコシステム協会の代表理事、藤本あゆみさんへのインタビューを実施しました。 全3回にわたるインタビューのPart1では、協会の設立秘話や、現場の調査から見えてきた「資金調達よりも切実なスタートアップの課題」について深く掘り下げます。 (このインタビューは2026年1月に実施いたしました。) ◆協会の設立経緯:3年越しの構想と「宣言」 -杉原- 今回は、当社が目指す「ベンチャーエコシステムの実現」と非常に近い活動をしておられる、一般社団法人スタートアップエコシステム協会を4年前の2022年3月に設立した、代表理事の藤本あゆみさんにインタビューいたします。 まず初めに、この一般社団法人スタートアップエコシステム協会(以下、協会)を設立された経緯を教えていただけますか?CMOとしてPlug and Play Japan社に在籍中に設立されたのですよね。 -藤本- はい。設立したのは2022年ですが、実は構想自体は2019年、私がPlug and Play Japanに入ってすぐの頃から持っていました。 当時はアクセラレーターというカテゴリーが認知され始め、様々なプレイヤーが登場していた時期です。「1社でできることは限られているけれど、もっと横が繋がって広く連携すれば、スタートアップが成長する土壌(エコシステム)ができるのではないか」と考え、当時はまだ協会という名前ではありませんでしたが、ネットワーク化の企画書を書いていました。 ただ、当時は社内でも「意義はわかるけれど、今は難しいよね」という話になり、一度その案は寝かせることにしたんです。 それが再び動き出したのは、CIC Tokyoの1周年記念イベントに呼んでいただいたことがきっかけでした。そこで東京都副知事の宮坂さんや、CICの名倉さんたちとパネルディスカッションを行ったんです。 そのパネルの最中、何の文脈だったか「もっとスタートアップが育つ土壌として、こういう横の繋がりがあった方がいいですよね」と団体の構想があったという話をした際に、宮坂副知事「それはやったほうがいいよ」とコメントをもらい、セッションの最後に「というわけで、私がやることになると思うんですが」と、半分冗談、半分本気のような勢いで宣言してしまったんです(笑)。 その夜すぐに企画書を掘り起こして修正し、その日のうちにセッションの参加者の皆さんに送りました。特に名倉さんが「一緒にやりましょう」と強く背中を押してくださったので、「やります」と決断することができました。 それが2021年の後半。コロナ禍で先行きが見えない時期でしたが、だからこそ支援者同士が繋がって、日本のエコシステムを強くしようという目的が固まりました。 ◆支援側のネットワーク化 -杉原- 横の繋がりというのは、スタートアップ同士というより、支援側のネットワークを指しているのでしょうか? -藤本- 私たちは後者ですね。政府や自治体、事業会社、そして個人に至るまで、皆が動いているのになぜかバラバラで、連携しにくいという課題がありました。そこを繋ぎ合わせるのが私たちの役割です。 同時期に砂川さん(一般社団法人スタートアップ協会 代表理事)に声をかけたら、「実は僕たちも同じことを考えていた」と仰っていて。結果としてスタートアップ協会を含めて、4つほどの支援団体がほぼ同時期に誕生しました。それぞれ目的は違えど、スタートアップが育ち、日本経済に貢献する環境を作るというゴールは共通しており、今でも連携を続けています。 -杉原- Plug and Play社としては、最終的には別組織として活動することに合意されたのですね。 -藤本- はい。あらためて経営陣に話をしたら「今はやはり(業界全体のために)必要だよね」と理解してくれました。ただし、自社の事業としてではなく、中立な立場の一般社団法人としてやるべきだということで合意形成がなされました。 -杉原- 名倉さんや宮坂さんとは、そのパネルディスカッションの前から深いお知り合いだったのですか? -藤本- 数回お会いしたことがある程度でした。ただ、名倉さんとは以前テレビ番組でご一緒した縁があり、その時に「CIC Tokyoの1周年イベントに来てください」と声をかけてくださったんです。あのお誘いがなければ協会はできていなかったので、本当に感謝しています。 ◆協力体制の構築 -杉原- 協会の公式サイトを拝見すると、東京都をはじめとする自治体、著名な連続起業家、投資家、さらには政治家の方々まで、そうそうたる顔ぶれが名を連ねています。これほどのコネクションを、どのようにして築き上げられたのでしょうか? -藤本- 実を言うと、2019年の構想時点ではこれほどの方々を巻き込むことは難しかったと思います。2022年というタイミングだからこそ実現できたことですね。 