
今回は、ベンチャーエコシステムサミット2025にご登壇いただいた、シブヤスタートアップス株式会社 会長の渡部さんにインタビューさせて頂きました。
(このインタビューは2025年11月に実施いたしました。)
◆ベンチャーエコシステムサミット2025について
-杉原-
今回は、株式会社シブヤスタートアップス 会長 渡部志保さんにインタビューさせていただきます。宜しくお願い致します!
2025年10月2日に開催した「ベンチャーエコシステムサミット2025」では、私と一緒にご登壇いただき、ありがとうございました。お陰様でイベントも渡部さんのセッションも大盛況でした。本イベントも第二部の懇親会にもご参加いただきましたが、イベントに対する率直な感想をお願いします。
-渡部-
こちらこそ、ありがとうございました。セッションも盛り上がり、私自身とても楽しませていただきました。
今回のイベントに参加して一番に感じたのは、他にはないファミリー感と一体感です。日頃から多くのイベントに登壇していますが、これほど温かい雰囲気は珍しいですね。レジェンドである千本さんや藤崎さんはもちろん、後藤社長のご家族までいらっしゃっていたり、人事の方が事務局としてお弁当を配っていたりと、組織の垣根を超えた手作り感と連帯感に感動しました。
また、私にとって大きな収穫だったのは、日本の起業家の熱量に直接触れられたことです。普段、私は海外起業家の招致に注力しているため、日本のドメスティックなエコシステムと深く接する機会が少なかったのですが、「日本にもこんなに面白いスタートアップがたくさんあるんだ!」と新鮮な驚きがありました。
さらに驚いたのは、参加者の多様性です。日本語のイベントでしたが、在日外国人の起業家の知り合いも参加しており、「なぜこんなに日本っぽい場所にあなた(渡部)がいるの!」と言われ笑ってしまったほどです(笑)。
日本のベンチャーエコシステムという枠組みでありながら、実は非常にオープンで多様性に富んでいる。その姿を見て、私たちがシブヤスタートアップスで取り組んでいることと、根底にある精神は同じなのだと強く実感しました。
-杉原-
本当におっしゃる通りですね。外部のイベント会社を一切入れず、1年以上前から後藤社長と社内スタッフだけで準備を進めてきた手作りイベントだったことも、あの一体感に繋がったのだと思います。
実は、参加者の方々から「渡部さんは素晴らしいご経歴をお持ちなのに、驚くほど自然体で親しみやすい」「キラキラしていて憧れる」といった、議論の内容だけでなく渡部さんのお人柄に惹かれたという声が多く寄せられました。こうした反響については、どのように感じていらっしゃいますか?
-渡部-
そう言っていただけるのは、本当に光栄です。ただ、「キラキラしている」なんて、自分ではとんでもない話だと思っています(笑)
外からはそう見えるのかもしれませんが、自分自身としては、常に「崖っぷち」のような必死な思いで毎日を駆け抜けているのが本音です。私の方こそ、挑戦し続けている起業家のみなさんを見ていると、まぶしく、時には羨ましく感じることもあります。
私は、ベンチャーエコシステムの主役は、あくまで挑戦している起業家の方々だと思っています。私たちが運営するコミュニティでもそれは同じです。
ですので、私個人への過分な評価は恐縮してしまいますが、私の自然な姿を見て何かを感じていただけたのなら、それは素直に嬉しいですね。これからも主役である起業家の皆さんが最高に輝けるよう、裏方として支えていきたいと改めて思いました。
-杉原-
逆に、イベントに参加した一人のゲストとして、刺激を受けたり知見を得られたりしたセッションはありましたか? 以前、別の記事で「書道に興味がある」と拝見したのですが、今回の書道パフォーマンスはいかがでしたか。
-渡部-
私自身、幼い頃に書道を嗜んでいたこともあり、とても感慨深かったです。 現代はインターネットやテクノロジーがあふれ、誰もが多忙な日々を送っていますよね。そうした中で、書道や茶道、ピラティスのように「ゆっくり動くこと」に価値を置く世界観に触れると、驚くほど心が静まります。デジタルのスピード感とは対照的な、あの静かな時間は、今の時代にこそ大切なものだと改めて感じました。
また、サミット全体を振り返ると、本当に多くの方々と対話できたことが大きな刺激になりました。起業家の皆さんが熱を持ってご自身の事業を語ってくださる姿や、会場で偶然再会した起業家の皆さん、日本を代表するリーダーシップからのお話。 そうした交流を通じて、日本にも次世代のイノベーションコミュニティがあることを肌で感じられたのは、私にとって非常に大きな収穫でした。
-杉原-
後藤社長自身が非常にグローバルな視点をお持ちなので、すでに培われたネットワークから素晴らしい方々を招待されていたのでしょうね。ディ・ポップスグループとしても、今後は海外起業家への投資を本格的に検討しており、この輪はさらに広がっていくはずです。改めて、今回はサミットへのご登壇、本当にありがとうございました。

◆シブヤスタートアップスについて
-杉原-
さて、ここからは「シブヤスタートアップス」の活動についてお伺いします。改めて、どのような取り組みをされているのかご紹介いただけますか?