活動を続ける中で、エコシステムに関わる多くのプレイヤーが連携や意見交換の必要性を感じ始めていました。そこで、名倉さんと私の二人で、このエコシステムに必要だと思う方々を知りうる限り全員書き出したんです。 そこから「こういう仕組みを作りたいので、ぜひ後押ししてください」と一人ひとりにお話ししました。当時はまだ具体的な活動内容まで決まっていなかったのですが、皆さん「それはぜひやるべきだ」と快諾してくださり、サポーターとして加わっていただけることになりました。 サポーターの皆さんは、政治家、経済団体、事業会社など、それぞれが異なる角度からスタートアップを支援している方々です。そうした方々の知見やネットワークが一箇所に集まるだけでも、エコシステム全体にとって大きな価値があると考えています。 -杉原- サポーターの方々には、具体的にどのような役割を期待されているのですか? 例えば総会でのスピーチや、特定の課題へのアドバイスなど、名前が載っている以上の具体的な活動についても伺いたいです。 -藤本- もちろん、イベントに登壇いただくこともありますが、あえて関わりを重くしすぎないことも大切にしています。 「サポーターになったからには、これをしなければならない」という義務を課すのではなく、必要な時にお互いに情報交換ができ、助言をいただけるような、フラットで風通しの良い関係を目指しました。 皆さん、深いコミットメントを強要しなくても、エコシステムの発展に対して非常にポジティブです。ここが必要な場所だと信じてくださっているからこそ、緩やかでありながらも強い協力体制が築けているのだと感じています。 ◆活動の3つの柱:情報共有・格差是正・海外連携 -杉原- スタートアップエコシステム協会が具体的にどのような活動をされているのか、その内容を教えていただけますか? -藤本- はい。主に3つの柱があります。 1つ目は、国内の情報を集めて共有することです。 いわばGoogleのエコシステム版のように、情報を集めて整理し、使いやすくすることを目指しています。(注:Googleのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」) 具体的な活動としては、『スタートアップエコシステムサミット』を毎年1回開催しています。 通常、スタートアップ関連のイベントといえばスタートアップが登壇するものですが、このサミットではスタートアップは一切登壇せず、支援者側が全員登壇するのが特徴です。 企業や政府、自治体などの機関が、「私たちはスタートアップに対して、今このような支援プログラムを提供しています」という内容を話します。 これはスタートアップ向けでもありますが、どちらかというとエコシステム内の情報共有を強化する狙いがあります。 意外と「隣の組織が何をやっているか知らない」ということが多いので、年に一度こうした場を持つことで、「あそこは今こんな風に進化したんだ」「この間はやっていなかったのに」といった気づきや、「ここが連携すると面白いよね」という機会を作る活動をしています。 これが国内向けの1つ目の柱です。 2つ目は、特にスタートアップに向けた情報の格差をなくすための活動です。 スタートアップの成長過程では様々なことが起こりますが、一番足りていないのは情報の格差だと感じています。 「本当は知っていれば、その障害につまずかずに済んだ」というものがたくさんあるので、それをなくしたい。 そのために、サミットに登壇する方々以外も含めたあらゆる支援情報を網羅したデータベースを作成しています。 また、スタートアップが非常に困っている採用の支援も企画しました。 採用のためのキャリアフェアなどは最初にお金がかかりますよね。 良い人が採れるかどうかもわからない段階で、スタートアップが40万円、50万円という費用を払うのは難しい。 そこで東京都と連携してキャリアフェアを開催し、採用イベントを行っています。 その中でも、例えば「学生がインターンをしたいけれど、大人が話しているブースに割り込んで『インターンやってますか?』と聞きに行くのは怖い」という声がありました。 そこから派生して、学生しか参加できないインターンシップフェスというイベントも生まれました。 こうしたスタートアップのための情報共有と活動が2つ目です。 3つ目がグローバルとの連携です。 エコシステムは日本国内だけで完結するものではありません。 海外のあらゆるエコシステムと繋がりたいと思っています。 日本に海外のスタートアップを連れてきたいというニーズもあれば、日本のスタートアップを海外に呼んでほしいというニーズもあります。 そうしたニーズの架け橋になるような活動をしています。 主にこれら3つの軸で活動を展開しています。 ◆現場の課題解決:資金よりも「採用と営業」 -杉原- 確かにスタートアップ関連のイベントというと、スタートアップがピッチをして投資家が審査するような関係性のものが多いですよね。 VCファンドや金融機関などが主催するイベントも、そうした形が一般的だと思います。 スタートアップを応援する側の人たちをすべて可視化して、支援者が主役になるという取り組みは、他ではあまり見かけません。 -藤本- そうですね。他ではやっていないと思います。 一般社団法人として非営利でしかできない活動だとも感じています。 ビジネスにはなりづらいけれど、みんなが必要だと思っていたことの一つなのかな、と思っています。 また、もう一つの活動として、政府への政策提言も行っています。 政府側にはなかなかスタートアップの現場の声が届きにくいという現状があるため、私たちがメインとなって調査を行い、スタートアップが今何に困っているのかという声を直接政府に届けるようにしています。 -杉原- 先ほどのお話にもあった、情報の格差や採用に関する課題などは、まさにそうですよね。 スタートアップにとって、採用は最も難しいことの一つだと思います。 -藤本- はい。実はそれも調査から導き出された答えなんです。 資金調達に関する支援は世の中にたくさんありますが、実際に調査をしてみると、資金面で困っているのは全体の30%ほどでした。 残りの多くが何に困っているかというと、採用と営業の2つなんです。 ここに関しては、支援プログラムが全然ありませんでした。 「具体的に何をすればいいのか」という場所もなかなかなかったので、東京都と一緒にキャリアフェアを作り上げてきました。 実は今年からは、私たちの手を少し離れて、独自に東京都の事業として自走してもらう形に移行しています。 私たちはそのきっかけとなる初めの仕組みを作った、という形ですね。 ~Part2へ続く~ ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太 【一般社団法人スタートアップエコシステム協会】 代表理事:藤本 あゆみ 所在地:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階 設 立:2022年3月30日 U R L:https://startupecosystem.org/   次回Part2のインタビューでは、 ・スタートアップエコシステムサミットについて ・海外との連携 ・世界の潮流:スタートアップからスケールアップへ ・新会社設立の背景 などについてお伺いしています。 Part2もぜひご覧ください!
  • INTERVIEW
2026.03.26
【グループ会社インタビュー】株式会社フェイスフル 加藤 貴博 社長 ~後編~
D-POPS GROUPでは、現在約25社のグループ会社が仲間となっています。 今回は、株式会社ディ・ポップスグループ 常務執行役員 経営企画室室長 及び 株式会社フェイスフル 代表取締役の加藤さんへインタビューいたしました。 (このインタビューは2025年12月に実施しました。) 前編の記事はこちらからご確認ください。 ◆M&A責任者としての奔走 -杉原- 一方で、加藤さんは現在もM&Aの責任者を兼任されています。代表を務めるフェイスフルの事業とM&A業務、その比重はどのようなバランスですか? -加藤- 心の重さで言えば、M&Aのプレッシャーが9割以上を占めていますが、費やす時間としてはフェイスフルの事業運営の方が長いですね。 特にM&Aに関しては、最初は全くの素人からのスタートでした。今は買い手の数が非常に多いため、普通に待っているだけでは良い案件なんて回ってきません。 -杉原- コネクションもない状態から、どのように案件を動かせるようになったのですか? -加藤- 最初の1年間は、とにかく泥臭く動きました。あらゆるM&Aセミナーに足を運ぶのですが、それらは大抵売り手を集めるためのものなんです。でも、私はあえて一番前の席に座って質問を繰り返し、最後に「どうすればあなた(仲介会社)と仲良くなれますか?」と正面からぶつかっていきました。 そうして誰も知り合いのいない懇親会に図々しく入り込んで、いつしか少しずつ仲良くなって。そうした人間関係の構築を1年間ひたすら繰り返す中で、ようやく1件目の案件として繋がったのがgraphDだったんです。 -杉原- M&Aの第1号案件となったgraphDですが、当時の本業からすると、少し意外なジャンルへの挑戦だったのではないでしょうか? -加藤- おっしゃる通りだと思います。