-渡部-
シブヤスタートアップスは、渋谷区と日本を代表する大企業がタッグを組んだ、官民連携のスタートアップ支援組織(アクセラレーター)です。 国内のスタートアップだけでなく、海外から優秀な起業家を日本へ誘致する活動も行っています。グロース支援に合わせ、ビザ申請や銀行口座開設のサポートもしており、現在は参加スタートアップの創業者のうち80%以上が海外出身者という非常に国際色豊かなコミュニティになっています。
私たちが注力しているのは、日本の社会課題を解決する技術を持つ企業の発掘です。例えば、少子高齢化社会に対応する「エイジテック」や「ロンジェビティ(長寿)」、物流業界の人手不足解消といった領域、さらには日本が強みを持つアニメ・ゲーム・VTuberなどの「ファンダムエコノミー」など、多岐にわたります。
こうした日本の市場特性に魅力を感じる才能を、私たちが世界中から直接スカウトしてくるのが特徴です。彼らが日本でのビジネスを志した際に、スムーズに活動できるよう伴走支援を行っています。来日する前から私たちがスカウトし、日本に降り立った時にはすでにパートナーとして関係が築けている。そんなイメージで活動を広げています。
-杉原-
現在は、海外に拠点を持つスタートアップが日本市場へ参入する際のサポートがメインになるのでしょうか?
-渡部-
そうですね、そうしたケースが多いです。日本に支社を構える場合もあれば、日本に本社を置く決断をするチームもありますが、すでに複数の拠点で活動しているグローバルな視点を持った会社が多いです。
私たちが特に注力して支援しているのは、いわば「グローバルニッチ」な領域です。 例えばアニメ業界を例に挙げると、アニメファンは世界中のあらゆる国に存在しますが、一つのコミュニティとしてはまだ「ニッチ」な側面を持っています。しかし、そのニッチな層が世界中に点在しているため、掛け合わせれば非常に大きな「グローバル・スケール」の市場へと成長します。少子高齢化や介護などの市場も同じ見方ができると思います。
このように、特定分野で深い専門性を持ちながらも、世界規模で戦えるポテンシャルを秘めたスタートアップ。私たちは、そうした「グローバルニッチ」な輝きを持つ企業を優先的に発掘し、日本市場へと繋いでいます。
-杉原-
シブヤスタートアップスが支援する企業は、やはり渋谷区内に拠点を置くことが条件になるのでしょうか?
-渡部-
いえ、実はそうではないんです。他の区であっても、東京都以外であっても構いません。
もともと渋谷区には、この会社ができる前から『Startup Welcome Service』という窓口があり、ビザ取得などの煩雑な行政手続きから日本での生活面に至るまで、包括的に一元サポートする体制が整っていました。さらに『Shibuya Startup Support』を通じて、スタートアップ支援に関する情報をオープンに発信する取り組みも積極的に行っています。
私たちの根本にあるのは、「日本でビジネスをしたい」という志を持って渋谷にやってくる起業家の皆様を全力で支援したいという思いです。渋谷という場所を入り口にしつつも、広く日本全体のエコシステムに貢献していくことを目指しています。
-杉原-
なるほど。地域という枠に縛られず、日本への入り口を広く構える素晴らしい取り組みですね。 ちなみに、現時点で支援されているスタートアップは何社ほどになるのでしょうか?