1件目にしては「少し領域を広げすぎではないか」という懸念もありました。当初、私がこの案件を提案したときは、後藤代表も最初はそれほど乗り気ではなかったんです。 ところが、面白いように風向きが変わりました。主要な取引先である通信キャリアの方から「POP制作に強い会社と組むのは非常に面白いね」とポジティブな反応をいただいたんです。そこで代表も「やはり面白いかもしれない」と。 (※POP=Point of Purchase、販売促進用の広告物) さらに驚くべき後日談がありました。このgraphDという会社、実は後にディ・ポップスグループの常務執行役員となる渡辺さんが、かつてヨドバシカメラにいた頃に「こういうPOPの会社を作ったらいい、そうすれば事業が円滑に回るよ」とアドバイスをして立ち上がった経緯のある会社だったんです。 -杉原- そんな不思議な縁があったのですね。 -加藤- 当時は渡辺さんとの接点も全くありませんでした。そんな背景も知らないまま、私は自分の足で見つけてきた案件として提案していました。後からその事実を知って、点と点が線につながったような感覚でしたね。 私の20年を振り返ると、こうした混乱や偶然のような出来事がたくさんありますが、今になってようやく一つひとつのパズルが繋がり、今のグループの形になっているのだと実感します。 ◆「人」を重視するD-POPS GROUPのM&A -杉原- graphDのM&Aを皮切りに、これまでグループ入りした会社が15社ほどあるかと思いますが、それだけの数を形にする裏側では、膨大な数の案件を精査されていますよね。 -加藤- そうですね、数えきれないくらい見ています(笑)。今年だけでリスト化したものを見ても、300〜400件は精査しました。 M&Aの仲介会社さんからは「そんな条件の会社、他には絶対にないですよ」と言われることも多いです。たとえば「年商10億円以上の黒字企業」といった高いハードルを設けて絞り込んでいるので、そんな優良案件がそう簡単に転がっているはずがない、と。それでも私たちは、その中から本当に価値のあるものを絞り込む作業を続けています。 -杉原- 年間300〜400件を書類でレビューし、そこから面談に進むのはどのくらいですか? -加藤- 面談に進むのは、その中でもさらに厳選した案件だけです。ただ、その厳選するプロセスそのものが非常に重要だと思っています。 -杉原- 膨大な案件の中から、面談しようと決める際の判断基準や観点はどこにあるのでしょうか。 -加藤- よく仲介会社さんから「具体的な企業名や業種を提示してほしい」と言われるのですが、実はそれは難しいんです。 判断の基準は、取締役会などで議論されるグループの今の課題感と、私たちが持っている既存のリソースの掛け合わせにあります。グループのエコシステムがこれだけ出来上がってくると、業種のマッピングで見れば埋まっている場所が多い。その隙間をどう探しに行くか。 そして、あまりに遠い飛び地の案件は論外ですが、今の事業を補完する垂直統合型だけでも不十分だと思っています。 単に競合をM&Aして規模を大きくするのではなく、既存事業と組み合わせたときに面白い次の展開が描けるかどうか。常に「未来から逆算して、このピースがはまれば新しい価値が立体的に生まれるのではないか」という視点で、案件を見極めるようにしています。 -杉原- グループのポートフォリオにおいて、欠けているピース(隙間)を埋める案件が見つかったとします。書類審査を通過し、実際に経営者と面会する際、どのようなポイントをチェックされているのでしょうか? -加藤- 一番は「グループのメンバーと空気(カルチャー)が合うか」を非常に重視しています。 たとえ業種が違っても、言葉選びが違っても、根底にある価値観さえ同じであれば、お互いにリスペクトし合える。その直感を大切にしています。一方で、最初から一方的な話し方をされる方などは、やはり難しいと感じますね。 面談の際に私が気を付けてみていることは、面接天井になっていないか、ということです。 面接がピークで、その場だけお化粧をして自分を良く見せている状態のこと。でも、それは見抜けます。実際にDD(デューデリジェンス)の過程で、そのお化粧が剥がれて破談になったケースも過去にはありますから。 -杉原- その見極めのために、具体的にどのようなステップを踏んでいるのですか? -加藤- 私たちは、いわゆる圧迫面接のようなことは絶対にしません。お互いの夢を語り合ったときに、楽しい想像ができるかどうか。それを確かめるために、通常2回に分けてお会いします。 1回目は私一人でお会いし、2回目は後藤代表を交えて、より深い話をします。ただ、机上の話だけでは見えない部分も多いので、やはり夜の会食をご一緒するようにしています。 お酒を飲んだときにふと漏れる一言や、夢を語る熱量。そこまで踏み込んで初めて、相手の本当の姿が見えてくると思っています。 後藤代表の面談や会食は、3時間以上にも及びます。それだけ時間をかけて、相手の人生の背景までを深く理解しようとする。その熱量を受け継ぎながら、最後は「この人と一緒に未来を創りたいか」という、人間としての本質的な部分で判断しています。 -杉原- これまで手がけたM&Aの中で、特に印象的だった、あるいは苦労したケースについて教えてください。 -加藤- 私たちのM&A戦略は、経営者の成長支援を方針に掲げているので、買収と同時に創業者が引退するケースは非常に稀なんです。基本的には、創業者の方にそのままグループへ参画していただき、共に走り成長するスタイルをとっています。だからこそ、数少ないグループ入りと同時に創業者が引退されるケースのときは、託された想いのメッセージが、どれも非常に強く印象に残っています。 譲渡した後も、その方々に「あの時、このグループに託して本当に良かった」と思い続けてほしい。バトンを受け取った事業を新たな仲間とさらに大きくするのは、当然の義務であり、その対する意識は人一倍強く持っています。 -杉原- 一方で、苦渋の決断を迫られたケースもあったのでしょうか。 -加藤- そうですね。唯一、自分の中で今でも「あれが正解だったのか」と自問自答し続けているのが、M&Aした会社を最終的に別の会社に売却する形となったケースです。 経営上の判断や、キャッシュを回収できたというビジネス的な観点で見れば、時代の流れに沿った正しい選択だったのかもしれません。しかし、私は常に相手の懐に飛び込み、人の気持ちを大切にしながらクロージングまで伴走するスタイルです。店舗一軒一軒を大切にするのと同じ感覚で向き合っているからこそ、心残りがあります。 -杉原- それほどまでに人を重視するからこそ、価格以外の部分で選ばれているのですね。 -加藤- おっしゃる通りです。私たちの提示する買収価格は、他社さんと比べて必ずしも一番ではないと思います。むしろ高くないことの方が多い。それでも「あなたたちに任せたい」と言ってバトンを託してくださる経営者の方がいます。 高い価格を提示したから選ばれた理由ではないからこそ、託された想いに対する責任をより一層重く感じます。その信頼に結果で応え続ける為にグループで連携することが、M&A担当としての私の使命だと考えています。 -杉原- 先ほど非常にまれにバトンパスされる創業者の方もいらっしゃると伺いました。譲渡側の経営者は、あえて「こう育ててくれ」といった具体的な要望は口にされないとのことですが、加藤さんはどうやってその想いを受け止めているのでしょうか。 -加藤- 直接的な言葉として語られるわけではありません。ただ、最終的に私たちを選んでくださるまでの過程で、「なぜ他社さんを断ったのか」という理由は必ず伺うようにしています。仲介会社さんを通じて入ってくる情報も含め、その積み重ねが、経営者の方の言葉にできない想いとして大事にしていこうと思っています。 最も心に響くのは、引き継ぎ式の会食です。経営者の方が、残る社員の皆さんに向けて「今までありがとう。これからはこのグループで頑張ってね」と声をかける姿。その言葉は、私たちに対する「(この人たちなら)大丈夫だよ」という信頼の証でもある。その背中を見ていると、絶対に裏切れないという強い責任感を感じます。 ◆後藤代表が大切にする「気の流れ」 -杉原- M&Aのプロセスにおいて、後藤代表から言われた言葉で印象的だったものはありますか? -加藤- これはもう、一言「気の流れが悪い」ですね。これが一番大変です(笑)。 仲介会社さんも、1年に1件決まるかどうかという案件を必死で進めてきて、ようやくここまで漕ぎ着けた。そこで代表から「気の流れが悪い」と言われてしまうと、返す言葉がありません(笑)。 -杉原- 加藤さん自身は、精査を重ねて提案した案件に対してそう言われた時、納得感はあるのでしょうか。 -加藤- 正直なところ、昔は納得感は全くありませんでした。当時はまだ私自身、数字や事業シナジー、業界内でのポジショニングといった数字的な側面ばかりを見ていて、本質の人の部分が完全に見えていなかったんだと思います。 でも、何度もその答え合わせをしていくうちに、少しずつ理解できるようになってきました。「ああ、代表はここを気にされていたんだな」と。今では、感覚的に納得できる確率がかなり増えてきましたね。それでも時々、「この案件でもダメなんだ」と、自分の思い入れとの間で悲しくなることもありますけれど(笑)。 -杉原- 後藤代表は「気の流れ」以外にも、財務や業績などの面で、どのような視点を持って案件を見ていると感じますか? -加藤- 代表が最も鋭く見ているのは、「その経営者が、どのように意思決定をしてきたか」という点だと思います。 代表はよく「積み木が一つだけ突出して伸びることはない」と仰います。一人の人がすべてにおいてトップである必要はない、と。一方で、私自身は経営企画として、自分がグループの足かせにならないよう必死に努力してきた自負があります。 実務的な数字や条件面の交渉は私に任せていただいていますが、最終意思決定する取締役会での判断では、ボードメンバーの視点も非常に重要になります。大きな案件の際は、後藤代表が自ら内藤社長や千本会長に対して事前ディスカッションを行い、この案件はどう思うかと徹底的な壁打ちを行う。私はその連携のプロセスを聞きながら、フィードバックを事業計画や譲渡契約に落とし込んで調整してきました。そうした厳しいプロセスを経て仲間になったのが、今リストにある各社の経営者たちなんです。 -杉原- 長年M&Aを担当してきて、最もよかったと感じる瞬間はいつですか? -加藤- M&Aというのは、多くの経営者にとって人生に一度の、命をかけた大勝負です。その極めて重要な場に立ち会えること自体、本当に光栄なことだと思っています。 実はディ・ポップスグループでやってきた業務のすべてが、私が会計事務所に入る前からずっと抱いていた想いなんです。「経営者の想いに寄り添い、支えたい」という。今、M&Aを通じて経営者の人生の決断を支援できていることは、私にとって仕事のやりがいのど真ん中にいる実感がありますね。 -杉原- フェイスフルの社長・グループ全体のM&Aという大役。この二足のわらじを履く上で心がけていることはありますか? -加藤- 自分自身が事業会社の代表を務めるようになって、他のグループ会社の社長たちに対する尊敬の念がより一層強くなりました。これは、M&Aの担当だけをしていたら決して分からなかった感覚だと思います。 経営者としての本当の課題と向き合う事や孤独感は、当事者になって初めて肌身で感じられる。かつて入社したての頃、管理部門の立ち上げに注力していた時に、現場から「いきなり幹部候補って何だよ」と冷ややかな目で見られたこともありました。しかし今なら、セクションや立場の違いをどう理解し全うすべきかが、経営者の視点を持って理解できます。 グループ全体を俯瞰する立場と、現場の経営を担う立場。その両方を経験させてもらっている今の環境は、非常に贅沢で、挑戦しがいのあるものだと思っています。 -杉原- 複数の顔を持つ多忙な日々の中で、プライベートとの両立や、人生において大切にされていることはありますか? -加藤- 私が社長を目指した大きなきっかけの一つに、EOへの入会がありました。入社した2007年頃から、ずっと先輩方から「あのEOは凄い場所だ」と聞かされてきた、憧れの場所だったんです。 そこで学んだのは、経営のノウハウだけではありません。もっと根源的な人生観のようなものです。「人はいつか死ぬ」という現実と向き合ったとき、自分は最期をどう迎えたいか。仲間と深く語る機会がよくあります。 私の理想は、死ぬときに「あの当時は本当に頑張ったよね」と思い出を振り返り語り合える仲間が、周りにたくさんいてくれること。そして「ありがとうの輪」を広げていくことが、今の私の生きる指針になっています。 また、プライベートでは19歳の時に知り合った妻と今でも仲が良く、今年で共に歩んで30年目になります。家族が円満であることは、私の大きな支えです。 私生活は、順風満帆だったわけではありません。41歳のときに癌を患い、その後100万人に1人と言う病気を併発しました。先日「もう薬を飲まなくていい」とお医者さんに言われて、やっと病気との戦いが落ち着き、少し安堵しました。この経験があるからこそ、家族と仲間の大切さが身に沁みてわかるようになりました。 病気になり自分の弱さを知ったことで、本当の意味で「誠実、謙虚、感謝」という言葉が自分の中で一つに繋がった気がします。これからは、自分が支えてもらったように、今度は自分が誰かの支えになれるような、そんな人間でありたいです。 ◆「ベンチャーエコシステムの実現」に向けて -杉原- D-POPS GROUPでは、「ベンチャーエコシステムの実現を目指す」をスローガンにしていますが、その目標に共感する部分はどんなところですか?共にベンチャーエコシステム作りを目指す上での意識や活動などはありますか? -加藤- 実は、20年前の入社面接の際、後藤代表が3時間にわたって熱く語ってくれたのがデパートの構想でした。同じ建物の中にカフェがあり、携帯ショップがあり、香水ショップがある。それらが相乗効果を生んで顧客満足を作れたら最高だよね、という内容でした。 