-渡部-
現在は、支援している企業数で言うと52社になります。 その顔ぶれは非常に幅広く、エイジテックやクリエイターテックをはじめ、物流、ロボティクスなど多岐にわたりますが、一貫しているのは「日本で取り組むからこそ価値がある」という視点です。
日本の社会課題解決に直結するものや、日本の強みを活かせる領域を中心に、私たちが直接リクルートしています。その52社のうち、現在7社に対しては出資という形でも支援を行っています。

◆スタートアップへの具体的な支援や伴走の内容
-杉原-
スタートアップへの具体的な支援や伴走の内容について、いくつか例を挙げていただけますか? そこには、渡部さんやスタッフの皆さんのどのような経験・知見が反映されているのでしょうか。
-渡部-
大きく分けて2つの軸があります。
1つ目は、日本でのビジネスを立ち上げるための「基盤づくり」の支援です。 ビザ取得のサポートや拠点の提供などが挙げられます。例えば、今このインタビューを行っている『渋谷ブリッジ』は渋谷区のコワーキングスペースですが、ここに来れば、渋谷区の支援会社や我々のアクセラレーター(UPプログラム)の参加企業はもちろん、イベントに参加する起業家や支援者と交流できるようなコミュニティの場を私たちが渋谷区さんとデザイン・運営しています。
また、海外起業家にとって壁となるのが「銀行口座の開設」です。通常は1年近くほどかかるケースもあると理解していますが、私たちは最短2週間程度で開設できる支援体制を目指します。その他、登記や会計などの支援にも繋ぐといった活動も行っています。
2つ目は、事業を加速させる「グロース支援」です。 市場開拓の戦略立案からリサーチ、実証実験(PoC)のデザイン・実行までを支援します。資金調達の面でも、アジア、北米、そして日本の投資家を、そのスタートアップに最適な形で繋いでいます。
私たちは、いわば「スイスのアーミーナイフ」のような存在でありたいと思っています。起業家の皆さんのあらゆる困りごとに対応し、必要なツールを差し出す。そんな万能なコンシェルジュとして、多角的なアドバイスと実務支援を行っています。
-杉原-
こうした多岐にわたる支援は、渡部さんお一人で担われているのでしょうか?
-渡部-
領域によって役割を分担しています。例えば、最初にお話しした手続きや事務周りのサポートについては、専門チームと密に連携して進めています。その一方で、私自身が主軸として担当しているのは、2つ目の「グロース支援」の領域です。
-杉原-
支援を受ける側からすれば、渡部さんのような方が並走してくれるのは本当に心強いでしょうね。
-渡部-
ハンズオン支援は非常に奥が深く、一筋縄ではいかない難しさもあります。ただ、ここで私自身のこれまでのキャリアが一番活きていると感じます。私自身もかつてスタートアップ側で同じ苦労を経験してきたので、彼らが直面する大変さが痛いほど分かるんです。
ですから、彼らと一緒に走ることは全く苦ではありません。単にアドバイスをするだけでなく、時には起業家と一緒に私自身が資金調達のストーリーを練り、メディアへの橋渡しをしてピッチの場を作ることもあります。自分にできることは、文字通り「全部やる」というスタンスです。 そうやって彼らと間近で向き合っていると、ふと「自分もまたスタートアップの現場に戻りたいな」と羨ましくなってしまうこともありますね(笑)
-杉原-
ご自身がプレイヤーだったからこそ、現場の熱量に触れると「自分もまた」という気持ちになりますよね(笑)。 それにしても、支援先が52社というのは驚異的な数です。これほどの企業を、どのような形で集められたのでしょうか。
-渡部-
実は、この会社を創業後、しばらく私一人で活動していたこともあり、海外で広報活動はしなかったので(そもそも海外媒体はどこも取り上げないのでニュースにもならなず)採択したスタートアップのほとんどが口コミや私の人脈からの推薦による広がりなんです。私が代表に就任した2023年前後は、コロナ禍を経て世界が大きく動き出し、生成AIやブロックチェーンといったテクノロジーが急激に普及した時期でした。米国をはじめとする国際情勢の変化も重なり、海外の起業家の間で「日本市場に挑戦したい」という機運が高まっていたんです。