当時の内容は形こそ違いますが、それが今私たちが目指しているベンチャーエコシステムの原型だと思っています。 20年経ち、ビジネスモデルは変わりましたが、「人に喜びと輝きを提供する」という根底の想いは全く変わっていません。昔は自分たちが食べていくための仕事プラスアルファという感覚でしたが、今は教育支援など、より広い社会へ影響を及ぼせるほど遠心力がついてきた。その進化を肌で感じています。 -杉原- そのエコシステムをより強固なものにするために、加藤さんが日々意識していることは何でしょうか。 -加藤- これまで約5年おきに、決まって適度な「逆境」がやってきました(笑)。どんな追い風、向かい風が吹こうとも、私が意識しているのは、「持ち場を守れ」「常に挑戦」「3倍速成長」ずっと以前から掲げられてきたこの3つです。 私たちの社名(D-POPS GROUP:Dream-Produce One’s Pleasure and Shining)にある喜びや輝きは、現状維持では決して生まれません。自分たちに心地よいストレッチをかけ、ありえないような高い目標にみんなで挑んでいく。その挑戦のプロセスこそが、3倍速の成長を生み、結果として誰かの喜びや自分たちの輝きに繋がっていく。 これを回し続けることが、私にとってのエコシステム作りそのものだと思っています。 ◆5年後の理想の姿 -杉原- 加藤社長、そしてフェイスフル社の「5年後の理想の姿」を教えてください。 -加藤- 「D-POPS GROUPの中で、ダイレクトマーケティングといえばフェイスフル(URIZO)」と誰もが想起するような状態に持っていきたいですね。 私はこれまで、入社から10年弱は「財務戦略」を、その後の期間は「M&A戦略」を担ってきました。ここに「マーケティング戦略」という3本目の柱をしっかりと確立できれば、グループの基盤として大きな貢献ができると考えています。過去に作った仕組みを次に引き継いだ人がブラッシュアップし、より強固なものにしていく。そんな理想を描いています。 -杉原- 新しく加わったURIZOというサービスは、今後の鍵になるのでしょうか。 -加藤- はい、鍵と思われるようにしていきたいです。2024年、上場企業の子会社を譲り受けての事業ですが、グループ全体のマーケティング戦略において極めて重要な役割を担うと考えています。今はまだ種の段階ですが、これをいち早く大きな芽に育て上げることが私の今の使命です。 -杉原- AIが普及する中で、マーケティングのあり方も変わってきています。今後の課題をどう捉えていますか? -加藤- 今はAIを使えば誰でも簡単に一次情報を入手し、マーケティング施策を打てる時代です。だからこそ、AIには真似できない差別化が不可欠です。 実は、そこにはかつての携帯電話と同じようなリテラシーの差があると感じています。デジタルが普及すればするほど、あえてお手紙のようなアナログなマーケティングが再び注目されたり、AI任せではない人の気持ちが乗った提案が価値を持ったりします。最新のツールと、人間ならではの工夫や熱量。この二つをどう掛け算していけるかが、これからの勝負だと思っています。 -杉原- 最後に、この記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします。 -加藤- これまでの経験を振り返ると、成功よりも大きな失敗の方が強く印象に残っています。それでも、失敗の中から学び、そして再びチャンスをもらい、何とか形にして、みんなが喜んでくれるものをいくつか作ってこれた。私にとってこのグループのステージは、何度でも挑戦させてくれる「フェアチャンス」と「リチャレンジ」の場です。 これからも失敗を恐れずに挑戦し続け、グループの中に新しい楽しさや価値を作っていきたい。もし、この記事を読んで私たちのエコシステムに共感してくれる仲間が増えてくれたら、これほど嬉しいことはありません。一緒に、世界が変わるような楽しい挑戦をしていきましょう。 ☆インタビューアー D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太   【株式会社ディ・ポップスグループ】 常務執行役員 経営企画室室長 加藤 貴博 【株式会社フェイスフル】 代表者:(共同)代表取締役 加藤 貴博 所在地:東京都渋⾕区渋⾕2-21-1 渋⾕ヒカリエ32階
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2026.03.17
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