そんなタイミングで私がこの仕事を始めたことを伝えると、ありがたいことに世界中の友人や知人が声をかけてくれました。「日本にぴったりの面白い会社があるよ」「うちのVCの投資基準とは少し違うけれど、日本市場なら間違いなく輝くはず」といった紹介が次々と舞い込んできたんです。
また、Google時代に切磋琢磨した元同僚たちのコミュニティからも多くの縁がありました。かつて20代・30代を共に過ごした仲間たちが今や起業家となり、互いに助け合える関係になっていることは大きな財産です。さらに、スタンフォード大学院での恩師であり、ご自身もベンチャーキャピタリストであるリチャード・ダッシャー博士がアドバイザーとして参画してくださったことも、コミュニティの信頼を高める大きな力となりました。
振り返れば、これまで築いてきた世界中のコミュニティが、今の仕事に生きていると感じ感謝の気持ちで一杯です。
(リチャード・ダッシャー博士:スタンフォード大学にてアジアとイノベーションの研究をしている。2025年には長年の日米交流と教育研究への貢献が評価され、日本政府から外務大臣表彰を受けた。設立当時アドバイザーで現在は退任。)
-杉原-
リチャード・ダッシャー博士のような存在がバックアップしてくださるのは非常に大きいですね。 ディ・ポップスグループでも、会長でありKDDI共同創業者の千本さんや顧問の藤崎元駐米大使といった方々が名を連ねてくださっていますが、そうした「重鎮」の存在は起業家へのエールになるだけでなく、事業開拓においても信頼の証となります。トップ層が応援したくなるような志の高い取り組みは、本当に大切ですね。
そうした活動の結果、具体的に飛躍を遂げたスタートアップの事例があれば、ぜひ教えてください。
-渡部-
一つは、もともと日本進出を全く考えていなかった才能を日本へ呼び込めたケースです。 Xoogler (元Google社員からなるコミュニティ)コミュニティ創業者の二人が、テック業界での大規模なレイオフ(一時解雇)に直面した人々のためのプラットフォームにインスパイアされた、Key.aiというスタートアップを始めました。当初、彼らの視界に日本はありませんでしたが、私たちが投資し、伴走することで日本への道筋を拓こうとしています。このように「本来なら日本を素通りしていたはずの層」をエコシステムに巻き込むことこそ、私たちの存在意義だと感じています。
また、生成AIを活用したアニメ制作のスタートアップも印象的です。 2023年に国連から労働環境について指摘を受けるなど、日本のアニメ業界(特に大手を除いて)は人手不足や過酷な環境という課題を抱えています。そこへ、日本のアニメを愛する海外からきた創業者が「生成AIでクリエイターを支援できれば」と活動しています。
私たちは、いわば「産業プロデューサー」のような立ち位置です。製品・サービス、マーケティング・PR、市場進出・資金調達など幅広い戦略を、起業家と二人三脚で練り上げることもします。そうして一企業の運命が変わる瞬間に少しでも力添えできたとき、この仕事の意義を深く実感しますね。だからこそ、サポートの質には徹底的にこだわっています。
~後編に続く~
☆インタビューアー
D-POPS GROUP アドバイザー 杉原 眼太
【シブヤスタートアップス株式会社】
代表者:会長 渡部 志保
代表取締役社長 田坂 克郎
所在地:東京都渋谷区東一丁目29番3号 Shibuya Bridge B棟
設 立:2023年2月
U R L:https://upshibuya.com/
次回後編のインタビューでは、
・スタートアップ支援を選んだ理由
・渋谷、日本の魅力
・シブヤスタートアップスが考える、スタートアップエコシステムとは
・「ベンチャーエコシステムの実現」について
などについてお伺いしています。
後編もぜひご覧ください!
